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KWAIDAN  作者:
16/23

15.スペース



 ……もうだいぶ前の事だし、変な話だから誰にも信じてもらえないんだけど……まあ、嘘だと思っても話半分、てことにしておいてもらえればね。


 新卒で最初に勤めた会社での事よ。部品メーカーっていうか、まあちょっと大きめの町工場よね。事務所と工場が別の建物で、隣り合わせに建ってたわ。

 それで…朝出勤して仕事の準備なんかしてたら、事務所の向こうのほうがちょっとざわざわしてきて。何かしらって思って先輩に聞いてみたの。

「何かあったんです?」

「それがね、H君が来てないみたいなの。何か聞いたりしてる?」

「いえ…特には」

 確かに彼いつも早く来てるのに今朝は見てないって思って、よく聞いてみたら、駐車場に車はあるし、タイムカードも青になってるのに本人の姿だけが見えないんですって。

 もう朝礼も始まろうかって言う時間だし、それにその日は朝イチから取引先の方と一緒に試作に立ち会うって言う話だったから、早めに来る予定だったらしいのね。


 でもどこにもいない。


 で、そんな話をしてるうちに、もう一回部長がタイムカードを確認しに行ってくれたんだけど、その部長が妙な事を言うの。


「タイムカードは確かに青になってるんだけど、昨日の日付のままなんだ。今日の朝も、昨日の帰りも押してない」


 それって昨日家に帰ってないって事じゃない?

 事務所の方では最後まで残ってたのがH君だったらしいのね。現場の方に聞いてみても、誰も知らなくて。タイムカードは現場の入り口の方にあったんだけど。


 そうこうしてるうちに誰かが、本人に電話してみろって言い出してね。H君はアパートに一人暮らしだから固定電話引いて無くて、携帯しかないんですって。

 それで、誰だったかが電話をかけたんだけど……繋がると、こっちに呼び出し音が聞こえるじゃない? プルルルって。で、それが聞こえたと同時にね、


 事務所の何処かで携帯の着信音が鳴ったの。昔の黒電話のベルの音みたいなやつ。


 みんな自分のかと思って見てみるんだけど、違うのよね。そこにいる人のじゃなくて。

 で、H君の方は全く出ないから、かけてた人は一回切ったのね、そしたら、

 何処かで鳴ってた着信音も止まったの。


 Hの奴電話忘れていったんじゃないのか、もう一回鳴らしてみろよって、誰かが言って、それでまた掛けてみたら、やっぱり事務所の何処かで鳴るのよ。例のベルの音が。ジリリリって。


 もちろんH君は居ないわよ?

 だから皆で、電話切るなよなんて言いながらそのベルの音の行方を探してたら、部長がここから聞こえないかって、棚の方をさしてたの。

 事務所にありがちなあの何の変哲もない棚よね、書類とか製品のカタログとかサンプルとかが詰まってる、スチール製の素っ気ないあれよ。

 こんなところから? って言いながら下の方の大きい戸をガラって開けたら、ガタンってすごい音がして、


 H君が転がり出てきたのよ。入ってたサンプルと一緒に。


 ……笑うけど、本当なんだってば!

 まあでも、可笑しいわよね。戸は普通に開いた感じだったのに、大の大人がゴロンって。

 今は思い出してちょっと笑っちゃう感じではあるけど、その時はさすがに誰も笑わなくて、すごい騒ぎになって。

 当のH君は出てきた時意識がない感じだったから、驚いて救急車がどうとか言ってたんだけど、誰かが寝てる人起こすみたいに揺すったり名前呼んだりしたら目を覚ましたのね、普通に。


「……あれ? 何やってるんですか……?」


 なんて言っちゃって。

 何やってんのかわかんねえのはお前だよ!とか言いながら、何でこんな所入ってたのかとか、どうやって入ったのかとか、いつから入ってたのかとか、色々聞いたんだけど全然解らないって言うの。

 本人の話じゃ、昨日試作の準備とかで残業して、事務所で最後の一人になったところまでは記憶にあるけど、その後は全く覚えて無くて、気付いたら皆に囲まれてたって事みたい。


 そんなだから彼のことは皆心配したけど、昨夜からの記憶がないほかは、体のどこも悪いとこは無いって言って、結局救急車は呼ばなかったの。

 ただ不安だから、誰だったかは忘れたけど、一人彼に付き添って病院には行ってもらったのよね。お腹空いてた以外は別に異常とかはなかったって聞いたわ……頭の方もね……。


 まあH君の悪質なイタズラかも知れないけど、こんな大掛かりな事やって、得るものとかって別に無いと思わない?

 それに彼、イタズラ好きどころか至って真面目な優しい子で、わざと人に迷惑かけるような事なんて全然しないんだから。本当よ。ちょっと抜けてるとこはあったけど、仕事もちゃんと出来たし。

 事務所の鍵も朝ちゃんと閉まってたって言うのも妙といえば妙よね。まあ内側からもかけられるけど、セキュリティもちゃんとかかってたそうだし。


 ……それにね、わたし先輩とふたりでH君と一緒に棚からこぼれてきたサンプルなんかを片付けたんだけど、戻してみたら人が入るようなスペースなんて無かったのよ。こう体を折り曲げても……無理でしょうね。先輩が猫くらいしか入れないわねなんて言ったのはっきり覚えてるわ。

 本当、あんな狭いところにどうやって入ってたのかしら。不思議よね。


 その後その棚の辺りで変なものを見たとかそんな噂も聞いたりしたけど、わたしもH君ももう何年も前に辞めちゃったし、今どうなってるのかとか、彼がどうしてるのかとか、その辺はよくわからないな。


 まだあるのかしら、あの棚。



試作が結局どうなったのかは、誰の記憶にもない。

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― 新着の感想 ―
やだやだ棚開けるとき身構えるようになっちゃったじゃないですかー! 奥行き猫サイズの書類棚が職場にあるのにー! すっごく怖かったのに、試作で大笑いしました。 まさかホラーのオチにコメディのオチ被せてく…
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