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KWAIDAN  作者:
3/21

03.すきま



 事務所の自分の机からよく見えるところに背の高い棚がふたつ据えられていて、その間が50センチばかり空いている。

 それ自体は何の変哲もないスチールの素っ気ない棚だ。製品のカタログやらサンプルやらあらゆる書類の類やら、そういったものが詰まっているよくあるアレだ。


 その棚の後ろを、時折誰かがスッと横切っていく。


 誰か、と言ったのは、それがどこの誰か、というか知っている人なのかどうかもはっきり判別できた事が無いからだ。さして広くない隙間を結構な歩速でスッと横切る。横切るタイミングも全く分からないし、仕事をしながらというのもあって、かろうじて人らしいと思うのが精一杯だ。そして大きな問題がもう一つある。


 その2つの棚は背後の壁にピッタリ付けて置かれていることだ。


 棚の後にスペースなどは全くと言っていいほど無い。後に入れるとしたら多分虫くらいのものだろう。ひらべったい小さいやつ。

 横切る人は間違いなく人のシルエットをしているし、何の苦も無く歩いているように見える。あのほんのわずかな空間を。


 初めて気づいた時には、仕事中であるのにも関わらず悲鳴を上げそうになった。それから一年は過ぎただろうか。何度見ても慣れることはない。

 ほら、今もまた横切った。顔を上げたまま、思わず小さく息をのむと、隣に座る先輩が囁くように言う。


「……誰にも言っては駄目よ、騒ぎになっても困るでしょう」

 何も言えずに彼女の方に振り向けば、何事もなかったようにキーボードを叩いている。


 見ていたのは自分だけではなかったのか、なぜ平気でいられるのか。騒ぎが困るとか、以前に何かありでもしたのか。

 常と変わらぬ様子の彼女の横で、どれに驚くべきなのかすらわからない。



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