12話:ポスト1101-1200
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一般的な小説の書き方を大きく逸脱しているため、可読性が著しく劣ることにご注意ください。
そんな本鳳にも信を問われる時が来た。区長選挙である。区長として相応しいか、区民が投票によって意志を示す。
特区は土台が国家事業なので、本鳳は最初の区長として政府に任命され、就任した。
しかし特区は自治体でもあるので、それ以降の区長は区民によって選ばれなければならないのだ。
任期は一般的な自治体の長のそれより短い。政府から絶大な権力を与えられている分だけ、民による強い監視が必要なためである。
今回は特区として初の区長選であり世間の注目を浴びているが、大きな問題を抱えている。本鳳以外に立候補者がいないのだ。
本鳳は以前テレビ番組に出演した折に区長選には出馬しないなどと言ったが、当然心にもない言葉だと誰しもが理解しており、実際出馬している。
しかしむしろ、出馬しないのは他の被選挙権者となった。すべての区民が区長に立候補できるが、その権利を行使しないのだ。
住民の大部分は施政の経験が全くなく、政治活動をしに来たわけでもないのだから、この状況はいたしかたないだろう。
特区長は政策と資質のみで選ばれるよう、選挙活動には条例で強い制限がかけられ公平化が図られている。立候補者は供託金を用意する必要もない。
それでもなお、政治家としてのノウハウや知名度を持っている時点で本鳳に大きなアドバンテージがあるのは否定できないだろう。
そして政策と資質においても本鳳が優れていることは明白なのだ。たぐいまれな辣腕と弁舌は誰しもが認めるところである。
国会議員時代は首相の座を脅かしかけたことすらあり、今に至るまで特区を主導して輝かしい成果を示し、内外からの信用もあつい。
選挙で本鳳に勝つには、少なくとも過去の施策について論理的観点から問題を指摘し、否定せねばならない。
しかし長きにわたって練られた策のため、ひとつ打ち破ることすら難しく、短期間のうちに次々と繰り出されるそれらの殲滅は到底不可能なのだ。
さらに本鳳はソシャゲ構想がある。概略の一端のみを晒し、詳細にはいまだ言及していないのだから、他者からは問題の指摘などできるはずがない。
そんな謎めいた腹案にもかかわらず、本鳳によるものというだけで大多数の住民から全幅の信頼と興味を集めている。
ただ多くを語らないだけで支持を得られるのだから、言論を旨とするはずの選挙において反則気味の武器と言えるだろう。
本鳳は選挙対策のために他にも数々の手を打っており、総じて他者にとって真似も攻略もできない妙手である。
言わば常に先手を取っているようなものだが、後手に回ってからの対応力の鋭さも抜群である。
票の購入と投票者名の公表は職員による情報の漏洩に端を発しており、完全に本鳳にとって誤算だった。
しかるにその事態にすら素早く対応し、寄付者名の公表という新たな施策によるフォローを入れてみせた。一介の政治家に真似できる芸当ではない。
神がかり的な政治能力が、政府から与えられた強権と区政の奇怪な仕組みによっていかんなく発揮されているため、凡人には手が付けられないのだ。
そもそも全住民が望んでいた自由な創作活動が可能な特区は、本鳳によって作られたものである。
創作活動に興じているだけで生活が成り立つようになったのも、創作物に多くの批評をもらえるようになったのも、すべては本鳳のおかげである。
自ら進んで特区に移住してきた住民にとって、いまさら本鳳の政策を否定するのは自己否定になってしまう。
親愛と尊敬の念を抱き信奉する者は多くとも、表立って敵対する者など今や存在しない。大恩ある本鳳に矛を向けるなど非理非道なのだから。
特区は今後も本鳳政権によって充実し栄光の道を突き進むとの期待感が強く、他に任せてそれ以上の効果を生み出せるとは考えにくい。
期日になっても対立候補は表れず、本鳳が無投票当選し、区長を続けることになった。つまり区長を選ぶ投票が行なわれなかったのである。
この結果に誰しも納得するが、本鳳だけは違う。住民に望まれ区長を続けるのだから問題ないように思えるが、民意が詳細に示されていないのだ。
区長選挙は本鳳にとって、自らが住民にどの程度支持されているかをはかるための機会でもあったのだが、それが叶わなかった。
本鳳は深刻な不安を抱く。正しくあることが最善だと思っていたが、今回はその振る舞いのせいで狙いどおりにならなかった。
客観には問題とすら呼べないだろう。しかしこれは、私の政治家としてのアイデンティティを揺るがす一大事である。
私のやり方に異を唱えてリーダーシップを発揮できる者がいなければ将来、区長をしりぞいた後に特区は誰が引っ張ってゆくのだろう。
その時までに特区の仕組みを万全に整えていればよいのか。いや、時流に素早く対応するには常に仕組みを変え続ける必要がある。
適切に判断してそれを実行できる資質のある者がトップにいなければ、特区はたちどころにつまずき、陽下の創作産業は大きく停滞するはずだ。
時には間違ったことも必要だろうか。私の間違いを批判する者が増えれば、そこから委ねるに相応しい人材が芽吹くかもしれない。
能力以前に私利私欲がないのが絶対条件である。滅私できなくては、与えられた巨大な権力にすぐさま呑み込まれ暴走してしまうだろう。
しかし私ほどてんたんな人間は見たことがない。欲とは人の本能である。得をしたいのが当然なのだ。俗物が自然なのだ。愚者が人間なのだ。
ならば私のようにそれが致命的に欠けた者などたやすく見つかるはずがないのも当たり前か。
私が本気で選挙対策をすればおそらく今後数十年は区長を続けられるのだから、初の区長選挙でこんなことを憂慮するのは早計だろうか。
いや、深刻な未来が見えているのだから早く手を打たねば。だが、どう打てばよいのか。
考えうる手はどれも問題だらけで現実的ではない。私に並ぶほどの奇人が運良く出てくるのを座して待つよりほかになさそうだ。
結局は他人頼みか。特区を作っておきながら、その存続となるとこの体たらくなのだから情けない。
自らの手で特区を栄えさせる策などいくらでも思いつくのに、他者に託した後までとなると無策なのだから私も愚者の側だ。
責任感を痛感するのみで本質的に責任は取れないという無責任ぶり。そのくせカルトじみた人気だけは持っている。詐欺師のような自分が呪わしい。
残念だが、私が消えた後の特区は暗い。ともかく、今はできる限り特区を栄えさえ、その影響力を拡大させるしかない。
そのためにはまずはソシャゲだ。数千人の特区市民の中から将来の区長にふさわしい大器が出てこなくとも、一億人の陽下国民ならあるいは。
だが本当にいいのだろうか。ソシャゲによって陽下は経済成長するはずだが、支配されることになる。国を支配する資格など私にはない。
正しくあることで思いどおりにならない経験を一度したからといって、明確な悪事に手を染めるなど許されるわけがない。
しかしこのままでは陽下は衰退するしかない。いまさらやめられない。などと自分に都合よく言い聞かせる時点で私はやはり卑怯者に違いない……。
国中が特区の将来に期待を寄せるさなか、孤独な賢者は対象的におうのうする。これも超越した先見性ゆえだろう。
区長選と同時に行なわれた区議選は特に波乱なく本鳳のイエスマンばかりが連続当選した。もっとも、イエスマンでない区議会議員などいないが。
本鳳は長らく温めていたソシャゲ構想を進めるために特区運営内部で検討、審議にかけ、詳細を詰める。
水面下で政府や地方自治体、多方面の団体に話を通し、ある程度固まってきたので頃合いをみて発表することにした。
本鳳「特長は三つ。サービス終了の可能性が低いこと、プレイヤーにとってリーズナブルであること、ゲームのサービスが現実と連動することです」
本鳳「まず一つ目。このソシャゲは特区が陽下中に提供するものです。特区は政府事業なので実質、官製のソシャゲと表現してよいでしょう」
本鳳「つまり政府という強い後ろ盾があるため、たとえ不採算だろうとも民間運営のようにすぐ畳んで終わりとの事態にはなりません」
本鳳「一般にプレイヤーが最もおそれる事態のひとつであるサービス終了。特区が提供するソシャゲでは、その心配がとても小さいのです」
本鳳「アップデートやバグ対応などまで含めて、民間以上に運営体制を充実させるとお約束いたします」
本鳳「二つ目。大抵のソシャゲと比較して良心的な運営になるでしょう。営利目的ではないので運営に大きな利益は不要です」
本鳳「たとえばガチャが安く簡単にレア枠が出る、天井が低いなどといったことを想定しています」
本鳳「ただ、盤石な運営体制を整えるため詫び石にはあまり期待されない方がよいでしょう。わかりにくい表現でしたらあいすみません」
本鳳「そもそも石に該当する概念は作らない予定です。三つ目に関わってきますが、現実のお金を直接使ってガチャを回します」
本鳳「とはいえ、塩を使うわけではありません。特区内専用の通貨です。特区内でのみ流通しているのをソシャゲ、つまり陽下中にまで広げます」
本鳳「そうしてしまうと、もう特区内専用でなりますが問題は無いと考えております。ゲーム内での単位はポイントです。特区内でもそうですが」
本鳳「三つ目。現実との連動について。ガチャで当たるのはキャラやアイテムだけでなく現実の物品も含まれます。たとえば食料、衣類、日用品」
本鳳「ホビー、スポーツ用品。それらにソシャゲのイラストを入れて関連グッズとする案もあります。ガチャで当たれば現実にもらえるのです」
本鳳「説明が前後しますが、このソシャゲで使える特区内専用……ではなくなる通貨は、ちょっとしたことでも得られるようにします」
本鳳「たとえば運動。1km程度のウォーキングでガチャ1回分、100ポイント稼げます。端末のGPS機能を使って距離や速度を計測するのです」
本鳳「飲食店、小売店、娯楽商業施設、公共交通機関などでも使った塩の金額に応じてポイントが付与されます」
本鳳「ただしそれらによって稼げるポイントは一日にガチャ3回分、つまり300ポイントを上限とします」
本鳳「塩による課金はありません。特区内専用でなくなる通貨での課金だけです。簡単に上限まで稼げるので課金の感覚は薄いかもしれませんが」
本鳳「一息にいろいろと説明しましたが、ここでメディアの方々からのご質問にお答えいたします。何かございませんか?」
「まず、このソシャゲは何のために提供されるのですか?営利目的でないとするなら何が狙いなのですか?」
本鳳「主に四つの目的があります。一つ目は経済の活性化。つまり消費の促進です。お金を使う人、使う金額を増やすのです」
本鳳「商業施設でお買い物をするだけでガチャが回せるなら、少し多めに物を買う人が増えるのではないでしょうか」
本鳳「外食をするだけで、カラオケに興じるだけで、バスに乗るだけでガチャが回せるなら、そうする人が増えるのではないでしょうか」
本鳳「そうやって実生活のためにお金を使うついでにソシャゲのガチャを回せるのです」
本鳳「お金は経済の潤滑油、などとよく言われます。しかし現実にはその潤滑油も世間には充分に流れていないため、経済がとどこおっています」
本鳳「ソシャゲはその潤滑油を流すための潤滑油、媒介程度のものとお考えください。ソシャゲは決して実生活の中心になってはいけません」
本鳳「ソシャゲのためにお金を使わせてソシャゲの運営が儲けてしまっては本末転倒。儲かるのは各施設の経営者でよいのです」
本鳳「二つ目は国民の健康促進です。もう少し突っ込んで言えば将来の医療費の抑制です」
本鳳「一般論ですが、適度に歩けば体力がつき健康になります。健康になれば必要な医療サービスは少なく済むでしょう」
本鳳「多くの人によるその積み重ねが、国全体の将来の医療費の抑制につながるのです」
本鳳「健康のために継続的な運動を心がけてください、と言われても大抵の人には難しいのです。私も億劫で三日坊主かもしれません」
本鳳「しかし少し歩くだけでソシャゲのガチャを回せるなら続けられる人は多いのではないでしょうか」
本鳳「もちろん通勤や通学で歩いても稼げます。歩く目的、方法、場所、時間帯などは問いません。とにかく歩けばポイントを稼げるのです」
本鳳「逆に、稼いだポイントはすぐに使わなくとも構いません。稼げる量は一日3回分が上限ですが、貯められる量や使える量に上限はありません」
本鳳「日並み歩いて貯め続け、いつの日かまとめて使ってもよいのです。貯まったポイントは政府がデータとして半永久的に保存しています」
本鳳「また、歩く以外の運動についても同様に稼げるようにします。たとえば走ったり自転車に乗ったり。距離はウォーキングより長くなりますが」
本鳳「ただし移動中はソシャゲを操作不能にします。画面表示もしません。移動しながら端末を使うと事故が起こりやすいからです」
本鳳「移動の最中に何ポイント貯まったのかはすごく気になるでしょう。しかしそれを確認したい場合は立ち止まってください」
本鳳「公共交通機関に乗っている時も同様です。利用客はともかく、運転手がバスや電車の運転の最中に気を取られてはいけませんから」
本鳳「政府が責任を持って運営するサービスでそのような事故を誘発することだけは絶対に避けねばならないのです。そこだけは厳しく制限します」
本鳳「操作や表示ができなくなるのはソシャゲアプリだけです。端末の他の機能は移動中でも変わらず使えるので、特に支障はないでしょう」
本鳳「話を戻します。他にもジムや体育館といったスポーツ施設、公園などを利用して運動した場合もポイントを稼げるようにする予定です」
本鳳「運動中も常に端末を身に着けている必要はありません。そうした場所の付近に一定時間以上いたのを検知できればよいのです」
本鳳「傷病や障がいなどで運動ができない、出かけてお金を使うことが難しい方も世の中にはたくさんいらっしゃいます」
本鳳「そういった方々には申請さえあれば、無条件で毎日ガチャ3回分のポイントを進呈いたします。このソシャゲは差別を目的とはしていません」
本鳳「また、先ほどから一日に稼げるポイントの上限は300と申し上げていますが、これは2週間、14日間まで繰り越せます」