第5話 殺しの実力
「ここか」
洞窟の前にやって来て俺は呟いた。
この先にいる俺のターゲットは人間じゃない。だから、今までとは勝手が違うことだろう。
だけど、やることは今までと何ら変わりない。
背中から拳銃を取り出すと、銃弾を五発ほど装填する。
家には色々な種類の銃があるのだが、今はこれしかない。だけど、これは俺のメインウェポンなので何も問題は無いだろう。
右手に拳銃、左手にナイフを構えて洞窟内に走って入っていく。
この洞窟内にいる魔物は依頼が出ている為、殺してもいい。殺してもいいのならば、簡単だ。
「ぐぁぁぁっ!」
横から何やら緑色の肌の棍棒を持った人型の魔物が飛び出してきた。その手に持っている棍棒を振り下ろしてきている。
一瞬、魔物なのか人なのかが分からなかったものの、直ぐに人とは違うのを感じ取って、バックステップで攻撃を回避しつつ安全装置を解除して発砲した。
パンっという小気味のいい音とともに俺の放った銃弾は魔物の頭に直撃。紫色の血液を噴射してその場に倒れ、灰となって消えてしまった。
「まずは一体だな」
魔物ということで撃ち抜かれても動き出すことを危惧して構えていたんだが、消滅したということは完全に絶命したのだろう。
それを確認して腕を下ろした。
「これくらいならば問題は無いが」
だが、人間とは違うということで警戒は怠っては行けない。
俺は人間を殺すことは得意としているが、俺は魔物の体の構造を理解していないのだ。もしかしたら撃ち抜いても死なない魔物が現れるかもしれない。
「はぁ……さて、この状況どうするべきか」
相手は隠れているつもりだろう。だが、俺は今までの経験で俺に敵意を持っているやつの気配を感じ取ることが出来る。
前方の分かれ道で二体。背後に一体と言ったところか。知能のある魔物のようだ。俺を囲ったつもりだろうか。
どうやらさっきの発砲音で気が付かれてしまって囲まれたようだ。
ただ、その程度の包囲で俺を囲ったと思ったら大間違いだ。
今までだって警察に囲まれたことは数え切れないほどある。だが、その度に逃げ延びた俺だ。
それに、ここは洞窟内だ。お前らは討伐対象ということだ。殺せるなら、簡単だ。
「囲まれたなら、殺せばいいっ」
歩き始めると、前方の分かれ道の死角から二体のさっきとおなじ魔物が飛び出してくる。それと同時に背後の魔物も飛び出してきた。こっちは狼のようだ。
別の種族だけども、狩猟する時は手を組むことがあるらしい。ただ、プロの警察でも百人がかりで囲っても俺を捕えることは出来なかったんだぞ。
「俺を捕らえたかったら最低二百は連れてくることだな!」
「ぐげぇ」
「ぐらぁ」
まずは前方に居る魔物を超高速射撃で一秒も違わずにヘッドショットを決めて倒す。
そうしたらもう既にかなりの距離に背後の狼が迫ってきていたので、振り向きざまにナイフを振って首を掻っ切った。
それによって前方にいた魔物と狼は地面に倒れて灰となって消えた。
すると、さっきは気が付かなかったものの、魔物が倒れている場所に何か落ちていることに気がついた。
狼の牙、それとさっきは同時に灰となってしまったものの、棍棒がその場に落ちていた。これは残る確率があるのだろうか?
この世界のシステムがよく分からん。ゲームが分からない俺でも分かるように誰か説明して欲しいものだ。
よく分からないので、触らぬ神に祟りなしという言葉もある事だから、残ったものはその場に放置しておくことにした。
この戦いで三発使ってしまったので、歩きながら新しい銃弾を装填する。
「さて、後は六体。この調子でパパっと片付けてこれからに向けて準備を進めたいところだけども」
――助けて!
洞窟の奥から聞こえた声。
全く……俺は殺し屋だぞ。人助けのために仕事をしているわけじゃないんだけどな。
ただ、死んだ親の頼みだからな。
俺は思いっきり地面を蹴って走り出す。
この洞窟は入り組んでいて方向感覚がおかしくなり、声の聞こえてきた方向が分からなくなりそうなものだが、俺は方向感覚を鍛えていたため、方向感覚は鮮明だ。
少し走ると何やら魔物の集団の影が見えてきたその奥に少し光が見えるということはあそこにいるのだろう。
さっきまで暗い中、歩いていたので、かなり眩しいものの、直ぐに目が慣れて視界が鮮明になる。これならば狙える。
「敵捕捉、ターゲットロックオン」
敵の数は五体、装填されている銃弾の数も五発。一瞬でケリをつけてやる。
俺の得意分野は高速射撃だ。俺に殺しを教えた師匠が一番熱心に教えてきた分野だけあって、一番得意まである。
一瞬で狙いを定めて五発連続で発砲する。
その銃弾は全ての魔物に一発ずつ頭に直撃。これで一撃でその場にいた魔物たちは全てその場に倒れ、灰となって消えた。中にはさっきの魔物と同様に何かを落とした奴もいる。
これで九体の討伐が完了。あと一体というところだが、まずはこの子の方が優先だろう。
「おーい、大丈夫か?」
そこに居たのは女の子だった。なにやら貧相な服を着ていて、耳が尖っている。
ポカーンとして驚いている様子だ。
だが、どうしてこんな所に居るんだ? ここは魔物が大量に出没しているんだから、武器もなしにこんな所にいたら危ないだろう。
ただ、それよりも気になるのは色々落ちているものだ。
俺にとっては人が死んでも死ななくてもどうでもいい。
「しっかし、この落ちているものはなんだ? あれか? よく聞くゲームのばぐって言うやつなのか? どうして消えねぇんだ?」
まぁ、今は関係ないか。あと一体倒して速やかに依頼を完了させるか。
「もう、こんな危険な場所に武器も持たずに来るんじゃないぞ」
一応声をかけてその場を去ろうとしたその時だった。
「あ、あの!」
「なんだ?」
呼び止められてしまった。
早く依頼を達成させたいところなのだが、呼び止められたのに無視するのも印象が悪いだろう。
俺は振り返って女の子の方を見る。
「貴方は一体、何者ですか?」
「俺か? 俺は……」
冒険者、なんだけどまぁ、こいつとはもう二度と合わないだろうし、名乗っても問題は無いのか?
というか、まだ一個も依頼を達成していないのに冒険者を名乗るのは恥ずかしいんだよな。
だから俺は覚悟を決めて名乗ることにした。
「俺は殺し屋だよ」
「う、後ろ!」
女の子が俺に後ろに魔物がいることを教えてくれた。だけど、俺はもう既に気がついていた。
そのままノールックで拳銃を向けて一思いに引き金を引いた。
見えていないものの、後ろで倒れて気配が消えていくのを感じて倒したことを察する。これで十体だ。
もう魔物と戦うことは無いので、安全装置をかけ直して背中に拳銃とナイフを仕舞った。
「気をつけて帰ろよ」
もうここには用はないので、今度こそこの場を去ろうと歩き出すが、後ろから引っ張られる感覚。
振り返ってみるとさっきの女の子が俺の服をつまんでいた。
女の子が後ろにあることを知らなかったら思わず投げ飛ばしていたかもしれないからいきなり掴むのはやめて欲しいんだが。
「私もついて行っていいですか?」
「はぁ?」
正直、この女の子の考えがよくわからん。俺の話を聞いていなかったのか?
俺はこの女の子に殺し屋だと名乗ったはずなんだが、全くこわがっている様子はない。それどころか、その目がきらきらとしている。まるで俺に希望を見いだしているかのように。
さっき、魔物に襲われていた時は地面に座り込んで絶望の表情をしていたというのに……。
「はぁ……仕方ないな」
「ありがとうございます! 私はルーシー・ハルロート。あなたは?」
「お前、変わってんな。一殺羅だ」
「それじゃあ、お願いします」
そこで洞窟の奥の方から魔物が走ってきているのが見えた。
もう依頼は達成したのでこの魔物と戦う訳には行かない。なので走って逃げたいところなのだが、このハルロートの足が震えていて走れそうに見えない。
こうなったら仕方がないか。見捨てたら夢見が悪くなりそうだしな。
人殺しはするけど、見捨てることはあまりしたくない。
「少し我慢してくれ」
「え? な、なに!?」
俺は一言断ってハルロートを背負う。
背中の方で何やら暴れているものの、しっかりと背負って出口に向かって走り始めた。
まだまだ殺羅は余裕を残しております。
メインウェポンはハンドガンですね。
今までターゲットは一人だけだったので、あまり大勢と戦うことは無かったらしいのですが、囲まれたとしても余裕だということですね。