第6話 指名手配
全速力で走っているといつの間にか背後には魔物の姿はなくなっており、俺たちは洞窟から脱出することが出来た。
流石にハルロートが軽かったとはいえ、人一人背負って歩くのは少々疲れるものである。
ただ、殺し屋をやっていたことが幸いして体力だけは有り余っていたから最後まで走りきることが出来た。
「体力、凄いありますね。私、痩せてるとは思いますけど、人一人背負って走るのはかなりの重労働だと思うんですが」
「職業柄な」
「記憶力すごいですね、私一人じゃ道に迷っていました」
「職業柄な」
「……なんで追ってきた魔物を倒さずに逃げたんですか?」
「……仕事柄な」
「いや、それはよく分かりません」
まぁ、適当に答えていたし、あってはいるから嘘は着いていない。
仕事柄俺は無駄な殺生はしないのだ。
俺のポリシーでもある。
「それよりも、お前はなんであんなところにいた」
「それは……」
「なるほどな」
「まだ何も言っていませんよ!」
「いや、俺は人の話を長々と聞く気は無いし」
「酷い!?」
とりあえず依頼を完了させるためにハルロートを下ろして街へと歩きはじめる。
そんな俺の後ろをハルロートがとてとてと小走りで着いてきた。
洞窟内だから良く見えていなかったけど、こいつは幼いな。こんな小さい子があんな洞窟になんの用だったんだ?
まぁ、俺はガキのお守りをするつもりは無いから洞窟から出たなら後はこいつが何時どこで行き倒れようが俺の知ったことではない。
だが、なんでこんなにも着いてくるんだ?
だけど、街に入った瞬間、こっちを見る視線、と言うよりもハルロートを見る視線がかなり強くなったような気がする。
何だかハルロートが気を使って俺とは距離を置いて歩いているようだが、気になる。
もしかして、何かやったのか? いや、こいつにそんな度胸があるとは思えない。
とりあえず依頼を完了させてから訳を聞いてみることにしよう。
冒険者ギルドまで来るとハルロートの姿は既になかったため、どっか行ってしまったのだろう。
さっきまで俺に着いてきていたのに急にどこか行ったところを見るに何か訳ありなんだろう。
「達成しました」
「は、早いですね。それにしても、大丈夫でしたか? 洞窟内の魔物って外の魔物よりも凶暴化するのですが」
「なるほど、何度が囲まれましたね。ですが、大丈夫です」
「は、はぁ」
受付嬢は少し困惑した様子だったものの、直ぐに俺から依頼用紙を受け取って何かの機械の中に入れた。
少し待つとその機械は光り始め、振動を始める。そしてその上にある半透明のモニターに文字が写り始めた。
『魔物10/10討伐完了。達成』
どうやら俺が魔物をしっかりと討伐してきたかを検査する機械のようだ。だけど、俺はしっかりと討伐してきたので、ここで引っかかることは無い。
そもそも、俺は嘘が嫌いだ。
「本当に達成してきたんですね」
「疑われていたんですか」
「よくある事なんですよ。新人冒険者の方々が自分の身の丈に合わない依頼を受けて、達成したと嘘をつくことが。なので、毎回この機械を通して達成状況を確認する決まりとなっております」
「なるほど」
まぁ、そりゃそうか。
難しい依頼は報酬が多い。それをなんの苦労もせずに手に入れることが出来る可能性があるんだから、嘘をつく人も出てくるだろう。
ただ、そんな人がいたら俺は殺してはダメだから半殺しくらいにはするかもしれない。ギリギリ死なない瀬戸際を狙って痛めつける。
「それでは、こちらが今回の報酬となっております。五百レンです」
「ありがとうございます」
これで、何泊かはすることが出来そうだな。
さて、ハルロートはどこへ行ったことやら。
報酬を受け取って冒険者ギルドを出ると、そこには異様な光景が広がっていた。
「なんだこれ」
まるで指名手配犯のように俺の似顔絵が飾られていた。しかも、この絵のタッチは見たことがある。
俺にめちゃくちゃ似ている。俺の事を知らない人が見ても俺と見比べたら一発でわかるレベルだ。
「なんで俺、指名手配されているんだ? 別に悪いことはしていないだろう」
「おい、あいつ、この絵の男じゃねぇか?」
「そうだ、こいつだ! 捕らえろ!」
「……」
状況が分からないけども、これは逃げるべきだということが分かる。
大勢の人に囲まれてしまったものの、これは警察から逃げるのとはそう変わりはない。
俺は真上にジャンプして屋根の上に登ると、そのまま走って逃げ始める。
なんで俺は異世界に来てまでもチェイスをしているのだろうか。まぁ、いつも通りだから問題は無いけどな。
そして屋根を飛び移ろうとジャンプしたその瞬間だった。
「ぐっ」
俺は目を見開いて驚く。
ジャンプして飛び移ったはずなのに俺の体はその場で停止してしまっていた。
空中で空間ごと切り抜かれたかのように俺の体は空中でピタッと止まっている。こんな状況は元の世界ではありえない事なので、思考回路が混乱してしまう。
「逃げられると困りますね。サツラ・ニノマエ」
「くっ、おまえは誰だ」
「これは失礼。私は国王専属騎士、レオン・ルルバートと申します。元の世界ではどうだったかは分かりませんが、この世界で逃げ切ることができるとは思わない方がいいですよ。こういう風に魔法で止められてしまいますから」
「ちょ、まっ」
ルルバートが話し終わって指をパチンと笑した瞬間、俺の体は地面に真っ逆さまで落ちていく。
だが、このくらいの高さだったらダメージを受けることはなく着地することが出来る。ただ、急に落ち始めたので、反応に遅れて少し足にまだ衝撃が残っている。
それにしても、こいつは口ぶり的に俺が異世界から来たということを知っているようだった。
なにか、俺がこの世界に来た理由が分かるかもしれない。
「サツラ・ニノマエ。城に着いてきてもらおう」
「城?」
「あぁ、あそこに見えている大きな城だ」
言われてみてみると、すこし距離のあるところに大きな城がそびえ立っていた。恐らくあそこに国王様がいるのだろう。。
そして今からそこに俺を案内しようとしているのだ。
俺は殺し屋なので、そんな場所に行ってもいいのかと思うものの、こっちの世界で殺し屋をやっている訳では無いので、問題は無いだろうと考える。
それに、俺がどうしてこの世界に来たのかの理由が分かるかもしれないのだ。行かない理由はない。
「連れて行ってくれ」
「感謝する。こっちだ」
俺の答えを聞いて走り出すルルバート。そしてルルバートを追って俺も走り出した。
レオンの目的は如何に!?
実質、次回からがこの物語の本番だと思います。