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表現特区  作者: 小内万利
9/20

09話:ポスト801-900

この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku

一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。

そのような批評が多数を占め、あまりにもグロテスクなためにすぐ気分が悪くなり半分も視聴していられない者さえいた。

作者は元々、アニメ監督としての実績により業界では名高い人物である。曰く、外でやれない過激なグロをやるために特区に移住したのだとか。

「このアニメがあんまり評価されてないのってどういう理由?」「そりゃクオリティがいまいちだし無駄にグロいからでしょ」

「作者さんは経験豊富ですけど音響やらは初めてな上に声優以外の作業をひとりで全部やったらしいですよ」「へえ、だから声なしで字幕なのか」

「背景がちょっと適当すぎる。特殊効果も合ってないとこがある」「バトルの動きは凄いしシナリオも短い時間でよくまとまってるんだけどね」

「普通は数十人、数ヶ月がかりの作業量だからひとりでここまでやれる時点で超人だと思うよ。人気が出なかったのは可哀想」「まあ情熱は認める」

「だったらそういう悪い部分を手直しすればいいんじゃ?どうせ公開するためにグロ表現は修正するんだろ?その手間を増やすだけ」

「手直しって軽く言えるほど簡単ではないぞ。素人には無理だしプロとしてアニメ制作に関わってた人材なんて特区にはほとんどいない」

「じゃあ外のアニメ制作会社に発注したらよくない?」「そもそもグロ修正も一流スタッフがいないと無理でしょうしね」

「アニメ会社の人に特区まで来てもらうってこと?制作費とかどうすんの?」「とりあえずダメ元で特区の運営に訊いてみようよ」

二つ返事で承諾が出た。選考担当者の仕事はどの作品を公開するか決めることである。その先について気にかける必要はない。

すなわち、公開に向けたすべてのコストや手続きは特区運営が負担する。特区の一大事業なのだから当然だろう。

選考担当グループは作者に話を通し、このアニメ作品の修正と公開を決めた。自分の作品が選ばれると思っていなかった作者は大喜びしている。

なにしろ、趣味で作った程度の作品が世に公開され、大ヒットしたあかつきには億万長者になる可能性もあるのだ。期待に胸が躍らないわけがない。

特区は有力なアニメ制作企業にコンタクトを取り、今回の案件の発注と、特区への誘致を持ちかけた。

つまり特区内に社屋を建て、今後はそこで作品の公開に向けたアニメ化作業をしてもらうのだ。従業員も多く移住することになる。

社屋を建てるからといって企業のすべてを移してくる必要はなく、制作スタジオのうちのひとつとして利用してもらう。

もちろん映像以外にもアニメ制作に必要な作業をするための企業や人材や設備も別途、用意する手筈となっている。

アニメ制作現場は非正規雇用者や個人事業主の割合が多い。特定の企業を特区に入れても、内部の人材は流動的で頻繁に出入りする者も多いだろう。

たとえばアニメを一本制作する数ヶ月~一年間程度だけ特区に赴任してきて、完成すれば外に帰っていくケースが予想される。

外ではそういった末端労働者が資本家に搾取されがちだが、特区としては充分な待遇を約束せねばならない。本鳳は還元策を準備する。

競争力を生んで市場の健全性を保つためという建前で複数企業を誘致する。その本当の狙いは、まとまった数のプロを移住させてくることにある。

これまで特区内にはバラバラに活動するアマチュアの個人創作者しかおらず、せいぜい数人単位のグループにしか発展しなかった。

しかし今回新たに入ってくるのは、世界的に評価の高い陽下アニメの第一線で活躍しているプロ集団なのだ。おそらく数十人にはなるだろう。

本鳳はこの事態を特区の運用前から長らく待ち望んでいた。特区の成功のためには切要な存在である。

最初から入れておきたかったが、移住者2000人のうち相当な割合をそういった者が占めるのは強い不公平感が出るため、慎むしかなかった。

特区の住民がアニメ作品を選んで公開を決定し、その必要に迫られて大勢のプロを入れるという自然なシナリオが必要だったのだ。

今後はゲーム制作企業や出版企業の誘致も考えている。というより、今回のことでそれを欲する住民も出てきた。

アニメ作品をプロに手直ししてもらえるなら、ゲームや漫画もしてほしいと考えるのは自然だろう。

複数媒体のプロを入れられればメディアミックスの幅が広がり、成功につながりやすくなる。

とはいえ、公開が決定したアニメの手直しと表現の修正はまだ済んでいない。

それが済んで公開したものが空振りに終われば、プロに任せても無駄ではないかと考え直される事態になるかもしれないのだ。

「今回は外に公開するためだから特区が制作費を肩代わりしてくれるけどよ、外に公開しないなら自分の金で企業に依頼しないとってことだよな」

「公開しないのに企業に依頼するの?」「あの監督みたいに個人でアニメ作るとか普通無理だから。キャラやストーリーの案と金だけ出すっていう」

「数十分のアニメを一本作ってもらうには数千万、クオリティによっては数億塩かかるよ。そんなお金を個人で払うのも普通は無理でしょ」

「アニメは無理でも漫画なら現実的。他人の依頼で漫画描いてる奴は多い。一般的な相場として1話分の原稿料くらいなら個人でも払える」

「てかアニメ会社を複数誘致したのは競争をうながすためらしいけど、アニメ業界って横の繋がり強くて元々あんまり競争関係とかじゃないよね」

「グロス請けで助け合うとかよくやってるしな。ひとりのアニメーターが複数の会社の仕事請けてるとか」「仕事も中の人もフリーランスって感じ」

「そういう人材の流動性はアニメの内容の多様性に繋がってる。同じ人間で作ってたら同じセンスのアニメばかりになってしまう」

「アニメーターのような下流ならともかく上流のスタッフも色んなアニメに出しゃばってくるせいで既に似たり寄ったりのセンスになってんじゃん」

「それでも正社員としてひとつの会社に落ち着けてあげる方がアニメーターのためになると思います。出来高制の根無し草だと将来が心配でしょう」

「アニメーターってハードなのに報酬は安いからね。他の職種並の収入を得られるほどの技術を身につけるには何年もかかる。大抵その前に辞める」

「近年のアニメ業界は活況だし他の職種の数倍稼ぐベテランもいるよ。結局はスキル次第」「それは不当な搾取を正当化する理由にならない」

「アニメーターにとっては好きで選んだ道だろ」「その情熱に浸け込んで搾取してるのがアニメ会社じゃん。合意契約だからタチが悪い」

かくして特区初の公開作品は数十人のプロの手によって万全の仕上がりとなった。問題のグロも全年齢対象のマイルドな表現に修正されている。

作品の質を上げるため新規にキャラクターやシーン、オープニングやエンディングの映像と音楽を追加し、声優によるキャラクターボイスもつけた。

作者は作業に直接関わっていないが意向は充分に反映されている。制作陣との衝突や妥協もあったが文句のない出来である。

特区の公式サイトで公開されたアニメ動画には莫大な反響があった。陽下にとどまらず世界中で評判になり、未曾有の再生数を叩き出した。

ただし特区初の公開作品という話題性が上乗せされている。つまり作品のみの評価でなく、それ以外の事情に強く後押しされているのだ。

特区初だからこそ厳しく評価されるとの意見もあったが、やはりプラスに働いていると見る者の方が多かった。

「うん、まあ普通。悪くはない」「こんなもんかって感じ。私らが普段見てるアニメと何が違うの?」

「アクションばかりでシナリオが浅すぎる。元は激グロって噂だけど完全にファミリー向け」「期待外れ。これなら特区じゃなくていいじゃん」

「無料で見れるからいいけど映画だったら正直微妙」「お前ら随分辛口だけど俺は面白かったと思うわ。続編作ったら絶対見るよ」

「あの監督の味がよく出てる良いアニメだね」「元の監督さんが作ってた分は全体の割合でいえば最終的にかなり少なくなったらしいが」

「むしろ特区に行って元のグロ版見たくなった」「前に見に行ったけど気分悪くなるレベルだから注意しろ」「原作の評価はイマイチなんだよな」

「原作にないオリジナル要素盛り込みすぎだろ。逆に削除した要素もある。ほとんど別物と化してる」「原作者はそれで納得してるから」

「サイトの販売ページではグッズ展開もすでに手広くやってるね」「ならもっとキャラ重視の内容にすればよかったのに」

「僕たちにしてみればなんてことないアニメだけど、一部の国ではすごくウケてるらしいよ。センスの違いかな」「産油国の王族もハマってるとか」

内容には賛否あり、世間の評判は初の公開作品という下駄を履かせたものだと言わざるを得ないが、特区としては充分なプラス収支となった。

もちろん作者やアニメ制作企業も充分な利益を得ている。事前に最低限のギャラを支払い、公開後の結果に応じて追加で支払う契約なのだ。

全体からすればわずかな割合ではあるが選考担当者にも利益が分けられている。ただ選んだだけで丸儲けなので特に不満は出ていない。

関連グッズの制作は外の企業に依頼しており、特区はそれを仲介しているがマージンは取っていない。下手な搾取はイメージ低下に繋がる。

目先の小金を追って長期の利益を捨てる愚を犯すわけにはいかない。あくまで権利者を尊重する姿勢を世間に知らしめておく必要があるのだ。

ただし作品自体は特区のコンテンツとして利用できることになっており、これを創作活動と観光の増進のために活かしていけばよい。

この作品の別バージョンの動画も公開している。動画内には、制作にたずさわったスタッフとその作業分担を1カット単位で詳細に表記されている。

画面中が文字だらけでアニメの内容を楽しむことは難しくなるが、誰が何の作業を担当したかという情報を重視する動画なので構わないのだ。

普通のアニメではオープニングやエンディングのテロップでほんの数秒間紹介されるだけのスタッフの名前が、この動画では本編で頻繁に示される。

動画とは別のページでもそれらの情報を公開し、寄付用の窓口も併記する。また、スタッフごとの役割を詳細にまとめたページも作る。

絵コンテ、レイアウト、原画、その他あらゆる段階の内部資料や素材、ちょっとしたメモ書き程度のものさえも、可能な範囲で公開する。

つまり投げ銭のための機能である。アニメの内容やスタッフの仕事ぶりに胸を打たれた者が、その代価を支払いたい時すぐに支払える仕組みだ。

感動とは短時間のうちに冷め、寄付したい気持ちも急減してしまうものだが、これなら冷めないうちに寄付できる。

ただし一口あたりの寄付額には制限がある。人は興奮した時には軽はずみに大きな出費をし、冷めてから後悔しがちだからである。

スタッフ個人ごとに専用の寄付窓口を作っているため、立場の弱い末端の非正規雇用者や個人事業主も寄付の対象となり得る。

企業に対する寄付はそのアニメの制作に直接携わっていない所属社員にまで均等に分配される。事務や営業のような裏方もアニメ制作には必要だ。

スタッフひとりひとりに対して世界中から多額の寄付が集まってきており、仕事の本来の報酬額より圧倒的に多くなっている。

地味なシーンのわずかな数のカットを担当した無名の新米アニメーターですら、家を建てられるほどの寄付金を得られた。

特区がいったん預かった寄付金を各々に直接支払うので、企業による搾取の余地がない。

いわんや他者への寄付金を収奪するのは禁じられている。これには立場の強い者が弱い者に労働契約上の圧力をかけてそうする行為も含まれる。

また、特区外へ作品を公開するためのアニメ制作作業は虹原島内でしか認めていない。

すべての作業を監視するため違法労働があれば察知できる。陽下のアニメ制作業界では未だに違法労働が蔓延しているが、特区ではこれを許さない。

社屋の近隣には労基署を設置して充分な数の監査官を常駐させ、区役所にも労働者用の通報窓口を作ってある。

さらに正規雇用でない者に対しても多くの面で正規雇用並みの待遇を与えることを義務付け、違反した企業には重大なペナルティを課す。

多額のコストがかかっているが、ここまでやっても充分な黒字が残ると証明された。寄付まで含めれば制作関係者は莫大な利益を得ている。

今後の特区のアニメ制作に関する展望は明るい。アニメ制作企業の誘致はちょっとした賭けだったが無事、良い方向に向かったのだ。

企画から公開、その後の展開に至るまでの総合的なプロデュースに改善の余地は多く残されているが、初の試みとして上々な成果だろう。

今回の作品は既に続編制作の話も持ち上がっている。原作は趣味で作られた単発作品だったが、この結果を受けて作者も関係者も乗り気である。

修正される前の動画を見るために観光客が特区へ押し寄せてきた。期待どおり、観光コンテンツとしての役割も果たしているのだ。

各ジャンルの人気作品やそれに付随する批評をチェックするため、定期的に訪れる観光客も多い。

投票数上位の作品は将来、特区外に公開される可能性があり、そういった情報を自身の動画で先取りして収益化を狙う者も増えている。

内の創作物を外に直接持ち出すのは禁じられているが、口頭による説明程度は許容範囲である。これも特区の効果的な宣伝となるのだ。

次にどの作品が公開されるかとの話題はもはや世間の関心事であり、その予想だけでも各所で大小さまざまな経済効果に繋がっている。

今回は特区内の作品を選び、修正し、外に公開して大きな利益を上げた。個人の創作者や民間企業を上手く導いた結果である。

政府や研究機関にはこの成功が充分な経済効果を生み、国家経済に貢献していると評価する者も現れた。

一事のみをもって全体を判断するのはやや拙速なようだが、今のところ特区の運用はつつがないと言えるだろう。

長い時間と多額の血税を注いできており政府の後ろ盾があるのだから、この程度はもちろん超えるべきラインではある。

しかしそんなことなど陽下人にはどうでもよいのだ。自由な表現が許される特区から人気作品が生まれてきただけで、皆が満足だった。

虹原島と衛合島はすでに全土が開発され、住宅や商業施設が建てられて人が暮らし、観光もできるようになっている。

観光客の中には外国人も多く、本州側には国際線を備えた大きな空港が作られる予定まで立っている。

特区の構想段階から空港の話は出ていたが、騒音などの公害問題がある上に、特区がどの程度成功するのか未知数だったため保留されていた。

観光で訪れ、数多の無規制作品に触れたことが刺激となり、才能が覚醒し、本業の創作者になる者も多い。無論、彼らも特区に移住したがるのだ。

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