No.06 敵対者の正体
首輪を外すように命じられた男は、震える手で僕の首輪を指で突く。 もう一度。 首を傾げるその男は、意を決した表情で首輪を握る。
「これ、壊れてるんじゃないですか?」
そう言った細身の男は、僕の首輪を外した後、それを命令していた長身の男に手渡した。 手渡されたその手を掴み、細身の男を羽交い絞めにした長身の男は、首輪をその首に強引に着ける。 悲鳴を上げる細身の男だったが、数秒後には安堵のため息をもらしていた。
「効果は、出てないようです……」
消え入るような声でそう言った細身の男。 そして、僕は再び睨みつけられ、男たちに押さえつけられた。 やはり僕のスキルによって無効化されたのだろう。 そう考えながら、すぐに痛みで何も考えられなくなった。
「若、どうします? こいつ、首輪の効果を無効にできるようです」
若と言われたスーツの男は、少し考えるような仕草の後、目で何かを合図する。 すると、長身の男以外が動き出し、僕を殴り倒し、踏みつける。 痛みで泣きそうになり悲鳴を上げる。
「まずは徹底的に痛めつけてやれ! 俺たちに逆らえばどうなるか、その体に分からせてやるんだ!」
そんな声が聞こえるが、僕は男たちの足により苦痛を与えられ続けた。 薄れゆく意識の中、「さて、どうしたら良いんだ?」「あいつを人質にしたら、その異界人は俺たちの仲間になってくれるのか?」と、身勝手な言葉が聞こえ、僕は意識を保つため叫んだ。
「お前たち、僕を使って彼女を呼ぼうなんて、滑稽だな!」
「なに?」
それとともに踏みつける足がとまる。 見下ろされる迫力に心が折れそうになる。 だけど、ここで弱音を見せてはいけないと、源ちゃんの顔を思い浮かべて歯を食いしばる。 あれより怖い顔じゃない。
「僕を人質にしたって、彼女が助けにくるわけないだろ! 僕のような無能、いなくなったところでさっさと次の誰かを見つけるだけだ!」
僕の言葉に、目の前の男たちが笑い出す。
「なんだよそれ」
「なさけねー奴だな」
「泣いてんのか?」
そんな言葉を投げかけられる。 泣いている。 だって悲しいから。 僕は彼女の興味を気まぐれに引いただけの男。 きっと別のスキル持ちが、僕よりももっと使える奴がすぐに見つかるはずだ。 そう考えながら、袖で涙を拭い、痛む体を動かした。
「こいつ!」
細身の男に体当たりして吹き飛ばす。 僕の体はその衝撃に強い痛みを感じ、今にも倒れ込みたくなる。 男たちの怒号が聞こえ、それから逃れるようにドアまで走る。 そして、あと一歩というところで、ドアが開き、新たな人影が見えた。
ああ、仲間がいたのか……。 僕は自身の不運を呪った。 緊張が途切れ、倒れ込む僕。 そんな僕は太い腕に包まれるように支えられた。
「遅くなったな」
聞きなれた声。 その声の主の背後から、ドカドカと男達がなだれ込んでくる。 男たちの怒号や悲鳴が響く中、僕はそのまま意識を失った。
ゆっくりと意識が回復し、目を開ける。
「サトウー!」
最初に目に飛び込んできたのは、泣きじゃくるリリアの顔だった。 そして、次に感じたのは強烈な痛みだった。
「リリア様、この男はまだ傷が癒えていませんので」
世話役のお姉さんがそう言いながら、僕に飛びついたリリアを抱え上げてくれた。 正直助かったけど、冷たい目で僕を見下すのはやめて欲しい。 何かに目覚めそうだから。
暫く安静に。 そう言われ、リリアを連れ出し無人となった部屋。 改めて見回すと、病室だと思われた。
「起きたか?」
ノックもせずに入ってきた男、源ちゃんの顔に安堵する。
「起き、ました」
僕の返事に少し頬を緩めた源ちゃんは、ベッドの横に設置してあった椅子に腰かける。
話を聞くと、僕が意識を取り戻したのは、3日後の朝だったようだ。
そして、今回の件についても詳しく話してくれた。 あの連中は大手運輸業者の日本エネルギーカンパニーのお抱えの探索者たちで、あのスーツの男はそこの副社長。 社長の長男だったようだ。 僕を利用して、異界の素材取引に便宜を図ってもらおうと画策したようだ。
そして、僕の居場所を突き止めたのは、あの「命が惜しくば着けておけ」と渡されたGPS内蔵のトランクスによる情報だった。 信号を追跡し、源ちゃんを含む政府の特殊部隊が突入し、僕は間一髪で助け出された。
この事件により、ダンジョン新法に抵触した日本エネルギーカンパニーは、見せしめのように幹部全員が逮捕された。 全員が重罪として最低でも禁固刑となる予定で、あの場にいた男達には拉致監禁暴行罪も加えられ、長い刑期となるだろうと。
この件で、僕は私生活でも危険が付きまとうことを自覚し、もっと強くなろうと心に強く思った。 僕が強くなれば、スキルを封じられた連中なんかに負けない! ……かもしれないし。
僕は翌日にはポーションにより完全回復して退院した。 すぐにポーションを使わなかったのは、無意識にその効果を阻害してしまう僕のスキルのせいだった。 意識を取り戻した僕は、リリアの助言もあり、スキルを無効にしようと強く考えながらポーションを飲み、そして回復することができたのだ。
今はまだ、集中しておかないとスキルを切ることはできないけれど、もっと成長することで、自由にオンオフができる希望が見えた気がして、高まる気持ちを抑えきれず、ダンジョンに入り浸るようになった。
それから二週間。
レベルアップの恩恵だろう。 驚異的に体力が向上した僕は、リリアと共に20階層に到達した。 探索者の中級者がしのぎを削るその場所で、さらなる事件が僕たちを待ち受けていたことを、僕はまだ気づいていなかった。
当然ながら、日本エネルギーカンパニーは架空の会社です。そして、佐藤はやっと一人前の探索者と名乗れる階層に到達したようです。
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