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半ヴァンパイアの冒険者 外伝  作者: ストーブの上のやかん
北の果てにて
9/18

蠱毒姫と狩人だったモノ

 尋問は難航しております。スコットさんが何と言おうと、ライカンスロープはだんまりを決め込んでいます。スコットさんが語気を強めようが弱めようがどこ吹く風。これでは話が進みません。

 

 仕方がないので私が尋問を代わります。

 

 「スコットさん。交代してくださいな?」

 「……」

 

 なぜでしょう。協力を申し出たつもりでしたのに、スコットさんまでだんまりを決め込んでしまいました。勝手にやれと言うことでしょうか? まぁまぁなんて冷たいのでしょう。そんなに私と関わりたくないということなのですね。あぁ、悲しい。

 

 悲しすぎてエリーさんに抱き着いてしまいそう。ああ……

 

 「わ、ちょ、何!?」 

 「胸をお借りしますわね」

 「く、くすぐったい! やめ、アハ、は、離れてよ!」

 

 エリーさんの慎ましやかな胸を揉み、嫌がる声を聞き、なんとか悲しみから立ち直った私は、そのまま尋問を代わります。

 

 「ここで素直にすべて喋るのと、この世に顕現しうるあらゆる苦痛を無限に味わい続けるの、どちらが良いですか?」

 「ッ……ク……」

 「あら? 私が蠱毒姫だということ、わかっておいでですよね? お仲間の一人は一目で私の正体を見破りましたけれど」

 「そのくらいわかっている! 馬鹿にしているのか!?」

 「でしたら、私の言葉に嘘が無いことくらいわかりますわよね?」

 「……俺は」

 「わかりました。お薬を持ってきますわ。この方が発狂しながらもだえ苦しみ笑い続ける姿を見れば、他の六人の誰か一人くらいはお喋りに付き合ってくださるでしょう」

 「わかった! 話す! すべてだ! 俺がわかっていることはすべて話す!」

 

 はい、簡単ですわね。スコットさんの軍人か尋問官のような、お上品な尋問ではこうはいきませんわ。

 

 「ほらエリーさん。褒めてください」 

 「まず、人の、胸で、遊ばないで」

 「褒めてください」

 「離れて、よ!」

 「褒めてください」

 「スゴイ! ヘレーネさんスゴイスゴイ! いい加減離れてよ!」

 

 ヤケクソ気味ですしスゴイの一辺倒ですが、まぁいいでしょう。モミモミするのは止めておきます。

 

 「さて、では質問していきましょうか。あ、嘘はお好きなだけどうぞ? 私は構いません。他の六人の方にも同じことをします。質問の答えに差異があれば、もう一度聞きますわ。ちょっとずつお薬を飲んでいただきながらになりますけど、良いですわよね?」

 

 アトマイザーをちゃポンと揺らしてそうお話すれば、群青色の顔から血の気が引いたような気がしました。フフ、顔色なんて元から青いのに、どうしてさらに青くしてしまうのでしょうね? おかしな生き物ですわ♪

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 ライカンスロープさんのお名前は、エギルさんとおっしゃるそうです。かつては人間で、ヴァンパイアハンターをされていたとか。お仲間のライカンスロープの皆様も皆、元人間のヴァンパイアハンターらしいです。 

 それぞれ怪しい男に声をかけられて、トレヴァー領の北の方、ヘリンタス山の南側の麓に集まった後、気が付けば体が群青色の体毛に覆われ、獣のように変化し、理性と闘争の本能のバランスがおかしくなってしまったとのこと。

 

 「ちなみに、その怪しい男にはなんとお声をかけられたのですか?」

 「ヴァンパイアがたくさんいる町がある。そこで狩りをしよう。ヴァンパイアを狩れば狩るほど金も名誉も付いてくる。そんな感じだった」

 「そんな怪しさ満点の誘い文句にホイホイとついて行ったのですか? だとしたらお笑いですわ。私だったら絶対に乗りません。あ、もしかしてライカンスロープの皆さまは、元から動物並みの知能だったりします?」

 「しょうがなかったんだ! ヴァンパイアなんて今じゃ蠱毒姫くらいしか名前が売れてねぇし、各地で発見されたヴァンパイアは全部王都に向かったっきり見つからねぇ! ヴァンパイアハンターを辞めちまえば、俺たちはただの時代遅れの無能になり下がる! そうなる前に一攫千金を狙って何が悪い!」

 「頭ですね」

 「なっ……クソ!」 

 

 どうしましょう。お口が悪くなってしまいます。こちらのライカンスロープ改め、エギルさんがいい反応をしてくださるせいですわ。

 それにしても、手練れのヴァンパイアハンターは恐ろしいとずっと思っていましたが、こんなケダモノに成り下がっているとは思いませんでした。そう言えばここ数年ヴァンパイアハンターの方に会いませんでしたね。考えてみればヴァンパイアが少なくなってきているのですから当然ですか。

 

 「どんな気分ですか?」

 「最悪の気分に決まっている」

 「そうではなく、人間からそんな化け物に変わってしまって、どんな気分ですか? 気持ちや考え方に変化はありますか?」

 

 おや? 斜め後ろからエリーさんの怒気を感じます。何か気に障ることでもあったのでしょうか。フフ。

 

 「物事が深く考えられなくなる時がある。夜になると特にそうだ。人でもヴァンパイアでも動物でも何でもいいから殺したいと、そう言う衝動に駆られる。だが一人ではヴァンパイアに勝てないこともわかる。だから群れる。人とヴァンパイアが両方いたら、先にヴァンパイアから狩ろうと考える。生肉が食いたい。あと何より……群れ長が恐ろしい」

 

 群れ長、ですか。

  

 「群れ長とはどのようなお方なのですか?」

 「群れ長は、俺たち同じライカンスロープなんだが、俺たちとは違う。何かが違う」

 「何が違うのですか?」

 「わからない。強いて言えば雰囲気だ」

 「雰囲気? そうおっしゃられてもよくわかりません。同じライカンスロープなのでしょう?」

 「俺もよくわからない。なんとなくの直感だ」

 

 動物の本能的な直感なのでしょうか。それともただの感? いえ、考えてもわかりませんわね。

 

 「まぁ良いです。それより本題です。あなた方をライカンスロープにした者は、今どこに?」

 「ここよりさらに北に、大きな木の群生地がある。木の根っこの下だ」

 「モグラか何かにそんなお姿にされてしまったのですか?」

 「違う! でかい木だと言っただろ。根っこもでかいし、付け根が地面より上にあって屋根みたいになってるんだ。俺たちが昼間に寝どこにしている場所なんだ」

 

 なるほど? 想像してみるとなんとなく理解できました。土を掴むようにして広がった根が地面に露出していて、昼間はその中で眠っている、と。野生動物の生態みたいでかわいいですわね。

 

 大体聞きたいことは聞けましたので、個人的に気になることを聞いてみましょう。

 

 「ちなみに夜にばかり襲って来る理由は何なのですか? 昼間ならヴァンパイアは外に出られませんから、人間を襲い放題だと思うのですが」

 「昼間は眠いんだ。ものすごく眠い。だから寝る。それだけだ」

 

 つまりライカンスロープは夜行性の動物ということですわね。

 

 「ヴァンパイアハンターだったころの記憶は、きちんと残っておりますか?」

 「残っている。人間として生きた記憶が、しっかりと残っている。だが、ダメだ。あの頃のように生きられない。生肉を食いたい。生き物を狩りたい。メスと交尾したい。そう言う本能みたいなやつが、俺の記憶や思考を簡単に食い尽くしていくんだ」

 「今は普通にお喋りできてますけどね」

 「お前が怖いからだ。逃げたいという気持ちばかり浮かんでくるが、それが出来ない。だから考えられる」

 

 恐怖に支配されると人間らしくなる。なるほど? 普通逆では? 死にたくないという気持ちは生き物の本能。それを脅かされると恐怖を覚え、本能的に逃げるなり戦うなりの衝動にかられます。しかし、このライカンスロープのエギルさんは、恐怖を感じるからこそある程度人間らしい思考と会話を実現しています。

 

 なかなかに面白い。どのようにしてこのような、動物と人間を混ぜたような生き物が作られたのか興味があります。

 

 元人間を攫い、何らかの方法で化け物に変えた何者か。それとは別に、普通のライカンスロープとは何かが違う群れ長。

 

 面白くなってきました。普段の私なら、とりあえず適当なお薬を持って首を突っ込んでみるところです。しかし今の私はお薬を持っておらず、体もボロボロ。

 

 エリーさんに投げますか。後で詳しく聞けばよいことです。

 

 いえ、あとで聞くより自分の目で見ることにしましょう。エリーさんはウィンターピットで起こっているこの事件が片付くまで、私を守ると約束してくださいましたし、怖がる必要はありませんわね。

 

 「エリーさん。行ってみましょうか」

 「無策で行くつもり?」

 「はい。何かおかしいですか?」

 「……」

 

 エリーさんがとても懐疑的な目を向けてくださいます。何かおかしいことがあるのでしょうか? エリーさんが守ってくださるのなら、何が相手でも安全でしょう。準備も覚悟も無用に決まっています。

 

 「俺も行く。その群れ長が、俺の追っているワービーストとつながっている可能性が高い」

 「まぁダメとは言いませんが、危ないですわよ? エリーさんが守ってくださるのは私だけですから」

 「守ってもらう必要はない。それにエリーは危ない場所に一人で突っ込むことがある。知らない中ではない。だからついて行く」

 「モンドさんはどうするの? 今のこの町に一人で放っておくのは危ないよ」

 「この町のヴァンパイア共が守るだろう。それにモンドはダムボアを単独で狩れる。そんな簡単には死なない」

 「えっスゴイ!」

 

 エリーさんからものすごく自然なスゴイという誉め言葉が出ました。私に言った時よりも感情がこもっていてなんだかモヤモヤします。

 

 「さっさと行きましょう。グズグズしてると犠牲者が増えてしまいますわよ?」

 「ちょ、勝手に行かないでよ!」

 

 スタスタとウィンターピットの北にあると言うライカンスロープの根城へ歩き出すと、後ろの方から会話が聞こえてきました。

 

 「今蠱毒姫が俺を見る目が恐ろしかった。エリー。俺は何か不味いことを言ったか?」

 「ヘレーネさんが何考えてるかなんてわかんないよ」 

 

 ……おかしいですわ。私自身なぜ不愉快な気分になっているのかわかりません。説明がつかない感情です。

 

 わからない。

 

 わからない。

 

 むしゃくしゃしてしまって、自分の感情がコントロールできません。 

 

 追いついてきたエリーさんに八つ当たり気味に振り返ります。

 

 「エリーさんおんぶしてください」

 「な、なんで」

 「ほら早く」

 「あっちょ……あ、や、止めてって言ってるのに!」

 

 エリーさんの背後に回り無理やりおぶさると、ススっとエリーさんの胸に手を当ててまさぐります。するとどうでしょう。いやな気分がすぐに悦へと変わっていきます。

 

 「早くライカンスロープの族長とやらを倒して終わらせましょう? その方がエリーさんにとっても都合がよいはずですわ」

 「だったら胸揉むのやめてよ!」

 

 この面倒ごとが終わってしっかりと療養すれば、きっとこの説明のつかない感情も落ち着くでしょう。療養が終わるまでエリーさんにお世話してもらうんです。ああ、なんて愉悦。さっさと片付けてしまいましょう。どうせエリーさんが負けるわけありません。

 

 私ったら何をイラついていたのでしょうか。

 

 まぁ今となってはどうでも良いことかもしれません。

 

 だってエリーさんの慎ましいおっぱいを揉めば、悩み事は全て解決しますから。

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