第7話 無特典勇者
城に案内されて着いてきたのだが、これは中世の城の様な見た目だ。
俺は世界を飛び回ってきていたので、世界の城を何度も見て回っているのだ。ただ、ゆっくり城を見れたことは無いし、ましてや城の中に案内されたこともないけど。
「こっちだ」
初めて見る城の内部なので、この世界に来て初めて緊張しているかもしれない。今更緊張することはもう二度とないと思っていたけど、こんな所に緊張する場面が存在していたんだな。
というか、こんな絨毯の床なんて仕事の以来の時しか見たことがなかったな。しかも、廊下の床に沿って敷かれている。これだけで少し感動だ。
「というか、そろそろ教えてくれませんか? 俺を連れてきた理由、そして俺が違う世界から来たということを知っている理由を」
「それはこの先に行けばわかることです」
よく分からないけど、この先に行けば理由が分かるとのことなので、ここは素直について行くことにする。
ここで逃げようにもこいつにさっきとおなじことをされて逃げられないので、大人しく着いていく方がいいだろう。
そんな感じで歩いていると、ルルバートは一つの立派な扉の前で立ち止まった。
なんだかここら辺だけ騒がしいような気がする。それに、なんだか料理の臭いもするような気がする。
そういえば、この世界に来てまだ飯を食っていなかったな。確か、この世界に来たのは午前中に買い物行った帰りで、それから食っていないからこの料理の匂いを嗅ぐと腹が減ってくる。
「さて、こちらです」
ルルバートは遂に重そうな扉を力いっぱい押し開いた。
その先の光景を見て俺は口を開いた状態で固まってしまった。
とても大きな空間に、丸テーブルがいくつも並べられている。そのテーブルには大量の料理が並べられており、パーティー会場のようだ。
「これは?」
「実は、あなた以外にも異世界から来た人達がございまして、今日は歓迎会を開いているのでございます。そしてあなたと一緒に来た人達が貴方も遅れてくるとおっしゃっておりましたので、探していた次第でございます」
「なるほど……」
だけど、俺のことを知っている他の転移者って誰なんだろうか。そう思ってパーティー会場内の人たちを見てみる。
すると、俺は驚くことに気がついてしまった。
その中に俺の知っている顔が三十人強存在しているのだ。それも、かなり懐かしいメンツだ。そして、あまりいい思い出のない奴らだ。
「皆さんはあなたの事をちゅーがく時代のくらすめいとと仰っておりました」
「確かにあいつらは中学時代のクラスメイトですね」
あいつらの顔を見るのは約二年ぶりだ。
俺は高校も行かずに殺し屋の修行をし始めたので、卒業してからというもの、一回も会っていない。
何度か遊びに誘われたものの、俺はほとんど日本に居なかったから遊びに行けなかったんだよな。
「それでは、サツラ・ニノマエ。貴方を転移者として歓迎します。今夜はお楽しみくださいませ」
「お、おい」
俺は背中を突き飛ばされてパーティー会場に押し込まれる。そして俺を押し込むや否や、直ぐに扉を閉めやがったので、まだまだ聞きたいことはあったものの、これ以上、俺と話す気は無いという意思表示なのだろう。
親切なんだか親切じゃないんだか。
「お、おい、あれサツじゃね?」
「おい、あれサツだぞ!」
どうやら今の一連のやり取りでみんなに気が付かれてしまったらしい。
仮面があったら良かったかな。いや、仮面を被っていたら怪しすぎるか。
「あー……どうも」
「素っ気なくね?」
「だよな! 俺もそう思った」
素っ気なくさせたのはお前らだ。
俺はお前らと一度ももう一回会いたいと思ったことは無いぞ。
「殺羅、大丈夫か?」
「ん? あぁ、大丈夫だ。お前は相変わらず元気そうだな、大輝」
「あぁ、俺はそれだけが取り柄だからな。それよりもお前、背中からものすごい血が出ていたけど、大丈夫か?」
「大丈夫だ。背中に衝撃でも与えない限りは痛みもほとんどない」
いや、実際には痛いけど、この位の痛みは我慢できないと殺し屋としてやって行けなかったから慣れていると言った方が正しいな。
そんな俺の返答を聞いて心底安心した様子の大輝。
こいつは腐れ縁っていうやつだな。練磨大輝という。俺の数少ない中学時代のクラスメイトで気の許せる友人と言ったところだ。
まず、中学時代はほとんどこいつと以外、関わっていなかったからな。親友と呼んでもいいだろう。
「久しぶりだな。今までどうしていたんだよ」
「……まぁ、いろいろだな」
「しばらく見ていない間に随分と大人びたじゃないか」
「人は簡単に変わるものだ」
「違いねぇ」
流石に殺し屋のことは親友であるこいつにも言うことは出来ない。
だが、こいつは俺がはぐらかしたらその事はスルーしてくれて、これ以上聞かないでくれるやつなので、本当に助かっている。
必要以上に人の領域に踏み込まないこいつだからこそ、俺は仲良くなれたのかもしれない。
「それよりも、どうして俺たちがこの世界に召喚されたのか、知らないか?」
「ん? あぁ、そうだね。殺羅がいない間に俺たちは王様にあったんだよ。そこで色々と話を聞かされた。どうやらこの世界は魔王という奴に脅かされているらしい。魔王はこの世界を征服する気なんだとか」
「それは穏やかじゃないな」
「んで、その魔王を倒すべく俺たちが召喚されたというわけだ」
「……だが、そういうのは魔物と戦い慣れているやつに頼んだ方が良くないか? 俺達は戦い初心者だ」
「そうだな。普通はそういう考えになるけども、異世界召喚といえば、チート能力!」
「お、おう」
あ、なんだかこいつ、スイッチが入ってしまったようだ。
こいつは昔からアニメや小説、漫画のことになると急にスイッチが入って興奮するところがあるのだ。
「召喚される時に渡される神からの贈り物、特典! この腕時計もそうなんだけど、凄いところはこの世界の人でも使えないような特殊能力を最初から持っているということ! だから、魔王と戦う時は最有力戦力候補として召喚されるんだとか!」
「お、おう……落ち着け」
「これが落ち着けるかって! 夢にまで見た異世界だぞ! 召喚だぞ! 勇者だぞ!」
ダメだこいつ。まるで人の話を聞こうとしない。
だが、それが確かなら俺も同じグループとして召喚されたわけなんだけど、どうして俺だけこの世界に来るのが遅かったんだ?
いや、多分、俺が瀕死の重傷を負っていたからだろうな。
だけど、一つ疑問がある。
「特典ってどうやって知るんだ?」
「あぁ、それはこの腕時計に手を触れてみると目の前に表が出現するから、その中に書いてあるぞ」
「ほう……」
試しに大輝が表を出して見せた。
これはどうやら他の人にも見えるようで、俺の目にも写ったので、覗き見てみることにした。
「思考速度アップ……文字通りにとるならば、考える速度が早くなるということか」
「そう、そういう事だよ! だから、俺は策士としての才能があると思うね。で、殺羅の特典は?」
前に一度開いてみたことがある。その時の記憶が正しければ、変わらずだと思うけども、一応開いてみることにする。
大輝に習って俺も腕時計に触れてみる。すると、同じように表が俺の目の前に現れた。それを覗き込むように大輝は隣に来たのだが、その表を見て俺と大輝は言葉も出なかった。
「見事に空欄だな。称号、逃げ腰?」
「あ、あはは」
流石にこれには笑うしか無かった。
恐らくこの場にいる者全員に特典があるのだろう。となると、俺だけ特典を貰っていないということだ。
あれ、俺も一緒に召喚されたんだよね。
「殺羅、このことは他のみんなには言わない方がいいな」
「まぁ、そうだな」
このことを言ったらこの場に居辛くなってしまうかもしれない。それは嫌だ。
だから、俺と大輝でこのことは秘密にしておくことが決まった。
親友が登場しました。
このキャラがかなり重要なキーマンになると考えています。




