17話 神事と神楽舞
神事当日、相変わらず狐面をしているウルに子供達は不思議そうにしていた。
しかし、人が私の舞を見に来ている。それだけで緊張がずっと続いており、それは日常でも思い出してはドキドキしていた。
本来ならもう少し練習してからにしたかったとウル以外は言っていたが。
もたないと言うウルの本気の顔に、神事の早期開催となったのだ。
ウルを見に来ている人が多く、アミンやダイタスと兄弟子たちは当然のこと。
八百屋や肉屋のおじちゃんに門番のルイ
冒険者ギルド受付嬢のアリアも居た。
プレイヤーとしても、サクラとジャンヌを呼んでいた。サクラはあまり遊べないことで膨れっ面をしており、ジャンヌはサクラの怒った顔にびっくりしていた。
他にも話したことのある住民が数多くおり、見知らぬ人が一グループしか居なかったのが良かった。
知らないグループは男一人に、五人の女子が周りを囲んでおり、ハーレムの主人公みたいだとウルはふと考えてしまった。
その視線に男は気づいたのだろう、こちらににこりと微笑んだ。
怖い。ウルはこの男の人になぜか恐怖を感じてしまい、慌てて目線を外した。
緊張しているのはウルだけではない、ジェーンをはじめとする舞姫、そして演奏者の全員が緊張していた。
無理もない、突拍子もなく始まったこの神事は確かな手ごたえを感じる前にみんなの前で披露することになっているのだから。
孤児院の巫女服に関しては、かなり前にマリーが巫女服の素材が気になると言われた際に一度貸し出していた。その時にオブロン一の服屋に行き、同じものを作ってくれていたのだ。
あくまで似せているものであり、防御力や破邪の力をもっていないため、町と神社から出ることのない孤児院の子供用だが。
ウルは神楽鈴を持っているが、他の子は持っていない。
その代わりに木の枝を持っている。青々とした葉がいっぱい着いた枝であり、榊と呼ばれるものに近いのだとか。
鈴の音色を合わせることは難しいため、苦渋の決断でウルだけが鈴を持つことにしたのだ。
巫女服の姿を見に纏ったウル達に、町の人はとても驚いたのだった。
綺麗だからというのもあるのだが、なんだか底知れない神聖さを感じているためである。
人は集まっていき、30人程度が神社に訪れていた。周りは雑談をしており、今か今かと待っているようだ。
「皆様、今回は初めての神事にお越しいただき感謝します。この狩猟神社の巫女であるウルと申します。」
「神へ送る神楽舞を披露します。」
ウルはそう言うと、決められた場所に立った。
神楽殿などは作っていないため、今回は拝殿、お賽銭を入れる前で披露することにした。
外ではあるが、今までずっと外で練習していたためいつも通りできる。
まず笛を担当するティナが吹き始める。
ゆったりとしていながらも、聞くだけで背筋が伸びるような、そんな音色が鳴り始めた。
それからウルを除く四人が舞を始めた。
それぞれ同じ舞でも特徴があった。
1番年下のメーナは、愛らしさ全開の可愛い舞を
大人っぽいシャルは、色っぽい舞でセクシーな舞を
クールなディテは、カッコいい舞を
リーダーのジェーンは、基本に忠実な綺麗な舞を披露した。
マリーは子供たちに完璧に舞うのも大事だが、自分自身が神に何を見せたいのかを説いていたのだ。
楽しくない舞を神に見せることがどれほど愚かしいか。だから自分が一番楽しい気持ちで踊れるようになりなさいと。
それが特徴的ながら、見ている人を楽しませる舞になっていた。
舞も中頃になったころだろう。ずっとしゃがんでいたウルが立ち上がり
しゃらん。
その鈴の音と共にウルは舞い出す。
白い狐面は神秘的に輝きだし、長い手足の振りは力強さを人に感じさせた。
鈴の音は一つ一つ、神社全体に広がり、見ている人を元気にしていく。
ウルの仲間達も盛り上がっていた。ワン太は飛び跳ね、おちゅんさんは神社内を飛び回り、チラリンはとても愛らしい踊りを、アルデも鼻息が荒くなっていた。
マリーはウルの舞を見てとても喜んだ。こんなに美しい舞を出来たのかと、あなたはやはり芯が強く美しい人だったと。孤児院のピンチの時に救ってくれた時を思い出していた。
住民のみんなもウルの美しさに虜になっていた。
ウルの舞と共に神社全域が緑色に光っていき、それは天にも昇り続けていき、天から何者かが降りてきた。
神楽舞を成功させ、沢山の人が盛り上がることで神様も興味が出て降りてくるのだ。
そこで神が神社を気に入ったら神が宿る本当の神社となるのだ。
この光は神気といい、神聖な神やその依代である巫女のみが発する力である。
ウル達は舞に集中しているため、全く気づいていないが、見ている人たちはこの光景に驚き、降りてくるものを見続けてしまっていた。
舞は終わり、ウル達は人心地がついた。みんなは楽しんでくれていたのだろうかという、心配でいっぱいだった。
しかし周りを見てもみんなが上空を向いて固まっているため、どうだったかわからない。
たまらずウル達も見上げてしまう。
そこにはあの日、確かに友人になった神がいた。
慈愛に満ち、とても美しい女神様
アルテミスがウルの舞を見に来ていたのだ。
「ウル、あなたの舞はとても綺麗でしたよ。」
「それに皆様もとても可愛らしい舞で楽しく見させてもらいました。」
いつもと変わらず慈愛に満ちた表情をしている神様がいたのだった。
「アルテミス様!??」
ウルがアルテミスと言ったことで、周りは本当にあの女神様が来たのだと、夢ではないと理解できたのだ。
この世界でアルテミスという神は有名である。
狩猟の女神 神獣の主 清廉の女神
他にも色々あるが、上級神の一柱であり、名と姿は知られているが、降りてきたことは1000年以上前になる。
その神がいるのだ、住民の全員が傅き、祈りをあげていた。マリーやアミンまでもが祈っており、ウルもその姿にびっくりしていた。
「言ったでしょう。もしかしたら会えるかもしれないと。」
「そうでしたけど。本当に来ていただけるとは。」
「私は嘘は言いませんよ。しかし友人は出来たようですね。」
「迷惑かけてばかりですが。」
「あなたの迷惑は楽しいでしょうね。」
「それでアルテミス様?この神社は狩猟神社にしたんですけど。ここを一つの家にしていただけませんか?」
そう、ウルは思っていることを口に出した。この神社はそもそもアルテミスを祀りたいと思って作っているのだ。
しかし
「申し訳ありません。私の神格が高くて難しいみたいです。」
「そ、そうですか。」
ウルはがっくりと肩を落とした。
「しかし、私のための神社がよその神に取られるのも面白くないですね。」
そういうと、アルテミスは指をパチンと鳴らすと天から鹿が走ってきた。
「名はネイアといい、私の一番信頼しているものです。これでも神獣ですので、今はネイアを住まわせても?」
「は、はい!」
「更にこの神社を発展させれば、私も住めるようになるでしょう。頑張ってくださいね?」
「はい!新しい目標ができました。」
「私も楽しみにしています。それでは。」
そう言うと、アルテミスは消えてしまった。目の前には黄金の角を持つシカのみ。
鹿はこちらを一瞥すると
「いい家じゃない!これからもよろしくね。」
とウルへ話しかけた。
【神社・牧場全域が聖域になりました】
【新しいスキルを覚えました】
【神社に《神獣ネイア》が住むようになります。】
【狐面が神獣のお面≪シカ≫に変化した。】
【巫女服が≪神獣の巫女服≫へと変化しました。】
【神器が初心者の弓から≪アルテミスの弓≫へ変化しました。】
【神社が完成しました。これから住民やプレイヤーがお賽銭を投げることができます。お賽銭額によって神社の力が増えます。】
【称号:舞姫を獲得しました】
【称号:聖域を持つものを獲得しました。】
【称号:ネイアの加護を獲得しました。】
【称号:アルテミスの加護が称号:アルテミスの寵愛へ進化しました。】
怒涛のアナウンスが流れているが、目の前のことに全く頭が働かない。




