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KWAIDAN  作者:
5/21

05-1.クレーム案件(前)

長くなってしまったので前後編です。



 出張先、駅の待合室でいつものホテルに空室の確認をしたところ、申し訳なさそうに本日は満室である旨を告げられた。予約しなかったこちらにも非はある。一言謝って電話を切った。

 しかし悪いことは続くもので、次のホテルも、その次のホテルも満室だという。ため息をつきながら待合室を出る。ふと見上げた広告に聞き慣れぬビジネスホテルの名が見えた。よくよく確認するとこの駅から歩いてすぐらしい。直接行ったほうが早いかも知れない、そう思って荷物を引きずりながら歩き出した。


 目当てのホテルはすぐに見つかった。ロビーの隅に宿泊客のものと覚しき荷物に網がかけられている。フロントにいた青年がすぐにこちらに気づいて頭を下げた。

「あの……急で申し訳ないんだけど、今日一泊、空いてたりしませんかね?」

 連続で断られたばかりで、なんとなく慎重な尋ね方になった。フロントの青年は、そんなこちらの様子は気にもとめない様子で、少々お待ち下さいと言いながら手元のモニターに目を落とした。


 本日の空室を確認してくれているのだろう、モニターを見ていた青年の顔が不意に曇ったのに気づいて、ドキリとした。

「…大丈夫です?」

「ええと……一部屋空いてることは空いてるんですけど……」

 なんだその言い方は。空いてるなら空いておりますどうぞでいいじゃないか。空いてますけど、ってなんだ。気になるだろう。

 そんな気持ちが顔に出たのだろうか、青年は顔を上げると意を決したように言った。

「何度か、クレームを頂いたことのある部屋でして……」

「クレーム? トイレが流れないとか、部屋が汚いとかそういう?」

「いえ、部屋の設備自体に問題があるわけでは無いのですが」

「問題ないならいいじゃないですか、どうしても泊まれないですか、その部屋」

 そう言いながら、なぜ自分はこんなにムキになっているのだろうと思った。しかし3件連続で断られた上、このあと仕事で寄らなければならないところが残っている。早く決着をつけたかった。

「お願いしますよ。そんな些細なことでしつこく難癖つけたりなんてしませんから」

「…承知いたしました。では一泊のお泊りでよろしいでしょうか」

「はい」

 あとはいつもの手続きだった。しかし、ちょっと人の良さそうな青年はカードキーをこちらに押しやりながら、一言、気になる事を口にした。


「あの……お休みの際は間違いなく部屋の鍵を締めてお休み下さい」


 わかりましたと答えてキーを受け取る。ホテルでは鍵とチェーンを確認してから寝るのが習慣になっている。大丈夫だろう。

 しかし今夜の宿を確保した安心感とともに、言いようのないざわついた不安が胸に残った。



……続く!

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