12話 弟子入りと卒業
錫杖を鳴らして楽しんでいたところ、アミンから声を掛けられる。
「どう?自分の武器を作るってたのしいでしょ?」
「はい。大変でしたけど、感慨深いですね。」
「これから色々作ることになるとは思うけど、この気持ちは忘れないでほしいわね。」
「それで、ウルは神社と牧場を作るんでしょ?当てがあるの?」
「それが、ないんですよね。アミンさんに聞きたいと思っていたんです。」
「無理だったら、じっくり作って壊してを繰り返そうかと考えていました。」
「それも悪くないけど、でもウルはしっかり生産品も作り続けているし、ギルドに卸してくれているしね。いいでしょう。」
地図のようなものと紙を渡された。
「これをもって、この地図のところへ行きなさい。ダイタスというこの町で一番の棟梁があなたに建築のイロハを教えてくれるわ。」
「あの?私は建築士にはならないですよ?」
「あなたねえー。神社を作るのは宮大工という大工のさらに上の人が作るのよ?大工すら知らないで何を作るのかしら?」
「それに。牧場もそう。当てずっぽうで作っても動物にとって苦痛の場所になるだけだわ。」
「確かに。しっかり学んで立派なものを作れるようにします。アミンさん今回はありがとうございます。」
「いえいえ、あなたの作るものは面白いからね。楽しみにしているわ。」
そういい、ウルはアミンと別れた。その足でオブロン北側に向かった。そこにダイタス組があるみたいだ。少し歩き、表の道から少し入った先にあった。
ダイタス組とでかい看板があり、木造の大きい建物で入口がとても大きく扉がないのも特徴的だった。
しかし入口前に大柄な男性が立っていた。とても怖い見た目で、ウルは昔に見た任侠映画とかのやくざを彷彿とさせる見た目にもう立ったまま放心していた。それを男に見つかった。
「おい、嬢ちゃんはずっとこっちを見ているけど、相談かい?」
「あ。ええ、ちがいます」
「なんだ?ドギマギして話しづらいな!何の用だって?」
「こ、これ」
アミンからもらった手紙を前の男に渡した。綺麗に紙を眺めると、ぎょっと目を開けた。
「お前がウルか。俺に大工のイロハを知りたいという。」
「も、もしかして?あなたが」
「そうだ。俺がダイタスだ。よろしくな!ウルよ」
手紙の中を見て態度を軟化させたダイタスはかなり気安くなっていき、ウルも少し安心していた。あのままだと大工どころではないと思っていたのである。
建物の中へ案内された。中と言っても車の整備工場のように、くり抜かれた大きな部屋であり、居住用のスペースではない。
中にはたくさんの種類の木材が積まれていたり、中央には加工用に使う大きなテーブルが置いてあったりと、木でいっぱいであった。
「ここは木材を用途別に切り分ける、丸太を木材にしたことは?」
「あ、あります。数回だけですが。」
「上等。俺の弟子になりたいという奴の中には木を扱ったことがないやつもいるんだからな。舐められたものだ。」
「そうなんですか。」
「そういえば、お前ってあそこの爺さんの家に住んでるんだよな。空っぽだったろ?」
「へ?いえば空っぽでキッチンだけでしたけど。」
「俺らに家具のお願いをしてきてねー。つまりはテーブルとかは作ったと。」
「は、はい。そうですけど」
「よし!木工のスキルはあるな。それなら大工のスキルを取れ!お前ら来訪者は取れるはずだ。」
「取りました!」
「よし。なら俺の弟子として家の補修や建物作りを徹底的に教えてやる!」
そこまでキツいのは、勘弁かと思ったが。アミンさんと同じで、この人に師事を請えるのはこの先ないかもしれない。無理でもついていこう。
「はい!」
そう元気に答えるウルであった。
しかし、このダイタスの弟子というのはかなりウルにはきつかった。まず一番初めの命令は大工スキルと木工スキルのアイシスを切ることであった。
つまり、この先木を切ったりする際に一切のゲームアシストを受けられないことを意味する。アシスト抜きでも実際のほうが幾分か大変だが。
しかし、舞と歌のスキルでアシストは使っていない。料理もアシストオフにしているが。もともと料理はウルにとっては大得意なほうであり、参考にならない。
歌はカラオケに行くことや、ゲームの中でもたびたび歌っている。料理中や調合中はもっぱら歌っており、おちゅんさんが一番楽しんでいる。
それでも大変で、完ぺきとは程遠い。舞など本当に難しく、今でもえっちらおっちらと怖い顔をしながらやっているのだ。
大工などできるのだろうかと、不安を感じるウルであったが、ダイタスは
「アシストはお前ら来訪者はよく使っているし、それは良いと思うが。」
「俺は好かん。」
「なぜですか。」
「アシストで作られた家を見たことは?お前が住んでいる家は当然俺ら大工が一から作っている。」
「ないかもしれないです。」
「まあなんというかな、四角い箱を切り崩したような、まるで魔法で作ったものみたいでな、補修も木を当ててトンカチ一発だ。俺らとは違う。」
「いい悪いじゃねーんだ。俺から仕事を学びたいならしっかり木を知り、大工を知り、家を知るんだ。それが師匠と弟子ってものだ。」
「そうですね。武器はアシストで作っていたので、そこでは怒られなかったので。つい」
「いい、そういう疑問は俺に言え。お前の不安を受け止められないほど小さい背中ではない。」
「それにアミンは作れれば王道も邪道もない、楽しく作ればいいってやつだからな。俺とは大違いだ。」
「まあお互いタイプが違うからな。俺の技を知るには俺の言うことを聞いてもらう。」
そういうと立派な木材の板をテーブルの上に乗せた。
「これは木工の範囲だが、まずは木に慣れることから始める。これくらいやってみろ。」
そういうと、木材をノコギリで切って行き、あっという間に数個の大小様々な板を作った。
その木材全てに鉋がけをしていった。
それを釘で数個打っていき、5分足らずでタンスを作り上げた。
「まあこんなもんだ。」
ニカっと歯を見せるダイタスは、一番の笑顔を見せていた。
「いいか?木を切るのに1番大事なのは、しっかり丁寧に、そして完璧に測ることだ。」
「測るですか?」
「そうだ、このサイズのものを作ろうと思ったら何センチの板が必要か。それで板のサイズをこれできっちり測れ。」
そういうと、ウルにメジャーみたいなものを渡した。
「測りすぎる分には仕事にはならんがマシだ。それより適当に測ってズレていたら木が薪にしかならん。俺はそれを許さん。」
「薪は薪、テーブル用の木は違う。木を殺すんだ。防げるミスを0にするのは当然だ。」
ハッとウルは思った、
ウルには知らない考え方だった。
しかし、ウルは考えないといけないことであった。全てを糧に生きる分、しっかりその素材を一切無駄にしない。これは重要な考え方だと。
気合いを込めて、木を切ることにした。
板をテーブルに乗せて、そうだ。洋服を仕舞えるタンスを作ろうと考えた。3段あれば十分だろう。
縦幅横幅を決めた。そこからが大変だった。
「木にビビって、ノコギリにビビって何を作る!」
「は、はい。」
「その木は椅子用だ!よく観察して見ろ。ここが違う。」
「はい!」
「ようし。鉋がけしてみろ。」
「はい!」
「腰も手も力入れろ!身体をこの動きに染み込ませろ!」
「はい!」
家具の製作は4日にも及んだ。一切建物には手を出していないが、ある種の師弟関係にウルはずっとドキドキしていた。
それもダイタスの器のデカさだろう。ウルの様に口下手で表情も硬い女性にずっと目をかけてくれる。アミンのお願いだとしても他の職人なら無理だったろう。
だからこそアミンもウルのことをダイタスに任せたのだが。
すっすっ
今日も変わらず切った木材に鉋がけをしている。ダイタスは薄く鉋をした後の木材は綺麗で整っていたが。
「やっぱり厚い。それに木材も少し…」
「ん?こんなもんだ。4日で俺に並ばれたら立つ瀬がねーだろ。これからじっくり鍛えるんだ。」
「よし!これで木材のこと、木工のことは知れたな。次に行くか。」
「次、ということは?」
ダイタスは思い切り歯をこちらに見せる
「ああ、家を作るぞ!」
それからは棟梁の弟子たちと並んで作業をすることになった。
最初はかなりマンツーマンで教えてもらっているウルに対して職人たちは表立っては何も言わないが、不満を抱えていた。
しかし、親方たちとご飯を食べていくうちに、なぜウルが弟子になったかを話したら軟化した。
この町の人は優しい人がとても多く、孤児院で過ごすしかない子供達を不憫に思っていた。
それを牧場と神社の仕事を与えて自立をさせるという。これほど凄いことはないと、男たちは自身の不満を恥じていた。
しかもプレイヤーはあっという間に次の街へ消えていく中、ここで大きな居を持つことになるウルに親近感を覚えた。
このご飯の時間から、弟子たちはウルに構い出した。ウルにとってはてんやわんやになるので、白目を剥くことが多くなり、ダイタスの怒号が何回も起きた。
木材運びに鉋で削る アシストオンは許さないらしい
アシストのやつの家は見たことあるが、補修の仕方がわからない、木と家、わかるまでは頼るなと強く言われた
アミンは作る楽しさが大事、おっちゃんは仕事誇りを大事に、後でウルとは分かれるからこそきつい。まあウルは縁は大事にしてるから度々行くし作ったら見せにくる
それから現実時間では2週間が経っていた。平日は夜以降。休日もずっといるわけではないが、かなりの時間を使っていた。
そして
「よし!ウル」
「はい、親方」
「お前はよくやった。家の補修も木材の知識も、しっかり出来てきた。」
「はい。」
「お前は今日から独り立ちだ。」
「え?」
「なに。俺の弟子はいつまでも続く。困ったらいつでも来るといい。」
「あ、ありがとうございます!」
「これは選別だ。しっかり全身全霊で作れよ。」
大工道具と、数々の建築のレシピをウルに渡した。
ウルは、ダイタス組の入り口に立つ。ダイタス含め周りの弟子たちがウルを見ている。
「ありがとうございました!」
深く一礼をした。感謝とこれからの頑張る気持ちを込めて長く深い礼をした。
そして、振り返り自宅へ向かった。
ウルの瞳は少し濡れていた。




