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君がくれた永遠  作者: 虹まぐろ
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運命の出会い


 長い冬が終り雪解けを迎え、街の樹木には緑の葉が茂り小さな桜色の蕾がつき始め、待ちに待った春の到来を感じさせる季節に、僕、青山 宗介14歳は綺麗な海が見える新しい街に引っ越してきた。


 中心街から少し離れた高台にある7階建てのマンション、ここが今日から僕達の新しい住居になる。 

 5階の502号室4LDKの部屋。母さんと僕と妹の3人で暮らすには十分な広さだ。

 引っ越しが無事に何事も滞ることもなく終わり、玄関には引っ越し屋さんが運んで来た大量の荷物が置かれている。

 前に住んでいた家から持ってきた荷物のはずなのだけれど、「どこにこれだけあったんだ!」と言いたくなるだけの量があり、僕は辟易していまう。

 

 取り敢えず自分の荷物だけを自室へ運び込んだ僕は、面倒くさいこれからの荷解きと整理整頓のことを忘れて、リビングのベランダから目の前に広がる綺麗な海を眺めることにした。

 東北にある街から関東地方の都市まで車で揺られること約6時間。疲れた心と体を癒してくれる綺麗な景色と心地よい海風。なんか海鮮丼が食べたくなってきたな。


「宗介、早く部屋に荷物を運びなさい、このままじゃ御飯も食べれないわよ」 

「兄ちゃん、サボってないで早くやりなよ」 

 

 母と妹がベランダにいる僕を見ながら息を揃えて言ってきた。


「でもその荷物ほとんど母さんと悠花(ユウカ)のだろ。僕の分はもう運んだよ」 


 なんてことは口が裂けても言えない。この家のヒエラルキーは僕が一番低い。というかこのうちの女性は強すぎると思うんだ。

 

 紹介が遅れたけど、三人家族の大黒柱僕達兄妹の母、青山千夏あおやまちか、34歳。茶髪のレイヤーセミロングがの合う切れ目のスレンダーな美人。参観日に学校に来ると僕の姉によく間違われるていた。職業は作家、物書きの仕事をしている。ジャンルはわからないけど結構人気があり売れているらしい。 


 次に僕の1歳年下の妹、青山悠花あおやまゆうか13歳、この春から中学2年になる。女の子の方が成長が速いというけれど、悠花は特別じゃないだろうか? 僕だって170センチ位は身長があるのに、悠花は僕よりさらに5センチは大きい。体型も痩せすぎず太り過りすぎずで健康な印象だ。スタイルも良い、と言って良いと思う。最近二人で町を歩くと仲の良い姉弟に間違えられるのが、最近僕のちょっとした悩みでもある。

 

 母さんと悠花、二人に共通するのはとても気性が激しいというか、荒々しいというか、熱いというか、熱血漢みたいな? とても男らしくて頼りになる所。産まれる性別を間違ったのだと僕は密かに思っている。


 僕はどちらかというと大人しくあまり目立たない方だ。様々な事情があってこんな感じの性格になってしまった。座右の銘は「いつも目立たずひっそりと」


「ほら、宗介。早く働きなさい。夕飯抜きにするわよ」

「ほら兄ちゃん一緒に頑張ろう」

「はい、わかりましたって、悠花、お前何やっているんだよ」 


 悠花は片手を腰に当て胡坐をかきながら空中に《《浮いていた》》。浮きながら、漫画本が入った重い大きな段ボールを片手でひょいひょいとまるでお手玉をする様に何度も空中へ放り投げていた。


「止めろよ悠花! 誰かに見られたらどうするんだよ」 

「誰かに見られたらって、ここは家の中だよ。兄ちゃんは心配症だな」

「いやいや、そういう所だって。その油断がいつか必ず、大体この引っ越しだって・・・」

「あーうるさいな、ほらこれを私の部屋に持って行ってよ」


 悠花は僕の言葉を煩わしく思ったみたいで、持っていた段ボールを僕に放り投げてきた。


「ぐは、お、重い」 

 

 受け止めた段ボールにはびっしりと本が入っていて、あまりの重さに僕は受け止められずに後ろに倒れてしまった。


「ふん」 


 悠花はご機嫌を損ねてしまったらしく、倒れた僕をしり目に、床を歩いて自室に行ってしまった。 


「あんた達遊んでいないで、早く働きなさい、これ3度目警告よ」


 自分の荷物と格闘している母さんから、剣呑な雰囲気を孕んだ声が聞こえた。


「全く悠花は」


 僕は誰にも聞こえない様に呟くと段ボールから抜け出して立ち上がり、母さんが本気で怒る前に再び荷物の片づけを始めた。




 僕と悠花の兄妹は生まれた時からある不思議な力があった。この力は父方からの遺伝らしく、母さんは普通の人間だ。

 僕達が幼い頃は父さんと一緒に住んでいたのだけれど、父さんは僕が2歳の時に亡くなってまった。そういう訳で、僕も悠花も父さんのことはほとんど覚えていない。父さんの動画も写真も無いから顔も声も覚えていない。

 だから父さんから唯一貰ったのは、この不思議な力だった。


 僕の力は治癒。大きな怪我でなければ自分や他人を癒すことが出来る。 

 悠花の力はテレキネシス。物体を手を触れずに自由に動かすことが出来る。5歳の時に母さんが運転する車を宙に浮かせたのが、今でも忘れられない。

 

 一見凄く良い力に思えるけれど、僕はあんまり好きではない。僕達家族はこの力に翻弄されて生きてきた。

 そのため我が家には他の家

には絶対にない家訓がある。


「力がバレたら、即引っ越し」


 僕と悠花を守ためだ。今回の引っ越しもこの力が原因だったりする。この力が知られない様に僕達兄妹はひっそりと一般人を目指して生活しているつもりでけれど、何かの拍子にバレてしまうことや疑われてしまうことがあり、その度に逃げるように引っ越しを繰り返してきた。ちなみにこの街に来るまでに4回の引っ越しをした。


 今回は悠花が学校の体力測定で力を使い、学年新記録や地区の新記録を一気に飛び越えて成人男子の日本新記録を大きく超える成績を叩き出してしまった。


 いくら何でも50メートル走を5秒で走ったら駄目だろう。幅跳びで9メートルオーバーしたら駄目だろう。

 褒められたのが嬉しかったからって、力を使ったら駄目だろう。ここまでやっておいてイリュージョン、なんて言い訳が通るはずが無いだろう。

たまたま授業中に校庭での一部始終を見ていた僕は、競技を終えるごとに熱狂していく体育教師や同級生に囲まれている悠花の姿を見て、4度目の転校を覚悟した。




 片付けがようやく一段落したかと思ったら、僕はお使いを命じられた。マンションから坂道を登ると公園があり、公園を通り抜けた先にちょっとしたスーパーがある。僕は車で通った道を思い出しながら足を進めた。


 それは、公園に続く階段を登りながら、夕日が反射する綺麗な海を見ている時のことだった。


「きゃあ」


 頭上から可愛らしい悲鳴が聞こえた。僕が階段の上段に目を向けると、女の子が落ちてきたのだった。


「え?」


 突然のことに僕の思考が一瞬止まり、身体が固まってしまう。その刹那、女の子がスローモーションの動画を見ているようにゆっくりと落ちてくる姿が見えた。


「避けて!」


 女の子は自分に僕が巻き込まれないように避けてと言った。


(受け止めるんだ!)


 もしここで女の子を避けて階段の下まで落ちたら怪我をしてしまう。女の子が、僕の目の前で怪我をしてしまう。 


 ん? 


 ここで避けたら、僕が女の子に怪我をさせてしまう。


「そんなことさせるか!」


 僕は右足を一歩前に出して腰を落とし、両手を大きく広げた。僕は覚悟を決めて治癒の力を最大限に高めた。

 ドン!っと大きな衝撃と共に僕は女の子を受け止めた。


(耐えろ、耐えろ、耐えろ・・・僕!)


 歯を食いしばりながら、必死に衝撃に耐える。僕の力が痛めた筋肉や腱、肉体疲労を次々と癒しているのを感じた。


「やー!」


 火事場の馬鹿力、自然とリスペクトするきんに君の掛け声が出た。長い時間に感じる一瞬の時間だった。でも、僕は耐えて支えきった。どうにか僕は女の子に怪我をさせずに済んだようだった。


「助けてくれて、ありがとうございます。それであの、そろそろ降ろしてくれませんか?」


 女の子は、ハアハアと息を切らしながら、自分を強く胸で抱き締めている僕に恥ずかしそうに言った。僕はその言葉を聞いてハッと我に返り、


「ご、ご、ごめんなさい」


と、謝りながら女の子の身体を離した。


「こちらこそ、ごめんなさい。あと、助けてくれて本当にありがとうございました」


 女の子は頭を下げながら丁寧なお礼を僕に言った。僕はこの時初めて女の子を見た。

 白いワンピースが良く似合う少し儚げな笑顔の綺麗な顔立ち、長いストレートな髪をピンク色のリボンで結っている。年は僕より少し上くらい? 高校生かな? 笑顔に見惚れていた僕は、その事実を誤魔化す様に質問した。

 

「怪我はないですか? どこか痛い所ないですか?」


「えっと、さっき階段で足首を捻って、あれ?」


 女の子は不思議そうに足を見て触り、トントンと、足踏みをする。


「足が、痛くない? 治ってる?」


 ヤバい、僕の力だ。ここは速やかに撤退しなければ。


「良かったです。怪我がないなら安心しました。それでは、ぼくはここで失礼します」


 僕は会話を終わらせて、彼女に背を向けて

走り出した。


「あの、お礼を! せめて名前だけでも!」


 彼女の慌てた声が聞こえた。僕は振り返ることなく、右手をあげて振りながら走り出した。


「ありがとう! 本当にありがとう!」


 僕は彼女の感謝の言葉を聞きながら、走る速度をあげ、スーパーに向かった。

 

 晩御飯を食べて風呂に入る。僕は風呂が好きで長い時間入っている。そのためいつも最後に入っている。


「綺麗な人だったな。名前、聞いておけば良かったな」


 僕は湯船に入りながら、今日会った女性の顔や抱きしめた時の温もりを何度も思い出した。自然に顔がにやけてしまう。時間を忘れて色々な妄想をしていた僕は、湯あたりしてのぼせてしまった。


 力を使い、何とか風呂から上がった僕は、ベランダに出て月が輝く海を見ながら、夜風で身体を冷ましていた。


「宗介、今日何か良いことあった?」


 母さんが缶ビールを飲みながらベランダに出て来て話かけてきた。悠花は疲れたみたいなでもう眠ったみたいだった。


「うん。買い物に行った時に、綺麗な人に出会ったんだ」


「そう、良かったわね」


「うん」


「宗介も早く寝なさい。明日も忙しいわよ」


「わたったよ。お休み母さん」


「ええ、お休み宗介」


 僕は、最後にもう一度月を見た。月を見ながら浮かんでくるのは、今日会った彼女の顔。

 少しだけ、幸せな気持ちを感じながら、僕は自室に戻り眠りについた。


 








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