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羽坂友菜は円卓を回す〜〜最強スキルで社会人一年目からやり直そうとしたら、まさかのクビ!?〜〜  作者: 名無之権兵衛


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第42話「泣き地蔵」

 2022年2月20日 19時45分。

 東京・赤坂見附 京懐石・燕亭 店内。


「まさか君たちが繋がってるとはね……」


 個室に通されると、鷲山銀華はあからさまに不機嫌な表情をして見せた。先ほどまで頬を赤らめる従業員に対して営業スマイルを披露していたのだから、その落差と言ったら俳優顔負けだろう。


 滲んだ視線で隣に座る鉄治と向かいに座る友菜を交互に見る。


「いつからだ?」

「今年はじめくらいよね」


 鉄治の問いかけに友菜は「そうです」と背筋を伸ばす。銀華に対しては至って自然体なくせに鉄治には一定の緊張感を持っている。それが銀華にとってはむず痒かった。


「たまたま偶然、友菜ちゃんとすれ違ってね。そういえばまだ連絡先交換してなかったと思って交換したのよ〜」


(要はお前のせいじゃないか!)


 銀華はできる限り最大限のドギツイ視線で鉄治のことを見た。それでも鉄治は「いや〜ん、銀ちゃん怖〜い♡」とぜんぜん怖がっていない素振りをする。


 効果なしの攻撃を切り上げると、銀華は再び前を向いた。


「それで、羽坂くんと……」


 彼女の隣に座る東崎を見る。東崎は背筋を伸ばすと、「戦略事業本部の東崎です」と改まった声で言った。


「羽坂くんと東崎くんはどうして燕亭に入りたかったんだ」


 二人はこれまでの経緯を説明した。三賀森物産のこと、契約破棄に関する円卓決議のこと、康代のこと、そして彼女と対戦相手の井場がこの料亭に入って行ったこと。


「確かに臭うな」


 銀華は日本酒(純米大吟醸)を一口飲むと、前菜(イクラの黄金漬)を摘んだ。


「どこの世界にも悪徳業者はいる。特にコンサル業界は尚更な。だから一大企業が悪徳業者に騙されるってことも珍しくはない。だが、問題はそこに我が社の社員が関わっているというところだ」


 そう言って彼は中居を呼んだ。二十代前半の若い女性が個室に入ってくる。


「今夜、この店に三賀森康代という人物は来ていないか?」

「申し訳ございません、お客様。他のお客様の情報を教えることはできかねまして……」

「うちのお得意さんでな。来てるかだけでも知りたいんだ」


 彼の爽やかな営業スマイルに中居は頬を真っ赤にすると、どうしたものかと正座したままモジモジし出す。


「大丈夫。先方に迷惑をかけたりはしないから。君が言っていた、ということも誰にも言わないでおく」


 まるで秘め事についての話を聞いた少女のように顔を真っ赤にさせた中居は、やがて「『睡蓮の間』でございます」と言った。


 鷲山は「どうだ」とでも言いたげに友菜たちのことを見た。東崎はすぐに頭を下げ、友菜はポカンとした表情で取締役のことを見る。


「レコーダーはあるのか?」


 鷲山は目を伏せ、日本酒に口付けした。


「は、はい。スマホのものを」

「なら良い。これ以上は手伝わないぞ、いいな」


 視線を上げた鷲山に友菜は黙って頭を下げた。




   ***




 2022年2月20日 19時55分。

 東京・赤坂見附 京懐石・燕亭 店内。


 睡蓮の間は友菜たちがいる楓の間とちょうど真反対の位置にあった。トイレに行くという口実で部屋から抜け出した友菜と東崎は見慣れない建物の中を彷徨いながらも、なんとか目的の部屋までたどり着いた。


 燕亭の作りは典型的な日本家屋で、建物を縁側がぐるりと囲み、各部屋に繋がっている。木柱に「睡蓮の間」と書かれた名札がかけられていることを確認すると、二人はしゃがんで中の様子に耳をそばだてた。


 聞こえてきたのは見知らぬ男の声と、見知った女性の声。


「申し訳ございません。今週はこれでご勘弁ください」

「なんですか、これ。奥さん、こんなの受け取れませんよ」


「そこをなんとか…………」

「そんなこと言われてもねぇ。欲しいのは菓子折りじゃないんだよ」


「しかし……」

「奥さんもここまでかな」


「そ……それだけはご勘弁ください。お願いします。この通りです」

「どうしよっかなぁ」


「なんでもします。なんでもしますから……」

「ん〜、じゃぁ阿波踊り踊って見せてよ。徳島出身なんでしょ」


「そ、それで許していただけるのですか?」

「まあ出来次第だけどね」


 しばらくして「ヨッ、ハッ」と中年女性の掛け声に合わせてドタドタと畳を踏む音が聞こえてきた。


「アハハハハ、いいぞッ。ソレッ、もっとやれ」


 合わせて聞こえる笑い声と合いの手。


 腹の底から沸々と湧き上がる感情があった。これが純正の「怒り」であることに気づくまで友菜はしばらく時間がかかった。たとえこの襖の奥にいる中年女性が三賀森康代でないとしても、あまりにも惨すぎる。


「いやぁすごいですね、浅田さん」


 しばらくして別の男の声が聞こえた。


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