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表現特区  作者: 小内万利
6/20

06話:ポスト501-600

この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku

一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。

本鳳「納得できないのにしつこく押し付けられれば大きなストレスとなり、エスカレートすれば実力を用いた争いへ発展する危険性もあるでしょう」

本鳳「力で他者を従わせようとするところに自由や発展はありません。愚かしく、絶対に許されないことです」

本鳳「議論として意見を戦わせるのは大切です。それは民主主義の本懐ですから、口をつぐむ必要はありません。個々人の意見は尊いのです」

本鳳「ただ、議論を大きく逸脱する前に、いったん冷静になってみてください。話し合いを打ち切らぬために話し合ってください」

本鳳「反面、異なる意見で住み分けるのも民主主義におけるひとつの妥協点だと私は考えています。たとえばそう、虹原島と衛合島ですね」

本鳳「一緒にいることで熱くなって喧嘩するくらいなら、離れて頭を冷やした方がマシでしょう。消極策とも言えますが平和のためです」

本鳳「生成AIまで含めた自由な表現を求める方は衛合島へ、生成AIだけは嫌な方は虹原島へ来ていただくのが基本的にはよいと思います」

本鳳「しかし、あえて異なる意見を理解するために逆の島へ足を運んでみるのも、あるいは必要かもしれません」

本鳳「歩み寄りをやめてしまうこともまた民主主義ではないのです。青史を紐解けば、それが争いの火種になった例も多々あります」

本鳳「つまり両方の島にいらして下されば、さいわいということです。文化や民主主義といった堅苦しい話は抜きに、軽い気持ちでよいのです」

本鳳「半分は特区計画の責任者として下心ある宣伝ですが、もう半分は政治家としての率直な意見でした」

世間で混迷気味だった議論は、ひとまず落ち着きを取り戻した。これも本鳳の人望と、特区に対する期待あってのことだろう。

さりとて対立するイデオロギーを理解しようとする者は、あまり多くはなかった。人はそこまで単純ではないらしい。

やはり本鳳の言うとおり、押し付けられた異議を受容するのは難しいのかもしれない。

「でも両方の島に行くってのはとりあえずアリだよね。近いし」「観光だからついでに楽しめばいいと思うよ」「でも私はAIだけは認めたくない」

「AIは今後絶対に創作分野でも重要になってくる。拒絶する奴は頭が古い」「ほら、そうやってすぐ人格否定する。賛成派こそ品性が劣ってる」

意に沿わぬ者を憎悪し排除しようとするのは、人の悪癖だが本能なのだ。このようないさかいの根絶などできるはずがない。

やがて特区の運用開始日が訪れた。同時に、特区のための法律と条例の施行日であり、本鳳が国政議員を辞職して特区長に就任する日でもある。

当初、衛合島の開始は遅れるかと思われたが、土地開発の規模が小さく監視検閲が不要なため存外に早く進行し、虹原島と合わせることができた。

移住者は幹石市の本州側の港からフェリーに乗ってそれぞれ虹原島と衛合島に到着。必要な手続きを行ない住居へ向かう。

特区入りにあたって陽下塩の持ち込み、虹原島の場合はAI対策でデジタル媒体の持ち込みも禁止されているため所持品検査は必須である。

検査を故意に欺いたり持ち込んだりした場合は相応の罪に問われる。それは特区の庁舎に勤務する職員や区長である本鳳すらも例外ではない。

移住者より一足先に虹原島に渡った本鳳は庁舎で就任の挨拶をし、メディアのインタビューに答えてから区長執務室に入り、ひとり感慨にふける。

ようやくここまでこぎ着けた。最初にテレビで構想を語ってから幾春秋を経て、半生をかけた計画の基盤が整ったのである。

民を啓き、国を動かし、法を変え、島を拓き、特区を築くとなるとその道程は安易ではなかったが、さしむき順風満帆といえるだろう。

とはいえ特区は没落した国家を復活するという最終目標のための手段に過ぎない。陽下再生を成せねば特区など無価値なのだ。

本鳳は国民から、表現に寛容でオタクコンテンツに理解があると思われているが、本性はそうではなくむしろ逆である。

内心ではオタクとその者たちが生み出す表現が苦手である。しかしそれ以外については、おおよそ世間から思われているとおりだった。

すなわち利発で、清廉で、柔和で、堅実かつ大胆で、責任感が強く、愛国心に溢れ、衰退著しい陽下を少しでも立て直したいという志を抱いている。

一方で、特区を雑に運営しているだけでそのうち創造産業が成長し、国家経済が勝手に上向いていくなどと楽観的な展望を描いているわけでもない。

そもそも経済全体に占める創造産業の市場規模はごくわずかなのだ。所詮は娯楽であり、衣食住より軽んじられる程度のものである。

それでもなお本鳳が創造産業を重視するのは、他の産業分野にない大きなメリットが存在するからである。

商業的な娯楽コンテンツは一般に著作物であり、作品を一度生み出してしまえば後は小さなリソースで大きく儲けられる可能性を秘めている。

書籍、映像、音楽、ゲームなどは食料品のように育てたり工業製品のように組み立てたりする必要はない。内容をコピーするだけで売り物になる。

データの入ったメディア媒体の製造、包装、流通コストはせいぜい数百塩。対して小売価格は数千、時には一万塩以上にもなり効率がよい。

データのダウンロード販売なら媒体が不要なため、さらに低コストかつ高速である。サブスクリプション配信など柔軟な扱い方にも対応している。

そして一度世に出た作品は半永久的に残り、著作権の続く限り稼ぎ続けてくれる。データならばコピーしておけば劣化がない。

たった数人のアマチュアが数年で作り上げたゲームが、世界中で数億本も売れた例さえある。現代の錬金術と呼んで差し支えないだろう。

小さなコストで大きく稼ぐ。少子高齢化で労働力に事欠く陽下にとって、これは至要なメリットである。

もちろんデメリットがないわけではない。現実には、長きにわたって稼ぎ続けてくれる人気作品など、そうたやすく生み出せないのだ。

大ヒットを狙える作品を生み出すには相応に大きなコストがかかり、それが空振りで儲けに繋がらなければ結局は赤字にもなりかねない。

また、データをコピーするだけで売り物になるのは、違法コピーに対して脆弱ということでもある。

商品が盗まれても権利者がそれを把握できないようなものであり、把握できたとしても法の及ばぬ海外で起きていれば対策が難しい。

しかし、通常なら無視できないそれらのデメリットも、表現特区においては些事だろう。

なにせ自由に表現できる、自由な表現を鑑賞できること自体が観光資源になるのだ。金を払ってでもそれをしたい者は少なくない。

これもちょっとした錬金術かもしれない。つまり特区は創造産業だけではなく、観光産業としての側面も強いのである。

たとえ人気作品を生み出せなくとも、違法コピーされようとも、観光収入でカバーできるのは大きな利点だろう。

本鳳はその両輪が充分に機能することで相互作用によってさらに発展し、全国にまで多大な好影響を及ぼすと見込んでいる。

故に表現特区を作り、オタクを集めて隔離しながら経済成長へ利用することを目論んだのだ。隔離所の責任者となったのもその責任感からだろう。

オタクを嫌悪しながらも苦しめる目的はなく、むしろオタクにとっての天国を作って役立てようとする本鳳は間違いなく優れた指導者である。

本鳳の叡智があれば、特区開発に注いだこれまでのリソースは遠くない未来、観光収入によって回収できるだろう。

しかし期待されているのはその程度ではない。優れた創作物を大量に生み出し、陽下の創作産業、引いては経済全体を活性化することである。

表現規制のない環境に創作者を集めて存分に力を振るわせることでそれを成し遂げるという、国全体の野望だ。

本鳳はそれが最も重大な任務と理解しており、困難も覚悟している。なにしろ、創作者でない本鳳には全く見当がつかない分野なのだから。

優れた創作物は環境を整えたからといって確実に生み出されるものではない。あくまでも、生み出しやすくする程度だろう。

そして実のところ、この方法で生み出しやすくなる確証もないのだ。弾圧や貧困などの逆境で生み出された傑作も歴史上には無数に存在する。

本鳳自身にできるのはそこまでであり、そこからは創作者の力にかかっている。大嫌いなオタクたちに頑張ってもらうしかない。

ともあれ、陽下だけでなく世界中からも注目を浴びる中で特区の運用がスタートした。だが世間の関心の高さとは裏腹に地味な立ち上がりとなる。

というのも、特区の目玉コンテンツとなるはずの、規制のない自由な環境下で作られた創作物がないのだ。

それを生み出す創作者たちは、特区の運用開始と同時に移住したばかりで不慣れな環境に落ち着かず、創作作業に専心できていない。

この時のために銘々が移住前から、人によっては数年がかりで創作の構想を練ってきたが、完成に至るまでにはしばらく時間がかかるだろう。

小説や歌詞など、文字として書くだけで済む創作物を移住後すぐに完成させた者も一部いるが、大多数はそうではなかった。

この事態は世間でも事前に予測されていたが、それでもなお特区を我が身で体験したい者が多く、観光の予約が殺到したのである。

不安材料が多いため、本鳳は観光客の大々的な受け入れは少なくとも数ヶ月は待つべきだろうと考えていた。

しかし政府は特区の盛況ぶりを早期にアピールしたいとの功名心に駆られ、運用開始と同時に最大限の受け入れを打診してきた。

最終決定権は本鳳にあるが、初っ端から政府との関係性を悪くする方が後々で問題になると判断し、呑まざるを得なかった。

住宅、商業施設、社会インフラなどは小規模ながら揃っているが、観光客が楽しめそうなのは創作館くらいしかない。

創作館とはいわば創作、表現活動に特化した公民館のようなものであり、そのために必要なさまざまな道具や環境が整えられている。

しかし今のところ、観光客が訪れたところで大した面白さを提供できるようなコンテンツは用意されていない。

観光客の大半は創作の素人だ。道具や環境を与えられたからといって、表現規制の有無にかかわらず上等な創作物など生み出せるわけがない。

無料で開放されているため、気軽に訪れて自由な表現活動に興じる者もいるが、大抵はほんの数十分で飽きてやめてしまう。

たまに本業の創作者が即興で演奏したり絵を描いたりして周囲からの耳目を集めるものの、特区の外でもできる行為だと気付いてすぐやめる。

ところがついにここでしかできないこと、すなわち性器の克明な描写を行ない、しかもその絵を周囲に見せびらかす者が現れた。

外でやれば罪に問われる行為だが、ここでは合法なのだ。しかしその姿はあまりにも滑稽だった。率直に呼ぶならただの変態である。

滑稽さを笑う者。おもはゆさを感じて居心地が悪くなる者。真面目に絵を論評する者。遠くから冷ややかに見つめる者。

反応は十人十色だが、この営みこそが特区の狙いだ。自由に表現し、自由に反応する。その環境から優れた創作物が生まれると期待されている。

もちろん、ただ気まぐれに行なった創作活動でそれを生み出すことは難しいが、自由な環境を実体験できるのだ。

これをまるで異文化体験のように感じる者までいた。銃や依存性の高い薬物が合法な国へ行って、それらを体験することに近いのである。

とはいえ観光地として充分な楽しさを提供できているとは言いがたく、不満の声も大きかった。

「創作館で性器の絵見せびらかしてる女いてびっくりした。周りもなんかそれレビューしててかなり異様な雰囲気だった」「なにそれエロい」

「俺が行った時は流行りのY-POPの替え歌歌ってる奴いたよ。歌詞はよく分からなかったけど人種差別的な内容だと思う。ただならぬ憎悪を感じたね」

「そういうのを創作として認めて本当に許されるのかな。ただの犯罪行為だろ。大変な間違いを国ぐるみで犯してるんじゃないか?」

「だから特区の外には漏らさず中だけでやってるんでしょう。見たくない人や聞きたくない人は行かなければいいだけです」

「じゃあこうやって外で内のことを語るのってヤバくない?」「具体的な内容まで語ったら捕まる場合もあるけどこれくらいならセーフだよ」

「でもやっぱつまんねえよ。特区行ってやることなんて店で買い物して創作館でちょっとハメ外すくらいしかない。売ってる物は本州と一緒だし」

「特区行ってすぐ3万ポイントチャージしたけど失敗だった。どうせ半日で飽きるから飯代込みで5000あれば充分。使い残しても塩に戻せないし」

「3万ポイントってどれくらいの価値なの?」「1塩で1ポイントチャージできる。物価は外と変わらないからそのまま3万塩の価値ってこと」

「てか端末でいつでもチャージできるから事前にする必要ないよな。支払い時に塩の口座からポイントとして直接払えるし。チャージは無意味」

「特区に移住して有り金全部を特区通貨に変えた人は特区の外に出かけられなくね?」「移住者限定で外で塩に立て替えるシステムがあるらしい」

「そういえば、使い切れなかったポイントはどうなるんですか?銀行の休眠口座みたいに何年も経つと失効して特区のものになるのですか?」

「いや、特区のサーバー上にずっと残り続ける。理論上100年後に再び観光旅行しても残ったポイントは100年前のまま有効なはず」

「世界の総人口より多くの人数を記録できるってよ。複数の生体情報で認証して個人を識別するから他人になりすますのも難しい」

「それより面白い作品が全然ないのが問題だよ。行ってもやることがほとんどない」

「観光に行くなら当分は待った方が良さそうですね。以前から言われてましたけど見る物がないなら消費豚にとって魅力がありません」

「俺は数週間滞在して自由を楽しむわ。何を作っても文句言われないって最高じゃん」「創作意欲がみなぎってる奴には天国だろうな」

コンテンツ不足は特区の評判を予想以上に落とした。やはり期待が大きかった分だけ落差もはなはだしく、悪印象として映りやすいのだろう。

殺到していた特区への渡航予約数が落ち始め、政府内で焦りの声が上がっている。観光客の受け入れ時期を見計らうべきだったのは明白だ。

本鳳は風評対策として、以前から考えていた案を打ち出すことにした。作品に対する批評行為への報酬システムである。

特区内で生み出された作品は、作者の任意でサーバー上のデータベースに登録できる。

誠意をもってこれを鑑賞し批評を行なった者には、わずかばかりだが専用通貨による報酬を出すようにする。

2025/2/19 ポスト558、572を修正

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