《短編版》無実の罪で女勇者パーティを追放された遊び人、とっくに【賢者】だったことが判明する ~お願い!あなたが戻ってきてくれないと私たち娼館堕ちしちゃうの……と後から懇願してももう遅い~
「あんたはクビよ。カイト」
ある日、女勇者のレフィアに呼び出されて、急にそんなことを言われた。
「え……どういう意味?」
僕はすぐに理解できず、ぼうぜんと聞き返す。
レフィアは旅人風の服にツンと胸を張って答える。
「そのままの意味よ。そもそも、あんたみたいな職が『遊び人』のクズ、わたしたち女勇者パーティにふさわしくないとずぅーっと思っていたの」
「な、なにを……」
あまりのことに言葉を失っていると、それを聞いていたパーティの他のメンバーたちも囁きだす。
「あはははは(笑)ちょっとレフィ、それ正直すぎるしー。あはははは! チョーウケるんだけどぉ」
「さすがレフィアだぜ。オレたちの言えないことを平然と言ってのける!」
笑いすぎの聖女のノーラは純白の法衣をパタパタと振って拍手し、男のような口調の女戦士のベラはビキニアーマーに一番大きな乳房をぷるんと揺らしながらこちらを蔑んでいる。
「ふふーん♪」
メンバーたちの支持に気をよくしたらしいレフィアはさらに胸を反らして続ける。
「同郷だしね。今までクズは承知でパーティに加えてあげていたのだけど……今日という今日は許せないわ」
「許せないって……何が?」
「とぼけないで。今朝、私のパンツが一枚なくなっていたの。盗まれたのよ」
「なんだって!」
僕はクビを宣告されたのも忘れて、仲間の下着を盗んだ犯人に怒りを覚えて叫ぶ。
「許せない! 町の自警団には届け出たのか?」
「その必要はないの。犯人はわかっているから」
女勇者レフィアはひとさし指をビシッと僕へ向けて言った。
「あんたでしょう。私のパンツ盗んだの」
「……へ?」
僕はまた意味がわからず固まってしまうが、しだいに疑いの重大性に気づく。
「ち、違う! 僕がキミに……仲間にそんなことするわけないだろ?」
「えー、マジー? チョーきもいんですけどぉ」
「そこまでクズだったとはな」
聖女のノーラと女戦士のベラも決定的に僕へ敵意を向け始めた。
「違うって言ってるだろ!! 信じてくれよ、仲間だろ」
「ぷっ(笑)何が仲間よ。仲間っていうのはね、対等な関係の者どうしのことを言うの。あんたみたいな遊び人、最初から仲間なわけがないでしょう?」
「レ、レフィア……」
「うっとおしいわね! これ以上口答えするなら罪人として城へ突き出すわよ。それがイヤならとっとと私の目の前から去りなさい」
僕はなんとか無実を晴らそうと頭を巡らせるが、美少女三人の生ゴミでも見るかのような視線で、もう何を言っても覆らないことを悟った。
「……わかったよ」
そう言って背を向ける。
「僕はパーティを去る。それでいいんだろ?」
「ちょっと待ちなさい!」
ところが、宿の部屋を出ていこうとする僕を、レフィアは止めた。
少し希望が湧いて振り返るが……
「なにそのまま出ていこうとしているの? お金と装備とアイテム、全部置いていきなさいよ」
すぐに絶望に落とされる。
「な、なんで? これは僕の分け前……」
「言ったでしょう? 仲間って言うのは対等な関係の者のことを言うの」
「そうそう。仲間でもねえヤツに分け前なんてあるわけねえよなぁ」
「あははは! ヤバぁ。明日からお金もアイテムもなくちゃ死んじゃうねーwww」
「っ……」
「なによその目。遊び人で下着ドロボーのクズのくせに……こっち見んじゃないわよ!」
レフィアはそう言って僕の頭を思い切り殴った。
「うう、痛い……」
「ふん、気持ちわるいんだから。あんたのアイテム・ストレージの中も全部出して、さっさと出ていってよね!」
こうして僕は決定的にパーティから追放されたのであった。
◇
女勇者パーティが泊まっていた宿を出ると、僕は町を出て、森を行った。
「うーうーうー(泣)」
涙が止まらない。
けっきょく装備も、アイテムも、お金も、すべて取り上げられてしまった。
でも、それよりも……
仲間に信じてもらえなかった。
そのことが悲しくて、涙が止まらないんだ。
「きゃああ!」
そんな時、森の向こうで絹を切り裂くような悲鳴が聞こえる。
涙は止まっていた。
非常事態は人を瞬間非情にさせる。
僕は悲鳴のした方へ走っていった。
「どうしたんですか?」
しばらく行くと横転している馬車があり、そのそばに商人風の男たちと町娘風の女性が数人倒れていた。
「ううう、痛てえ……」
「ブ、ブルードラゴンがあらわれて」
「この辺りには出現するはずがないのに」
僕は彼らの怪我を回復してあげながら状況を聞く。
「痛てえ、痛てえよお……って、あれ? 痛くない」
「あら、本当!?」
「ワシなんぞ頭髪も復活したぞい! ラッキー!」
回復が済むと、みなさん落ち着いてきたようだ。
「それでブルー・ドラゴンはどこに?」
「あっちだ。今護衛の冒険者たちが戦ってくれている」
「そうですか。ありがとうございます!」
礼を言うと、僕はそちらへ駆けて行く。
ギャオオオオ……!!
ブルードラゴンは、あたりの木々をなぎ倒しながら二人の冒険者と対峙していた。
冒険者は、槍を持った男がひとり、弓を持った長髪の男がひとりである。
「くっ、なんて野郎だ」
「……ここまでか」
二人とも熟練の冒険者に見えたが、相手が悪い。
ブルー・ドラゴンはA級の魔物。
槍の男は頭から血を流し、弓の男は脚をやられている様子である。
「伏せて!」
僕がそう叫ぶと、二人はさすがに冒険者で、瞬時に身をかがめた。
同時に、ブルー・ドラゴンの口から『凍えるブレス』が放射され、彼らの後ろの木が一瞬のうちに氷り、砕けた。
「う、危ないところだった」
「なんだお前は?」
二人は僕の存在に気づいて尋ねるが、今はそれに答えている場合ではない。
ギャオオオ!
ブルー・ドラゴンが二発目のブレスを吐き出そうとしている。
「不死鳥の業火!」
僕は右手をかざし、炎属性の魔法を放った。
ゴオオオオオオオオ!!!!!
不死鳥型の炎は螺旋を描き、凍えるブレスをかき消すと、そのままブルー・ドラゴンの巨体を巻き込み、燃え盛った!
ギャアアアアアス……
よし、効いたみたいだ。
炎が消えると、ブルー・ドラゴンは丸焦げで横たわっていたのであった。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「おかげで助かりました!」
戦闘が終わると、馬車の人々が駆け寄り、僕を取り囲んだ。
「ええと……その……」
そんな経験は初めてだった。
これまでクエストが終わると称えられるのはレフィアたちで、その間に僕は先に彼女らのご飯を作ったり、掃除や洗濯をしていたのだから。
別に感謝されるために人を助けるわけじゃないけど、「ありがとう」という言葉はやっぱり心に染みた。
「おい、あんた助かったぜ!」
そこで槍使いの男が俺の手をギュッと握って言う。
「あんたみたいな強い男に会えるなんて光栄だ。名前はなんて言うんだ?」
「ええと、僕。カイトっていいます」
「カイト? そんな魔法使い、聞いたことがねえな」
訝し気にこちらを見る槍使いの男。
「あ……いや、僕の職は魔法使いじゃありません。遊び人なんで」
「遊び人だと?」
これに弓使いの長髪の男が反応する。
「ドラゴンを一撃で屠る魔力、毛根すら再生する回復魔法……そんな遊び人がいるわけがないだろう。いい加減にしろ!」
「そう言われましても……」
村を出て行く時にステータスを測った時に『遊び人』と出ていたから間違いないと思うんだけど。
「旦那、旦那!」
そこに馬車引きのおじさんが割って来て言う。
「我々はちょうどレインピアの都へ行くところですんで、御用がなければ一緒に乗っていかれませんか?」
と、馬車引きのおじさんが言う。
レインピアか。
ずいぶん遠くまで行くんだな。
もともとレフィアたちから離れなきゃと思って森を進んでいたわけで、ちょうどいいとは思うんだけど……
「すいません。そうしたいのは山々なんですけど、僕、お金持っていないんです」
「なにをおっしゃいます!? カネなんざいらねえんですよ」
「え、それじゃ悪いし……」
「旦那のような強えお方が乗ってくだされば安心なんです。カネならこちらが払わなきゃいけねえくらいですよ」
そこまで言うならということで、馬車に乗せてもらうことにした。
ヒヒーン……!
馬車は直り、出発する。
「さようなら、レフィア」
僕は来た道を振り返り、つぶやいた。
◇ ◆ ◇
「やれやれ、邪魔なヤツがいなくなってせいせいするわね」
女勇者レフィアはカイトを追放した後、機嫌よくベッドを跳ねた。
「でもよ。パシリがいなくなってこれからちょっと不便かもしれねえぜ?」
「大丈夫よ。そのつど召し使いを雇えばいいわ。あんなのの代わり、いくらでもいるんだから」
つくりだけは綺麗な顔を枕にうずめて答えるレフィア。
「それよりアタシのパンツを盗むヤツなんて最低でしょ?」
「たしかに、これ以上一緒にいられても気持ち悪いだけだぜ」
「でしょ、でしょ? あのパンツ、お気に入りだったのに」
そんなふうにレフィアとベラが言い合っている時だ。
「あっ……」
聖女のノーラが小さく声をあげた。
「どうしたの? ノーラ」
「……これ」
ノーラは少しだけバツが悪そうに、自分の荷物からイチゴ柄のパンティを取り出した。
「それ、アタシのパンツ……」
「ごめーん。私の荷物の中に混じってたみたい」
三人の美少女は顔を見合わせて数秒黙る。
「ま、いいんじゃねえか?」
「もともと役立たずだし、イイ機会ね」
「あはははは! ヤバぁ!(笑)」
彼女たちはまだ知らなかった。
カイトの抜けた穴の大きさを。
そして、これから度重なるクエストの失敗で莫大な借金を背負うことになることを……
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