04話:ポスト301-400
この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku
一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。
本鳳「技術の目覚ましい進歩に大変驚かされます。人工のシステムにこれほど精妙な創作ができると思っていた人は、少ないのではないでしょうか」
本鳳「可能になったのはここ数年のことであり、政府としてはこの新技術にどうアプローチしていくのか、慎重な判断を迫られているのが実情です」
本鳳「特区ではすべての表現を許容します。もちろんAIを使った創作も許容する方針です。政府が公表した計画内容にも明記していたはずですが」
「それは分かってるんです、仕方ないのは分かってるんですけど、俺はAIだけは許容しないでほしいっていうか、そういう人多いと思うんスよ」
「AIって魂が籠もってないよね。ただそれっぽく真似して描いてるだけなんでしょ」「そこまで含めての表現の自由ということですかね」
本鳳「AIを許容しない方の心情は私も理解しているつもりです。許容しない方が多いのも理解しております。なんとか取り計らいたいものですね」
本鳳「しかしまことに申し訳ないのですが、現在の計画ではいかんともしがたいのです。許容しない方を救済できる計画になっていないのです」
「本鳳さんでもそれは無理ってことかあ。機械の作った作品なんて俺見るのも嫌だよ……」「まあ諦めるしかないよね」「難しい問題だと思います」
本鳳「ただ、ご納得いただけそうな案はあります。これならAIを許容する方と許容しない方が、特区内で折り合えるのではないかという案です」
「マジ?救済してもらえるってことッスか?」「解決できるんじゃん」「これは耳寄りな話ですね」
本鳳「いえ、救済は叶いません。私が思いついただけであって、現在の計画、最後に残してきた資料にはその案を反映させていないのです」
本鳳「反映させるとなれば、大きな改修を余儀なくされるでしょう。言うまでもなく、その分だけ特区計画は遅れ、予算も膨らみます」
本鳳「なにぶん、時間と予算の都合がありましたので、力及ばず生成AI対策までは手が回りませんでした。申し訳ございません」
本鳳「とはいえ、今の計画でも特区自体は充分に成功するものだと確信しております。政府一丸で練りに練ったものなので、どうかご安心ください」
「本鳳さんとしては頑張ったけれど、時間や予算などの制約のせいでAI問題の解決だけはできなかったということですね」「ぬか喜びじゃん」
「あの、じゃあその案って一体何なんですか?案の内容を教えてもらってもいいですか?めっちゃ気になってます」
本鳳「あいにく、先ほど申し上げたとおり私は辞任いたします。部外となる者が去り際、これみよがしに新案を掲げるのは現場の方々に失礼でしょう」
「半分掲げてるようなもんじゃないスか!」「あれ?私ら、もてあそばれてる?」「立つ鳳跡を濁さずということですか。難儀なものですね」
番組を見た首相と与党幹部は狼狽していた。AIに関する話など計画には本当に全く盛り込まれておらず、本鳳が語った内容は初耳だったのである。
「まずい、完全にハメられた。妙に従順だと思っていたが、まさかこんな罠を張っていたなんて……」
「あいつAIのことなんて今までお首にも出さなかったくせに、自分が辞めるこのタイミングで。最初から狙ってやがったんだろうな」
「しかし首相、想定外なのは事実だが、今から大急ぎでAI対策を考え出し、計画に組み込めば特に問題ないのではないか?」
「そもそもAIって?」「ええと、コンピューターが勝手に物を考えてくれて……」「それがなんで絵ぇ描くのに関係あるんだ?」「さあ……」
少なくとも幹部連中ではAI対策など到底無理なことだけは首相にもわかり、頭を抱える。専門家に相談してもできるか怪しいものである。
本鳳は4000ページに及ぶ資料を作っておきながら、AIについては一切触れず、今頃になってメディアでそれを語るという大胆な策を打ってきている。
自分抜きでそれができるわけないとの読みがあるからだろう。そして本鳳がそう判断した以上は、おそらくそれは当たっているのだろう。
首相はこれまでの流れで本鳳の知略に遠く及ばないのを自覚しており、だからこそ政治的な力で強引に潰そうとしたのだ。
番組出演の直前に話を切り出し、番組で世間に向けて自らの口で説明させたのも、対策を考える時間を本鳳に与えないことが狙いだった。
だがこの妙案さえも知略によって跳ね除けられ、気付けば自らが窮地に立たされようとしている。彼は本鳳の深遠さに恐怖を抱いた。
「しかもあいつ、特区に関する不安を払拭するために答えたっていう建前が一応は通るようにしてやがる。どこまで考えているのやら」
「ちょっと待て。あのタレントはなんでいきなりAIのことを質問したんだ?流れができすぎているだろう。本鳳の意のままに動いたとしか思えない」
「おいおい、あのテレビ局は、たしかうちの息がかかってんだろ?一体いつの間に本鳳に寝返ったんだい?」
「いや、おそらく本鳳が事前の打ち合わせでAIのことを質問するよう頼んだのだろう。それだけでは、あんな腹案を隠していると見抜けない」
「テレビを見ていた儂らも、本鳳が案を持っていると言い出すまでそんなこと思いもしなかったからな。全員が知らずに奴の手玉に取られおった」
「その話は後にしましょう。そもそも本鳳はAI問題の解決など、本当にできるのでしょうか?我々をおとしいれる目的のはったりでは?」
「はったりだった案が今まであるか?少なくともあの資料にある案はすべて実現可能に思える。奴がAIを解決できると言ったなら、できるはずだ」
「しかしAI容認派と排斥派の両方を特区内で同時に納得させるのは矛盾していて、あまりにも非現実的に思えますが」
「いっそのこと、AIについては全く無視するってのはどうかな?今後はマスコミに圧力をかけてその手の報道はさせないように」
「馬鹿者、もう手遅れだ。すぐにでもAIについて各方面からの問い合わせが来る。世論にもどう説明するというのだ」
「私たちには知恵も時間も足りないってことか。金、コネ、名誉、権力……どれも今この場面を打開するために役立ちそうにない」
「本鳳を辞めさせたことに対するクレームだけならまだしも、AIのことまでとなると完全にお手上げだな。特区の根幹に関わるんだろう」
「まさかやつは、今後も自分だけが解決できる種々の問題を世間に話して回るつもりではないですか?そうなると、我々の立場はさらに苦しく……」
やがて予想どおり、問い合わせが政府に殺到してきた。本鳳は自らの意思で辞めるのだと言ったが、それが事実でないことなど世間にはわかっていた。
いや、たとえ当人の意思だろうがどうでもよかったのだ。民衆は本鳳の差配で計画がここまで漕ぎ着けたことを知っている。
この期に及んで立役者を外すのは心情として許せないのだろう。そこに新機軸としてAIの問題が持ち上がり、本鳳は解決策があると断言した。
解決策の中身については語らなかったが、これまでの実績から実効のあるものだろうとの期待が強い。本鳳の言葉は常に実を伴ってきた。
つまり、感情の面からも合理の面からも本鳳を続投させるべきというのが当然の帰結だった。二つの理由によって強固な結論へ至ったわけである。
幾分かは支持率が落ちるのを覚悟していた与党にとっても、この事態は想定を大きく越えていた。あまりにも批判の声が大きい。
AIの解決案に関する問い合わせも多く、係員が対応に苦慮していた。この世で本鳳以外には分からないことで詰められているのだ。
首相も電話口で激しく叱責される。与党の背後に数多く存在する支持母体の中でも最大規模であり、政府の最高責任者といえど頭が上がらない。
なかばへどもどしつつ菓子折りを手に団体を訪れ、平謝りするしかなかった。無論、そんなことでは何らご機嫌取りにはならず、怒号が上がる。
「あなた達は一体何をやらかしたのか」「本鳳を御すどころか完全に出し抜かれてこの有り様だ」「政権担当能力に不安しかない。支持できない」
「謝る相手はうちでなく、まず本鳳さんでしょうが。どこまで失態を演じ続けるつもりですか。このままだと次の選挙で本当に下野するでしょうね」
その足で本鳳のもとへ向かうべきだが、憔悴しきった彼には不可能である。本鳳と幹部に連絡し、翌日に話し合いの場を設けることで精一杯だった。
しかしその日の晩に再び件の支持母体から架電があり、いまだ本鳳に謝罪できていないのを白状せざるを得ず、またもや激昂させることとなる。
「すまなかった。我々が間違っていた。深く反省しているので、どうか戻ってきてくれないか。特区は君がいないと立ち行かないのだ」
本鳳「滅相もございません。先生方は反省が必要なことなど、なさっておられません。それに、戻るも何もこれから辞任の手続きをするのです」
「だから辞任しないでくれと言っているのだ。どうか留まってくれ。大人しく白状するが、AIのことなど我々にはどうしようもない」
本鳳「いえいえ、先生方のお力ならAI創作にまつわる問題の解決など、たやすいでしょう。遠く力の及ばない私に出る幕はありません」
「もう化かし合いはこりごりなんだ。俺らは腹ぁ割ってあんたに許しと助けを乞うしかできねえ。頼む、このとおりだ!」
本鳳「番組でも申し上げましたが、AI対策を盛り込むとなると、特区計画に大きな修正を迫られます。それでよろしいのですか?」
「ああ、差し支えない。君の判断なら世間はそれくらい納得する。予算は増額するし、準備期間を延ばしてもいい」
本鳳「それはAIに関してだけですか?たとえば運用開始後にでも、他に修正したい箇所が見つかった場合は、増額や延期は認められますか?」
「余さず認めよう。我々は全力でサポートする。そうだ、特区の運用が始まったら君を運営の最高責任者にしようではないか」
本鳳「特区において柔軟な政策を実施するには他の国家事業に類を見ないような予算編成体制と高い独立性が必要ですが、現行法では……」
「それも君の好きにしてくれ。必要があれば特区のために法改正するし、独立的な予算の仕組みも作ってくれて結構だ」
本鳳「柔軟なルール変更を可能とするためには新たな省庁と省令を作る必要があり……」
「すべて言うとおりにする。挙党態勢で臨むし野党にも協力を呼びかける。野党もいまさら拒否しないだろう。だからそろそろ受けてくれないか」
「ちょ、ちょっと待ってくれ本鳳さん。あんたの口ぶりからすると、全容として公開したあの計画以外にも色々と考えがあるように聞こえるんだが」
本鳳「はい。AI対策も含めて書いていない案があります。率直に申し上げてあの計画だと特区は、ほどほどの成功で終わってしまうでしょう」
本鳳「特区での作品の批評、創作者への利益還元、観光客の混雑の解消などそれぞれ別個にシステム化して上手く処理せねばなりません」
本鳳「特区の運営が上手く軌道に乗れば特区製のソーシャルゲームを作り、全国配信することで国家経済を改善する案もあります」
「批評のシステム?混雑の解消?ソーシャルゲーム?何のことか全く分からん。もう少し詳しく……」
「いや、AIのことも分からなかった俺らにそれを聞き出す資格はねえよ。ずっと伏せとけばいい考えをこんなとこで言わせちまって、すまねえな」
本鳳「先生方のご厚意に対する最大限の返礼のつもりです。腹を割るとはこういうことだと存じております」
「すまん、一つだけ……それらの案が成功する見込みはどの程度なんだ?」「だからそんな野暮ってえこと俺らは訊ける立場じゃねえっつーのに」
「我々も与党として国家運営の責任がある。無論、今後は君と一蓮托生だが、分の悪い賭けに乗せられる事態だけは避けねばならんのだ」
本鳳「ご安心ください。私にとって最も分の悪い、特区を作り、その責任者にすえていただくという賭けは既に成功しました」
本鳳「また、特区作りのコストに比べればそれらの案にかかるコストなど微々たるものなので、たとえ失敗しても大事には至りません」
その日のうちに辞意の撤回が発表された。本鳳が頭を下げて戻らせてもらう形にしたが、もちろん世論はその建前を率直には受け取らない。
内情を知らずとも表に出てきたあらましのみで、本鳳が余人をもって代えがたい人材なのだろうと察するのは容易だった。
「ではさっそくお聞きしますが、AI問題の対策はどうすればよいのですか?僕たち、本当に何も思い浮かばなくて」「教えて本鳳さん」
本鳳「AI作品を許容する空間、許容しない空間を分ければよいと思います。自由な表現を許容する特区、許容しない外の関係に近いですね」
「それって表現特区が世界から切り分けられてるみたいに、表現特区の中でAIを許容しない空間を切り分けるってこと?」
「虹原島にはまだ手つかずの土地が8平方kmも残っているので、そこも開発した上で一部を許容しない空間にするわけですね」
本鳳「いえ、私が考えているのは虹原島とは別の島も表現特区に指定し、一方をAI許容、他方をAI禁止にする案です」
「ほえ、別の島?そんなの考えたことなかった」「その案は可能なのでしょうか?今から新たな島を探して、調査して、開発するとなると……」
本鳳「おそらく予算と時間の問題は解決できるでしょう。それに島の候補は、実はもう見つけています。なかなか良い条件の島ではないかと」
「ほんと?すごーい」「さすが本鳳さん、素晴らしい段取りです。どんな島なんですか?」
本鳳「虹原島のすぐ近くの無人島、衛合島です。同じく狭岩県幹石市。土地の権利について問題はありません」
本鳳「近ければ開発や管理がしやすく、虹原島と合わせて観光することも可能でしょう」
「そんな島あったんだ」「なるほど。合理的ですね。ええと、衛合島……これですか。虹原島から3.8kmで面積3.7平方km」
本鳳「虹原島10平方kmに対して衛合島3.7平方km。小さいですが利用できないほどではありません。とはいえ調査しなければ断定もできませんが」
「性急な質問かもしれませんが、どちらがAI容認、禁止というのはもう決めてあるんですか?」「そんなの名前でわかるじゃん」
本鳳「世の中にはAIを許容したくない人の方が多いようです。それに、今後の潮流はおそらくAI規制に傾いていくのではないでしょうか」
「すみません、その意見には疑問があります。各種の世論調査ではAIを教育や労働、医療、行政にまで利用するのに賛成が大多数ですよ」
本鳳「ええ、しかしこと創作分野に限っては逆の調査結果が出ているのです。作者の熱意や著作権などを問題視する向きが強いようです」
本鳳「娯楽作品ばかりでなく、学術論文や報道でも既にAIを使った自動生成がされており、近い事柄が問題視されています」
「そうだったのですか。えと、つまり広い面積でたくさんの人を住まわせられる虹原島がAI禁止、狭い衛合島がAI容認ですね」「やっぱり!」
本鳳「虹原島はまず2平方kmを開発していますが、衛合島は差し当たって1平方km程度に抑えるべきですね」
2025/3/6 ポスト317、368を修正