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表現特区  作者: 小内万利
19/20

19話:ポスト1801-1900

この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku

一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。

この問題をめぐっては、何度も大きな論争となっているが、いまだに解決策が見つかっていない。

擁護派は、プレイ配信がゲームの宣伝になり売り上げが伸びて権利者に利益が還元されるし、プレイ配信を歓迎する権利者も多いと主張する。

批判派は、買わずに配信を見るだけで済ませる者が多いため、むしろ売り上げが減って権利者は利益どころか損害を受けていると主張する。

両者とも言い分に一理あるが、かような副次の複雑系について効果のほどを正確に捉えられるわけがなく、議論してもあまり意味はないだろう。

投げ銭が権利者に全く還元されていないことが問題の本質であり、還元すれば問題は解決できると本鳳は考えている。

とはいえ解決は手段に過ぎない。あくまでそれによって特区が人気配信者を獲得し、市場シェアを奪い、世界への影響力を高めることが目的である。

現在、大抵のライブ配信サービスでは投げ銭のうち最大7割が配信者に、残りがプラットフォーマーに配分される。

特区は新たなサービスを立ち上げ、そこでは7割を配信者に、他人の著作物を利用した配信の場合は2割を権利者に配分する。

特区がいただく手数料は、配信者が他人の著作物を利用していなければ3割、利用していれば1割になるわけだ。

それだけで手数料が3倍も変わるのは異様だが、さらに奇妙なことに手数料は特区の収益とはせず、後述する別の方法で運用される。

投げ銭が権利者に配分されるのは必ずしも2割とは限らない。利用のされ方などによって変動する仕組みである。

たとえば一時間の配信のうち、ほんの数十秒しかゲームをプレイしていなければ配信のダシにしたとは言えないだろう。

そういったケースでは権利者への配分は、2割よりもかなり少なくなる。無論、配信者にも権利者にも配分されなかった分は特区の手数料となる。

ゲーム以外でも著作物の媒体によって2割が満額配分されるための条件がさまざまに設定されている。とはいえ条件はゆるい。

著作物をダシにした配信だと一般に感じられる程度なら満額配分されるようになっている。

また、特区が取った手数料の合計額は常に開示され、一定期間ごとにすべて権利者に還元される。特区に権利者の利益をかすめ取る意図はないのだ。

投げ銭で得た収益が多い権利者ほど、特区の手数料から還元される額も多くなる。つまり権利者の収益は投げ銭の2割だけではない。

そして特区は手数料をすべて権利者に還元してしまう以上、利益は望めなくなる。

この時点で、サービスを提供するためのコストの分だけ丸損になるのは確定するので、民間の営利企業が同水準で還元することは難しい。

しかし公金で運用できる特区にとってはその程度のコストは全く問題にならない。むしろシェアを奪えるなら安いものだろう。

さらに投げ銭の金額に応じて、配信者にはソシャゲのガチャを回すためのポイントが付与される仕組みを作る。

付与されるポイントは投げ銭の金額のうち、ほんのわずかな割合である。庶民が少し投げた程度ではガチャ1回分のポイントにも到底およばない。

もっとも、配信者は投げられた金額だけでなくポイントまで得られるのだから、大きな利益であることは間違いない。

通常は1日300ポイントしか稼げないが、投げ銭による付与はその上限とは無関係である。つまり投げ銭を得れば300ポイント以上稼げるのだ。

ポイントは世界で唯一、陽下の特区だけが発行できる。つまり民間企業どころか、他のあらゆる者にとって絶対に真似できない仕組みとなった。

特区が最低でも1割の手数料を取ってから権利者に還元するのは当然、権利者の優遇が主目的だが、不正防止のためでもある。

仮に特区が取らず、配信者に7割、権利者に3割配分すれば権利者自身の配信で投げ銭を10割全額得られるのだ。その上でポイントも付与される。

つまり身内での投げ銭で金を還流すればノーリスクでポイントを無制限に増やせてしまう。マネーロンダリングにも悪用されるだろう。

陽下では投げ銭による収益も所得税の課税対象なのでそう上手くはいかないのだが、税制が異なる外国からの配信については手の打ちようがない。

しかし特区が1割取っておけば還流するたびに金が目減りするので、そうした脱法の手口で利を得る行為は成り立たなくなるわけである。

身分の確認など、不正対策は他にもいくつが打っている。官製の配信サービスであるため、その水準は民間より厳しい。

特区のライブ配信サービスの登場により、世界的な大人気配信者も含め多くの客が既存サービスからそちらに移った。

やはり配信者が投げ銭の7割のみならずポイントまでもらえるのは絶大な魅力なのだろう。

そもそも配信者に7割還元というのは既存サービスにもほとんど存在しない。大抵はそれより少なく、5割を切るのが当たり前である。

しかも実際のところ、多数の固定的な視聴者を抱えている、毎月一定時間以上の配信をするなどの厳しい条件をクリアせねば、それすらもらえない。

特区のサービスではそのような条件は一切なく投げ銭の7割をもらえる。もちろんそれにも税金はかかるが、配信者には破格のメリットである。

他方、視聴者は投げ銭をしたところで自分に何のメリットもない。投げ銭は配信者に対する応援であって利己とは対極の行為なのだ。

身銭を切ってまで応援したくなるほど、配信者に強く精神依存しているのだろう。傍から見れば搾取だが、本人たちは満足している。

配信者は視聴者からの搾取を第一の目的としているため、できる限り大量の視聴者を自らに長く強くたんできさせておく必要がある。

投げ銭によってポイントを得られるのは、そのための利用価値が高い。配信者と視聴者を繋ぐかすがいとなるのだ。

また、配信者にとって配信のネタを探すことも重要で、この仕組みはその助けにもなっている。

今や特区ソシャゲは世界的に最も人気のコンテンツであり、特区の配信サービスはポイントによってそれと連動しているのだから。

配信中に投げ銭をもらい、付与されたポイントを使ってガチャを回し、レアなキャラやアイテムが当たれば配信がたやすく盛り上がる。

配信者が存分にその礼を言えば視聴者は更に入れ揚げ、多額の投げ銭をする決意を強めるだろう。

投げ銭で配信に直接影響し、配信者を喜ばせたという成功体験は他では味わう機会が少ない。特区サービス特有の強みである。

著作物の権利者に投げ銭から利益配分されるのも、配信者と視聴者に存外のメリットをもたらした。

著作物をダシに配信をしておいて権利者に全く還元しないのは、配信者も視聴者も、擁護する者でさえも実のところ後ろめたさがあったのだ。

特区の配信サービスなら還元されるため、そうした負の感情による葛藤もない。精神面な充実も得られるわけである。

著作物の権利者も莫大な利益を得られるようになり、かつて権利者に還元されないことを嘆いていた者も満足している。

この流れを受けて新たにコンピュータゲームソフトの製作に参入する者が、法人、個人を問わず急増した。アマチュアでも充分に夢があるのだ。

他人が勝手にライブ配信で宣伝してくれる上にその投げ銭の2割以上をもらえるのは、一攫千金のチャンスだろう。

もはやゲーム製作の利益は販売より配信中の投げ銭の方が大きく、ゲームのプレイは本人が楽しむより視聴者を楽しませる目的の方が大きい。

特区のサービス以外での配信を禁止する権利者も出てきた。他で配信されるより特区のサービスで配信される方が権利者にとって得である。

配信者と権利者の利害が一致しているので反対の声はほとんど上がらず、配信者は既存のサービスから次々と特区のサービスに移っていった。

反対の声を上げているのは既存サービスのプラットフォーマーだけである。しかしソシャゲの時と同様、たちどころにかき消えてしまった。

劣ったサービスしか客に提供できない事業者が己の縄張りを奪われたことに不平不満を言ったところで、味方など増えないのだ。

それが国家権力による民業圧迫のせいだとしても、客は利害のためどのように振る舞えばよいのか自明である。

特区の配信サービスは手数料をすべて配信者と権利者に還元しているため、運用コストの分だけ運営側が損をする一方のようにも見える。

だが、投げ銭によるポイント付与はソシャゲの間接的な宣伝にもなっているのだ。これで新たなソシャゲ導入国がひとつでも増えればよい。

ソシャゲの導入は、陽下がその国をそうらんすることでもある。新たな奴隷国家を一国でも得られれば、潜在的には黒字へ転じる。

配信を見た外国人がソシャゲに興味を持ち、導入するよう自国の政府に働きかけ、政府が導入して奴隷化という流れを想定している。

特区の配信サービスで配信すればポイントを得られるが、ソシャゲを導入していない国ならそのポイントは宝の持ち腐れである。

配信者にとっては投げ銭の7割を得られるだけでも充分な利益だが、ポイントも利用できた方が良いに決まっている。だから政府に働きかけるのだ。

そして本鳳の狙いどおり、新たに導入する国が出てきた。導入のメリットがまたひとつ増え、賛成の声は一段と高まっているのだから当然だろう。

そうした国でもライブ配信とゲーム製作が盛り上がり始めた。盛り上がりの中心には陽下があり、世界はさらに陽下へ依存している。

二の足を踏んでいた国も次々と導入へ傾きつつある。先に導入した国の様子を注視しているが、今のところ特段のデメリットが見られないのだ。

とはいえ、その状況でも導入を渋る国は存在する。おいしいエサを見せつけられ自国民にせがまれながらも、最後の一歩を踏みとどまっていた。

聡明な首長が本鳳のろくでもない狙いを看破しており、踏み出せば陽下の奴隷国家にされるとの確信を持っているのだ。

外交関係の悪化の懸念から、表立ってそれを指摘するのがはばかられるため、導入をきっぱりと却下することもできない。

そうした首長は一見すればただの優柔不断である。国民の支持を失い、メディアには愚かなリーダーとして批判される。

しかし絶対に導入するわけにはいかない。少なくとも自分の任期中は誰に何を言われようが譲らない。国の未来に責任を持たなくてはいけない。

孤独な戦いを続ける狂狷な彼らの胸中もまた、本鳳から見抜かれていた。愛国心の強さや知能の高さという点では互いに似た者同士である。

直接の面識はなく、出会い方によってはゆうぎを結べたかもしれない。だが本鳳は彼らを容赦なく叩き潰す策を講じる。

本鳳「世界中の国や地域で大小さまざまな武力紛争があり、現在その数は118にのぼると世連の調査機関によって報告されています」

本鳳「これは無くしていかなくてはなりません。世界のため、後世のために紛争を無くし、平和にしたいというのが人類普遍の願いでしょう」

本鳳「などと口にするのはたやすいのです。しかし具体的にどうすればよいのか、という段階で世界はいつも、つまずいてきました」

本鳳「願うのは簡単ですが、実行の原動力が不足していたのではないでしょうか?紛争を無くすには非常に大きな力が必要ですから」

本鳳「悲しいことですが、大抵の人にとって遠くの紛争はどうでもいいのです。自分と無関係な事柄に力を使いたくないのが生物の本能でしょう」

本鳳「世界平和のために、あまねく人々が自分と無関係な問題にまで当事者意識を持つべきだと申し上げるつもりはございません」

本鳳「前置きが長くなりましたが、要は特区ソシャゲをその原動力にしたいのです。ソシャゲの平和利用です」

本鳳「唐突に飛躍してしまいましたね。118の紛争がひとつ減るごとに、特区ソシャゲのすべてのプレイヤーにボーナスを等しく与えます」

本鳳「誰が、いつ、何を目的として紛争を減らしたかは問いません。方法も基本的には問いませんが、武力を用いることだけは認めません」

本鳳「たとえばソシャゲを導入していない国の働きによって紛争が減っても、すべてのシャゲプレイヤーがボーナスを得られるのです」

本鳳「後から導入する国のプレイヤーも、最初からそのボーナスを得られている状態になります」

本鳳「紛争が減った分だけボーナスは積み重なっていきます。しかも通常のボーナスと違って、時間経過によって効果が切れることはありません」

本鳳「しかし、効果を失うケースもあります。紛争の数がひとつ増えるごとに、それまでに得たボーナスが新しい順にひとつ無くなるのです」

本鳳「つまり10の紛争を減らして10のボーナスを得たとしても、新たに3の紛争が起きればボーナスは7になってしまうのです」

本鳳「これは新たな紛争を抑制するための措置です。ボーナスを得るためにわざと紛争を起こしてから解決するような行為があってはいけません」

本鳳「ただし、紛争の数が118より多くなってしまったとしても、何らかのペナルティがあるわけではありません。ボーナスが無くなるだけです」

本鳳「得たはずのボーナスがそのようにして、いったん無くなってしまったとしても、また紛争を減らせばボーナスを得られます」

本鳳「どの効果のボーナスが何番目かは既に決定しており、変わることはありません。一度得たボーナスを失ってから再び得ても内容は同じです」

本鳳「基準は118という現在の紛争の数のみです。118より少ない分だけボーナスが増え、118より多い分はボーナスに影響を与えません」

本鳳「紛争の数は世連の調査報告に基づきます。世連に問い合わせて数が変動していれば即時にソシャゲへ反映いたします」

本鳳「今回の仕組みによってプレイヤーは今より有利になりますが、不利になることはないでしょう」

本鳳「紛争の解決という、これまでとは方向性が全く違う施策に驚かれた方も多いのではないかと思います。何かご質問はございますか?」

「ボーナスの効果が期待より小さければ、みんなガッカリして紛争解決に繋がらないのでは?ボーナスの内容をこの場で開示してもらえませんか?」

本鳳「ボーナスの内容は非公開です。紛争を解決し、ボーナスを得ることでしかその内容は明かされません」

本鳳「こういった質問をしていただけるのは、ボーナスの内容を知りたい人がいるからだと思います」

本鳳「知りたいという欲求も原動力となり得るのです。とはいえ先述のように一度得てから失って再び得る時はその原動力は失われますが」

本鳳「せっかくの質問に対してこんな答えでは、あまりに無体ですね。そこで最初のボーナスだけはこの場で明言いたしましょう」


2025/8/31 ポスト1803を修正

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