エピソード1-1
宇宙で大艦巨砲やりたかったんです・・・・
人類が宇宙へと進出してから既に5世紀が経過している時代、未だ戦火とは決別できていない。
そんな世界の戦場での一コマ、やがて記録に埋もれ当事者たちがこの世を去ってしまえば忘れ去られてしまうそんな小さな戦い。
荒れ狂うプラズマが虚空を切り裂き、準光速域にまで加速されたミサイルが飛び交う最中に“彼女”は居た。
シリウス星間連盟統合宇宙艦隊のベルセフォネ級戦艦の4番艦として建造された彼女、アンフィトリテのCIC(戦闘指揮所)は統制された混乱とでも言うべき状態にあった。
「第四斉射、敵艦を夾叉」
「ようし、熨斗付けてやられた分返すぞ!効力射に切り替え」
「第五斉射、ファイア」
「敵、第八斉射、来ます!」
「右舷第7デッキの被弾箇所ダメコン班到着、処置開始します!」
「打撃巡航艦ティンダロスより入電、ワレ機関部ニ被弾、追従不能」
ようやく射弾が敵艦を捉え、部下に悟られない無いようにそっと息をついた艦長と砲術長が、お互いを目にとめ両者ともに目の中にだけ苦笑を浮かべる。
責任者、しかも軍艦のソレともなると表情にすら気をつけねばならない、指揮官とは常に注目されているからだ。
「砲術長、なかなかにいい感じじゃないか、我が艦の乗組員は、状況は些か厳しいようだが」
「最悪の状況を想定した前回の訓練航海に比べたらこの程度、鼻唄交じりでこなせるように訓練したのは艦長じゃありませんか、まぁ相手はカラドボルグ級ですがやってやれない事もないでしょう、あのクラスは最近まで全艦が改装工事を受けてたはずです、練度が極端に高いとは思えませんね、現に本艦がマトモに遣り合えてます」
副長の配属が間に合わなかった為に副長も兼任している女性士官に話しかけた、頭の回転の早いらしい彼女は艦長の意図が判ったらしく、陽気な調子で言葉を返してきた。
「この程度の戦況でピンチなんて言ってたら……、接触戦争の序盤で征った連中に顔向けできんよ」
「まぁ装備も艦も今とは段違いだったそうですからね、悪い方に……、左右はいい、上下角を-0.003次は直撃をくれてやれ」
星系外縁部での船団護衛中に発生した今回の戦闘は既に、両軍が戦隊単位での増援戦力投入を行っており、アンフィトリテを旗艦とする第五艦隊第十三戦隊はその増援第一派として戦闘加入、殆ど同時に到着した敵艦隊の増援と同航戦(要は正面切った殴り合い)に突入していた。
アンフィトリテが属するベルセフォネ級は統合宇宙艦隊が運用している戦艦クラスでは一番古い上に、艦隊が再編成されて間もなく乗組員の練度も低下していた、漸く戦隊単位の訓練に入ったばかりで今回の戦闘に駆り出され、止めに僚艦のもう一隻の戦艦クラスの艦は入渠中だった為に戦隊全力での出撃すら叶わなかったのである。
対して敵艦のカラドボルグ級戦艦は統合宇宙艦隊がベルセフォネ級の次に建造したエスタナトレーヒ級戦艦に対抗して太陽系連合が建造したクラスで完全に向こうの方が一世代新しい艦級で兵装はワンランク上の艤装が施されている、二度の近代化改装を経ているとは言え、アンフィトリテが相手どるには些か荷が重い相手には違いなかった。