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表現特区  作者: 小内万利
16/20

16話:ポスト1501-1600

この作品はXへのポストのまとめです。https://x.com/hyogen_tokku

一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。

導入は強制ではなく、決定権は各校にある。そのため、断固として導入しないと宣言する学校も多い。

しかし導入によって良い結果が出たとの報告が全国で続出すると、次第に態度をひるがえしていった。学力で落伍するわけにはいかないのだ。

動機はいやしくとも、身につけた知識はとうとい。クリーンなまま失敗するくらいなら、ダーティでも成功した方が賢明である。

以前はそもそも個人端末の持ち込みを許可していない学校も多かったが、今では随分と減っている。持ち込ませた方が学力向上に繋がるのだ。

ソシャゲと連絡のみに機能を制限した端末も作られており、希望者には政府から無料で貸与される。

子どもが学びながらソシャゲのボーナスを受け、ガチャを回せる環境が国中で整ってきている。政府の支援によって学校側の負担は小さい。

もはや導入していない学校はいくら学力偏差値が高くとも、進学先として敬遠される風潮さえある。

毎日、全校生徒でパス認証する学校も多い。同調圧力ではなくポジティブな連帯感が養われる儀式であり、情操教育の一環とも言えるだろうか。

いじめや不登校も減少した。ソシャゲを通して周囲と仲良くなる機会が増え、学校に行くのが子どもにとっての楽しみとなったのだ。

共通の話題があるだけで、他人とのコミュニケーションは円滑になる。それには互いの持っているキャラを見せ合うだけでも充分である。

登下校における徒歩や交通機関の利用でもポイントを貯められるので、家に引きこもっていることはソシャゲのプレイにおいて意味がない。

自分が少しでも大きなボーナスを受けるためには、他者をいじめて不登校に追い込むわけにはいかない。登校し、登校させた方が得である。

教育とソシャゲはまるで正反対でありながら不可分なものになり始めており、陽下の学力は急上昇している。ソシャゲの親和性あっての事象だろう。

これは長期的な国家繁栄の枢要である。学校教育は人材の根幹であり、コミュニティの基礎なのだから。

この時、すでに狭岩県とは別の地域に第二の特区が生まれていた。虹原島と衛合島だけでは土地面積が足りていなかったためである。

日に日に増えていく移住希望者や観光客を受け入れるためには特区を拡充する必要があったのだ。

第一の特区は充分に繁盛し、近隣地域にまで莫大な経済効果を波及させている。観光地としてこれ以上ないほどの大成功と言えるだろう。

第二の特区は地理条件で少し遜色するが、溢れんばかりの人々を受け入れるため、妥協の末に選定された。

これも第一と同じく開発や建築、設備のために多額のコストを注いだが、既に運営は軌道に乗っており近い内に黒字化できる見通しが立っている。

新たな特区が生まれたおかげで陽下の創作産業はますます活発になっており、主要産業と呼ぶに相応しいほどの市場規模にまで成長した。

大量の創作者を輩出し、互いに批評して高め合い、文化として急速に洗練されている。

産業としても文化としても円熟し、世界でも頭抜けている。しかし前途にうれいが全くないわけではない。

ゆくゆくは、第三、第四の特区も必要になるだろう。そうすると、地理条件がどんどん悪くなっていってしまうのは目に見えているのだ。

ソシャゲで地方移住者が増えたため、新たな特区を作って近隣地域に空港など併設しようものなら、住環境への配慮は避けられない。

少し前までの地方は過疎に悩まされ、土地など使いたい放題だったのに、今は人が増えてそうもいかなくなっているのだから、贅沢な悩みである。

奇妙にも、斜陽国家が娯楽によってしたたかに生まれ変わろうとしている。尋常な政治では成し得なかった偉業だろう。

もはや特区ソシャゲは陽下経済にとって必要不可欠な存在となった。社会を動かし、人々の暮らしを変え、意識まで操っている。

だが特区という小さな自治体の長にすぎない本鳳が実質、国家全体を意のままに動かす権限を持っている現状は、あまりにいびつで危うい。

民主的な政体とは別の部分にばかり権力が集中しており、やがて独裁へ移ろいかねないのだ。もっとも本鳳本人にそんなつもりはないが。

為政者たちは今頃になって戦慄する。本鳳が予言していたにもかかわらず、実際に起こるまで事態を呑み込めなかった。

何しろ歴史上にも類を見ないことなので仕方がない。ただの娯楽をこれほど巧みに利用し、社会と人心を操縦した怪物など他に存在しただろうか。

しかし陽下に絶大な好影響を与えているのは事実なので、ソシャゲや本鳳を表立って悪く言う者は少ない。

相変わらず本鳳に敵はおらず、味方ばかりな上に信望は高まる一方である。ただしそれは国内に限った話だ。

海外でも本鳳は注目が高い。特区構想を打ち出した頃から幾度も話題を席巻しており、世界で最も人口に膾炙する陽下人と言える。

だが必ずしもすべての国から好ましく捉えられているわけではなく、むしろ本鳳を疎ましく感じる国家政府も多い。

特区が標榜するような無制限の表現の自由に対して政治、信教、あるいはそれ以外の事情で忌避する国が存在するのだ。

他国の内政なので不干渉を貫いているが、そのような国にしてみれば特区の話題は国民の目に触れさせることさえ避けたいのが本音である。

ソシャゲについても同様、死に体の国家がふらちな娯楽で再起したなどと認めるわけにはいかない。

彼らは旧態依然としたやり方で自らの統治体制を盤石にすることが最優先であり、そこにソシャゲという新風を持ち込まれては都合が悪い。

また、表現の自由に理解のある国でも、当局関係者の多くは特区やソシャゲの成果について懐疑的である。というより理解が追いついていないのだ。

本鳳によって短期間のうちにあまりにも大量の施策が打ち出されたせいで、陽下政府ですらその影響を正確に捉えきれていない。

特区内のことだけならまだしも、ソシャゲは国全体に激しい変革をもたらした。

今のところ大きなプラスになっているように見えるが、今後は思いもよらなかったマイナスの部分が顕在化してくる可能性もある。

ソシャゲは長期で運営していく見通しのため、影響の全容を検証できるのは当分先になるはずだ。

特区やソシャゲが国家に与える影響について悲観の将来像を描き、軽々しく称賛すべきではないと警告する研究機関も世界には少なくない。

もっとも、それは学術上の観点からである。大衆はおおむね、陽下の現状に羨望と憧憬の念を抱いているのだ。

自由な表現を楽しみたい。見たくない表現は閉鎖空間に押し込めたい。楽しく豊かな社会になってほしい。いずれも平常な願いだろう。

自国でも特区やソシャゲを真似るべきだと熱弁する者が多く、大規模なデモにまで発展したこともあった。

そうしている間にも特区は新たな作品を公開し、陽下経済がさらに上向いたとのニュースが報じられ、世界中の人々の心があおられる。

ある東国では、国政でも本格的にこの件が議論されている。国民の主体性を重んじる国風なため、市井の声はもだしがたいのだ。

既に国民の大多数が陽下のやり方を取り入れることに賛成しており、これに迎合する政治家も多い。安易だが政局上有利な態度と言えるだろう。

だが少数の反対派の意見が蔑ろにされるわけではない。陽下同様、彼らの意思決定も民主主義が根幹なのだから。

「たしかに陽下の経済成長は顕著です。このままでは、いずれ我が国の経済力が追い越されるかもしれません」

「しかしそれでも同じやり方をするわけにはいかないのです。特区はともかく、ソシャゲを経済に活かすのは重大な問題を孕んでいるのですから」

「そう、私はソシャゲに経済上の問題を見つけてしまったのです。そして解決策は分かりません。陽下がこれをどう解決するのかも分かりません」

「私は近々、外務大臣として陽下を訪れ、外交について話し合った後で、担当者の本鳳氏と会談して直接この問題を投げかけようと思っています」

「本鳳氏や陽下政府が問題の解決策を提示できなければ、我が党や大統領、そして私は賛成に回りません」

この問題について陽下は何一つ対策らしきことをしている様子がない。おそらく問題の認識すらできていないのだろう。

ならば私に問題を投げかけられて答えられるはずもない。先の私の発言はすでにメディアで報じられ陽下政府や本鳳も把握している。

今頃は、私から何を質問されるか必死になって予想しているに決まっている。だからどんな問題なのか、敢えて具体的には言わなかったのだ。

訪陽は数日後だ。的確な予測を立てた上で解決策まで考え出す時間など彼らには残されていない。陽下は全世界に恥を晒すことになるだろう。

本鳳は今まで大過なく目覚ましい成功を積み重ねてきた。それをたったひとつの質問でやり込めたとなれば私の評判は急上昇するはずだ。

ソシャゲなどという低俗な遊びで国が良くなると本気で信じている愚民や野党議員に、厳しい現実を叩き込んでやる。

「貴重なお時間をいただき感謝します。本日はソシャゲの責任者であるあなたに確認したい事柄があって参りました」

「ご存じでしょうが、我が国もご多分に漏れず陽下の特区やソシャゲのような仕組みを取り入れるべきとの声が多いのです」

「しかし今すぐにその変化を受け入れられる政治上の余地は乏しく、現実には困難だろうというのが与党の見解であり……」

本鳳「ご事情を拝察いたします。ソシャゲは危機に瀕した弊国の経済を立て直すための賭けで、たまたま良い目が出ただけのことでした」

本鳳「快調な貴国がそれをする必要はないと承知しているつもりです。また、ソシャゲについて率直な意見をいただければ幸甚に存じます」

「では早速。陽下はこのままでは、ソシャゲのせいで市場のあらゆるサービスや品質が低下していくのではないかと私は憂慮しています」

「というのも、市場の競争原理が歪められているからです。だって本来のサービスや商品以外に、不純な要素が混ざっていますよね」

「それがソシャゲのボーナスです。お店で売っている物の品質が悪くとも、そこで買い物をして希少なキャラが当たるとなればお客は集まります」

「本業である小売営業を頑張らなくても、ボーナスさえ良ければ業績はアップするのです。なら頑張る必要はありません」

「同じことが他の業種にも言えるでしょう。そうやって国全体が少しずつ悪化していくのです。要は計画経済の問題点と同根だと考えられます」

「国家の自由市場を破壊し国際競争力を失わせる、厄介な欠陥と言わざるを得ません。解決策は用意していますか?」

本鳳「真摯なご指摘に感謝いたします。私はその問題を全く想定できていませんでした。今のところ、解決策も思い浮かびません」

本鳳「この件は首相と相談してから正式にご返答いたします。私には荷が勝ちましたが、首相なら必ず名案を提示できるでしょう」

「本日はこちらの一方的な都合にお付き合いくださって、ありがとうございました。ぶしつけな質問をしてしまい、申し訳ございませんでした」

あっけない決着、文句のつけようもない完全勝利である。外相は会談後すぐに帰国し、党から万雷の拍手で迎えられた。

あの本鳳を論理で屈服させ、ソシャゲの導入を跳ね除けるための決定的な根拠を手に入れたのだから当然である。最高の成果だろう。

しかし国民の反応は、それとは正反対だった。皆、はなはだしく落胆しているのだ。中には泣きわめき、会談の内容を受け入れられない者もいる。

ソシャゲに対して抱いていた、自分たちを幸せにしてくれるはずという強い期待が裏切られてしまったのだから仕方がない。

陽下も同じような状況にある。ただし、喜ぶ政治家などほとんどいない点は東国と違っていた。

順調と思って実行していたことが、実は悪手だと判明したのだ。亡国の危機を脱したはずが、ぬか喜びに過ぎなかったのだ。

政府も国民も、この先どうすればよいのか全く分からなくなってしまった。正しいはずのソシャゲが間違いなら、一体何が正解なのか。

しかも、世界に誇る本鳳が真っ向勝負で大敗を喫している。常に成功に導いてくれる本鳳が今回は間違っていた。平静でいられるわけがない。

会談は記者を交えた公開で行なわれ、生中継されていた。つまり本鳳はリアルタイムで世界中に醜態を晒したわけである。

ある西国の大統領はその映像を確認し、メディアの取材にしたり顔でうそぶく。

「我が国でも特区とソシャゲを真似しろという国民が多かったようですが、これでわかったでしょ。あんなのはただのハリボテでしかない」

「悪夢の陽下経済を復調させるために一定の効果があったのは認めますよ。でも無視できないほど致命的な副作用もあるんです」

「私はソシャゲについて、ああいった問題を山ほど指摘できる。だから反対してるんですよ。この分では特区も問題だらけに決まっている」

「私だって断固反対ってわけではない。すべての問題を解決できるなら導入してもいい。でも、解決できるはずがないじゃないですか」

「それにしても最後の本鳳氏は論外。自分が完全論破されてその場にいない首相に頼って丸投げするなど、恥を知れと言いたいですね」

「きわめてマヌケな区長なんです。高い倫理感を持っていれば……え、今のは失言?大げさだよ。取り消しなさいと言われても取り消しません」

東国外相との会談があった日の夜、本鳳は首相と会食し、さらにその数時間後には緊急で記者会見を開いた。

集まった記者も、テレビを通して見守る国民も、世界中も、予想外のことに困惑している。責任を取って特区長を辞任するとでもいうのだろうか。

本鳳「突然の会見になってしまい申し訳ございません。東国からの質問について首相から打開案をもらえたので、いち早く発表したかったのです」

本鳳「まず質問内容は、ソシャゲのボーナスが市場の適切な競争を阻害しているせいでサービスが悪くなっていくのではないか、とのことです」

本鳳「ごもっともなご指摘ですね。全く考えもしない角度からの意見だったので解決策がわからず、私は半日にわたって苦悩しておりました」

本鳳「しかし先ほど首相に相談したところ、見事な解決策を授かりました。それをこの場でご披露いたします」

本鳳「サービスが悪くなるのが問題なら、悪くならないようにチェックすればよいのです。といっても、行政がやるわけではありません」

2025/4/19 ポスト1565を修正

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