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KWAIDAN  作者:
11/23

10.すれちがってから



 4月から転職し、勤務先が変わった。新しい職場は以前の職場よりだいぶ近い。徒歩で20分ほどだろうか。ガソリン代の節約と、健康のために歩いて通うことにした。

 家と職場は距離こそそう無いが、間に駅があり、職場は正面北口、家は南口のほうだ。田舎の駅のことで連絡通路などという気の利いたものはない。駅のすぐ横にある歩道橋を渡って通勤していた。


 新しい仕事にもだいぶ慣れてきた頃、残業のために帰りが遅くなった。いつもは明るいうちに帰れていたが、その日はだいぶ暗くなってからの帰宅だった。日が暮れてからの帰宅は初めてだったように思う。

 階段を登りきった所で、年配の小柄な女性と行き当たった。少しだけ身を避けるようにしてすれ違う。この歩道橋の階段は結構、急だ。今の人杖もついていたし、大丈夫だろうか、そう思って何げなく振り返った。


 すると、ついさっきすれ違った女性の姿はどこにも無い。


 たった今の事じゃないか。階段の上でもあるし見通しはいい。もう遠くへ行ったのか……こんなわずかな時間で。額にじわりと汗がにじんだ。

 小さく首を振ると、気のせいだったのだと自分に強く言い聞かせながら、早足でその場を去った。


 それだけで終わっていたなら、疲れとか気のせいとかで済ませる事が出来ただろう。

 しかしそれでは終わらなかった。


 それから一週間ばかり経った頃のことだったろうか。

 また残業帰り、日はもう暮れていた。暗くなった歩道橋のちょうど真ん中あたりだろうか。見慣れぬ制服の女学生とすれ違った。どこの学校だろうと何げなく振り返ると、彼女の姿はどこにも無かった。

 俄に数日前の記憶が蘇り、背筋に寒気が走る。

 そのまま小走りで家に向かった。


 それ以来、暗い中その歩道橋を渡ると、必ず誰かとすれ違うようになった。老若男女は様々である。中年らしき男性、着飾った若い女性、中学生くらいの男子生徒。


 そして皆一様に、振り返ればいなくなっているのだ。


 わざわざ確認せずに目をつぶって歩き去ってもよさそうなのだが、どうしてもそうせずにいられないのだ。恐ろしい。だが振り返らずにはいられない。もはや理屈ではない。

 この歩道橋以外の場所や、日が明るい時にこの現象に出会うことは無い。


 別の道を通ればいいと考える事もあるのだが、線路を超える陸橋も、線路の下をくぐるアンダーパスも、駅から微妙に離れていて、歩いて行こうとすれば倍近い時間がかかるのだ。今のところ毎日残業があるわけでも無いし。


 しかし、今はまだ日が長いからよいが、この先夏の終わりに向けてどんどん日が短くなっていくだろう。

 やがて就業時間が終わる頃には真っ暗、なんていう季節がやって来る。そう遠くない先に。

 そうなると毎日のようにこの、身の縮まる様な思いをする事になる。かと言って寒くなる頃に遠回りをするのも辛い。


 非常に悩ましい事である。



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