第8話 無能
「とりあえず、それを隠しておけ」
「あぁ、そうだな」
大輝に言われて俺は直ぐに表をしまう。
これを俺たち以外の第三者に見られでもしたら大変だからである。
それにしても、俺がこの場にいることは伝わっているというのに、あいつが来ないな。
中学時代の同級生なんだが、幼なじみということもあって何故か同級生なのに兄のように慕ってきた女子がいた。
あいつなら俺が居ることを知ったらほかのことに目もくれず飛び込んでくると思ったんだが、時代の流れと言うやつなのだろうか。
あいつも成長して、俺離れが出来たのならばそれはそれでいいだろう。
「サ〜ツっ!」
「お、妹が来たぞ」
「だから、あいつは妹じゃねぇよ。同級生だ」
「サツっ!」
「おいおい……」
噂をすればなんとやら、一人の可愛らしい女の子が俺に抱きついてきたのだ。
そして今までの時間を埋めるように俺に頬擦りをしてきている。俺の気の許せる数少ない友人の一人。というか、大輝とこいつ――島川柚子しか気の許せる友人なんて存在していなかったかもしれない。
「もう……ばか……バカサツ……勝手にいなくなるなんて……本当にバカ!」
「悪い悪い」
「ほう……」
「大輝も面白そうに見ていないで助けてくれ」
「いや、これに関してはお前が悪い。俺もお前のことを探したんだからな」
「言ったら、俺の居場所を絶対柚子に伝えるだろ」
「もちろん、同盟を組んでいるからな」
なんの同盟だか、そこが気になるものの、事の経緯としては俺が何も言わずに二人の元を離れたことを怒っているらしい。
確かに俺は二人に何も言わずに海外へと飛び立った。だが、これは殺し屋の修行のためだったので、そんなことをいくら仲のいい二人だとはいえ、言うことは出来ない。
それに、柚子は昔から俺にベッタリだったため、言ったら来たいと駄々をこねることは確実に分かっていた。だからあえて誰にも言わずに海外へと飛び立ったのだ。
「会いたかった……」
「そうか」
「今日は甘えさせてやれ」
「俺たち、もう高校生だぞ」
「いいじゃないか」
「ダメ?」
「はぁ……今日だけだぞ」
「やったー」
俺たちは普通の兄妹以上に仲がいいため、よくからかわれたものだが、実はさっきのみんなの反応でわかるだろうけど、俺はあまりみんなに好かれていないのだ。
まぁ、そりゃそうだ。
うちは貧乏だったため、学費も給食費も払うことは出来なかった。そんなやつのことをよく思うやつなんているわけが無い。この二人以外は。
二人は昔から知っていたため、そんな俺の事を許容してくれていた。仕方が無いと認めてくれていた。
二人は良い奴だよ。
「さてみなさん! 楽しんでいただけてるかな?」
その時、会場内に声が響き渡った。
俺たちはその声につられて一斉に顔を向ける。するとステージの上にふくよかで、かなり偉そうな男が立っていた。
俺は会っていないが、想像は着いた。恐らくあの人がこの国の王だ。
「この場を借りて、君たちにこれからやってもらいたいことを説明する。まずは、儂の騎士たちから戦闘訓練を受けてもらう。かなり厳しいものになるだろうから覚悟してもらおう。それから、チームワークを高めるために君らにはチームを作ってもらう。そして冒険者ギルドに登録して冒険者になってもらおう。そして魔物と戦いながら戦う訓練をしてもらう。魔王と戦うには最低でもAランク相当の実力が必要だと考える。だから君たちには死に物狂いでAランクを目指してもらうことになる。ざっとこんな流れになる」
王様が簡単に流れを説明してくれたのだが、冒険者ギルドにはもう既に登録してあるんだよな。
それに、今更戦闘訓練なんて言う退屈なものを受けるのは面倒くさい。そんなものは師匠の元で一年近くやっていた。
「そして、やっと合流した勇者、サツラ・ニノマエ! 前へ来い」
その事に訳分からないという表情をしていると、隣でアチャーとでも言いたげな表情をしている大輝が居た。
「そういえば、王様に特典を鑑定されたんだった」
「……それって、不味くないか?」
「あぁ、非常に不味い。俺は盗み聞き――基、情報収集が趣味なんだが、あの王様のいい噂は聞かないから、もしかしたら除外、ライトノベルとかの話に沿うと……最悪その場で邪魔者として消すだろうな」
「それは恐ろしい」
まぁ、実際には全く恐ろしいとは思っていないんだけどな。
今までも俺はいつ命を取られてもおかしくない環境下で生きてきたのだ。そんなものは今更というものだろう。
ただ、国外追放なんてされたらこれからどうやって生きていこうか迷うけどな。
そんなことを考えながらゆっくりと国王様の居るステージの上に上がっていく。
ここで俺の無特典が明かされる。
いつの時代も、人は自分よりも弱いものを蔑むものだ。
この世界では恐らく特典があるものが優遇される仕組みなどがあると予想される。その中で俺は勇者として召喚されたのに特典を持っていない。
また俺はあいつから弄りという名の虐めを受けることになるのか……。
「さて、この水晶の上に手を翳してくれ」
「はい」
俺は素直に応じて手を水晶玉の上にかざす。すると、冒険者ギルドの時と同じく水晶玉から黒いモヤのようなものが出てきて上の空間に文字を描こうとして――戻った。
モヤは文字の形にならなかったのだ。その代わりに、水晶玉は赤く光った。
「お前、無特典?」
「なるほど、特典を貰っていない人がこれを使うと赤く光るのか」
「捕まえろ!」
周囲から大量の騎士たちが現れ、俺を取り囲んできた。
なるほどな、つまり大輝の言っていた最悪な状況が今まさに起こっているって訳だ。この状況を当事者でありながら傍観できている俺の精神が我ながら恐ろしい。
「動くな。勇者だと嘘をついた不届き者め! 制裁を加えてやる!」
「ほうほう……」
この様子、今までもどこかで見たことがあるような気がする……。
そうだ。住民たちのハルロートを見る目と、あの国王の目が一緒だ。なるほど、合点がいった。
「なるほどなるほど、この国は随分と面白いことになっているようだな」
「何を笑っている!」
「なぁに。ちょっとしたエンタメを見ている気分だっただけですよ」
「えんため? 訳分からん言葉ではぐらかそうとするな! 何のためにお前は嘘をついた」
「いえ、俺はちゃんとこの世界に召喚されてきましたが?」
「召喚されたら必ず特典があるものだ! なぜ貴様にない!」
「そんなことを俺に言われてもな」
本当にどうして俺にだけないんだろうか。
まさか、かみが神がただ単に俺に特典を与え忘れただけだったりしてな。
……だとしたら、もし神に会うことがあったら一発ぶん殴ってやる。
「捕まえるならさっさと捕まえて下さいよ」
「お前は追放処分とする。もう二度とこの国の援助を受けられないと思え。そして、お前は暫く牢屋に入れておこう。変な行動を起こさないとも限らないからな」
「そういうのいいから、さっさとしてくれないか? 俺、人の長話を聞くのは嫌いなんだ」
「そうか、じゃあ大人しく連行されろ。特典もない勇者など、弱者同然。お前などいない方がマシだからな!」
俺はここにいるヤツらよりは弱くないと自負しているつもりだけどな。
平和ボケした現代日本の住人だ。いくら特典があったところで今は雑魚に過ぎない。
そして俺は騎士たちに乱暴に牢屋へと連行されて牢屋の中へと乱暴に投げ捨てられた。
まぁ、このくらいで済んで良かったというものだろう。あいつは殺されるかもしれないと言っていたし。
ただ、元の世界で捕まったら俺は死刑だろうし、俺への刑罰としては生ぬるいよな。
遂に特典がないことがバレてしまいました。
追放というのはもう二度と国からの支援を受けさせないという意味ですね。宿や、店なんかも使えなくなります。