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君がくれた永遠  作者: 虹まぐろ
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運命のイタズラ

 マンションを出て海を背にして、国道に繋がる坂道を登ると、高台にある公園が見えて来る。僕は海を見ながら公園に続く階段を登り、水平線の向こう側に消えていく夕日を眺める。陽はゆっくりと沈み、夜の帳が降りて空を少しずつ黒く塗り替えていく。闇に染まっていく空にはダイヤモンドよりも力強く光す輝く星たちが顔を出し始めて僕を照らし、疲れて病んだ僕の傷ついた心を、優しく癒してくれる。


「ああ、なんで、世界は、こんなにも優しいのに・・・・・・」


 僕、青山宗介14歳は、彼女と初めて出会った公園の階段を前にして、今日の出来事を思い出して、淡い恋心が流させる傷心という名の涙を拭うことさえも忘れて、まだ空に見る事が出来ない夏の大三角とも言われる、織姫星ベガと彦星アルタイルを必死に探しながら、


「月城さん・・・」


と、切なさと言う鎖に心を縛られながら、彼女のことを考えて名前を呼んでいたんだ。


 後から冷静にこの時の自分の状態を振り返ると、間違えなく僕の黒歴史の上位に食い込んでくる思春期のセンチメンタルなポエマーな事件であり、誰にも知られることなく絶対に墓まで持って行かなければならないと思えるものだった。でも、運命は時として残酷で、残忍で、僕をあざ笑うかのように次々と過酷な試練を課してくるんだ。

 

 この時もそうだった。僕は、僕の後ろに忍び寄る偶然という名前の運命に気がつかないままに自分の感傷に流されていた。



「月城さん・・・」

「はい」

「月城さん・・・ごめんよ・・・僕はただ、僕はただ君の友達になりたかったんだ」

「私も青山君の友達になりたいです」

「月城さんにまた会えたのが嬉しくて。嬉しくて高揚して伝えたいことが溢れ出して、君に迷惑をかけて、不快な思いをさせてしまいました」

「みんなが見ている前で、付き合ってくれっなんて言うから、恥ずかしくて思わず逃げ出しちゃいました」

「そうだよね、みんなが見ている前でなんて。僕はなんてことをしてしまったんだ」

「とても恥ずかしかったけど、不快な気持ちになんてなりませんでした。逆に、少しだけ・・・嬉しかったです」

 

 僕は一人で己の心と語りながら再び夜空に輝く星々を見上げる。


「ふう、それにしても綺麗だな、この町の空は。満天の星の輝きを見ていると、僕の悩みさえちっぽけに感じるよ。月城さんに会いたい。会って月城さんに迷惑をかけたことを謝りたい。謝って許してもらって、友達に、なりたい」

「私は最初から怒ってなんていません。それに私も青山君の友達になりたいです」

「そうですか。でも、もうダメですよね。これ以上二人はって・・・あれ? 僕はおかしくなってしまったのかな? 月城さんの声が聞こえる気がする・・・」

「えッ、青山君? 私の声が聞こえる気がする?」


 僕は己の声がだんだん月城さんの声に聞こえてきていた。恐らく僕の心が無意識に僕が求める形に変換しているのだろう。それが嬉しく思えた。


「幻聴か・・・。僕も重症だな。でも僕はそれだけ月城さんのことが。・・・空に輝く幾憶の星たちよ。我青山宗介が願い奉る。 願わくば、もう一度だけ、もう一度だけ・・・」

「幻聴!? ねえ大丈夫? 聞こえる、私ここにいるよ!さっきからお話してるよ!」


 星に願いをする僕に、さっきよりもはっきりと月城さんの声が聞こえてくる。星が僕に答えてくれている。僕の声が届いていると感じた。この切ない星々への願いが僕に新しい力くれた。


「ありがとう。僕はいま確かに宇宙の声を聴くことが出来たよ。“大丈夫”って声が」

「青山君、青山くんってば!マジで言ってるの?ねえってば」


 トントンと後ろから突然肩を叩かれた僕は、何だろうと深く考えもせずにゆっくり後ろを振り返る。振り返りながら感じた甘い香りが僕の鼻腔を満たし、僕の沈んだ心を優しく包み込んだ。


(この匂い落ち着くな)


「青山君、大丈夫?」


 そこにいたのは学校の制服を着て心配そうな顔で僕の様子を窺う、一番会いたいけど、今は一番会いたくなかった人、月城綾香さん本人だった。


「ギャー!!」


 僕は驚きのあまりにその場を飛びずさってしまい、階段脇の花壇に植えられているつつじの植木に背中から突っ込んでしまった。


「痛ったー」


 立派なつつじだったので枝ぶりも良く結構痛い。それでもって感じる痛みが僕を強引に正気へと戻してくれる。僕は慌てて植木に埋もれた体を起こした。


「だ、大丈夫、青山君。怪我してない」


 地面に両膝をつきながら、痛む背中を必死に擦る僕の横で、気遣いながら話しかけてくる月城さんの姿を見て、僕の心と思考は羞恥と混乱でパニックになってしまう。


 でも確認しなければならなかった。


 月城さんは何時からそこに居たのか。

 月城さんは僕の声を聞いていたのか、いないのか? 


 僕にとってこれはとても重大な事だ。これからの僕の生死が、未来がかかっている。僕は緊張で固まってしまった体中に冷たい汗を流して、震える口で月城さんに尋ねた。


「あ、ああ、あ・のあ、の月城さんは、どうして、ここに? いつ、から?」

「えっとね、私もこの近くに住んでてね。よくこの道を通るの。そこでさっき青山くんを僕は見かけたから。そしたら私を呼ぶ声が聞こえて」

「・・・聞いて、いたの?」

「えっと、ただ、僕はただ君の友達になりたかったんだって、言ってくれていた辺りからかな」

「最初からじゃないですかー!(バタン)」

「倒れた! ちょっと青山君てば、大丈夫!?」


 思春期特有の若気の至りと言うか、未成年の主張的な独白を夜空の星に語り掛けてしてしまっている所を、僕は一番見られたくなく、一番聞かれたくない人に全部見聞されていた。 


 青山宗介14歳。僕は取り敢えず、倒れて気絶してみることにした。




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