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第五話:収穫

 また別の街の、とあるハードウェアストアにて。


「うーん…」


「さっきから何やってんだ?」


 ニコが使えそうな道具を探している間、ザグはスコップや熊手などの長い棒状の物を集めて観察していた。


 彼はしゃがんだ状態で、「いや、あの鉄パイプみてえな武器ねえかなーって…」と言った。彼のスニーカーは両方とも新しくなっており、今回は返り血があまり目立たないような赤色だった。


 ニコは目の前の棚にあったドライバーをダッフルバッグに入れ、微笑みながら、「あれが気に入ったのか?」と言った。


「やっぱ敵をぶん殴れる武器の方が性に合うんだよ。まあ、これから戦うバケモンも毒持ちだろうし、どうせ使い捨てになっちまうけどな。」


「でも複数運ぶのは難しいだろ。」


「ああ。だからまともな武器が見つかるまでは、現地調達のオンパレードだ。」


「毎回新しい物を探すつもりか?大変だな。」


「仕方ねえだろ。お前が銃しか持ってねえから。」


「悪かったな。」


 ザグは結局、アルミ製の野球バットにダクトテープを巻くことにした。


「毒持ちの奴と接触しても、テープを剥がせばまた使えるかもしれねえだろ?」とザグは自慢気に言った。


 だがニコは腕を組み、複雑な表情で、「嫌な予感しかしないな…」と言った。


 ザグはムッとなり、「ンだよ。信じねえのか?じゃあ次の戦いで見せてやるよ。」と言った。


「くれぐれも気をつけるんだぞ。俺の薬草だけじゃ治せない場合もあるんだからな。」


「前にも言ったろ?同じ手に二度も引っかからねえって。」


「頼むぜ、ホント…」


 ザグはバットを、ニコはさらにパンパンになったダッフルバッグを持って店を出た。


 そしてゴミだらけの狭い道を進みながら、ザグはニコのダッフルバッグを見つめ、「にしてもその鞄、めちゃくちゃ重そうだな。肩ちぎれねえのか?」と言った。


「軍にいた頃は、もっと重い物を運ばされてたからな。これくらい慣れてる。」


「ふーん…」


 ニコは微笑みを浮かべ、「何だ?心配してくれてるのか?」と言った。


「違ぇし。俺だったら絶対やってらんねえわって思っただけだ。」


「そうか。」


 するとその時、近くから誰かの声が聞こえた。うめき声のような、苦しそうに絞り出した声。


「誰か…」


 数メートル先の路地から、ボロボロな服を着た一人の男性が姿を現した。彼は片手で首を押さえ、ふらつきながら歩いていた。


「誰か…助けて…」


 そう言って、男は倒れた。


 ニコは「おい!」と言って、ザグと共に男の元へ駆けつけた。彼は男の側でしゃがみ、「大丈夫か?しっかりしろ!」と言ったが、首を押さえていた手をどけた瞬間、その場で固まった。男の首筋にあったのは、今まで何度も見てきた、あの注射の跡だ。


「これは…!」とザグが後ろで呟いた。


 ニコは立ち上がり、ハンドガンに手をかけたまま、何歩か後ろに下がった。


 男は苦しそうな声を上げながら、「マーチャンツ…ウェアハウスへ…行くな…!あそこは危険だ…!ネオの…基地が…」と必死な眼差しで言った。


 ニコは目を丸くし、「ネオの…!?」と言った。


 だが男はそれ以上何も言えず、ただ叫び声を上げた。そして、彼の首筋がボコッと腫れ、大きく開いた彼の口から、何かが出てこようとしていた。


 ニコが「気をつけろ!来るぞ!」と言ってハンドガンを構えると、ザグも隣でバットを構えた。


 男の口の中から現れたのは、手なのか足なのか武器なのかわからない、黒い鎌のようなもの。その後、もう一つの鎌が現れ、徐々に頭部と体が見えてきた。そして、この二つの鎌が腕であることが判明した。男の口を裂いて出てきた生き物は、地に足が着いた直後、その場でどんどん大きくなり、やがて車一台くらいの大きさになった。


 ザグはニヤリと笑いながら、「ほう、カマキリか…なかなか斬新じゃねえか。」と言った。


 その生き物は、まさにカマキリのような見た目をしていたが、全身が黒曜石のように漆黒であり、触覚がなかった。目も一般のカマキリと違って、顔の中心に小さな赤い点があるだけだった。ビー玉のような目玉はギョロギョロと動いた後、真っ直ぐにザグ達を見つめた。


 カマキリがキエーと声を上げながらザグ達の方へ飛んでくると、二人は再び反対方向へ避けた。そしてニコが横で銃撃を始めている間、ザグはカマキリの背後を取ろうと考えた。


 ニコはカマキリが振り下ろす二つの鎌を避けつつ、片手でショットガンをダッフルバッグから取り出しながら、もう片方の手でハンドガンの引き金を引いていたが、彼が放っていた銃弾はカマキリの外骨格に傷すら付けられなかった。


「やっぱ堅いな…なら…!」と呟いたニコは、素早くハンドガンをホルスターに戻し、カマキリの突進攻撃をもう一度躱した後、ショットガンでカマキリの目玉に向かって連射した。しかし銃弾は全て二つの鎌によって弾かれ、本体には全くダメージを与えられていなかった。


 一方、ザグはカマキリの後ろでバットを構え、タイミングを見計らっていた。


「頼んだぜ、相棒…!」とバットに向かって言った後、彼は走り出し、高く跳び、バットをカマキリの頭の天辺に思いっきり叩きつけた。すると、頭を覆う殻にヒビが入り、カマキリはフラッとバランスを崩しそうになった。チャンスだと思ったザグは、着地した直後、横からもう一発入れ、カマキリを数メートル先まで飛ばした。その衝撃でバットにかなりヒビが入ったが、同時に、カマキリの外骨格の一部も卵の殻のように割れた。


「殻、破っといたぞ!一つ貸しだかんな!」とザグはニコに言った。


 ニコはニヤリと微笑みながらショットガンを構え、「感謝するぜ、ザグ!」と言って連射を再開した。露出していた内部に直撃した銃弾は、カマキリに確実なダメージを与えた。だが、カマキリが自分の身を守ろうと、必死で鎌を振り回していたため、銃弾は弾かれ続けた。


 ニコが銃弾を装填しながら、「クソ…あの鎌が邪魔だな…!」と言うと、ザグは再び考え始めた。あの鎌をどうにかするには、カマキリの腕を奪う必要がある。それ自体は簡単だ。けど、このカマキリも毒持ちかもしれない。念の為、直接触れない方がいいだろう。それに、腕をもぎ取った瞬間、きっと返り血を浴びることになるだろう。それだけは絶対に避けられない。


 ザグはバットを投げ捨て、「チクショー…結局こうなるか…」と呟きながらデニムジャケットを脱ぎ、それを右手に巻いた。指も手首も、全て覆うように。そして左手を後ろに隠し、カマキリの方へ走り出した。


 彼が動くのを見て銃撃を止めたニコは、「ザグ!?」と言った。


 カマキリが左側の鎌を振り上げた瞬間、ザグはもう一度高く跳び、カマキリの左肩に着地した。そして彼はジャケットに覆われた手でカマキリの左腕を掴み、左肩を蹴って後ろに跳びながら腕をもぎ取った。腕の付け根から紫色の血が飛び散ったが、計算通り、少し離れた所に着地できたため、ザグはほんの少しの返り血しか浴びなかった。それも危険かもしれないが、大量に被るよりはずっとマシだろう。


「今だ、ニコ!!」とザグが言うと、ニコは再び引き金を引き、カマキリがもう片方の鎌を振りかぶる前に、一気に内部に向かって連射した。そしてカマキリはかなりのダメージを受け、後ろに倒れた。


「ザグ!離れてろ!」と言ったニコは、ベルトから手榴弾を取り出した。


 ザグが急いで自分の方へ走った後、ニコは歯で手榴弾のピンを抜き、それをカマキリに向かって投げた。手榴弾は数秒も経たないうちに爆発し、カマキリは高い声を上げながら炎に包まれた。ようやくカマキリが動かなくなると、ザグとニコは同時にふぅとため息をついた。


 しかし、安心している場合ではなかった。


 ニコはハッとなり、「ザグ!お前、体は!?」と言った。


 ザグはジャケットを解きながら、「あ?まだなんともねえけど…」と言った。


「そのうち毒が回り始めるかもしれないだろ!どうしてあんな無茶を…」


「仕方ねえだろ。鎌が邪魔だったんだから。」


 ニコは冷静になれと自分に言い聞かせ、ダッフルバッグを漁りながら、「とにかく、まず血を拭いて、それから薬を作らないと…ザグ、服を脱げ。」と言った。


「えっ…ここでか!?」


「その辺の店に入ってもいいから早く!」


 ザグは「ったく…大袈裟だな。」と言いながら、一番最初に目に入ったバーの方へ歩いていった。


 ーーー


 現在パンツ一丁になっていたザグは、ニコからもらった毛布で傷跡だらけの体を覆い、バーのカウンター席に座っていた。そして彼が作った薬を、再び飲んでいたのだ。


「オエッ…!苦ぇ…」


 ウィンドブレーカーを脱ぎ、内側の黒いTシャツを晒した状態で隣の席に座っていたニコは、「文句言うな。良薬は口に苦し、だぞ。」と言った。


 ザグは思いっきり顔をしかめたまま、「前言撤回だ…気絶してた方がマシだったぜ…」と言った。


「ったく…本当に危なかったんだからな。最近の生体兵器には、どんな危険物が含まれてるのかわからない。一応、手は尽くしたつもりだが…」


 ニコはそう言って、自分の目の前にある手拭い、消毒スプレー、そして残った薬草を見つめた。


 すると、ザグはじっとニコの方を見つめ、「…お前がそんなに焦ってるの、初めて見たな。」と言った。


 ニコは「焦るに決まってるだろ。」と言い、少し寂しそうな表情で下を向いた。「俺はもう…誰も失いたくないんだ。」


 こんな時、何て言ったらいいかわからなかったザグは、「…そうかよ。」とだけ呟いた。


 しばらく沈黙が続いた。人間が二人も同じ場所に座っているのに、誰もいないようだった。バーの中が、まるで彼らが来る前の空っぽな空間に戻ったかのように。


 ザグはため息をつき、頭をかきながら、「まあ…一応収穫はあったな。次の行き先がわかったじゃねえか。」と言った。


 ニコは小さく微笑み、「…そうだな。」と言った。「体は大丈夫そうか?」


「元々何の異常もなかったんだよ。」


「それは俺の薬のおかげかもしれないだろ?」


「っるせえな。どんだけ自慢すりゃ気が済むんだ。」


 ニコは笑いながら、「悪い悪い。」と言った。


 表情ががらりと変化したニコを、ザグは再びじっと見つめ、そして「…お前、俺といて楽しいか?」と言った。


 ニコは突然の質問に目を丸くした後、微笑みながら、「ああ、楽しいさ。」と自信を持って言った。


「ふーん…」


「そういうお前はどうなんだ?」


「俺は…」


 ザグはそっぽを向き、少し手をもじもじしながら、「悪くねえ…かも。」と呟いた。


「ならよかった。」


 ニコは立ち上がって手を上に伸ばし、「さて…とりあえず、お前の新しい服を探さないとな。」と言った。


「えっ…今の服はどうすんだよ?」


「どうって…捨てるしかないだろ。」


「は!?なんで!?」


「一応除菌はしてみたが、やっぱり危険かもしれない。」


「お前がそう思ってるだけかもしれないだろ!」


「俺は常に最悪の事態を考えて行動する。予測しかできないこの状況で、迂闊に動くわけにはいかない。さっきも言ったように、俺はお前を死なせたくないんだ。頼むから言うことを聞いてくれ。」


 ザグはニコの切実そうな表情と口調、そして圧倒的な正論に対して、何も言い返せず、「ンだよ、勝手に決めやがって…」とだけ言った。


「俺が探してくるから、お前はここで待ってろよ。」


 ザグは「わぁったからとっとと行きやがれ、このにんまりクソ兵士が!」と言ってその辺に転がっていたカクテルシェーカーを拾い、それをニコに向かって思いっきり投げた。


 だがニコはいとも簡単にそれを片手でキャッチし、「お褒めに預かり光栄だ。」と言って、下手投げでザグに返した。


 そして微笑みながら出ていく彼を見て、ザグはさらにムカッとし、「あの野郎…いつかぜってぇ出し抜いてやる…!」と唸った。


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