No.14 塔の攻略
目の前にはダンジョンコア。
深呼吸で精神を落ち着かせた僕は、静かに両手をオレンジ色に輝くそれへと伸ばした。
指先が触れた瞬間、温かな光が僕の全身を包み込んだ。 そして、ゆっくりと魔力を注ぐ。 僕の魔力はコアに吸い込まれるように浸透し、何かと繋がったような感覚を覚える。
途端、膨大な情報が脳内に流れ込んでくる。 塔の構造、各階層の魔物の配置、そして蓄積された魔素の残量。 全てが僕の支配下に入り、意のままに操れるのだと理解した。 管理権の取得。
これでこの塔は、名実ともに僕のものとなった。 その事実に不安がよぎる。 僕なんかが本当に良いのだろうか? 僕はコアから手を放し、リリアたちに管理権を取得したことを報告すると、全員が喜んでくれた。
リリアはスマホを取り出し、源ちゃんに管理権の取得を報告した。
「終わったよー。 とりあえず一度、あっちに戻るねー」
そんな軽い報告に、それで良いのかな?と感じるが、魔界の状況が気になるのも事実だ。 魔界の人たちが一刻も早い解決をと願っている。 それはきっとリリアも同じだろう。
源ちゃんとの通話を早期に終わらせると、リリアが笑顔で僕に近づき、両手で僕の手を握った。
「じゃあ、行こう! 私たちの世界に!」
その言葉に合わせ、僕は脳内でコアの力を開放する。 この部屋の中であれば、コアの操作は可能なのだと直感的に理解していた。 初めての操作ではあったけど、うまく魔界へと通じる扉を顕現させることができた。 金に輝くやや仰々しい扉が開き、その先には禍々しい紫色の渦が見えた。
リリアに力強く手を引かれ、僕は……、僕たちはその扉へ歩き出す。 事前に話し合った結果、カツオさんたちも一緒に来てくれるそうだ。
「佐藤さん、楽しみですね! 異世界ですよ!」
ハルカさんはそう言いながら、僕の背後、やや左手側から僕の背中を掴んでいる。
「まだ悪魔の残党はいるのかな? いるなら私が、全部始末してやる!」
右手側から僕の背を掴みながらそう言うカオリさんに、リリアが「もう大丈夫だよきっと」と返していた。
「あっちには綺麗な子、いるかな?」
カツオさんが頭の後ろで手を組みながらそんなことを言うと、カオリさんから「カツオさん、遊びに行くんじゃないんですよ?」という、やや冷たい言葉が返されていた。
「だってよ、こっちの世界じゃ望みないだろ? それに、ここにいる奴は全員……」
そう言いながら僕らに視線を向けた後、ため息をついていた。 どうやらカツオさんの好みのタイプが、この中にいないようだ。 そんなことを話しながら、扉を抜ける。
扉を抜けると、一瞬だが浮遊感のような物を感じた。 そんな僕の視界に映ったのは、広い室内。 煌びやかな装飾に、可愛らしい家具やぬいぐるみや並ぶ一室だった。
塔の入り口の発覚を恐れ、城の近くの荒野に設置されていたはずでは? そう考えながらも、この部屋の主と思しき愛らしい少女と目が合った。 その少女は、にっこりと笑みを浮かべながら頬を赤く染めた。
その少女は、透き通るような白い肌に宝石のような瞳をこちらに向けている。 ふわりとウェーブのかかった銀の髪が肩まで伸びている。
「エミリカちゃんおひさー!」
「リリア、お帰りなさい。そして、任務成功おめでとうございます」
「えへへ。 ありがとー!」
そんな言葉を交わしながら、二人は両手を合わせピョンピョンと飛び跳ね喜びあっている。
「ここはエミリカちゃんの私室の隣に作られた、特別な部屋だよ!」
リリアがそう説明してくれた。
「はい。 サトウ様が無事に管理権を得て頂いたとのことで、大急ぎで扉の位置をこちらに変更いたしました」
頬を両手で覆いながら恥ずかしそうにそういうエミリカちゃん。 僕にドキドキと心臓が高鳴り戸惑っていた。
その時、部屋の扉が大きな音をたて開かれた。 その音にビクリとして視線を向けると、現れたのは、三メートル近い巨躯を持つ男だった。 隆起した筋肉と、顔に刻まれた深い傷跡。 その圧倒的な威圧感に、カオリさんたち三人は、僕の背後に隠れ身を固くしている。
「我が名は魔界の王、ハデス。 よく来たな、異国の民よ!」
強面のおじさん……ハデス様が、地響きのような声で挨拶をした。 魔界の王としてのただならぬ迫力を感じる。
「パパ! まだ出てこないでよぉ!」
ハデス様に怒りを向けるエミリカちゃん。 ハデス様は「いや、でも」「一応は挨拶をせんと」と言っているが、エミリカちゃんは可愛らしく口をとがらせていた。
「エミリカちゃん、ご挨拶は終わったの?」
そう声を掛けてきたのは、ハデス様の影に隠れていた女性。 エミリカちゃんと同じ銀髪を持つ美しい女性であった。 その目はルビーのように赤く輝き、引き込まれそうな魅力を持っていた。
「ママ! まだ挨拶してないのよ? だから、パパに邪魔しないように言って!」
どうやらその女性はエミリカちゃんのお母様だったようだ。 エミリカママはハデス様の耳を笑顔でつまむと、壁際まで引きずって行った。 その間、ハデス様は顔を強張らせ無言だった。
それを見届けた後、エミリカちゃんがこちらに視線を戻し、小さな咳払いの後、恥ずかしそうに銀の刺繍が施されたドレスの裾を優雅につまみ、しとやかにお辞儀をした。 そして彼女は、ゆっくりとした足取りで僕に近づいてくる。
「お会いしとうございました、サトウ様……」
彼女は僕を見上げ、太陽のような笑顔を向けた。 その瞬間、僕の胸の奥がさらに騒ぎ出した。 理由など分からない。 彼女を一目見た時から、まるで魂が引き寄せられるような、強烈な一目惚れの状態に陥っていた。
エミリカちゃんはそのまま僕の手を取り、柔らかな両手で優しく包み込んだ。
シェイクスピア「ほんまもんの恋をするっちゅー時は、みんな、一目で恋するっちゅーもんやで?」
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