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表現特区  作者: 小内万利
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05話:ポスト401-500

この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku

一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。

「つまり衛合島は虹原島の半分しか人が来ないと」「てかさ、AI賛成の人って反対の人の半分もいなくない?もっとずっと少ないよ」

本鳳「衛合島よりも割合として大きな施設を用意する必要があるのです。生成AIは莫大な電力や通信トラフィックを消費しますから」

本鳳「そのために電力施設やデータセンター、ネットワーク設備などを相当に充実させねばなりません。1平方kmでも少ないくらいです」

「てかさ、海を埋め立てちゃえばよくない?もっとずっと広い方がいいよ」「それは周辺の海流や生態系へ影響が出るおそれがあるため慎重に……」

必要な調査と手続きを経て、無事に衛合島で内定した。それに合わせて特区計画を大きく修正しなければならない。

議会と予算の都合により衛合島の開発が始まるのは来年度からだろう。開発規模は小さいので運用開始時期は虹原島と合わせられるかもしれない。

全く新たな要素であるAI対策を盛り込み、新たな島を特区指定するのだから、虹原島で想定していた創作活動についても抜本的に見直す必要がある。

公表している国民向けの説明にもそれらを反映した上で、移住者の一般公募をやり直す。今回は虹原島が2000人、衛合島が300人である。

以前の公募については政府内部で移住者を選定途中であり、結果が未発表だったため、世間の混乱は限定的だった。

早めに決めて発表していたら、このやり直しに大きな不満が出ていただろう。政府のよこしまな思惑が転じて福をなした。

ただしそれとは違う理由で不満が噴出する。虹原島での生活についてである。政府の説明によれば、すべての人の行動が常に監視されることとなる。

無論、衛合島でも治安維持のために最低限の、つまり本州と同程度の密度で監視カメラなどを設置するのだが、虹原島はその比ではない。

なにしろ個人の住居内、すべての室内にいたるまでカメラを設置し、私生活を常に監視するのだ。プライバシーなど全くなくなる。

カメラの定期メンテナンスのために係員も家に踏み入ってくる。住民の都合でその時期をある程度の範囲から選べるが、メンテ自体は拒否できない。

曰く、AIを完全に排除するには島外からのあらゆるデータをチェックしなければならないため、インターネット通信すら制限される。

小さなメモリ媒体ひとつ無断で持ち込めれば、それだけで生成AIを用いた創作ができてしまうので、各端末の内部データも24時間スキャンされる。

虹原島において、生成AIはさながらマルウェアのような扱いになる。ただし、対策が通常のそれと比較にならぬほど堅牢であり常軌を逸している。

「憲法違反では?」「お役所による通信傍受。金の流れまで監視されてるんだろ?酷いよ本鳳。いや、ビッグシスター」「やっぱディストピアか」

「合法になるようにするらしいよ。同意書取るだけで政府の法的問題は大半クリアできるとか」「は?意味不明」「合法っつっても納得できねえよ」

「家の中にまで大量にカメラ仕掛けるとかおかしくないですか?なんでそんなに無駄なお金をかけるんですか?異常すぎます」

「衛合島では監視も検閲もないんでしょ?そっち行けばいいよ」「本当の自由は衛合島にアリ」「でも衛合はAIがな。まあ監視よりマシか」

虹原島でのこれらの措置は生成AIの排除を目的としており、これによって得た情報を他の目的に使わないのも政府の説明には明記されている。

しかし拒否反応を示す者が多く、おびただしい批判が巻き起こる。政府はこれを衛合島では行なわないとアピールすることで事態の収束をはかる。

虹原島への移住の応募数の伸びが急激に衰え、キャンセルする者まで出てきた。衛合島への移住の応募はそれと反対に急伸している

とはいえ、どちらも既にそれぞれの定員を大きく超過しており、政府としては充分に選び放題の状態である。

本鳳「本日は虹原島での監視措置について、少しだけ申し開きがしたいのです。それによってご納得いただける方が少しでも増えれば幸いです」

本鳳「今からお話する内容は大きく分けて二つ。監視措置は法律上の問題がないことと、監視措置でおそらく大きなメリットが生まれることです」

本鳳「まず、政府が通信の秘密を暴くのではないか、それは違憲なのではないかとのご指摘ですが、結論から申し上げますと合法合憲です」

本鳳「公権力が遂行するのは犯罪があった場合の捜査と調査だけです。この話における犯罪とは生成AIの単純所持、使用、作成、譲渡などです」

本鳳「犯罪捜査の一環で通信の秘密を暴くのは合憲合法です。もっとも、捜査という名目で濫用することは許されません」

本鳳「そして、平時におこなうのはシステムによる監視とブロックです。検知AIで生成AI関連の犯罪を自動で見つけてクローズアップするのです」

本鳳「たとえばインターネットで生成AIをダウンロードできるサイトにアクセスしようとしても、システムによって自動ブロックされます」

本鳳「普通にネットをしているとアクセスしたサイトに生成AIがあるか分からない場合も多いので、この程度で犯罪扱いされることはありません」

本鳳「しかし、とりわけて悪質性の高い行為は、犯罪の候補として検知AIにクローズアップされる場合があります」

本鳳「検知AIは常に各個人の端末内も監視しており、生成AIの典型データパターンを検知した場合にもクローズアップします」

本鳳「クローズアップされたものだけを人が確認して容疑をかけるか判断するので、常にすべてのデータを人が監視し続けるわけではありません」

本鳳「クローズアップされていないデータを監視員が閲覧するのは禁じます。それは他人のプライバシーを無闇に侵害する不正な行為ですから」

本鳳「つまり平時の監視とブロックは検知AIが自動で行ない、疑わしきものが見つかった場合だけ監視員が確認し、必要があれば捜査するのです」

本鳳「他の犯罪については別ですが、少なくとも生成AI関連の犯罪についての監視検閲措置から捜査までの流れはそのようになっています」

本鳳「屁理屈と思われるかもしれませんが、これは憲法と法律に照らせば問題ないものと専門家の意見をいただいております」

本鳳「たとえば現在、MEGAエデュケーション政策により全国の学校で児童や生徒に教育用のデジタル端末が配布されていますね」

本鳳「あれには生徒の成績などの個人データが入っており自治体のサーバーで管理しています。また、不適切な外部情報にはアクセスできません」

本鳳「虹原島の措置はそれより極めて厳しくなりますが、現状でもすでに近い方向性のことを合憲合法として行なっていると申し上げたいのです」

本鳳「ちなみに検知AIと生成AIは別物です。検知AIで表現物は作れません。検知AIを生成AIに作り変えることもできないのでご安心ください」

本鳳「たとえできたとしても、それすら別の検知AIで見つけ出します。検知AIは常に複数存在し、独立した端末で制御され互いも監視対象なのです」

本鳳「システムによって集積されたデータは少なくとも数十年は複製保管され、いつでも過去に遡って調べられるようにします」

本鳳「つまり、その時点でシステムの目を上手くごまかして生成AIを使えたとしても、後になって発覚する可能性は充分にあるのです」

本鳳「その時の技術では見つけられないかもしれません。しかし、後に進展した技術でなら見つけられるでしょう」

本鳳「ちなみに、生成AI関連の犯罪は時効の対象外とする方針であり、もちろん捜査の記録データも数十年は複製保管されます」

本鳳「措置が合憲合法で、データの流用や悪用をしないのは既に説明したとおりですが、これではただ息苦しくするだけですね」

本鳳「しかし実は考えられるメリットがひとつだけあります。人によっては、このメリットがとてつもなく大きく感じられるかもしれません」

本鳳「こんなにも厳しく監視検閲すれば、虹原島製の表現物は生成AIを使っていないとの信用につながるのではないでしょうか」

本鳳「生成AIが一般に普及したため、こんにちではあらゆる表現物に対して生成AIの使用をいぶかしむ必要が出てきてしまっています」

本鳳「これは生成AIの精度がとても優れており、客観では人の手によるものと見分けるのが難しいことが大きな理由でしょう」

本鳳「疑うことや疑われることに嫌気が差している方も多いのではないでしょうか。精神衛合上、好ましくないのは間違いありませんね」

本鳳「世界的アーティストが作った作品であろうとも、隠れて生成AIを使ったのではないかと猜疑の目を向けねばならぬ余地があるのです」

本鳳「虹原島で作られた表現物にこの余地はありません。生成AIは排除されるので、絶対に使われていないと保証できます」

本鳳「虹原島での表現物は疑われずに済むのです。どうせAIでしょう?と頭ごなしに決めつけられる心配がないのです」

本鳳「もちろんそれは、AI排除が完璧に行なわれている前提がなければ成り立ちません。なればこそ政府が厳しく監視する必要があるのです」

本鳳「私生活にいたるまで常に見張られるのは、耐えがたい苦痛に味わうことでしょう。個人のプライバシーを侵害しています」

本鳳「しかし、引き換えにAIを使っていないとの信用を得られるのです。なにせ政府のお墨付きですから。政府の後ろ盾があるのですから」

本鳳「今後の世の中、表現者として名声を求める上で決定的なアドバンテージたり得るでしょう。世界で唯一、虹原島だけのアドバンテージです」

本鳳「ここまで抜かりなくするのは、なにより生成AI不使用という保証を守るためであり、虹原島ブランドを確立するためなのです」

本鳳「現行法では難しい部分もありますが、実現へ向け律業省がしょうへいした専門家チームと協力して法整備に取り掛かっております」

この発表への反響は大きく、一部の批判は止まないものの、おおむね好評だった。包み隠さず話したことで相当の不審感を払拭できたようだ。

また、デメリットばかりと思っていたところに無類のメリットを提示され、そのギャップに心を揺り動かされる者も多かったのである。

大きく失いかけた特区への期待と信頼を繋ぎ止める結果となり、虹原島への移住の応募数は再び勢いよく増え始めた。

「言われてみればたしかに。AI使用を疑われないってデカいよ」「もう今は世に出てくる作品は全部疑ってかからないといけなくなってるもんな」

「使ってないのを証明できないからって変な奴に疑われて何年も粘着され続けて引退に追い込まれた人までいる。あいつらは推定無罪が通用しない」

「虹原島で創作してる限りはこれが文句なしに証明できるんだから画期的だね。逆に言えば政府が証明のためのサービスをしてくれるっていう」

「ああ、つまりクリエイターが特区に頼んで監視してもらうっていう形を取るために同意を取ってそれが合法の根拠になるのね」

「特区がクリエイターに監視させてもらうんじゃなくて、逆にクリエイターが特区に監視してもらうのかよ」「自分から奴隷になるみたいな」

「特区外でもクリエイターは自分の創作の様子を撮っとけばいいんじゃね?」「そんなの個人がやっても信用できない。だから政府がやるんだろ」

「これむしろ虹原島の方がよくないですか?」「衛合島はデメリットがない代わりにメリットもないってことだもんね」

「ネットすら検閲されるなんて気持ち悪すぎる。どう言い繕おうがクソはクソ。何が表現の自由だか」「俺AIとか気にしないから衛合でいいわ」

「監視や検閲って基本は検知AIが自動でやってるだけなんだろ?人間にずっと見られてるならキモいけど機械なら構わないよ」

「それでも怪しい奴は検知AIに引っかかって人間が目検するって話じゃん」「AIの持ち込みや犯罪をしなけりゃ引っかからんだろ多分」

「権力側が国民を監視するなんて恐ろしい。結局ディストピアだった」「これを防ぐために国民が政府を監視すべきなんだよな。完全に逆転してる」

「ディストピアって普通は政府に好都合だから民を縛って外に逃さないんだろ。でも虹原島は表現者のメリットのための縛りだし出入りも自由」

「よく考えたらいくら対策しても生成AIの完全排除って不可能なのでは?外でAIに作らせたものを頭で覚えて虹原島内で記憶を頼りに創作するとか」

「たしかに。AIに出させた小説のアイデアとか、作らせた音楽の楽譜を覚えとくとか簡単にできそう。脳内だけで済むから監視なんて関係ない」

「それって大昔から大勢がやってる、他人の作品からのパクリと同じだよね。技術が進んでも繰り返すのか。なんという皮肉」

「でもそれをしたからって良い物が作れるとは限らなくない?記憶にも限界があるし。そこまでする価値ってあるのかな」

本鳳は詭弁的な説明をしたと自覚している。どれだけ厳重なシステムで生成AIを排除しようが、抜け穴をすべて塞ぐことなどできるわけがない。

それに気付く者がいるのも想定内である。そも本来ならセキュリティの仕組みや関連する司法の運用を自ら晒すこと自体が愚の骨頂なのだ。

しかし大衆は度を越した詳細な説明に誠意を感じ取り、募らせていた不信感とかまびすしい批判が鎮まった。本鳳の計算どおりである。

巷では取って代わるように創造産業の発展のために生成AIを活用すべきか、徹底排除すべきかとの議論が熱を帯びてきている。

すなわちそれは、虹原島対衛合島の図式でもある。どちらに移住、観光旅行をするのが得かを判断するための意義深い問いかけだ。

文化が破壊されるとしてAIを唾棄する者。積極活用を呼びかける者。感情ではAIを嫌いつつも活用した方が発展すると唱える者。

特区が運用を開始してしばらく経てば答えが出ると予測する者もいれば、特区のみで答えを出すのは早計だといましめる者もいる。

あらゆる立場から多様な意見が交わされるが、結局のところ答えは誰にもわからないのだ。

表現とは、人以外によって行なわれてもよいのか。人から単純な命令を与えられたAIが複雑な表現物を作れば、それは人の手柄か、AIの手柄か。

AIが無断で他人の表現物から学習したデータによって新たな表現物を作ったら著作権はどうなるのか。そもそもAIは著作権の権利主体となり得るか。

国によってもその見解、法律上の解釈はさまざまである。複数国家で統一見解を示す動きもあるが、万人を納得させられるものではない。

生成AIの取り扱いは、ある意味で表現における究極の命題なのだろう。あるいは100年経とうが1000年経とうが、答えは見つからないのかもしれない。

特区に関するインタビューの最中に意見を求められた本鳳は、渋々と応える。

本鳳「そういった普遍の問題に私のような門外漢が論を張るのはあまりに無謀なため、無難な一般論にとどまることをご容赦ください」

本鳳「他者に意見を無理強いすることだけは良くないのではないでしょうか?各々の信じる正義は、往々にして他者にとって正義ではありません」

本鳳「誰だって他人から言われた反対意見を、たやすく納得できないでしょう。これは論理のみならず感情の問題でもあります」

本鳳「感情で納得できないことは、どれだけすっきりと筋が通っていても、やはり受け入れがたいのです。これはどうしようもありません」

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