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表現特区  作者: 小内万利
7/20

07話:ポスト601-700

この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku

一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。

しかし誠意とはあくまでも内心であり、客観での判断は難しい。そこで、報酬が欲しい者は専用の批評機に入って作品の鑑賞と評価をおこなう。

批評機とは内部がインターネットカフェの個室のようになった筐体である。ネカフェとの最たる違いは各種の生体センサーが付いている点だろう。

センサーで視線、姿勢、脈拍、発汗、体温などモニタリングし、その様子から鑑賞と評価にどれだけ集中しているかAIで判断するわけである。

たとえば作品をいちべつし、良し悪しを一言だけ書く行為には誠意がないと判断してよいだろう。実際のところAIによる判断もその程度なのだ。

厳しいラインを設定すると、誰も報酬を得られず機械が利用されなくなり本末転倒となる。半分は客寄せ目的なので、ゆるいくらいでよい。

もう半分の目的は、やはり多くの創作者が欲する真っ当な批評を集めるためである。

創作産業の発展のために創作者の成長は緊要だが、そのためには鑑賞者の立場からの批評も必要不可欠だ。

批評とは誰でも気軽にできる分だけ、時に作品や作者を貶めるだけの不誠実な内容に終始するものも多い。

要はただの荒らしや冷やかしと呼ばれる行為が大量に混ざってくるのである。

そんなものをいちいち吟味し、真に受けていたのでは創作者は成長どころかスランプにおちいりかねない。

行政が少々の報酬を支払ってでも有意な批評をさせる方が建設的だろう。そのために真面目に作品を鑑賞する者も増え、創作者にも喜ばれる。

だが、真面目に批評したからといってそれが的確な内容であるとは限らない。

作品に対して並々ならぬ熱意を持っているのに、些細な勘違いから的外れな批評になってしまう場合も多々あるのだ。

それを指摘する仕組みを作るために、批評に対する批評にも報酬を出す。ただし作品に対する批評より少額である。

批評の批評の批評には出さない。それ以降の階層は鑑賞者同士の言い争いばかりで、ややもすれば作品と無関係な内容に終始しがちだからである。

つまり作品に対する批評が1、1に対する批評が2、2に対する批評が3として、1と2には報酬を出すが3以降には出さないようにする。

AI排除のための監視がないことをうたう衛合島でも、この批評機の内部は例外的に厳しく監視しなければならない。周囲にも係員が配置される。

内部は空調が効き、明かりも調整でき、ドアを閉めてしまえば静かなため快適だ。目的外への悪用も想定している。

利用には個人認証が必要で、飲食物の持ち込み、睡眠、長時間の連続使用などをすると、AIが検知して係員につまみ出される手筈となっている。

とはいえ、意図してそのような問題行動を起こす者は想定ほど多くはなかった。たまに軽微な違反はあれど、大概はうっかりミスである。

観光客の多くは素人だが、少なからず創作分野への理解があり、優れた批評眼を持っていると自負しているものである。

その能力を産業の発展のために活かし、わずかといえど報酬までもらえるのだから真剣に励まないわけがない。

ただし報酬はあくまでも特区内でしか通用しない電子マネーで、しかも少額である。

作品を直接生み出したわけでもない者が多くを得られるほどうまい話ではない。批評は重要ではあるが、最重要ではないのだ。

批評自体は特区内のどのメディアにでも投稿してよいが、批評機によるもの以外は信頼性で劣る風潮が生まれた。

批評機による批評も作品同様、それに紐づく形でデータベースに登録される。

批評報酬システムを実施したことで特区はまたもや世間の注目を浴び、渡航予約数が増加に転じた。

批評機とは別で、特区内では公共の場や宿泊施設の客室内などいたる場所に端末が設置されており、観光客には携帯用の端末も貸与される。

それを使えば無料で作品の鑑賞と批評の閲覧が可能だが、特区外への漏洩を防止するためあらゆる手段による記録、複製、複写は許可されない。

端末での作品鑑賞については、最適な環境を整えるための細かな気配りが行き届いている。

たとえば好みの表現を設定していればその表現を含む作品が優先的にピックアップされるし、嫌いな表現なら除外される。

見たくない表現物を見ないで済む権利は特区内での公共空間において保障されないが、端末での閲覧では最大限に優先されているのだ。

嫌な表現を他人に許容するのと自分が楽しむのは別問題である。自らの生来の属性がおとしめられることは許容できても、楽しめる者は稀少だろう。

特区の観光を支える中核コンテンツで、客に不愉快な思いをさせるわけにはいかない。

同様の理由によって端末上で広告のたぐいは一切表示されない。非営利でなければ難しいことである。

他作品へのリコメンド機能は標準でオフになっており、同作者、同ジャンル、近い表現、高評価など範囲や条件を調整して機能させることもできる。

端末に出力される映像や音声の設定は個人が調整可能だが、作品ごとにそれまでの閲覧者の設定を参考にシステムが自動調整する機能もある。

体質や体調など事前に入力しておけばそれを加味した自動調整もできる。色覚や聴覚に障がいを持っている者にも配慮されているのだ。

設定は個人ごとに特区のサーバーに記録され半永久的に保持されるため、次に特区を訪れた時も同じ設定環境が提供されるわけである。

「漫画読んでレビューしただけでカネもらえるってすごすぎじゃね?俺が普段無料でやってることだよ。特区外でもカネくれよ」

「外だと真面目なレビューかどうか分からないので無理でしょうね」「名無しや捨て垢でのレビューなんて何の責任も価値もないしな」

「金がもらえるっていっても電子マネーだろ。使い道がねえよ」「特区内での宿泊費用くらいは稼げるんじゃないの?」

「短時間で大量の作品の批評を書くのも批評機を長時間使い続けるのも禁止されてるから頑張っても一日で一食の食事代程度しか稼げないらしい」

「他人と似たような内容の批評をしても少ない報酬しかもらえないとか」「かといって奇をてらった内容を書いてもダメなのだろう」

「未批評の作品を狙った方が高くなる。マイナー作品にスポットを当ててやりたいって目的もあるんだろうな」

「誰が見ても理解できて且つ鋭い指摘を伴ったことを書いたらいいんじゃないか」「誰が見ても理解できるってどんな感じよ?」

「作中での具体的な描写、それが何を表現しているのかという推論、それらへの評価を論理的に、時には感情的に書くんだよ」「全然わからん」

「漫画や映像やゲームやそれでいいかも知らんけど音楽とかどうすんのよ。音の感じ方なんて十人十色どころか億人億色だろ」

「創作物の評価って真剣にやると案外難しそうですね」「大して儲かる作業でもないんだからそんな難しく考えんなって。素朴な感想書けよ」

「書かずに喋っても音声データで記録されるけどね。批評機ってセンサーと記憶媒体の塊だから」「外国語や手話でも通じるよ」

「ネカフェの個室並に快適で居眠りして怒られる人もいるとか」「しかし批評機とかいう安直でダサい名前はどうにかならなかったのか」

「ホテルの端末で鑑賞してるだけで充分快適だわ」「あの端末は快適性を追及するための機能が詰め込まれてるね。あれだけで金取れるレベル」

「生で見た方がいい作品もあるけどな」「ナマって?」「絵画や彫刻。美術館にちょっとずつ飾られ始めてる。やっぱデジタルだと味気ない」

これまで特区内の作品は観光客が作った短編小説やイラストが大部分だったが、ようやく移住者によるものが仕上がり始めた。

移住者の多くは自由な創作活動に強い興味があり、中には本業の創作者も多く含まれている。

そうした者がこの時のために長年熟成させてきたアイデアが詰まっているだけあって、観光客の作品よりおおむね上質である。

だが、いささか性的もしくは露悪的なものが多い。無規制の自由な表現という概念から一般に連想されるのはそういった方向性なのだろう。

実は衛合島ではそのようなイラスト作品が移住直後から大量に作られている。しかし今のところ虹原島ほどの関心は集まっていない。

生成AIを利用しているからである。当然、衛合島には生成AIの利用に抵抗のない者が多く訪れている。

しかし嫌いな表現と同じく、生成AIに抵抗がないのと興味を惹かれるのも別問題である。非AI作品よりAI作品に惹かれる者は稀なのだ。

つまり生成AIが使われていても気にしないが、だからといってそういった作品に魅力を感じるとは限らない。

やはりAIが学習した材料を組み合わせて作っただけであり、そこに意図や情熱などないことを、心のどこかで感じて冷めてしまうのだろう。

作ったのは作者ではあっても創作者とは言いがたく、作ったというより生成AIに作らせたのである。創作者の魂など、どこにもないのだ。

生成AIによるイラストは既に人間が作ったものと見分けがつかないほど精緻である。大抵の人は教えられなければ生成AIによるものとは分からない。

すべての作品に利用されているとは限らないが、この島で創作活動をするのは作者が利用を公言しているのと同じである。そう見なすしかない。

AIで生成したイラストをさらにAIで修正する作品もあるが、やはり真っ当な創作と考える者はわずかだった。

AIに簡単な命令を与えて数分で生み出させ、数分で修正しただけのものが、創作物と呼べるのだろうか。その行為が、創作と呼べるのだろうか。

抵抗感を持っていなかったにもかかわらず、AI作品ばかりを衛合島で大量に閲覧するうちにかような疑問を抱き始める者が多発した。

「衛合島つまらん」「本当にただ見て楽しむだけみたいな感じだよね」「楽しめるなら別に良くない?何が不満なの?」

「最初は楽しいけど段々と虚しくなってくる」「作者のリビドーが無い」「でもエロいんだろ?芸術的なんだろ?じゃあいいじゃん」

「芸術って作者と客が互いに心を通わすもんなんだよ。作者は客を感動させるために描く。客は作者がどういうつもりで描いたのか想像する」

「たとえば古典絵画は線一本からでも数百年前の作者の意図や思想を捉えようとしますからね。交友関係や当時の世情まで考察したり」

「AIって学習した絵を組み合わせたり計算したりしてそれっぽく見える線引いてるだけだもんな。そこには作者の情動なんてない」

「批評する意味がないんだよね。何を言おうがAIには届かないしおそらく創作産業の発展にも寄与しない。自分の中だけで空回りする虚しい行為」

「こんなの最初からわかってた。だからAIは嫌われて特区でどうするのかって話になってたんだろ。衛合島なんて必要なかった」

「世界で唯一完全な表現の自由が許される場ってのはイデオロギーの面から大きな意味がある。AI禁止なのに自由を標榜する虹原島がおかしい」

「だが完全な表現の自由=AI絵というのはあまりにも……」「最高の楽園を作ったらロボットしかいなかったっていう。地獄かよ」

「AI批判してる奴は作者の人格まで込みで批評したいだけだろ。この作品の作者はすごいとか。作品単体では批評もできない属人主義者ってだけ」

「AI作品は批評の意味がないってのは裏返せば批評する必要がないってことだよね。批評なしで洗練された作品ができるってメリットじゃん」

「みんなイラストの話ばかりしてるけど動画や音楽のAI作品もあるんだろ?それはどういう感じなの?」

「動画も音楽も結局はAIに命令して作らせたのをさらに命令で修正させるだけ。人間の手作業なんて全然ない。ほぼ自動で作ってる」

「しかし世の中、AI不使用作品でもある程度は自動で作ってる部分はありますよ。イラストならペイントソフトなんて自動機能だらけですし」

「アナログ作画の漫画だって市販のスクリーントーン貼るからね。人体は自分で描かず人形にポーズ取らせて写真撮って手描き風に加工したり」

「究極の自動化であるAIはダメで、その程度のちょっとした自動化ならセーフってのはダブスタだよな」

「それもずっと議論されてるけど結局は論理でなく感情の問題だよ。AIはなんとなく気に入らないってだけだろう」

「俺はゼロからAIで生成したイラストは嫌だけど人の手で描いたイラストをAIで修正するのはギリギリ許せるよ」

「その修正に使ってるデータだって他人の作品から盗んできたものでしょう?盗作を容認してるのと同じですよ」

「AIは他人の著作物を無断でパクっといてそれが分からないように上手くアレンジしてオリジナルとして出してくるからムカつく。人の上に立つな」

「人間も同じことやってんじゃん。アイデアをパクった小説やメロディーをパクった音楽が数百年前から山ほどある」「やはりAIの話題は荒れるね」

「知識も技術もない素人でもプロ並みの作品を生成できるのがAIの強みだから、作者の気持ちとか盗作とかどうでもいいよ。くだらない」

「ていうか著作権侵害してる可能性が高いAI作品を観光資源にするって政府としてマズくない?」

衛合島では政府製の生成AIが利用できる。学習素材は権利者が二次利用の許可を明示した作品のみに限られている。

特区の運用開始前から政府が方々に手を尽くし、できる限り多くの既存作品の二次利用を取り付けたので、学習素材は豊富で品質も申し分ない。

大別して生成AIがこの世に無かった時代の作品のみを学習させたものと、それ以降の時代の作品も学習させたものを用意している。

後者は一定の年月単位で細分化され、さらに現代の新作を学習させたマイナーバージョンが定期的に新造されてゆく。

アルゴリズム、すべての学習素材、生成物に使用された素材とその加工過程を、特区内で公開し過去にさかのぼって検証できるようにする。

二次利用に問題がある作品を故意に学習させることは許されていない。これらの措置はそれを除外するために行われているのだ

つまりこれで生成された作品は基本、著作権法上の問題がない。世界で最もクリーンな生成AIである。実用性も充分といえる水準だろう。

利用できるのは批評機以上に厳しい監視とボディチェックのある閉鎖空間に限定されている。当然ここでは他の生成AIが使えないようになっている。

衛合島でデータベース登録されるのは、これで生成された一次創作のみである。他作品を素材にしているので一次と呼べるかは議論の余地もあるが。

2025/02/19 ポスト614、640を修正

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