04.重すぎて
むかし、酔った伯父が喋っていた話。
伯父が自宅の改築をした時のことだ。その間自宅に住むことが出来なかったため、知人を介してある空き家を借りた。
空き家とはいえ、数か月前まで人が住んでいたとのことで、荒れたり壊れかけたりと言うことはなく、きれいに掃除されていたそうだ。
しかし自宅よりはいくらか狭く、仮住まいでもあることもあって、開かなくてもよさそうな荷物はとりあえず納戸にしまっておくことにした。
小さな納戸の中央よりもやや右奥、そこに大きな樽というか、桶というか、とにかく木で出来た円筒形の容れ物がどっしりと置かれていた。大きなもので、高さと幅がそれぞれ1メートルはあったらしい。
きっちりと蓋がされていて、中は見えない。ロープというか荒縄のようなものでぐるぐるに縛られていたという。
変な匂いがするとか、何かが漏れ出しているとかそういう異常も無かったそうだ。
「これか……」
そういえば家の持ち主に挨拶に行ったとき、家の中は好きに使ってもらって構わないが、納戸に入っているものはそのままにしておいて欲しいと言われたことを思い出した。
とりあえずその樽のことはそのままにして、荷物を納戸に入れることにした。
しかし小さな納戸で、さらに大きな樽が鎮座していることもあり、荷物が入れ辛い。
「これ、もうちょっと奥の方へ動かしてしまおうか」
「でも、家主さんはそのままにしておいて欲しいって言ってらしたけど」
「これを外に出そうって言うんじゃないんだ、ちょっと奥へやるだけだろう、手伝ってくれよ」
「そうねえ」
妻とそんな話をしながら動かそうとしてみたが、これが大層な重さでピクリとも動かない。
まるで床とくっついてでもいるかのようだ。
「…駄目ね」
「仕方ないな、荷物は置ききらなかったら別の部屋に置くしかないかな」
「それがいいわね、まあ仮住まいのことだし」
その樽が二人がかりでも全く動かないので、あきらめて一旦休憩することにした。
お茶を飲んで一息ついていると、伯父の携帯に家主から電話がかかってきた。出ると、丁寧な口調で家主は言う。
「先だって申し上げた納戸の荷物のことなんですが、どうか動かすのもご遠慮いただきたく思いまして……」
まるで見ていたかのようなタイミングの良さに、伯父も暴れ出した心臓を抑えながら、わかりましたと言うしか無かったという。
改築の終わった自宅に戻った後も、時折あの樽のことを思い出しては薄ら寒い思いをするそうだ。