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表現特区  作者: 小内万利
2/20

02話:ポスト101-200

この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku

一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。

とはいえ、まだ特区構想の全容が明らかにされておらず本鳳も多くを語らないため、明確に賛成というより肯定的な態度をにじませる程度である。

とまれ本鳳本人に詳しく尋ねねばなるまい。関係省庁の閣僚、官僚、財界の重鎮、学者、文化人などを交えた勉強会を繰り返して実現性を推し量る。

「特区内と特区外の表現を完全に区切るって実現可能なの?誰かが内の創作物、たとえば無修正の本とかを外に持ち出しちゃうんじゃないの?」

本鳳「それは地理と法律、二つの縛りで実現するかと思います。最後には、ちゃんと人間の目で確認しないといけませんが」

本鳳「つまり地続きではなく海に囲まれた島を特区指定するのです。船以外では行き来できないため、個人が密輸入するのは容易でなくなります」

「はあ、なるほど。アクセスを絞るために島ってことね」「エロ本持って泳ぐ奴ぁいねーわな」「密輸入って、はは……」

本鳳「少し誇張するなら、内と外は別の国みたいなものです。空港の税関のごとく島の港、本州の港で持ち物チェックをしなければなりません」

「じゃあ法律ってのはそれを可能とするために、外ではヤバい表現を単純所持で逮捕できるように法改正するってこと?」

本鳳「はい、ご明察のとおりです。特区内ばかりでなく、国全体のことも変えなくてはならないのです」

本鳳「ただ、それでも完全に区切るのは難しいでしょうね。どれだけ取り締まっても世界中で違法な物が密輸入されているのが現状ですから」

本鳳「もっとも、それを外に持ち出して公開したからといって、社会に大きな影響はないでしょう。これも現状でよく起こっていることです」

「ちょっと待ってくださいよ。単純所持で逮捕って話が出てましたけど、特区に移住しなければ今より表現が厳しくなるってことじゃないですか」

本鳳「相違ございません。番組でも触れましたが、巷に溢れる猥雑な表現を一掃したい人も多いのですから、配慮しなければならないと思います」

「今住んでる場所で今の表現を楽しめなくなるってことじゃないですか。特区への移住の強要じゃないですか。圧政じゃないですか」

本鳳「では、見たくないものを見せられる人はどうするのですか?目を閉じて生きろとおっしゃるのですか?それこそ圧政に等しい苦しみでは?」

「極論じゃないですか。我慢できないほどではないでしょう。大体、見たくないものを見せられる苦しみってのが僕には理解できないんですよ」

本鳳「そうやって突き放すのですか?苦しみの感じ方は人それぞれだと思います。政治家として私は苦しんでいる人に寄り添いたいのです」

本鳳「これは政治以外では解決できないでしょう。より優れた案があればうけたまわりますが、いかがでしょうか?」

「あ、いえ僕はそんな……」「時代の流れってことかね。変わらないといけないんだろう。人も産業も」「てか単純所持で逮捕の国って結構あるよ」

この特区構想の最大の目的は産業活性化だが、表現解放派と規制派を別の場所に引き離すことで争いを治める思惑もある。

特区内での自由な表現に思いを馳せ熱狂していた世論も、少しずつ冷静になるにつれ、それに気付き始めた。

政治による国民の分断だと批判する者もいれば、平和な住み分けだと称賛する者もいる。どちらも間違いではないのだろう。

しかしやはり、一番の問題は移住を望まず且つ表現の現状に満足している者が、最も割を食わされることかもしれない。

「本鳳さんの主張は分かるけど、私にとっては損しかない。新たに私が苦しむことについて本鳳さんはどう思ってるのかな」

「そもそも民意を無視してこんなの、強引すぎるよ。次の選挙で落ちてくれ。都民は本鳳を落としてくれ」

「無理でしょ。元々、選挙区では敵なし。今回の構想は賛成派が大多数だから本鳳はさらに勢いを増す。党内でも発言力を持ち始めてるらしい」

「内閣入りも近い。10年後には初の女性首相が生まれるよ。本鳳首相。今のショボくれたオッサン共はさっさと引退」

「今まで平凡な議員って感じだったのにな。それがオタサーの姫になったと思ったら、もう首相も射程圏内かよ」

「というよりもう本鳳なしでも止まらないんじゃね?みんなやるって言ってんじゃん。反対派は諦めろ」

「規制される特区外が嫌なら特区内に移住すればいいじゃん」「なんで引っ越しを強制されないといけないんだ。今の場所で今の表現がいい」

下馬評どおり、本鳳は大差で当選。野党の当ては外れ、本鳳人気で与党に票が集まることとなった。

本鳳「今回の選挙で表現特区構想は一定の民意を得たと確信しております。これで議論がより旺盛になればさいわいです」

選挙の結果を受け、水面下で政府は特区実現への行政手続きに着手する決定を下し、本鳳の語った内容から素案を作る。

党の会合では特区を巡り、議員が舌戦を繰り広げていた。特区構想に及び腰だった頃とは違い、やるとなれば皆が全力である。

だが私利私欲のため、新たな利権を生み出すべく議論に参加する者もある。むしろ与党は、そうしたよこしまなやからを多数抱えていた。

いかに多額の公金を流して合法的に私腹を肥やすか。そのためには、とにかく最初からたくさんの物を特区内に作ることである。

「国家経済の未来を託す特区なのだから、創作活動をおこなう大きな施設、広い住環境、充分なインフラ、便利な商店街が必要だろう」

本鳳「まだ選定地の候補すら固まっていないのに気が早くはないでしょうか?多額の予算をいただけることに私は特に反対しませんが」

「万全の根回しをするためには、方針を早め早めに決めておくべきだ。予算を多めに見積もっておいて後で削ればよいのだ」

「選定地の候補って今どうなってるの?てゆか何を基準に選ぶの?」「島であることが大前提ですよね?あとは広さとか、島民の民意でしょうか」

本鳳「もちろん島民を無視するわけにはいかないでしょう。たとえ住民がいなくとも、土地の権利は民間個人が所有している場合もあります」

「そういう場所は候補から外すべきですね。交渉していたら5年、10年単位で遅れると思われます」「てことはまず無人島から狙っていくの?」

本鳳「はい。できれば国が全土の権利を持っている無人島。それが無理なら自治体が持っている無人島。自治体との交渉は個人より簡単です」

本鳳「されどその上で船によるアクセスが容易となると、候補は大きく限定されます」

「広くて、近くて、人が住んでなくて、権利問題がすぐクリアできるということですか」「難しそうだねー」

本鳳「土通省に調べていただいていますが、極めて難航していると言わざるを得ません。土地選びはすべての基本ですので」

「どの程度の土地面積があればよいのですか?」「九国くらいがいい!」「そんな大きな無人島ありませんよ」「じゃあ四州」「ありません」

本鳳「小さな町ひとつ程度の面積は必要でしょう。少なくとも3平方km、できれば10平方km。もっと広くてもいいくらいです」

本鳳「たとえば私の故郷、狭岩(せばいわ)県幹石(みきいし)市には、条件にある程度は合致する島があるのですが」

「狭岩、ということは頼戸(よりと)内海ですね?」「本鳳さんあんな田舎生まれだったんだ」「ちょっと、失礼ですよ」

本鳳「はい。本州から4kmの沖合にある面積10平方kmの虹原島(にじはらじま)です。子どもの頃は毎日、海の向こうに島を見て過ごしました」

本鳳「島全体にいくらかの起伏はありますが、おおよそ平坦で開発しやすいかと思います。とはいえ地質調査は不可欠です」

本鳳「私が生まれる前は人が住んで漁業が盛んだったのですが、本州への移住も多く段々と過疎化し、やがて誰もいなくなってしまったそうです」

本鳳「ちなみに、すぐ近くにも一回り小さな無人島がありまして……あ、話が逸れましたね」

「その虹原島の土地の所有権はクリアできそうですか?」「誰も住んでないなら勝手に使っちゃっていいんじゃないの?」「いいわけありません」

本鳳「土地の大部分は幹石市の所有です。特区の経済効果を訴えれば市長や知事は説得できると思います」

本鳳「沿岸部は大勢の民間個人の土地でしたが、今では所有者不明土地となり果てています。すなわち容易に国有化できるでしょう」

「おそらく本州側の地域住民からは虹原島の特区指定と開発で環境や景観が変わること、住環境が脅かされることなどへ懸念が出ると思うのですが」

本鳳「そうですね。もっとも、あの辺りは本州側もやはり過疎が進んでおり、限界集落に近い状況となっています」

「人が少ないから大きな問題に発展せず、補助金などで容易に黙らせられるということですね」「幹石の人はタダでお金もらえるの?いいなー」

本鳳「まあそれは最後の手段ですね。特区は観光地としての役割も期待でき、本州側も潤うものと思われます。それによって納得していただければ」

「もうそこでよくない?」「内海なら船でのアクセスは良いでしょうし、西陽下なので首都一極集中の解消に大きく貢献しそうですね」

「ふん、結局本鳳の鶴の一声か。出来レースじゃねえか」「小さな町ひとつ程度で人口集中解消なんて」「いや、それは近隣へ波及効果もあるので」

政府は虹原島を調査し、地元自治体との話し合いを重ね、特区としての開発に問題がないことを確認し、快諾を得る。

関係者間では本鳳が地元に利権を誘導したとの批判もあったが、ひとまず特区の場所が虹原島に内定した話題でかき消された。

今や本鳳は表現特区構想の中心人物だ。斬新なアイデアとリーダーシップ、抜け目のなさも兼ね揃えており次期首相の可能性も噂される。

生み出そうとしている特区利権を本鳳ひとりに総取りされるとの危機感から、党内では反本鳳の機運も高まっていた。

「本鳳さん、あんた良からぬことを考えてるんじゃないだろうね?国民の血税で好き勝手に不正な利権を作って私物化なんて許されないよ」

本鳳「地元の島の特区指定が私物化というわけですか。では代わりの候補地を先生方でご選定ください。虹原島は今すぐ撤回しましょう」

「ち、違う!そうは言っとらんだろ。ただこの先の心配をしているのであって現時点で何かしようって話ではなく……」

本鳳「ご忠告たまわり恐縮のいたりです。お心遣いに報いられるよう精進してまいります。特区は汚職を生み出さない構造にしたいですね」

金とコネで肥え太っているだけの無能な議員には本鳳と渡り合う度量がない。最初から本鳳はそれを見透かしている。

別の愚かな議員は自己顕示欲を満たしたいがために、虹原島が内定したことをSNSで暴露してしまった。

世論がこの情報に湧く中で、本鳳は今日もテレビ番組に出演し、新案を披露する。

「ずばりお聞きします。頼戸内海にある虹原島が特区になるって本当なんですか?」

本鳳「虹原島で内定しているのは事実です。今のところ虹原島より良い条件の土地は見つかっていません」

「やはり本当なのですね。あの、本鳳さんの地元という話もあって、利権絡みなんじゃないかとの噂も取り沙汰されておりますが……」

本鳳「多くの方々を不安にさせてしまったようですね。まずはそれについて謝罪と説明をいたします」

本鳳「生まれ故郷の近くではありますが、私の選挙区は全く別の地域なので政治的な利害ではありません。どうかご安心ください」

本鳳「不安を払拭するために、今日は出演者の方々のご質問にお答えいたしましょう。何かありませんか?」

「規制のない島にクリエイターを囲い込んで、面白いアニメや漫画を作って、外の規制に合わせて修正して売るって話ッスよね」

「狙いは分かるんスけど、面白い物や売れる物ってそんなに軽く作れますか?最初はみんな移住だけで手一杯でしょ」

「つまり金の話ッスよ。表現規制がないってのはすげえ魅力だけど、先立つもんがなければ誰も表現特区に来ないでしょ」

本鳳「私はそれでも来る人は多いと思いますよ。人々が自由な表現を求める気持ちはとても強いのです」

本鳳「法律で表現を規制しても、つい破ってしまう人が多い現状がそれを物語っているでしょう」

本鳳「誰だって自由にやりたいのです。そのハングリーな精神が良い物を生むのだと、私は信じています」

「んなもん精神論でしょ。クリエイターの卵ひとりひとりについて金の面倒をみてやらない、助けないってことじゃないスか」

「今でもエロ漫画売ってるネットサービスが、クレカ会社から決済を停止されてんスよ。奴らは金を回さないことで表現規制してるんスよ」

「それは表現規制とは別問題ですよ。儲からなくても描けばいいでしょう。とはいえ私も金銭面でクリエイターの補助をするのは賛成です」

本鳳「補助金をそのまま流すのは利権化のおそれがあります。先日、党内でも釘を刺されたですよ。不正な利権だけは絶対にダメだと」

本鳳「ただ、国民は最低限度の生活を営む権利を有しており、特区でも変わらず保障されなければなりません。つまり生活保護はあるのです」

本鳳「以前もお話いたしましたが、自由な表現自体にはお金は必要ないのです。絵なら紙とペンで描けます。音楽なら楽器を奏でればよいのです」

本鳳「表現に必要となる一般的な道具、画材や楽器、電子端末程度なら無料で貸与、提供したり公共の施設にしつらえるようにしましょう」

「現状の生活保護は一部の反社会的組織に悪用されているとの話もありますが、特区でもそれが起きるのでは?」

本鳳「特区内は専用の通貨しか使えなくします。使えるのは電子マネー。つまりデータのみです」

本鳳「サーバーで一元管理し、不自然な流れはすぐ見つけられるようにします。ソーシャルゲームのゲーム内通貨のようなものとお考えください」

本鳳「現金は使えません。というより特区では陽下塩が通用しないのです。特区内に塩、その他の通貨を持ち込むこと自体を禁止します」

本鳳「専用通貨への両替、つまりチャージは塩からのみ受け付けます。逆に専用通貨はあらゆる通貨に両替できなくします」

本鳳「つまり、どれだけ特区内で大儲けしようが、それはすべて特区でのみ使えるお金であり、外では使えないのです」

本鳳「ただし表現活動とは無関係な商業施設の事業者などは例外的に専用通貨から塩への両替を認めるようにする必要もあり……」

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