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表現特区  作者: 小内万利
20/20

20話:ポスト1901-2000

この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku

一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。

本鳳「ずばり、一日に稼げるポイントの上限にプラス100です。現在の300ポイントから100拡張されて一日400ポイントを稼げるようになります」

本鳳「100ポイントでガチャ1回分なので現在は一日3回分が上限です。紛争をひとつ減らせば全プレイヤーが1日4回分稼げるようになるのです」

本鳳「知ってしまったので、知りたい欲求は無くなりましたね。でもこのボーナスを得たくなった人もいるのではないでしょうか?」

本鳳「得たいという欲求も原動力になるのです。しかしたしかに、効果が小さなボーナスでは欲求も小さく原動力となりませんね」

本鳳「なので、後のボーナスほど効果を大きく設定しています。これで欲求、つまり原動力も大きくなるでしょう」

本鳳「もっとも、効果の種類はさまざまなので、万人が常にそう感じられるとは限りませんが」

本鳳「たとえば後で再びポイント上限の拡張ボーナスがあった場合、その拡張幅は100より大きいのです。どうぞご期待ください」

本鳳「さて、稼げる分の上限だけが増えていっても実際に稼げる量が変わらなければメリットは感じられませんね」

本鳳「現在の上限300まで稼ぐのがやっとという人にとっては、上限が400になろうが1000になろうが、相変わらず300しか稼げないので無意味です」

本鳳「なので、稼ぐ効率が上がるボーナスも用意しています。300稼ぐのがやっとの人でも3割増しの効率になれば400稼げるようになるでしょう」

本鳳「知ること、得ることを紛争解決に活かすための措置なので、上限がどんどん遠ざかっていくというネガティブな気持ちは不要なのです」

本鳳「最初のボーナスだけを明言すると言っておきながら他のボーナスまで説明してしまいましたね。他にご質問はありませんか?」

「紛争の解決のためといえば耳当たりはいいですけど、それがソシャゲのボーナスなんてあまりにも動機が不純すぎると思います」

「だって、争ってるところへ行って、俺たちがソシャゲで得をするためにお前たちは争うのをやめろって言うってことでしょ?」

「武力で争ってる人たちはみんな真剣です。極限状態で命のやり取りをしてるんです。それを部外者が遊びのために止めるなんて不謹慎ですよ」

本鳳「まさしく、茶化していると受け取られても仕方ありません。そのような振る舞いは、つつしむべきでしょう」

本鳳「しかし、争いを止める手段はそれ以外でもよいのです。目的が遊びのためでも、争っている双方が納得できる案を出せば和平へ向かいます」

本鳳「つまり通常のように第三国として和解の仲裁をすれよいのです。動機が不純だからその協議に応じられないということはないでしょう」

本鳳「大切なのは、そうした平和への行為をうながすことです。結果、合意が成立せず停戦や終戦とならなくとも、それ自体にリスクはありません」

本鳳「失敗しても誰も損をしないのです。しかし成功すれば、平和になるばかりでなくソシャゲのプレイヤーはボーナスによって得をします」

本鳳「ならば、やるだけやってみようという気になる人も増えるのではないでしょうか。それが今回の試みの狙いなのです」

「でも、なんでよりによって紛争の解決なんですか?ソシャゲとは全く別次元の問題で、すこぶる不釣り合いのように思えます」

本鳳「陰惨なお話しになってしまうのですが……武力紛争は必ずしも争いたい人だけが争っているわけではありません」

本鳳「平穏に暮らしたい市民が戦禍に巻き込まれて命を失います。生まれた国が違えば私もそうなっていたかもしれません」

本鳳「かような不幸を少しでも減らしたいのです。以前の私は、ただそれを願うしかできませんでした。紛争の前には個人など無力ですから」

本鳳「しかし今はばんこくのともがらを得ました。ソシャゲ導入国と、その国の人々です。世界平和のため、どうかお力添えいただきたいのです」

本鳳「とはいえ、ただの特区長である私からは強要できません。だからソシャゲのボーナスを活用し、自主的に平和への貢献をしてもらうのです」

本鳳「紛争の当事者が他者を戦場に駆り立て武器で戦わせるように、私も味方に平和への貢献を懇願してソシャゲで戦いをやめさせるのです」

本鳳「紛争の当事者が他者から幸福を奪うなら、私は表現活動やソシャゲで幸福を増やします」

本鳳「この場ではっきりと告白いたしましょう。そもそも特区ソシャゲは世界平和という私の荒唐無稽な野望のために作りました」

本鳳「ボーナスでプレイヤーの皆さまを焚きつければ、野望の成就に一歩でも近付くことができるのではないかと考えています」

本鳳「そこまでご理解いただいた上で、皆さまにはどうか私のくわだてにそそのかされてほしいのです。共に紛争を減らしていきたいのです」

本鳳「世界平和という大きな目的のためには、できる限りたくさんの仲間が必要になります。私たちはソシャゲで仲間になれるのです」

本鳳「表現活動や娯楽は、生活にいくらかの余裕がなければいとなめません。武力紛争と対極の概念ではないでしょうか?」

本鳳「それによって紛争を減らせると証明したいのです。この世の幸福の総量は有限ではないと確かめたいのです」

本鳳「全世界の人々が、この世から紛争を一掃するという同じ未来を見ています。ゴールまでソシャゲの力で羽ばたこうではありませんか」

本鳳「一政治家にすぎない私が全人類の平和をこいねがうなど、おこがましいとわきまえております。しかし皆さまとならば……!」

世界中から莫大な反響があった。本鳳が吐露した本心に胸を打たれる者が多かったのだ。

しかも、本鳳が紛れもない正義だと判明した。かつては表現の自由のために規制と戦い、今は娯楽を用いて紛争と戦おうとしている。

どこからどう見ても世界平和をこころざす正義のヒーローである。本鳳をまるで救世主のごとくあがめる者さえ現れた。

ソシャゲのプレイヤーも、単に娯楽として遊んでいたのが実は英雄による仲間集めの一環だったのだから悪い気はしない。

本鳳の演説を通して、正義側に立っていると自認できたのだ。こうなれば平和のために活動することも、やぶさかではなくなるというものだろう。

いや、むしろ進んで協力したくなっているのである。なんといっても、紛争を解決すればソシャゲのボーナスを得られるのだから。

そうした実利と精神、両面からの理由に衝き動かされ、自国の政府に紛争解決への介入を呼びかける者がソシャゲ導入国で続出している。

やがて具体性を伴った外交へと発展していくだろう。それが晴れて紛争解決につながれば他の国にも影響が伝播してゆく。

そして多くの国が徒党を組んで紛争解決に尽力するようになり、最後にはすべての紛争がこの世から消えるわけだ。

ソシャゲの導入時と通底している。民衆を操ればその国の政治をも操れる。民衆を操るには、利益で釣ったり感情をあおればよい。

実際は本鳳にとって世界平和は二の次である。世界平和を望んでいるのは決して嘘ではない。しかし陽下の繁栄が最優先なのだ。

ソシャゲに絡めて世界平和というお題目を掲げれば、賛同者が増えるのは分かりきっている。賛同者は非賛同者への圧力になる。

賛同者にとっては新たな賛同者が増えた方が、自分たちの目的である紛争解決ボーナスの獲得を達成しやすくなるため、傍観すら許されない。

ソシャゲを導入しない政府は自国民や導入した国のプレイヤーから、平和への貢献を惜しむ怠惰だと批判されるリスクを負うのである。

内外からソシャゲの導入をうながされれば、政府はそれを突っぱねるのが、こんにちでは困難になってしまった。

導入しない理由はいくらでも考えられるが、どのような理由を挙げようが導入しないこと自体が悪との風潮さえ蔓延し始めている。

いつまでも導入を渋って陽下の奴隷にならぬ国をそうやって圧殺するのが、本鳳の真の狙いである。

本鳳はあえて言及しなかったが、ボーナスを求める国とそうでない国の間で険悪になるのは最初から明らかだった。

ソシャゲが新たな争いの種になっているとそしられても仕方ない事態である。しかし公にソシャゲ、特区、陽下を批判することは今や悪なのだ。

陽下が他国に対して一方的に大盤振る舞いをしているのだから、この程度の副作用など許されてしまう。副作用こそが目当てだと気付けない。

もしも紛争が上手く解決されたならば、今回の策の実効性が世界的に認められ、さらに導入国は増えるだろう。

紛争がひとつも解決されなくとも導入国が一国でも増えればよく、最悪増えなくとも構わない。この程度の案などいくらでも考えつくのだから。

演説では世界平和と紛争を善悪の二元論として捉え、118という無機質な数値で語った。それくらい安直な構図の方が民衆は理解しやすいのだ。

しかし現実の紛争はそれほど単純ではない。信仰のため、資源のため、仇討ちのため、不当な束縛から逃れるため……せめぐ理由はさまざまなのだ。

水源を奪われて清潔な飲み水さえ確保できない者は、それを奪い返さないうちに戦いをやめるわけにはいかないだろう。

たとえ第三国から飲み水の供給を約束されようとも、いつまでそれが続くのか分からないのだから。

家族や仲間を敵勢力に殺められた者は、敵勢力をそれより多く殺めないうちに戦いをやめるわけにはいかないだろう。

たとえ第三国から慰められようとも、その身に抱えた悲痛と憎悪が消えることはないのだから。

紛争が世に絶えないのは、そういったやむにやまれぬ事情が複雑に連鎖するからである。争い自体を求めて戦場に身を投じる常人などいない。

それを顧慮せず、世界平和の名のもとにすべての紛争を一括りにして解決を呼びかけるのは、あまりにろうれつだと本鳳は自覚していた。

乱暴で残酷な紛争を鎮めるために乱暴で残酷な線引きをし、高みから他者を扇動してヒーローを気取る己こそが世界一の極悪人ではないか。

弱者ひとりひとりに寄り添いたいというのが正真正銘の本心である。だがやはり、陽下のためにはそれを口にするわけにいかない。

本鳳はついに紛争さえ利用してしまったが、国益を増大させる策はまだ数多く残っている。

ソシャゲによる貧困や環境問題の解決。特区外での表現規制の限定的緩和。輸出した特区を治外法権化させることによる他国領土の友好的侵略。

特区やソシャゲとは異なる新機軸のシステム。それを取り入れた労働の推進や研究、学問分野への応用。

創作物の翻訳や解説、考察の公式コンテンツ化。著作権の新たな価値創出。生成AIの規制と興行化……。

世界における陽下の地位は未だ盤石ではないが、頭の中ではそれらの策を総動員して陽下が世界を徹底支配する見通しすら立っている。

今までの事態はほとんどすべてが当初からの計画どおり順調に展開してきており、今後の計画についても実行すれば上手くいく確信がある。

本鳳がそう確信したのなら、そうなるのだろう。この悪魔に対抗できる者など世界中にひとりもいないのだ。

だが遠くない未来、陽下がまた衰退していく確信も持っている。この聖者の後継者も世界中にひとりもないのだ。

自らと同等以上の知力、決断力、機転、無欲さを兼ね揃えている者は案の定、見つからなかった。

本鳳の精神にはもう余裕がない。本来は人一倍善良で、富も名声も興味がなく、他者をはめることなど絶対にやりたくなかった。

幸せになった者の方が多いのは分かっている。しかし不幸のどん底に突き落とした者もおり、本鳳はそれが忘れられなかった。

これまで陽下のために人をはかり、国をおとしいれ、世界をたぶらかしてきたのだ。人倫に激しくもとる悪虐に手を染め、己の心も傷ついてきた。

他者を傷つけてきたのだから耐えねばならなかった。国のためにも、弱音を吐いて逃げ出すなど自分が許さなかった。

役目を押し付ける相手を探し続けている自らが心底、穢らわしかった。未だ見つかっていないのは残念だが、一方で安堵もしてる。

幾多の矛盾を抱えた心は崩壊寸前である。今すぐにでも癒やし、正常化せねばならない。しかしその前に、あえなく終わりを迎える。

第一表現特区の区庁舎最上階にある区長執務室。デスクの正面からは、窓越しに本州が望める。昼と夜の混ざる空には美しくも不気味な紫雲が漂う。

寂れていたふるさとは急成長し、人で溢れて活気づいている。全国津々浦々まで、特区とソシャゲのおかげでそうなっていた。

本鳳は椅子に座ったまま動けない。体は健康だが心が動かなくなった。今日はせっかく両親を呼んだのだから、早く行かねばならない。

近くにいながら公務に忙殺されなかなか会えなかったが、強引に夕方からの予定を空けて団らんの時間を過ごすつもりである。

しかし、これまで大量に抱え続けた負荷によって、本鳳の心はこの世のすべてが突然嫌になってしまった。

いや、負荷だけならもうしばらくは耐えられたのかもしれない。しかし十年ぶりに両親に会える嬉しさで高揚し、タガが外れたのだろう。

何も考えられなくなっていくのを感じる。脳が思考を拒否しているのだ。両親を応接室に待たせているが、会うことすら既に億劫である。

心が不可逆に壊れていくのは自覚していたし、近いうちにこうなると予感していたが、存外に早かった。心残りは……いや、もうどうでもいい。

本鳳は自分の終わりを悟り、目を閉じて二度と開くことはなかった。神性も閉ざされ、摩天楼から地の獄へ堕ちて逝く。

「フミちゃーん、入るわよー」「なんだ寝てるじゃないか。久々の親子の再会だってのに」「ふふ、疲れてるんでしょうね。区長さんだもの」

「もうちょっと寝かしといてやるか」「あら、ここはいい眺めね。あそこに見えるのってうちじゃない?」「んー……遠くてよく分からんな」

「子どもの頃はあんなに甘えん坊さんだったフミちゃんが、政治家になって、区長になって、この街を作ったのよね」

「それとソシャゲとか動画のサイトとかもな。全部大ヒットして国と世界を動かしたんだ。自慢の娘だよ」

「私たちもおじいちゃんおばあちゃんになるわけだわ」「そういえば店を予約していたな」「ええ、そろそろ起こしてあげないと」

「さあ普三恵、起きなさい」「フミちゃん。フミちゃーん。なかなか起きないわね」「やれやれ、手がかかる。この年になってまだ甘えん坊か?」

「いいじゃない、甘えさせてあげれば。親子なんだもの」「ん?何か変だ。本当に目を覚まさないぞ……おい、普三恵。普三恵!」

完結

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