フラれるのが目的です
神に能力を貰い、初めての失恋から二年。あれから随分と環境が変わった。
活動していた拠点を移し、生まれ故郷から離れた。名残惜しかったけど、あの地には家族がいる。
既に家を出て一人暮らしを初めていたけど、レベルを上げるために女性に告白してフラれる行為を繰り返せば、英雄の息子が色恋に耽溺しているなんて汚名が流れるに違いない。
ただでさえ『落ちこぼれ』『出来損ない』『ハルジア家の唯一の汚点』なんて呼ばれているんだ。これ以上家族に迷惑をかけられない。
だから僕の事を知らない場所へ行く必要があった。生まれ故郷を離れ、遠い地へと馬車を使って移動した。
現在、僕が拠点にしているのは花の国『ハルジオ』。
大陸南西部に位置する国で、一年中咲き続ける『サクラ』という木が国の象徴とされている。新たな地へ移動した僕は、ギルドで移転手続きを行い、本格的に活動を開始した。
もちろん冒険者として!
ではなく、レベル上げる為に女性に告白してはフラれる行為を繰り返した。
最初の方は手当り次第に女性に告白していた為、フラれたり受け入れられたりして、レベルが上がった後にものすごく下がるなんて事が頻繁にあった。
何故、初対面の男性である僕が告白しても受け入れる人がいるのか? 気になったのでギルドの受付の人に聞いた事がある。
理由は単純で、僕がイケメンだかららしい。
受付の人曰く、守ってあげたくなる庇護欲が沸く感じのイケメンとの事。何とも複雑な気分になった。
何はともあれ理由が分かってからは、告白する相手を選ぶようになった。重要なのは相手を知ること。異性のタイプや好きな物。
付き合っている人がいるかどうか。既婚か未婚か。ここら辺を僕は特に気にしている。
何故かって?相手がいる女性の場合、告白すれば高確率でフラれるからだ! 中には恋人に不満を持っていて成功するパターンもあったけど、基本的には『ごめんなさい』されて終わり。
気を付けないといけないのは、告白した相手の恋人や旦那さんが僕に対して良い思いを抱かないという点。
愛する女性にちょっかいをかける男がいたら嫌だよね?そういう事です。
一度大きな揉め事があってからは慎重になった。既婚者や恋人持ちの場合は相手の事をしっかり調べてから告白する。これが大事な事。
効率的にレベルが上げられるようになると、それに比例して僕に悪名がついて回るようになった。
故郷では『薬草拾い』のラルフと呼ばれていた僕は、『ハルジオ』では『女好き』のラルフって呼ばれているんだ。
死にたくなったね。
レベルを上げて強くなる為とはいえ、あまりよろしくない悪名がついてしまった。
他には『50連敗の男』とか『顔は良いのに残念な男』とか。家族に聞かれたら絶縁不可避だね。
そんな感じで二年間女性に告白してはフラれ、日銭稼ぎの為に薬草を拾う⋯⋯そんな生活を繰り返していると僕のレベルはとうとう100を超えた。
ただ、毎日女性ばかりを追いかけているせいで100がどれくらい凄いかがイマイチよく分からない。
薬草拾いのクエストを受ける為にギルドに訪れた時に見かける冒険者のレベルは50~70が多い印象。
受付の人に聞いたところ、僕が所属しているギルドは最高位がAランクでその人数は3人しかいないそうだ。
ギルドでよく見かける人たちのランクがDランクかCランクと言っていたから、Aランクは100以上?まだ会った事がないから正確な数字は残念ながら分からない。
けど、僕のレベルがまだ足りていない事だけは分かっているんだ。
王都を出ることを父さんに伝える為に僕は一度実家に帰った。その時父さんの頭の上に浮かぶ数字を見てしまった。
───『201』
それこそが英雄と呼ばれる父さんのレベルだ。僕が目指す到達点!
「二度と話しかけないで!」
僕の告白を断った女の子が走り去っていくのを見送った後、カバンの中から手鏡を取り出す。
頭の上の数字は『104』へと増えていたけど、目標としているレベルにはまだまだ足りない。もっと女性に告白してフラれる必要がある!
目指すはレベル200!
父さんを超える英雄に僕はなるんだ!!!
───この時の僕はまだ知らなかった。
勇者パーティーの一員であった父さんたちのレベルがバグっているだけで、レベル100越えの冒険者が数える程しかいないことを。
知らぬ間に世界有数の実力者になっていた事を、この時はまだ知らない。