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表現特区  作者: 小内万利
18/20

18話:ポスト1701-1800

この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku

一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。

だが、それを新たに指摘してみろと言われ、ひとつも答えられなかったのだ。要は東国外相という勝ち馬に乗ろうとしただけである。

本鳳があっさりと問題の解決策を打ち出したせいで、西国の議会ではそのような予想外の一幕となり、無能を露呈してしまった。

近似の事例が世界各地で相次いだ。政治家ばかりではなく一般市民にいたるまで痴人が炙り出されている。

以前から本鳳の実力やソシャゲに懐疑的だった者が、昼の会談での本鳳の失態に気を良くしてはったりをかまし、夜の会見でひっくり返されたのだ。

往生際悪く、本鳳ではなく首相の力だと自己弁護するケースもあったが、首相にそれができたとは誰も信じていない。

昼の会談で問題を提示されてから思索を始め、同日中にあれほど見事な解決策へ漕ぎ着けるのは至難である。

少なくとも陽下の首相は切れ者などと世間から認識されていない。むしろ東国外相や西国大統領と大差ない鈍才だろう。

本鳳が会談以前からすでに問題を把握し、解決策まで見出していたにもかかわらず、わからないフリをしていたのが真相である。

サービス劣化の問題が実経済に顕在化してくるのは当分先で、早急に対応する必要性が薄かったため後回しにしていただけなのだ。

この程度の小さな問題を気にかけてソシャゲの導入をためらっていては、それこそ陽下経済は復活の機を失い、地を這い続けるしかなかった。

本鳳は特区の構想段階であらゆる問題を検討し、そのすべてに実行性の高い対策を導き出している。だからこそ構想を世に打ち明けたのである。

敢えてわからないフリをした理由は主に二つ。第一は首相に花を持たせ、政権に歯向かうつもりなどないことを示したかったからだ。

特区は政府から強権を与えられているので、充分に戒められ従順だと広く知らしめねばならない。そのためには露骨なくらいで過不足ない。

国の実権を本鳳が握っているなどと政権が揶揄されるているからこそ気遣う必要がある。本鳳は叛意など無く、あると疑われるのも避けたいのだ。

また、他国への特区とソシャゲと口コミの輸出には政府による最大限の協力が必要不可欠である。関係性を損なうわけにはいかない。

第二の理由は、輸出するそれらに対する安易で低次元な批判を黙らせてイメージダウンを避けるためである。今回はそうした者が痛い目に遭った。

敵の弱点を突いて勝ったと思っていたら、何がなんだか分からないうちに逆転負けしている。分からないことが重要なのだ。

得体の知れないことは恐怖に直結している。何をしてくるかも予測できない相手には不気味さを感じ、得てして気軽に手を出しづらい。

しかも本鳳は常に柔和で低姿勢な態度を取っている。今回も解決策が分からず首相に助けを求めたのだと白状した。

それによって敵は最初に惑わされ、逆転負けを喫した後で恐怖がかき立てられ萎縮するのだ。様子を傍観している者も本鳳に侮りがたさを覚える。

友愛を旨とする本鳳にとって進んで用いたくはない手法だが、故国のためなら厭わない。敵が恐怖にもだえようが知ったことではない。

一方で、自分が考えつかなかった適切な批判は大歓迎である。新たな難問を解決してこそ施策の完成度が増し、陽下はさらに上を目指せるのだ。

しかし本鳳はそんな批判を見たことがない。今までのすべての批判は想定内であり、解決策を知っているか、解決が必要なほど深刻ではなかった。

かくして東国と西国の件の者たちは失脚し、ほどなくして特区とソシャゲと口コミの三点セットを陽下から受け入れることが決まった。

本鳳が会見で輸出を提案して呼びかけた日から、東国や西国はおろか世界各国でその流れが急加速している。反対派はなすすべもない。

その大半の国は消費の低迷からデフレに直面しており、ソシャゲによって改善する狙いがある。

しかしソシャゲの効能はそれ以外でも多岐にわたるため、必ずしも消費活性化を目的としている国ばかりでもないらしい。

元々、真似ながらもどうにか独自色を出して導入しようとしていた国はすべて、陽下のシステムとコンテンツに徹底して依拠する方向に舵を切った。

そうした方が小さなコストで内容が充実するのは明白なのだ。多くを費やしてまで自前で用意する意味は薄い。

なにより、本来なら陽下が思う存分に相手国からむしり取っても許されるはずのあらゆる代価を、ことごとく無償にしているのが大きい。

条約でそれを定めて保証しているため、後になって陽下にちゃぶ台を返されて法外な見返りを要求される心配もない。

しかも陽下は随時、アドバイスやサポートまでしてくれるという。すでに成功した陽下のバックアップを受けられるなら折り紙付きだ。

安全なわだちが見えているのだから、わざわざそれを避ける必要は無い。わだちの周りに転がっている果実を拾うだけで丸儲けである。

理にかなった選択のようだが、この場合は近視眼と呼ぶべきだろう。果実を撒いたのは本鳳なのだから。

陽下のシステムとコンテンツをそのまま借りて導入するのは、陽下に強く依存するということでもある。

なにしろソシャゲは経済のあらゆる部分に深く侵食する特性がある。陽下では既にそうなっており、他の国も導入すればそうなるのは避けられない。

実質、陽下が導入国の経済を牛耳るようなものである。陽下の胸三寸で経済が操作されるのだ。侵食というより侵略だろう。

そのために適当な理由をでっち上げて、各国のサーバーを陽下で管理する仕組みをゴリ押しした。

気に入らない国のソシャゲを一方的に停止することすらできるのである。ソシャゲに寄りかかった経済が大混乱を起こすのは想像にかたくない。

ポイントの発行についても陽下のみにその権限があり、他国はポイントを発行できないようにしている。

ポイントはソシャゲの根幹なので、発行を停止されるだけでも経済は同様の状況に見舞われるだろう。

もちろん導入国は、陽下に支配されていると自覚すれば、どうにか状況を打破しようとするはずである。だが、それは難しい。

ソシャゲにすがって経済が良くなっているなら、いきなりそれをやめることなどできるわけがない。中毒者は薬物を簡単に絶てないのだ。

陽下から切り離した独自システムとして再構築する手はある。それは条約でも禁じていない。禁じれば乗ってくる国はいなかっただろう。

しかし、ソシャゲは未完成であり問題をいくつも抱えているかもしれないと、本鳳は先の会見で言った。

独自システムに代替しても、どんな問題が出てくるのか分からないのだ。軽々しく実行するわけにはいかない。

禁じられてはいなくとも、陽下との関係性が悪化するのは明白である。それは知恵を借りられなくなるのと同義だろう。

致命的な問題が出た時に、その道に最も精通した陽下の手助けを得られないのは、もはや国家経済の危機である。

これは外交のあらゆる場面にも通じる。機嫌を損ねて陽下側からソシャゲのシステムを停止されれば、依存しきった経済はただでは済まない。

陽下側から何か働きかけなくとも、深刻な状況を自覚すれば、少しでも気に入られるため勝手に譲歩や配慮をしてくるようになるだろう。

また、特区作品やソシャゲのイラストのような膨大なコンテンツ群を借りるのも、やはり依存の一環となる。

現状ではそういった創作ジャンルのコンテンツについて、陽下ほど良質なものを大量に生み出せる国など存在しない。

元々、陽下で唯一落ちぶれずに活発だった創作産業が特区によって更に活性化し、ついには他国の追随を許さない領域にまで昇華された結果である。

陽下からコンテンツを借りて存分に満喫すれば、量が乏しく低質な自国のコンテンツなど見向きもしなくなる。

実際、特区の公開作品をネットで鑑賞してからそういった心境にいたる者が世界中で続出した。目が肥えてしまうのだ。

つまりコンテンツもシステムと同様である。陽下と仲たがいしてコンテンツを引き上げられるのはまずい。

陽下以外が独自に特区を作り、ソシャゲを導入したとしても、それらに魅力あふれるコンテンツが伴っていなければ形骸化する。

魅力のない作品のために特区に赴く者も、魅力のないキャラクターイラストのために必死になってガチャを回す者もいないのだから。

つまるところ、魅力的な契約に乗れば見えない鎖をはめられ、終いには陽下に隷属するしかなくなるのである。

しかしそれを理解して警鐘を鳴らす者はわずかしかおらず、その意見を真面目に受け止める者はさらに少なかった。

平和な国民性として知られる陽下が、そんなにも大がかりな手段を用いてまで他国に害をなすなど考えにくく、考えたくもないのだ。

人は極めて有利に思える駆け引きを提示されると、裏目が出た場合のことは無視してしまう。都合の悪い状況を無意識に嫌忌する。

一握りの冷静な知的層はともかく、大衆の間ではそのような短慮ばかりが遍満してゆく。

万が一支配されても陽下なら酷い要求をしてくるはずがなく、メリットの方が大きいに決まっているなどと底抜けの楽観を力説する者さえ現れた。

民主主義国家において大衆がこうなってしまえば、政治家は抗うのが難しい。もはや陽下の提案を受け入れない方が売国奴と呼ばれる始末である。

すべてが本鳳の思う壺だった。友好的な態度で相手を騙して毒を呑ませるという、得意の手口である。実行するたび自己嫌悪にさいなまれているが。

よしんば意図を気取られ追及を受けたところで、単なる善意でありそんなつもりはないと言い張ればまぬかれてしまう点がことさらに狡猾である。

本鳳は自らが長い時間をかけて作り上げたものによって自国の実権を掌握し、ついには他国まで手玉に取ってしまった。

それらの国々はそんなものを積極的に導入したがるだけあって、元から表現には開放的で創作産業も盛んである。

いくら陽下が大きくリードしている分野とはいえ、放っておけばいつかは凌駕されていたかもしれないのだ。

だがこうして従えてしまえばリスクは大きく低減できる。万が一抜かれそうになったら、その国の政府に裏から手を回して阻止すればよい。

ソシャゲによる経済活性化を人質にして、表現規制のための法改正を迫るのである。もちろん陽下が圧力をかけていることは隠蔽させる。

特区も閉鎖、撤廃させる。特区がなくともソシャゲは成り立つのだから、ソシャゲを生き残らせるためなら大人しく従うだろう。

自由な表現ができる特区は創作の象徴であり、創作者にとって心の支えなのだ。自国に存在しているだけで希望の光となる。

一度作らせてから潰せば、その国の創作者はひどく絶望するだろう。高々と掲げてから落とすことで大きな衝撃となる。

失意によって創作者は育ちにくくなり、創作産業は衰退する。つまり有力なライバルの生殺与奪を握ったのだ。

ソシャゲのシステムを、あえて特区が必須な構造にしなかったのはこのためである。特区単体の閉鎖ならダメージが小さいため妥協しやすい。

最初に小さく妥協した弱国の愚かな為政者は、裏で金を握らせ地位を保証しておけば以後は際限なく妥協し、民に正当性を訴えるものである。

妥協せず最初から反発すべきだったと民が思い知る頃には反発の力など残されておらず、妥協の果てである奴隷国家へと堕落するしかない。

特区があれば有力な創作者を集めて高品質なソシャゲのイラストを量産させられるが、それは陽下だけの特権でよい。

もっとも、今すぐにこのような強引な方法で潰さねばならぬライバルがいるわけではない。創作産業は依然として陽下が独走している。

少なくともしばらくは、すべての導入国との間で健全な外交を継続していけるだろう。急いで主従関係になる必要はない。

ただ、依存にはしばらく時間がかかるため、早めに輸出しておく必要があった。飼い犬に手を噛まれてから調教し始めたのでは遅いのだから。

導入国では早くも好影響が表れた。期待どおりの成り行きに国民は満足し、消極的な国々もそれを見て考えをあらため、連鎖的に導入国が増えてゆく。

本鳳の次の標的は、ネット上でライブ配信サービスを提供しているプラットフォーマーである。

サービスを提供する代わりに、視聴者から配信者に対して行われる寄付、いわゆる投げ銭から手数料を取ることで莫大な利益を上げている。

手数料の取り方はプラットフォーマーごとに異なるが、大抵は投げ銭の金額のうち一定の割合であり、おおよそ3割以上である。

ライブ配信サービスを提供するだけで得られる利潤としては充分にボロ儲けだろう。

とはいえ実際はその利潤に課税される上、広告の作成、配信者の育成、企業案件のマッチングなど雑多な営業活動にもコストを割いているのだが。

陽下国内には有力なプラットフォーマーが存在しない。多くの陽下人は配信する時、海外資本のサービスを利用している。

つまりその分だけ富が海外に流出しているのだ。しかし、本鳳はそれを問題視しているわけではない。

3割を取ってボロ儲けと言っても、配信者や視聴者がそれを納得済みで利用しており、特に違法性もない以上は正当なサービスである。

また、富の流出と言っても、国全体の経済規模からすれば投げ銭の3割など大した金額ではない。

本鳳はそのプラットフォーマーから市場のシェアを奪えば世界をより一層、陽下へ依存させられると考えているのだ。

ソシャゲ浸けにした国と同様、恨みはないが陽下のために犠牲になってもらおうというわけである。

ライブ配信サービス自体は正当で健全なものだが、その利用のしかたについて不当な搾取構造になっていると糾弾される場合がある。

たとえばコンピューターゲームをプレイする様子を実況しながら配信する行為、いわゆるプレイ配信に対するものが典型だ。

配信者はゲームのプレイという軽易な作業だけで、投げ銭によって多額の利益を得られる。

一方でゲームの製作者、すなわち権利者は苦労して完成させたのに、投げ銭の利益が全く還元されていない。

他人の著作物をダシにして儲ける者、ダシにされて全く儲からない者。その構図が搾取だというのだ。

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