No.12 忍び寄る影
遂に始まった、100階層のボスとの最後の戦い。
深淵の邪神と名付けられた巨人のような体を持つ褐色の魔物と対峙する。 その傍らには黒色の肌を持つ邪神の眷属が二体。 それぞれが不気味な脈動を繰り返す黒いロッドを掲げ、こちらを感情の無い黒い目で見つめていた。
深淵の邪神は二体の邪神の眷属を盾に、後方に待機。 様子を伺っているようだ。
二体の邪神の眷属は背中の黒い羽根を広げ、風切音を響かせこちらに接近するが、二体に魔力無効を集中させると、あからさまに速度が低下、そのれにより邪神の眷属たちの無機質な顔に、明らかな戸惑いが生じた。
ハルカちゃんはその隙を見逃さず、二体の顔に目掛け誘爆する煙幕を噴き出した。 黒い煙幕が二体の顔に到達すると、バチバチと火花を散らすように音を立てていた。 たまらず暴れ出す二体の邪神の眷属。
「カオリさん!」
僕は叫びながら一体を無効化すべく、手に持っているロッドを両手剣で押さえていた。 そして、「キエー!」という気合の叫びと共に、カオリさんがもう一体に槌を振り下ろす。
「結界っ!」
突然叫ぶカツオさん。 僕は邪神の眷属との間にできた結界により、押し戻されるように吹き飛ばされる。
次の瞬間、バリバリと轟音を立て黒い稲光が視界に映る。 それは飛び退く前に立っていた位置を焦がしていた。 正面を確認すると、邪神の眷属の背後にいた深淵の邪神が、ロッドを掲げていた。
背後からの攻撃。 その光景に冷や汗が背中をつたっていた。
僕は背後の深淵の邪神にも魔力無効が及ぶよう、スキル範囲を調整する。
「もう一度、行こう!」
一声かけた僕は、再び二体を目掛け走り出す。 僕の合図に、カオリさんも再び地面を蹴った。 深淵の邪神は困惑しながらもロッドを掲げ、僕たちに向かい雷撃を飛ばす。 その黒い稲光は先ほどとは打って変わって小さく、弱々しいものだった。
腕で払いのけるようにしてそれを受け止め、多少のしびれを感じながらも邪神の眷属の一体に迫る。 その間にカツオさんから能力強化のバフがかけられていた僕は、力の限り両手剣を振り下ろした。
首が飛ぶ。 その光景を眺めながら、隣ではカオリさんがもう一体の腹を大きく抉り飛ばしていた。 二人でラスボスとなる深淵の邪神に視線を向けると、それは顔をかきむしるようにして苦しんでいる。
ハルカちゃんの刺激のある煙幕の効果だろう。 そう思ってさらに足を進める。 やっと終わる。 すべてが解消されるのだ。 そう思って両腕に力をこめて振り下ろす。 狙いは深淵の邪神の頭。脳天に向かって、刃先が深く振り下ろされる。
ゴリっという骨を砕くような鈍い音の後、カオリさんの追撃により横っ腹の半分が抉られ消失していた。 一瞬だが、僕の肩をかすめるように通り抜けた槌先に冷や汗を流すが、あえてそれを指摘することはなかった。
時間にして僅から戦いではあったが、緊張感は過去一であった。 全身が汗で不快感を感じながらも、消えゆく深淵の邪神を見つめながら、深く息を吐き出していた。
「おっきいね!」
三体の魔石を回収したリリアは特大の笑顔を向けてくれた。 その笑顔につい釣られてしまう。 魔石以外は物々しい黒いロッド、それに、黒光りする大きな角が一本。 それらも回収した僕らは、ゆっくりと奥へ向かって歩き出し、奥に出現した古めかしい扉に手を翳す。
ガコンという音をたて、その扉が下に沈むように開く。
扉の先は、明かりの点った大きな部屋だった。 その中央には巨大なオレンジ色の玉が収まる台座が鎮座していた。その周りには、それを守るように覆う歪なフレームが格子状に組まれている。
中央の巨大な玉の内部は、淡く発光する何かが、ゆっくりと波打つように揺れ動いていた。 これこそが、二つの世界を繋ぎ、魔素を浄化、蓄積するためのダンジョンコアなのだろう。
「これが、コア……」
僕がその美しさに目を奪われた近づいた、その時だった。 背後の影、リリアの足元から不自然に伸びた影から、一人の男が滑り出るように現れた。 黒装束のような全身黒づくめのその男は、勢いよく飛び出し、僕らが唖然としている間に、目の前のコアの元へと到達した。
「影渡り?」
リリアがそう口にする。
戸惑いの中、男がコアの所まで到達することを許してしまった僕は、様子を伺っていた。 男はこちらを見てにんまりと笑う。 どうやら味方ではなさそうだ。 リリアの強運が途切れぬよう、リリアに魔力無効が及ばぬように配慮した結果、このような事態になってしまったのだと考え唇を噛む。
「おじさん、それ、ダメだよ? 管理者にはサトウがなるんだから」
そう言うリリアの言葉に、男はようやく口を開く。
「ははは! すまないねぇ、これも仕事。 一般人の、それもガキが管理者になんぞなられては困るのだよ。 だが安心していいぞ? これは政府が有用に活用してやろう。 それに、ここまで到達した褒美も、政府はちゃんと考えているからな! お前らが一生遊んで暮らせるぐらいの報酬をな!」
嬉しそうにそう言った男は、両手でコアにふれる。
「なんでだ? 魔力を込めればいいのか?」
そう言った男は、焦りながらもう一度コアにふれる。 彼は己の成功を信じ、高笑いを上げた。
「ダメ!」
リリアの声と共に、その男の笑い声は途切れ、その首が飛んだ……。 男の体が血しぶきをあげ、バタリと倒れるその光景に、僕たちは唖然として立ち尽くしていた。
数秒後、男の体から噴き出した血を浴びた腕とともに、宙に浮かんだ空間の亀裂からそれが現れた。 三メートルに近い大きな体。 その者の背後には黒翼が四枚生えているように見える。 額からは長い二本の角があり、その瞳は赤く燃えているようにも見えた。
「困るのだよ……。 異界の輩にこのコアを管理されてはな! このコアは、粉々に破壊し、自然のままに魔素を世界に解き放つ……。それが、正しい使い道なのだ!」
威圧を込めた瞳で睨みつけられ、足の震えを堪えようと力を込める。 だが、その震えが止まることは無かった。 リリア以外の三人は僕の背後に隠れるように身を小さくしている。
僕は、その男の周辺に魔力無効を行使した。
「ぬ? そこのお前、何をやった?」
首を傾げる男。 状況の変化に違和感を感じているようだが、余裕の表情は崩してはいなかった。 僕はリリアの不安そうな横顔を見た後、震えを隠すように叫び、目の前の男に両刃剣を振りかざす。
「なんだ?」
そう言いながら、男は僕の斬撃を片手で受け止める。 驚いた表情の男から、鋭い蹴りが繰り出され、僕は地面を転がることとなった。
「サトウ!」
リリアや、三人の声が聞こえる。 僕は横っ腹に感じる痛みを堪え立ち上がる。
「バ、バフを……」
僕の言葉にカツオさんが体力回復、治癒、能力アップのバフをかけてくれた。 痛みが引き、体に力がみなぎってくるのがわかる。 その間に、ハルカちゃんは男に煙幕を飛ばしていた。
男の顔にまとわりつくように展開されたのは、粘着する煙幕。 知恵のある魔物にはかなり効果的な煙幕だ。
「面倒な煙だ! なんだと言うのだ鬱陶しい!」
男が煙を払おうとする動作に合わせ、体勢を低くして切り込んだ。 先ほどより鋭く、強く、男の右足を切り落とす勢いで振りぬいた。 だが、その攻撃は不発に終わった。 男の足に、僅かに傷を作り、血を流させるだけに終わったのだ。
「痛いではないか!この、地面を這いずる虫の如き輩が、我の体を傷付けようとは……無礼にもほどがある!」
そう言った男が手を前に翳すと、岩の槍が数本向かってきていた。 それはカツオさんにより防ぐことができた。 魔素を消失させた効果はでているようだが、身体能力の高さは厄介だなと感じ、攻撃する隙を伺った。
そして、再び足を前に出す。 多少警戒する様子を見せた男は、次の瞬間、横っ腹を槌で抉られる。 横から飛び出したカオリさんによる攻撃だった。 やっぱり攻撃スキルがあるのは助かるなと考えながら、追撃を加えるために駆け寄った。
これなら勝てる。 そう考え僕は、一気に勝利を引き寄せるため、手に持つ両刃剣を強く握りなおした。
正式に招待を受けたリリアは入り口の扉から。 不法侵入のクレイデスは最上階からの乱入となりました。
なお、戦闘中のリリアは、祈りながら戦況を見守っています。
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