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君がくれた永遠  作者: 虹まぐろ
3/5

再会2

「君は昨日の・・・」


 思わず僕は、柱の蔭からこちらを見ていた彼女に声をかける。彼女は昨日と変わらない綺麗な顔に驚きの表情を浮かべて、何かを確かめるように僕のことをじっと見ている。 

驚きから疑いへ、疑いからまた驚きへ、驚きが確信へ。彼女の表情はころころと変わっていて、ちょっとした混乱状態になっているようだ。 


 僕もまさかの再開に驚きつつも気分が高揚して、とても嬉しくなってしまう。出来るならまた会いたいなと思っていたので正直にとても嬉しい。

昨日は力を使ってしまい逃げてしまったけれども、考えてみれば、軽い擦り傷や捻挫がいつの間にか直っている程度であれば、そんなに気にすることでもないのではないかと思い直す。まあ、その位で僕を疑ったりはしないだろう。


 僕がそんなことを考えている間も、彼女の変化は目まぐるしくて色々な顔を見せながら隠れていた柱の陰から、そろりそろりとゆっくりと出てこちらに近づいてきた。


(何でこんな所に? いや見間違えよ、学校に居る訳ないじゃない。 でも私を見て君は昨日のって。 よく思い出して私! 彼の顔も声も。 そうよ、やっぱり昨日の彼だ。間違いない。あの人だわ! 同じ学校だったなんて、運命の出会いだわ! 好き、大好き! 付き合って下さい!なんて言われたりして) な

 

「えへへ」


 思春期の僕は、彼女がこういう風に考えているのではないか、考えてくれていれば良いなと、勝手に想像(妄想)してしまう。想像(妄想)して、少し顔がにやけてしまう。


(ハッ、いけない)


 僕は慌てて緩んだ顔を元に戻し、そこから僕は彼女と仲良くなれれば良いなと思いながら話しかけてみた。あまり女子とそれも彼女みたいな綺麗な子とは話をしたことがないので僕はとても緊張してしまう。何を話そうか。


「今日はとても天気が良いですね」

「え、あ、はぁ?」


 やば、選択を誤ったか? 天気の話はコミュニケーションの鉄板だって聞いたことがあったのだけど。早く何とか次の話を、きっかけを!


「ゴホン、ゴホン、えっと」

「・・・」


 僕は自分のはやる気持ちを落ち着かせようと試みるがなかなかに難しい。というか意識すればするほどに心臓の鼓動が強くなっていくし。もう彼女に聞こえているじゃないかと思ってしまう。と、同時になんで僕は彼女の前でこんなことになっているんだ。なんでこんなに緊張しているんだ? 


(いやそれより今は早く、早く彼女と話を! でも一体何を。緊張で何も頭に浮かばない)


 すると僕の様子を窺っていた彼女が気を使ってくれたのか、彼女から自己紹介をしてくれた。


「あの、私は月城、月城綾香・・・3年です」

「ええと、僕は今度3年に転入する青山宗介と言います」

「昨日はちゃんとお礼ができなくて、・・・ごめんなさい」

「いや、それは僕が居なくなったのが原因だしそんなに気にしないで下さい。それよりあの後は大丈夫でしたか?」

「はい。・・・、あれから両親に連絡して迎えに来てもらいましたから」

「それは良かったです」

「本当に、ありがとうございました」


 そう言うと月城さんは丁寧に腰を折り、頭を下げて礼儀正しく僕にお辞儀をした。


「頭を上げて下さい。僕はそんなにたいしたことはしていません。お礼の気持ちはもう十分にいただきましたから」


 僕は慌てて月城さんに頭を上げてもらう。周りにいる母さんや悠花、名前も知らない生徒達の興味の視線が僕に刺さる。


「それで、あの・・・、青山・さん」

「はい」


 月城さんは僕の名を呼んで急に顔を赤くすると何かを言いたそうしながら、キョロキョロを周りの様子を窺って、数名の生徒達が僕達のことを見ているのに気が付くと俯いてしまう。


「月城さん? どうかしたの」

「いえ、ええと、ですね。その、ですね。昨日の話を両親に話したら、」


 月城さんは俯きながら手の指先をくっつけて胸の前で三角を作りとモジモジしながら、顔を赤くしている月城さんの姿を見て、


(何?! この子、とっても可愛いんだけど!僕は彼女と友達になりたい。って、言うか、友達から初めさせてもらって、いつか・・・できれば・・・)


 って、僕は本気でそう思ってしまった。今の僕には、彼女は一秒ごとにとても綺麗で可愛くて魅力的に見えてきている。これが恋というものだろうか。初恋、そう感じた瞬間に僕の視界や意識の中から周りにいる人が消えて、家族がいることすらも忘れてしまい、張り裂けそうなほどの強く感じる心臓の鼓動とともに、僕は思わず、我慢できず、何も考えることなく彼女に言ってしまった。


「お礼がしたいからもしまた会ったらって」


「月城さん、会ったばかりだけど、僕と友達からのお付き合いを初めてくれませんか?」

「えッ、あの、その・・・付き合う?」


「キャー!」


 僕達の周りにいる、主に女子生徒の声が聞こえた。


 あれ、僕は友達になってくれませんか? と言うつもりだったのだけれども、これだと告白みたいじゃないか? 


 僕は自分が月城さんに言ってしまった、伝えてしまった言葉の意味を考えて、その言葉を聞いて月城さん以上に興奮した面持ちで目を輝かせている自分の母親の姿を見て、客観的に、他の人から見れば、僕が月城さんに告白をしているように見えることに気がついた。


 月城さんは真っ赤な顔でアワアワしながら、周りに集まってきていた生徒達を見ては、さらにアワワとなっている。頭から煙を出しそうなほどに顔や耳を赤くして、少し震えがきている月城さんは、とうとう好奇の目に耐えられなくなってしまったのか、


「あの、えっと、その・・・ごめんなさい!」


 月城さんは僕に向けて小さくお辞儀をすると、もう一度ごめんなさいと、一言だけ言い残して回れ右、脱兎のごとく走り去ってしまった。


「あ、・・・」


 僕は思わず、待って行かないでと彼女を呼び止めるかのように、力なく右手を出したままの姿で、走り去る月城さんの背中を見送る。


 僕は恋した初日にフラた? 


 いますぐこの場から消えてしまいたい、胸が張り裂けてしまいそうなほど苦しい、思春期真っ盛りの僕、青山宗介14歳は、器用にその場に立ったまま意識を失った。



 どの位の時間が過ぎたのか、意識を取り戻した僕を母さんと悠花がじっと見ていた。母さんも悠花も、凄く面白いものを見ているような、笑いを堪えているような顔で僕を見ていた。


「流石私の兄ちゃんだ。初出校で衆人環視の中いきなり女子に告白して振られるとは。これからの学校生活ハードモードにするなんて。恐れ入るよ」


 悠花は僕の方をポンポンと叩きながらニヤニヤした顔で僕に言う。


「子供だとばかり思っていたが、宗介もちゃんと大人になっていたんだな。学校で、それも母親の目の前で告白をするなんてな」


 母さんも僕をからかう時のように面白そうにしている。


「!」


 ここでようやく現在の現状を正しく理解することが出来た。そしてより状況を把握するために、勇気を出して僕の置かれていた周囲の環境を知るために周りを見渡してみることにした。

 そこには講習や部活で学校に来ていたと思われる人が、まあまあいた。丁度お昼の時間なので帰宅しようとしている人が玄関にはまあまあいた。みんな興味深そうに僕のことを見ていた。


 この人たちにはどう見えたのかな? 

 僕が告白したように見えたのかな?

 振られたように見えたのかな?


 この中にはこれから僕の同級生になる人もいるだろうな。

 あれ? なんだろうこのヤッてしまった感は? とても恥ずかしいや。


「何なに?何かあったの?」

「あいつが、さっき月城に告白してさ」


「あの人誰だろう。見たことがないよね」

「なんか転校生らしいよ」


 続々と集まって来た生徒たちが僕を見ながら口々に話しているのが聞こえてくる。


「エッ。あの月城さんに、告白? 馬鹿だな、あいつ振られるに決まってるじゃん」

「マジでキモイ。身の程をしれよって」

「でも受ける。秒でごめんなさいって。私初めて見た」


 心に刺さり沁みるわたるクリティカルな一言をいただく。


 僕は僕を囲みながら話す生徒たちの姿が、まるで春秋戦国時代に6カ国同盟の「斉・燕・楚・韓・魏・趙」合従軍のように見えて、僕は四面楚歌で、とり囲まれた秦の国の兵士のような気がして、絶望して力なくヨロヨロと後へ数歩ずさりしてしまう。


「違うから! 本当に違うんだからな!」


 僕自身も一体何が違うのかがわからなかったけれども、興味や嫌悪、哀れみなどの様々な感情が入り混じった好奇の視線に耐えられず、母さんと悠花をその場に残したまま逃げだしたのだった。


 僕は学校を出たからのことをよく覚えてはいなかった。あの後ご飯を食べて、買い物をして帰ってきたはずなのだけど、僕は気が付けば夕日を見ながら、


「夕日が綺麗だな。僕もこのままサンセットしてしまうことができたならな。もしくは異世界転移として誰も知らない世界とかに行けたらいいな」


 などと非現実的な逃避をしていた。でも綺麗な夕日を見るたび、綺麗な月城さんが連想されて、僕の脳裏に浮かんでくるわけで、月城さんを思い出すたびに切なくなってしまって、僕は一筋の涙を流してしまう。このままではいけない何か気分転換をしないと。


「少し歩いてこようかな」


僕はコンビニに寄りながら、近所を散歩してこようと外に出ることにした。


海を見ながら坂道を上り、昨日の公園の前を通りかかる。この時はまだ想像なんてしていなかった。散歩の途中でまた偶然の三度目の出会いがあるなんて。




















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