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半ヴァンパイアの冒険者 外伝  作者: ストーブの上のやかん
北の果てにて
7/18

ケダモノを追うケダモノと商人風農夫

ところ変わってモンド視点です。


 交流特区で、俺はやっとの思いでシルクポテトを収穫した。出来栄えはいいらしい。驚くほどの甘さを持った芋は、自分で食べても甘いと思う。砂糖のようにくどくなく、しかし甘さは強い、そんな芋がシルクポテト。

 俺がサジ村の村興しのために交流特区で手に入れた、商売道具。

 そのまま食べても甘くておいしいが、芋だからな。焼いたほうが熱いし甘さも増して美味い。

 ステラがゼラドイル邸のメイドさんと一緒に作ったタルトみたいなやつがものすごく美味くて感動した。

 

 あぁ、また食いたい。

 ものすごく食いたいが、俺はまずシルクポテトの栽培方法を紙にまとめて装丁し、本を作って、そのあとシルクポテトのタルトのレシピも用意して、サジ村に帰んなきゃならん。村興しのためにやって来たことだからな。

  

 だと言うのに、どうして俺はこんなところに、こいつと一緒にいるんだろうな? マジ意味わからん。

 

 「モンド。大丈夫か? 疲れてないか?」

 「疲れてるに決まってんだろ不審者」

 「誰が不審者だ! 仕方ないだろう」

 

 俺の隣に居るのは、茶色の布で全身を覆ったスコットだ。筋骨隆々のワービーストで、獣戦士(じゅうせんし)で、普段は上半身を裸で過ごす露出狂。今は不審者だ。背中に背負った、布で巻かれた長い棒は機械槍が悪目立ちしている。ほんと、ただの怪しい奴だわこいつ。

 

 「なんで俺がこんなことしなきゃいけないんだよ」

 「それは交流特区を出る前に散々説明しただろうが」

 「……まぁそうだけどさ」

 

 俺らが居るのはヘリンタスっていう山の中腹だ。交流特区でもサジ村でもない。山を越えるからと荷車は借りられず、でっかい背負い袋を俺とスコットで背負って山越えだ。

 なんでこんなことしてるかは、まぁ納得できてはいないがわかってはいる。

 

 交流特区の外で、ワービーストの目撃があった。それも複数。国境沿いのもとからある交流特区と、最近交流特区化したグイド以外の場所は、未だに亜人種の立ち入りは厳禁だ。なのに目撃情報があった。これはとても不味いことってわけだ。

 大ごとになる前に処理したいと考えた交流特区のお偉いさんどもは、優秀な戦士であるスコットに、交流特区の外に出ちまったワービーストの回収を命じ、機械槍を与えた。

 それも秘密裏に。

 あとはスコットが命令通りにすればいいんだが、スコットが耳や尻尾を隠して一人旅なんて怪しすぎるから、俺が商人になって、スコットを訳アリの護衛とすることで堂々と旅ができるようにしてるわけだ。

 

 「俺は商人じゃないんだけどな」

 「お前は豪商ユルク・ゼラドイルが手塩にかけている人間の青年ってことで通ってるからな。みんな商人だと思ってるぞ」

 「俺は農夫だ」

 「農夫だと思ってる奴はほぼいないだろうな。まだ冒険者だと思ってる奴の方が多いと思うぞ」

 「あぁクソ。ボア肉の依頼なんかやらせるからだ」 

 「おかげで肉が食えるから助かった。特にワービーストは肉ばかり食いたがるやつが多いからな」

 「おかげさまで俺は冒険者扱いだったよ。その後は商人だと思われて、こんな面倒ごとに巻き込まれてる。ほんと、ありがとな!」

 

 思い切り嫌味を言ってやると、スコットはフードの奥の顔を若干反らした、ような気がする。

 まぁスコットに嫌味を言っても銅貨一枚の儲けにもならないことくらいはわかる。だから俺は別の話を振ることにした。

 

 「それで、交流特区の外に出ちまったワービーストは、なんでこんな北に向かったんだ? こんな山を越えたって何も無いだろ?」

 「何かあるから向かったんだろうよ。何があるのかは俺も知らない。目的もな。だが追いかけなきゃならん。ワービーストの国は、今のところクレイド王国と揉めるつもりは無いはずだ」

 

 結局わからんままじゃねぇか。ああクソ。こんなクソ寒い山超えたって、もっと寒い場所があるだけだろうが。

 

 ああ、重い。シルクポテトが入った背負い袋がものすごく重い。なんでこんな嵩張る物持たされてんだよ。本当なら今頃、サジ村でシルクポテトを育て始めてる頃だったのに……

 

 「はあああぁぁぁ~」

 

 でっかいため息を吐いた俺は、また山を登り始める。そんなに寒い季節じゃないんだが、山の中腹を迎えるころには寒くなって来た。早く登り切って下らないと、寒くて死んじまいそうだ。

 

 「伏せてろモンド。魔物だ」

 「ああ、任せる」

 

 機械槍をクルクル回して構えるスコットを見た俺は、灰色の布を取り出しながらその場に伏せ、布を布団のように被る。俺が山肌に擬態している間に、スコットに魔獣を倒してもらうためだ。

 

 「全く……この辺りの魔物は本当に、素早くて厄介だ」

 

 スコットの振るう槍が鹿に似た魔物の首を貫いて、闘争は終わりを告げた。 

 

 「厄介とか言いながら瞬殺じゃないか」

 「これでも獣戦士だからな。だが、複数で現れた時のことを考えるとゾッとしない。油断するなよ」

 「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 「驚いた、な」

 「おう……村、じゃないな。町だ」

 

 ヘリンタス山を越えた先で俺たちは、雪に覆われた町を見つけて、立ち尽くしていた。

 山の頂上からも、麓からも、この町は見えなかった。雪の積もった背の高い木々ばかりがどこまでも広がっているようにしか見えなかった。

 だが、事実目の前には町がある。日の光りが雪を鮮烈に輝かせていて眩しいが、きれいだ。人の足跡も、煙突から登る無数の煙も、この雪の町に人が住んでいることを教えてくれていた。

 

 「とりあえず行ってみるか。交流特区から逃げ出したワービーストが居るとしたら、たぶんここだろ。ここ以外に無いまである」

 「ああ。間違いなくここに居るだろう」

 

 とりあえず人が居るなら話を聞こう。そしてワービーストを見つけたら、とりあえずスコットがぶっ倒して、他のワービーストの居場所を吐かせ、まとめて連れ帰ることになるだろう。現地の人に会ったときだけが俺の出番だ。

 

 頼むぞ三分の一の確率。俺はもうさっさと帰りたい。

 

 寒い。

 

 あとモコモコした服を着たスコットに未だに慣れない。

 こいつ上半身裸がデフォだったくせに、普通に着こんでるからな。お前の露出狂と言うアイデンティティは崩壊したぞ、スコット。

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