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[完結]ダンジョンができた世界で、屑スキル持ちの僕は異界人と仲良くなれました。  作者: 安ころもっち


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最終話 屑スキル、魔界を救う


 エミリカちゃんはそのまま僕の手を取り、柔らかな両手で優しく包み込んだ。


「では、存分に愛し合い、元気な子を産み、末永く幸せに暮らしましょう!」


 さらりと告げられた言葉に、僕の思考は完全に停止した。


 そのまま彼女に引き寄せられ、小さな体に抱きしめられる。 そうだ。 彼女となら幸せな生活が送れるのだろう。 そう感じ、僕は無意識に頷こうとした。


「ちょっと待ちなさいよ!」「待ってー!」「エミリカちゃん、ずる-い!」


 三人の声が、僕の脳を現実へと引き戻した。


 気がつけば、僕とエミリカちゃんを囲むようにして、カオリさん、ハルカちゃん、リリアの三人が立っていた。 三人の瞳からは、ボス戦の時以上の殺気が放たれている。


「佐藤さん、流されすぎじゃないですか! それにいきなり出産の話なんて、下品すぎます!」


 カオリちゃんから感じる冷たい怒気に、僕は身を固くする。


「そうですよ。 それに、私だってここまで佐藤さんを支えて、それなのに、酷いです!」


 ハルカちゃんが僕の背をグイグイと押したり引いたりしながら、泣きそうな視線を向けてくる。


「エミリカちゃんは出会ったばかり! サトウは私と仲良しさんなんだからね! 独り占めはダメですー!」


 リリアは頬を膨らませながら抗議している。


 四人の少女による激しい睨み合いが始まった。 だがそれよりも、今は壁際にいるハデス様から感じる圧に後ずさる。 真っ赤な顔で僕を睨みつけている。 控えめに見ても殺し屋のような熱のこもった目でこちらを見ている。


 幸いなことに、ハデス様の横にいるエミリカママさんの手が、ハデス様の首を掴んでいるので、そのまま制していて欲しいなと願った。


 後で聞いた話では、塔の作成者と管理者は、魂レベルで繋がるような深い愛情が生じるという。 その繋がりの強さは、理性を軽々と消し去るほどの強制力を発揮するのだとか。


 そのことも知らず、溢れるエミリカちゃんへの感情に戸惑う僕は、助けを求めるように横を見た。


 そこには呆れ果てた顔で天井を見上げるカツオさんの姿があった。


「あの、カツオさん、僕、どうしたら……」


 何度話しかけても、カツオさんはため息をつき、僕と目線を合わせようとしてくれなかった。


 しばらくのち、白熱する僕の所有権をめぐる女性陣の口論は続いている。 そしてハデス様からの圧が増え続け、今にも爆発しそうな形相で僕を凝視していた。 彼の拳は怒りで震え、部屋の空気がミシミシと鳴っている。


「静かにおし!」


 部屋の中に響く凛とした一声。 声の主であるエミリカママさんは、今は笑顔だ。 僕はその背後に一瞬だが鬼を見たけど、多分気のせいだろう。 女性陣も、ハデス様も、誰もが姿勢を正し口を閉じた。


「冷静に、まずはサトウ様には魔界の魔素の正常化を。 その後、一旦あちらへ帰還、塔の管理であれこれあるのでしょう? それと、エミリカ? 魔界の姫として、恥じぬ行動を。 王族は一夫多妻制ですよ?」


 皆が良い声で「はい!」「承知しました!」と返していた。



 その後、僕らは城の外に出る。 より濃い魔素が霧のように漂っている光景に絶句する。 ハデス様を含め、こちらの世界の方々は、皆が口には布などをあて、周囲の魔素を直接吸い込まないように工夫されているようだ。


 僕は慌てて周囲の魔素を消し去って見せる。 僕を中心に空気が清浄されるように澄み渡る。 その光景に、皆が感嘆の声を漏らし、そして口から布を外すと深呼吸をしていた。


「す、すごいものだな!」


 驚きの声を上げるハデス様。 それに続くように皆の喜ぶ声が聞こえた。


「さすがサトウ様です。 パパも、これなら文句はないでしょ? サトウ様なら、この世界を導いてくれるわ!」


 エミリカちゃんの言葉に、ハデス様はぐぬぬと顔を歪めている。 でも僕は、この世界を導くつもりは毛頭ないのにと戸惑った。 重責過ぎる。 確かに救わなきゃと思ったけれど、魔素を消し去ってそれでおしまい。 そう軽く考えていたのに。



「では、後はまかせましょう。 あなたも、良いですね?」


 エミリカママがそう言って笑顔で周りを見渡すと、ハデス様とエミリカちゃんの二人と一緒に城へと、渋々ながら戻って行った。


(わたくし)、第一調査隊の長を務める、ローズと申します! サトウ様には全面的に協力するようにヴェロニカ様に申し付けられております。 転移を使えますので、魔素の強い場への案内を任されております!

 移動に、雑務に、夜伽にと、ご自由にお使い下さ―――」「ローズぅ!!!」


 ローズと名乗った逞しい美しさを持つ女性の冗談に、エミリカちゃんが突っ込みを入れている。


「では、参りましょう!」


 そう言いながら差し出されたローズさんの右手。 それを握ると、ローズさんは左手を頬にあて「ふふ」と笑う。 途端、エミリカちゃんの咳払いが聞こえた。


「他の方々も、サトウ様にふれていて下さい! 準備ができたら転移致します!」


 そう言われ、リリアたちは僕の背中に。


 よく考えれば女性比率が高いなと思ったけれど、カツオさんの存在を思い出し視線を合わせようとした。 だが彼は、頬を緩ませながらローズさんの胸元を凝視し、彼女の鎧の腰辺りに手を添えている。 僕はそれ見て、視線を空へと向けた。


 その後、各地を転移して回り、自身の周りには影響の出ないように調整しながら、広範囲の魔素を消してまわるという作業に2時間ほどを費やした。 その状況に感激して僕に抱き着くローズさんと、他の女性陣とのなにがしかはあったが、僕はそれらに一切反応しないように心がけた。


 無事、作業が終わり、「塔が吸収する分を考えれば、数か月もしたら魔界も正常化するでしょう」と、ローズさんに言われてホッと胸をなでおろす。


 任務を終えてそのまま転移で城に戻ると、「歓迎の宴を開きたいところですけど」、とエミリカちゃんに押しあれるるも、また元の世界へに帰還するため、塔の内部へと戻ってきた。




 それから数週間。


 塔の最上階となるダンジョンコアの部屋。 直接この部屋へ転移できるようになった僕たちは、地上とこの部屋を行ったり来たりしながら、政府の要望通りに出現する魔物を調整する。


 邪魔な魔物の出現率を最低に落とし、素材として優秀な金塊のかかし(ゴールドパペット)鋼鉄人形(スチールゴーレム)眠り巨牛(スリープブル)跳ねる子羊(ジャンピングシーフ)といった魔物の比率を上げる。


 経験値稼ぎにと、戦いやすい人型の魔物の比率も増やしておいた。 ドロップ率や宝箱の出現比率についても最高値に設定する。 それらをひな形に決定した後、国内に2つ、塔を新設した。 さらも各国へ同様の塔を作成する。


 貢献度の高かったB国には、4か所へ塔の設置を終えた。 その他の国にも流れ作業のように塔を設置し続けて一週間、ようやく一息つくことができた。


 その頃には、塔の管理者の僕には、各国からの協力金が日本政府を通じて入金されていた。 見たこともない額の口座残高を眺めながら、現実味を感じずに呆ける僕は、全てが都合の良い夢なのでは? と不安を感じながらの日々。


 そんな僕は、相変わらずあのビルの最上階で、リリアたちと共に生活を続けている。 アパートはすでに引き払われているし、新居探しもセキュリティ上の理由で却下されているのだから、致し方ないといった状態だ。


 あれから何度か魔界にも再訪していた。 初回には改めて魔界の平穏を取り戻した英雄として、大袈裟とも思える歓迎を受け、楽しいひと時を過ごした。


 それと、僕が管理者となったことで、エミリカちゃんも日本に転移することができるようになっていた。 それにより、ビルの一室ではさらに賑やかに、そして気の休まらない生活が続くことになった。


 僕は、彼女たちの視線に耐えながら、窓から夕日を眺め思った。


 帰りたい……。


 嬉しくもあるこの現状を噛み締めながら、懐かしのボロアパートへと、狭くて寂しいあの部屋へと、もう一度、帰りたい。 そう思ってしまう僕だった。






 ダンジョンができた世界で、屑スキル持ちの僕は異界人と仲良くなれました。



 おしまい


これにて、佐藤の冒険は終了となります。 この後、魔界での生活編や、新たな刺客編なども書けたらいいなと思いますが、一旦終了です。 ここまでお読みいただきありがとうございました。


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