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半ヴァンパイアの冒険者 外伝  作者: ストーブの上のやかん
北の果てにて
5/18

何でも言う事を聞いてくれるエリーさん

 さて、エリーさんの状況が大体わかって来たので、私は優雅に療養を始めることにしましょう。ライカンスロープという脅威は既にありません。

 

 私が作った化け物、エリーさんが私を守ってくださる以上、ライカンスロープであろうが、あるいはまた別の化け物であろうが、何の心配もいりませんからね。

 

 ここはニコラさんのお家ですが、もういいでしょう。勝手にくつろがせていただきます。

 

 手直にあったロッキングチェアに腰を下ろし、靴を脱ぎ散らかし、ギィと軋ませながら揺らします。

 

 これでは隠居したお年寄りみたいですわね。まぁ楽なので良いでしょう。埃っぽさも気にしません。

 

 「エリーさん、喉が渇きました」

 「だから何?」

 「人、連れて来てください。ヴァンパイアが血を欲しがっていると言えば簡単です」

 「自分でやればいいじゃん。知らない。私はもう行くからね」

 「そうですか、わかりました」

 

 一度座ったロッキングチェアから腰を上げ、立ち上がります。

 

 「ではエリーさんのいう通り、自分で人を連れてくることにしましょう。朝日が眩しそうですわね。ああ、日焼け止めを持ってこなかったのは失敗です。きっと私は、人を見つける前にお日様に焼かれて死んでしまうでしょう。しかし仕方ありません。血を飲まないわけにもいかないのですから。ああ、残念ですわ」

 

 そう言って歩き始めれば、エリーさんは私の手首をがっしり掴んで、止めてくださいました。そして指の腹で私の手首あたりをスリスリとこすります。

 

 「ほ、ほんとに日焼け止め塗ってない」

 「はい」

 「なんで塗ってないの?」

 「必要ありませんもの♪」

 

 必要ないと言うより、持っていないのですけどね。ですがこう言っておけば、エリーさんは勝手に深読みするでしょう。面白いです。

 

 「……そうだね! その通りだね! 昼間の面倒を私に見させるつもりなんだから、日焼け止めなんて要らないよね!」

 

 ほら面白い。頼んでもいないのに、私の昼間の面倒を見てくださるつもりのようです。

 まぁ実際その通りなのですけどね。

 きっとエリーさんは、何でも言うことを聞くでしょう。断れば私が死んでしまうと思わせ続ければ、の話ですが。

 

 「ライカンスロープは昼間に行動を起こさないようなので、安心してお出かけできますわよ」 

 「はいはいっ! 血が吸えれば何でもいいんでしょ!?」

 「エリーさんの血は不味いのでお断りですわ」

 「うるさい!」

 

 怒髪冠を衝く、といった具合でしょうか。エリーさんはいつも以上に毛髪の毛先を暴れさせつつ、ドスドスと足踏み荒くニコラさんのお家を出て行きました。

 いいえ、ドスドスというより、トストスと言った感じでした。とても怒っているのに足音がかわいくて、おかしくて笑ってしまいそうですわ。

 

 

 

 

 結局エリーさんが連れて来てくださったのはニコラさんでした。まぁ家主ですし、近くに居たのでしょう。

 

 「り、隣人様! 驚きました。とてもお強い……あ、ちょっと」

 

 何やら興奮した様子のニコラさんでしたが、とりあえず捕まえて吸血します。

 

 「そうだよ。このヴァンパイアはとっても強いんだよ。ね? レーネさん?」

 

 エリーさん、ニコラさんと何か話したようですわね。私が名乗った偽名で呼んでくださる辺り、気配りと嫌味を感じます。大方倒したライカンスロープを見せ、私が倒したことにしたのでしょう。


  お食事(吸血)中なのでお返事はマナー違反。目を細め、喉の奥で笑ってお返事の代わりとします。

 

 「七体ものライカンスロープを、見事に失神させていました。隣人様、いえレーネ様。御見それしました」

 「よかったねレーネさん」

 

 ふふ……なるほど。エリーさんたら考えましたわね。私がこのお部屋でくつろいでいる間に、ニコラさんを連れてきつつ、私をとっても強くてスゴイヴァンパイアで、この町の問題を解決することが出来るかのように持ち上げてお話したのでしょう。

 私はライカンスロープの相手も調査もエリーさんにやっていただくつもりでしたのに、この流れですと私が表立って行動しなければいけなくなりますわ。

 

 ですが甘い。というか墓穴を掘っていますわよ?

 

 「ところで、エリーさんはレーネ様の従者なのですか?」

 「……え? ちが」

 「そうですわ。エリーさんは私の忠実な従者。朝も夜も私に尽くすことがエリーさんのお仕事で幸せなのです」

 

 ニコラさんからのキラーパスに便乗し、エリーさんの否定を遮って肯定します。

 

 「私とエリーさんのこと、出来れば日のあるうちにこの町の人やヴァンパイアの方々に周知しておいていただけますか?」

 「わかりました」

 

 ニコラさんはいい笑顔で頷くと、ウキウキとしたステップでまたも外出されました。

 

 「これで、対外的にも実質的にも、エリーさんは私の言いなり、ですわね?」

 「……最悪だよ」

 

 ああ、愉悦……♪

 

 

 

 

 吸血して一時的に上がっていた体温が、落ち着いてきました。若干寒いですわね。暖炉の前まで移動すればよいのですが……それより楽しそうな温まり方がありそうですわ。

 

 「エリーさん。温めてください」

 「やだ。というか私、ライカンスロープについて調べに行きたいんだけど」

 「どうせお日様の時間に調べても何も出てきませんわよ。それよりほら、温めてください。寒いです」

 「暖炉の前に行けばいい。何でもかんでも私に言わないで」

 「いいえ、何でもかんでもいうことを聞いていただきますわ。ほら、これ見えますか?」

 

 私が今唯一所持しているお薬、シトリンとシトリンの入ったアトマイザーをちらつかせれば、エリーさんは心底嫌そうな顔を見せてくださいました。

 

 「それ……」

 「はい。見覚え、ありますよね? まぁ中身までエリーさんの記憶通りかは知りませんが」

 

 エリーさんは逡巡した後、私の方へ向かってきます。

 

 私の薬が何であれ、危険なことに変わりはない。逆にエリーさんは危険な目に合っても、化け物らしい再生能力と身体能力で何とかなる。

 それなら自分が危険な目に合うことを選ぶ。

 エリーさんはそう言う性格です。

 

 抱っこでもするかのように両手を拡げれば、エリーさんは私が座るロッキングチェアに膝を起き、私の太ももの上に腰を下ろし、抱擁してくださいます。

 

 「ん~、温かいです」

 「あっそ」

 「こうしていると、あの時を思い出しますわね」

 「……最っ低」

 

 ボソッと言ってくださいますわね。ですが、エリーさんからの侮辱は私にとっての愉悦。私に対して何もすることが出来ないという思いの表れ。これだからエリーさんは私を魅了して止まないのですわ。

 

 もっとたくさんわがままを言いましょう。エリーさんはどうせ、何一つ断ることは出来ないのですから。

 

 

 

 

 

 さて次は何をしましょうか。私が快適に療養出来て、なおかつエリーさんが嫌がりそうなこと……そうですね……

 

 「ん~、なんだか小腹が空いてきました」

 「……」

 

 無視ですか。かわいい反抗ですわね。エリーさんがそのつもりなら、手加減無用ということですね。

 

 「何か食べ物持っていませんか?」

 「干し肉とか」

 「ください」 

 「……はい」

 

 どうやらエリーさんはほとんど荷物を持って来ていない様子。今だってポケットの中から、干し肉の入った包みを取り出していました。

 持ち物は少ない。となると、持ち物を取ってしまうというのはあまりやらないほうが良さそうですね。

 

 「食べさせてください」

 「それくらい自分でして」

 「あら? 私が自分の手を使って食べても良いのですか? うっかり手が滑って、アトマイザーに当たってしまうかもしれませんね?」

 「……はい」

 

 私の口元に差し出された干し肉は、当然のことながらカラカラに渇き、深い赤へと変色した硬そうな見た目です。

 わかっていたことですね。

 

 「干し肉って硬そうですわね。柔らかくなりません?」

 「噛んでればふやけて柔らかくなる。早く食べて」

 

 干し肉なんてほとんど食べたことありませんけど、それくらい知っています。そして、それじゃ面白くありません。

 

 「ではエリーさんが噛んで柔らかくしてください」

 「……え? それ、どうしろって言うの?」

 

 あら、察しの悪いエリーさん。そんなところもかわいい。

 

 「ですから、エリーさんのお口で干し肉を柔らかくして、それを私の口へ移してください」

 「絶対ヤダ」

 

 そうですよね。絶対に嫌ですよね。大嫌いな私のために、少ない食べ物を口移しで食べさせるなんて。

 でも、そんなに嫌そうなエリーさんのお顔が間近にあるので、なんだか興奮して自分でも止められません。

 止めたくありません。

 

 「そんな、絶対嫌だなんて、悲しいです。悲しすぎて自暴自棄になってしまいそう」

 「アアアアア! もう! ……アグ、ング……」

 

 ほんとに嫌そうですわね。若干涙目ですよエリーさん。

 

 「ウフフ……」

 

 エリーさんはモゴモゴと口を動かしては、私のために硬い干し肉を柔らかくほぐしてくださっています。エリーさんの頬が口の中のものに押され、噛み締めるたびにフニフニと膨らんで、カチカチという咀嚼音が少しずつ小さくなっていきます。

 

 「どうです? 柔らかくなりました?」

 「んー」 

 

 んー、と言われてもわかりま

 

 「んっ!」

 「ッ」

  

 驚きました。エリーさんの方から私の唇を奪うというのは、完全に予想外です。唇が触れ、エリーさん舌が私の咥内へ割り入り、柔らかくなった干し肉が唾液と共に流し込まれていきます。

 味なんてわかりません。びっくりしてしまってそれどころではないのです。

 

 エリーさんの涙を抱えた、とても嫌そうな瞳が、私の見開かれた瞳をジーっと見つめています。虚を突かれた私などめったに見れるものではないのですよ? どうせならもう少し嬉しそうに見てくださいません?

 

 「っぷは……お代わりなんてないから」

 「あ……ハハ、フフフフ。もしかして、エリーさん私のこと好きだったりします? ご自分からなんて驚きましたわ」 

 「そんなわけないでしょ。ヘレーネさんの方からされるのが癪だっただけ」

 

 そうですか。まあそうですよね。びっくりしすぎて今も心臓がドキドキしてしまっています。あと、接吻になれていますね。マーシャさんと常日頃からシているのでしょうか? 仲良しですわね。

 

 「お代わりください」 

 「ありません」

 

 エリーさんは私から一本取れたことが嬉しいようです。そして実際小さな敗北感を味わっているのも事実。ここは素直に負けを認め、お代わりの要求を大人しく断っていただくことにしましょう。

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