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第4話 賃金稼ぎ

 とりあえず街へと入ることが出来たので、早速見て回ることにする。

 まだ何をするかも考えていないので、とりあえず見て回るだけだ。


「それにしても、こんなに晴れ晴れとした気分で街を見るのは初めてだな」


 俺は職業柄、ほぼ全ての国を飛び回っているので、新しい街に来るというのは珍しいことでもなんでもない。そのため、お上りさんになることはないだろう。

 だが、気分が晴れているおかげで、いつもよりも街を見るのが楽しく感じる。しばらく忘れていた感覚だ。

 まだ殺し屋として有名じゃない頃は、今みたいに楽しんでいた時もあったっけな。


「ねぇねぇ、見てママ」

「あら、可愛いぬいぐるみね」


 微笑ましい光景だ。

 以前の俺はこんなことを思うこともなかったな。


「おい、大丈夫か?」

「あぁ、ちょっと魔物にやられてな」


 どうやらあの魔物たちと戦うことを職業としている人もいるようだ。確かにあんなやつらを野放しにしていたら市民が危険だし、当然あいつらを駆除する職業っていうのもの存在するわけか。

 俺も今、金がないしな……元々殺しを生業としていた俺としてはかなり適任なんじゃないかと思う。

 どこで魔物退治の職につけるんだろうか。


 確か、友達が異世界系の本を読んでいた気がする。その時に何か言っていたような気がするんだけど、如何せん、数年も前のことなのでかなり記憶が朧げだ。

 確か、ぎるどだっけか? そんなところに行くと魔物退治の仕事を受けることができると言っていたような気がする。


 その事を思い出して俺は街の案内図を見る。

 だが、全く読めない。

 殺しのためにありとあらゆる国の言語を取得してきたのだが、そういえばここは異世界だった。ならば、俺が知らない言語があってもおかしくはない。

 だが、どうやら声に関してはしっかりと俺のわかる言語に翻訳されている。よく分からないシステムだ。


 とりあえず街の中心に大きい建物があると記載されていたので、向かってみることにした。

 それにしても入り組んでいるので、始めてきた俺からしたらかなり道を覚えにくくはある。だけど、暗殺の経路を覚えるために鍛えた記憶力で何とか頭の中に道順を叩き入れる。


 そうして建物にたどり着いたのだが、ものすごく大量の人々がそこにいた為、俺は思わず顔を顰めてしまう。

 今までの癖で、人混みを避ける癖がついてしまっているのだろう。すこし人混みの中に入るのははばかられたものの、この世界では俺は殺し屋では無いのだから、堂々とその建物の中に入っていく。


「うわぁ」


 思わず声を漏らしてしまった。

 そこには武装している屈強な者たちが群がっていた。

 女性も居て、その女性すらも武装して掲示板らしきものを物色しているように見える。

 その掲示板には何か貼られているようだが、俺は全く読めないので、仕方がないだろう。


「おい、ぼっちゃんよ」

「……」

「おい!」

「……」

「おいこら、無視してんじゃねぇっ!」


 面倒くさそうな奴に絡まれてしまったので、スルーしてやり過ごそうかと思っていたら、襟を掴まれて強引に顔を向けさせられた。

 その人物は顔に裂傷があり、肉体がかなり屈強な男だ。


「あー可哀想に。子供がこんなところに来るから……」

「しかも、Bランク冒険者のガイズだ」


 どうやらこの男はBランク冒険者のガイズと言うらしい。まぁ、興味はないものの、いきなり襟を掴まれてイライラしている。

 ただ、ここでいきなり殺してはダメだ。人目があるし、何より俺のポリシーがそれを許さない。

 どれだけ苛立っていたとしても、感情に任せて殺してはいけない。俺が殺すのは依頼された相手だけだ。


「なんでしょうか?」

「ナメてんのか!? 俺はガイズ様だぞ、お子様が調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

「調子に乗っているつもりは――」

「そんなことは関係ねぇ! 俺は今、イライラしているんだよ!」


 俺もイライラしている。主にお前のせいでだけどな。


「ちょっと憂さ晴らしに付き合ってくれよ! 死んじまったら悪いな!」


 そういうと俺に向かって拳を振り下ろしてくるガイズ。

 それを見て流石の周囲の人たちも焦ったようだ。そして、ここの職員らしき人も飛び出してきた。

 まぁ、確かに俺は見た目ひょろひょろだし、こんな奴に殴られたら一撃だろうと考えるのも仕方がない。

 だけど、こいつは本当に知っているのか?

 人を殺す時の生々しさを、苦しさを、気持ち悪さを。

 俺はそれを数百と味わってきた。

 人殺しの経験が違う。


「なっ」


 手始めに俺はガイズの拳を受け止めて見せた。それによって周囲が凍りついてしまう。ガイズも驚いて固まってしまっている。

 そしてさらにトドメとばかりにガイズの耳元に言い放った。


「殺すっていう相手を間違えない方がいいよ」


 その一言が最後の一撃となり、ガイズは崩れ落ちて尻もちを着いてしまった。

 毎回思うんだけど、どうしてこの言葉を言うとみんな恐怖の表情を浮かべるんだろう?

 俺はただ、優しい口調で言っているだけなのに。

 まぁ、俺にとってはいい事なんだけどな。なにせ、この状態になった人は俺からの頼みを断ることは出来ない。


「さて、ねぇ、一つ聞きたいことがあるんだけど」

「な、なんで御座いましょうか?」

「なんなの、その口調は……まぁ、いいや。ねぇ、ギルドってどこか知らない?」

「ギルド、ですか?」

「そう、俺、今仕事を探していてさ」

「ぎ、ギルドならここです」

「そうなんだ」


 どうやらここだったらしい。

 たまたま選んだ施設がギルドだったとは運がいい。

 ということは、この武装集団は魔物と戦う人達って言うことか。そしてこのガイズも。


 ということは恐らくあのカウンターが受付ということだろう。

 その奥には受付嬢がいるのだが、さっきのことがあったせいだろうか、固まってしまっている。


「すみません」

「あ、あぁ、ようこそ冒険者ギルドへ」


 ようやく俺のことに気がついた様子の受付嬢は直ぐに切り替えて俺の応対をし始めた。


「あのー魔物退治の依頼を受けたいんですけど」

「失礼ですが、冒険者カードはお持ちでしょうか? この辺で見たことが無い顔ですので」


 なるほど、魔物退治をするにはその免許証のようなものが必要なのか。

 それが冒険者カードというものなのだろう。

 残念ながら俺はついさっきこの世界に来たばかりだし、ついさっき身分証明書を作ってもらったばかりだ。


「すみません、冒険者カードは持っていないんです」

「そうなんですか。ということは新規登録で大丈夫ですか?」

「はい、お願いします」


 どうやら冒険者カードとやらもこの場で作って貰えるようだ。

 受付嬢は俺を登録するための準備をしているのだろう。カウンターの下にあるであろう棚から何やら色々と取りだしてきている。

 水晶玉と登録用紙、それからなにやら分厚い本のようなものを取り出してきている。


「それではこれより、冒険者登録を致します」

「お願いします」

「それでは、まずはこの水晶に手をかざしてください」


 差し出された水晶に言われるがままに手をかざすと、何やら黒いモヤのようなものが出てきて登録用紙に自動的に書き込まれていっている。

 このシステムがよく分からないのだが、向こうの世界には無い超次元的何かが作用しているのだろう。


「こ、これは」

「どうしましたか?」


 するといきなり受付嬢が驚いたので、思わず俺も驚いてしまう。


「これは、大変なことですよ。この色の煙は見たことがありません?」

「そんなに凄いことなんですか?」

「はい、その人の冒険者としての素質をこの煙は示してくれているのです。白は普通、赤は筋力が高め、青は頭脳派、黄色はその全てが備わっています。ですが、黒色は何も記載されていません。未知の色です」

「そうなんですか」


 黒はなんだろうか。

 殺し、だったりしてな。だとしたら何となく嫌だな。こっちでは人殺しとは無縁で痛いんだけどな。


「名前はサツラ・ニノマエ。魔力が低いですね。ん? 称号に書かれている逃げ腰ってなんですか?」

「あー、ちょっと、武器がなくて魔物から逃げていたらその称号が着いてしまったんでしょうかね」

「なるほど」


 くそ、あの時か……なんだよ逃げ腰って……俺は無駄な殺生をしたくなくて逃げていただけなのに。

 その書き方だとまるで俺が魔物にビビって逃げていたみたいじゃないか。


「それでは、この内容で登録します。それではこちらに血判をお願いします」


 そうして手渡されたのはナイフだ。

 血判って針でやる物なんじゃないのか? 流石にちょっと怖いんだけど。

 だけど、ナイフも俺の得意分野だ。ナイフは俺のサブウェポン。扱いは慣れている。そのため、切りすぎることは無い。

 親指の腹の表面を少しだけ切って血を出すと、そのまま親指を指定の場所に押し付けて血判を押した。


「ありがとうございます。これで登録完了です。これより、冒険者の説明を始めます。まず、冒険者には六つのランクがございます。E、D、C、B、A、Sの順番で、Eが一番下、Sが一番上です。貴方は登録されたばかりですので、Eランクからのスタートとなります。冒険者はそこの掲示板に書かれている依頼を受けることができます。依頼にもランクがございまして、依頼は自分の冒険者ランクの一個上までの依頼を受けることができます。依頼を受けると冒険者ポイントが溜まります。これが溜まると一個上のランクに上がることができます。上がるか上がらないかは任意ですが。ただし、AランクからSランクに上がるには試験を突破する必要がございます。なので、Sランク冒険者は数が少ないのです。ですが、Sランクともなると、国の命運を背負う方々ということなので、そうそうSランクに任命する訳には行かないのです」

「なるほど」


 大体は把握した。

 とりあえず、金を稼ぐ手段は確保することが出来そうで安心している。

 ただ、あんまり目立ちたくないのも事実なので、真ん中のB位で留めておこう。そこくらいならそこそこ報酬のいい依頼も入っているだろうし。

 だが、問題は俺がこの世界の言語を読めないということだろう。今度、本でも買って勉強するか。


「あの、Dランクでオススメの依頼ってありますか?」

「え、えぇぇぇっ。いきなりDですか!? それはかなり無茶なような」

「俺、こう見ても強いので」


 とりあえず、宿も何も取れないのは流石にまずいので、手っ取り早く金を稼ぎたかったからDランクの依頼を受けることにした。


「そうですか……ですけど、Dランクで残っている依頼といえばこれしかないですよ」

「その依頼は?」

「近くの洞窟で魔物が大量に湧いているから十体ほど討伐して欲しいとの事。報酬は五百レンです」

「……」


 すまない、レンという単位の価値が全く分からない。

 ただ、この近くの宿の値段を聞いておかないと今後、困ることになる。

 ずっと貧乏暮らしだったが、流石に野宿はしたことないので、かなり抵抗があるのだ。


「一番近くの宿は何レンですかね」

「そうですね。一泊百レンと言った所でしょうか。格安ですので、冒険者方に人気ですよ」


 なるほど、この依頼をこなすと五泊ほど出来るのか。それはかなり良い。


「それでは、この依頼を受けます」

「本当に大丈夫なんですか? 洞窟の魔物は危険ですよ」

「大丈夫です」

「そう言って帰ってこなかった人を何人も見ているんですよ」


 なるほどな心配してくれているようだ。

 今まで心配してくれる人はいなかったので、少し心に染みるものの、依頼と言うならば殺してもいいということだろ? なら問題ない。

 殺しは俺の得意分野だ。


「大丈夫ですよ本当に」

「そ、それじゃあ」


 受付嬢は心配しつつ、渋々依頼書に印鑑を押して手渡してきた。

 恐らくこれで依頼を受けたということになるのだろう。


「それでは、気をつけて行ってきてくださいね」

「はい」


 そして俺は冒険者ギルドを後にして街の近くの洞窟へと向かった。

 冒険者になりました。

 さて、世界最強と呼ばれた殺羅の実力は如何程なものなのか。

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