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半ヴァンパイアの冒険者 外伝  作者: ストーブの上のやかん
北の果てにて
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蠱毒姫の無力

 ライカンスロープの族長さんを目指して進む道中、四回襲撃を受けました。

 

 いえ、アレは襲撃を受けたとは言えないかもしれません。

 たくさんのライカンスロープが四回に分けて(わたくし)達を狙い、一斉に襲い掛かるタイミングを計りました。

 そして、襲い掛かる前にエリーさんに察知され、襲い掛かる前に昏倒させられてしまったのです。

 

 スコットさんのお耳がピクリと動き、腰を落とし、

 

 「気を付けろ! 狙われて……」

 

 と言う頃には、何度かの打撃音と雪飛沫が上がっているのです。

 そして次の瞬間には、

 

 「大丈夫。もう終わったよ」

 

 というエリーさんの頼もしい声が聞こえ、倒れたライカンスロープを背景にエリーさんがこちらに歩いて来ていたりしました。

 

 我ながら惚れ惚れするほど化け物です。

 

 「どうなっている……出会った頃から強いというのはわかっていたつもりだが……」

 

 獣化したスコットさんがあんぐりと口を開けてそうおっしゃっていました。頬が無いせいで涎が垂れています。汚いです。

 

 

 

 

 

 

 

 四度目の襲撃を終えたすぐ後、ライカンスロープのエギルさんがおっしゃっていた樹木が見えてきました。

 (みき)は普通の木と代わりませんが、私の膝ほどの高さから根が生えており、地面を丸く包むように広がっています。しかし、地面は樹木の下の部分だけ一メートルほど陥没しており、そこだけ雪が積もっていません。

 

 「クサ……」

 

 そこはエリーさんのおっしゃる通り、ライカンスロープの臭さと群青色の毛がありました。

 ここが寝床で間違いないでしょう。

 

 「群れ長さんと言うのはどちらでしょうか」

 「そんなの知らないよ」

 「大抵群れる動物は長の周りに集まるものだ。長は群れの中核で司令塔。恐らく寝床の中心地だろう」

 

 流石はワービースト。動物よりの思考がお上手です。私はそう言うのに疎いのですよね。

 私が興味を示す動物は、毒を持つものばかりです。そして毒をもつ動物はあまり群れません。普通の群れを作る野生動物など興味を持ったことがありませんわ。

 

 「では中心に向かってみましょうか」

 

 私がそう言って進み始めれば、エリーさんもスコットさんも続いてくださいます。エリーさんが鼻をつまみながら付いてくるので、鼻で呼吸するように言いました。するととても嫌そうな顔で鼻をつまむのをやめてくださいます。

 

 別に嫌がらせで言ったわけじゃありませんのよ? 臭くても毒があるわけじゃありませんから、慣れておいた方がいいと思っただけです。

 

 ですがエリーさんに恨まれるのは気分が良いので、言わないことにしました。










 ライカンスロープが寝床にしている樹木、長いのでライカンハウスと略します。

 最初に見つけたライカンハウスからさらに北へ進むと、地面を覆っていた雪が消え、代わりにライカンハウスの群生地帯へと変わっていきます。しかしライカンハウスにも臭い匂いと群青色の体毛が残っているものはさほど多くありません。

 

 「まぁ、なんて面倒くさい」

 「数が思ったより少ないのはいい事じゃないの?」

 「この目印の少ない地で、何体残っているかわからないライカンスロープを探し出して狩り尽くすのが面倒なのです」

 

 元がヴァンパイアハンターの方たちなのだとすると、まぁ妥当な数と言えるでしょう。今の時代にはさほど居られませんからね。むしろ良くこれだけの数のヴァンパイアハンターを集めたと言えるでしょう。

 

 おかげで面倒……あら?

 

 「止まれ……何か、雰囲気が違う」

 

 スコットさんのおっしゃる通り、空気がピリリと張り詰めたのがわかります。そしてこの感覚には覚えがあるのです。

 

 「狙われているときの空気ですわね」

 

 これまで命を狙われた回数が数えきれない私が言うのですから、間違いありません。

 エリーさんは腰を落とし、スコットさんは静かに獣化して機械槍を構えました。

 私ですか? 特に何も。出来ることなんて無さそうですもの。

 

 「ん……臭い」

 「あぁ、俺にもわかる。これは俺たちとは違う。いやな獣臭さだ」

 

 ムワリと漂って来た空気は、お二人のいう通りの嫌な臭いを孕んでいました。ライカンスロープの持つ歪んだ香りが、もっと歪ませたかのような。

 これが群れ長の匂いなのでしょうね。 

 人間ベースのケダモノがライカンスロープだとするのなら、これは獣ベースのケダモノと言うような。そう言う混じり方をした匂いです。

 

 ……ということは、この香りの持ち主である群れ長が、そのまま不法入国してこの町に無断滞在をし、ライカンスロープを作り出したワービーストでもあるということでしょうか。

 自分まで化け物へと変えるほど、何かを欲していたのでしょうか?

 

 それとも、それほどまでに狂っているのでしょうか。

 

 「危険だな。こちらは三人で、相手の数は匂いからしておそらく一人。危険だが、群れ長を倒せる機会でもある。準備はいいか?」

 「……えぇっと、どうしよ。困った」 

 

 戦う気満々のスコットさんに対して、エリーさんが焦り出しました。

 きっとこれは、群れ長と戦う姿をスコットさんに見られると不味い、みたいなことを考えているのでしょうね。そう思うくらいなら連れてこなければいいのに。

 

 しかしエリーさんが焦る程度には相手が強いということでしょう。再生能力や異常な膂力を見せずに倒せる相手なら、エリーさんが焦る必要が無いはずです。となると、この場に居るわたくしももしかしたら危険かもしれませんわね。

 

 「エリーさん」

 「なに? 今構ってあげられない状況なんですけど」

 

 失礼な。助け船を出して差し上げようとしているのに。私ったらムッとしてしまいます。

 

 「お一人で倒せますよね?」

 「何を言っている!? この匂い、どう考えても危険だ。一人に任せるなどあり得ない!」

 

 スコットさんがうるさいですわね。エリーさんが化け物程度に負けるわけありませんわ。この場に居る私たちが足手まといになるレベルです。私は身を持ってその強さを実感しているので、何もわかっていないスコットさんの発言には耳を貸しません。

 

 そう。エリーさんの強さを一番わかっているのは、私だけ……

 

 愉悦。

 

 「うん。多分これ群れ長だと思う。私が何とかするから、ヘレーネさんとスコットさんは……あ、ワービースト探してよ。三人がこの辺に居るはずなんでしょ?」

 

 エリーさんは群れ長がそのワービーストであることに気付いているようですわね。

 

 「わかりましたわ」

 「ダメだ!」

 

 ああもう本当にうるさいですわね。私とエリーさんについてきただけの獣の癖に。

 

 私はスコットさんのズボンのベルトを乱暴に掴み、エリーさんと群れ長から離れるように走り出します。 

 ちょうどその時ライカンハウスの奥から、獣化したスコットさんと同じくらいの大きさの影がうっすらと見えました。ギリギリのタイミグですわね。

 

 「任せましたわよー!」

 「何をしている! ふざけるな! 戻れ!」

 

 魔力を手足に込めて掴んいるので、いくら獣化したワービーストでも抵抗は不可能です。


 私はエリーさんの背中チラリと一瞥してから一目散にその場を離れ、ライカンハウスの森を抜けてウィンターピットへ向かいます。

 

 敵の数は残り少なく、おそらく最高戦力である群れ長はエリーさんが相手をするのなら、とりあえず心配いらなさそうです。

 

 エリーさんが群れ長を倒すまで、どうやって時間を潰しましょうかね。

 さほど時間はかからないと思うのですが、一応長めに待ってみますか。

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