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第3話 身分証明書

 とりあえず俺は落ち着いて所持品を確認してみることにした。

 服装に関してはこの世界に来る前のものと同じだ。だが、打たれたはずなのに血の跡が一切ないのがかなり気になるけども。

 だが、タイミングが悪かったようで、仕事時の服装じゃないので、そんなにいいものは持っていない。

 幸いにも護身用に背中に隠していた銃と銃弾は無事のようだ。そして、銃弾に関しては知識があるため、量産は可能だから武器には困らない。後は小型のナイフ、そして財布、偽造の身分証明書。

 ただ、こっちの世界で向こうの身分証明書なんて使えるわけが無いので、これは無いに等しいだろう。そして、それは金も同じことだろう。なので、何も買えない無一文ということだ。

 まぁ、突然の異世界転移でこれだけのものを持ってこれただけでもいいと言うことにしよう。


「しかし、仮面がないのは辛いな。あれ、気に入っていたんだけど」


 ないものねだりをしても仕方がない。とりあえず街へ行くことを考えよう。

 道中にいる魔物たちは全無視だ。こいつらは襲いかかってくると言っても、命を持っている。依頼されていないのにその命を奪うのは俺のポリシーに反する。


 そんな感じで逃げ回りながら街へやってくると、城壁の門前に立っていた二人の門番らしき人が俺が魔物に追われているのを見て目を丸くしたものの、直ぐに武器を構えて俺の事を助けてくれた。


「大丈夫か君」

「えぇ、何とか大丈夫です」


 まぁ、あの程度ならば特段問題ない。

 どうやらこの平原にいるのはスライムや小型の魔物のみで、そんなに危険度は高くないようだ。まるで、RPGの序盤の町のようだ。まぁ、やった事ないけど。

 当然、うちは裕福では無いので、ゲームなんてものできるわけが無い。ただ、一回だけ友達の家でやったことがあるが、それだけだ。ゲームの基本も何もかも知らない。


「それで、どうしましたか?」

「あ、そうでした」


 まぁ、友達からの入れ知恵だが、こういう世界に来たら街に入るのには身分証明が必要らしい。だけど、俺はそんなものは持っていない。

 正確に言えば身分証明はあるんだけども、あんなものはこっちの世界では使えないだろう。ここは変に誤魔化しても怪しまれるだけだし、素直に言うのが吉だろう。


「この街に観光しに来たのですが、残念ながら身分証明を落としてしまったようで……」

「そうですか。ではこちらへどうぞ。俺が案内する。お前は門番を続行しろ」

「はっ」


 一人の門番が門の下にある小さな石造りの小屋に案内してくれた。

 周りを見渡してみるとやっぱり、ここは元の世界とは違うところだということを痛感させられる。どこを見ても見たことないものばかり。

 今まで色々な国を飛び回ってきた俺でも見たことないものが沢山ある。


「それでは、こちらへ拇印を押してください」


 門番は俺に一枚の書類を手渡してくる。

 そこには様々な規約が書かれている。だが、かなり常識的な範囲内なので、流し読みでも大丈夫だろう。今のところは犯罪行為をするつもりなは無いので、そんなにこの規約に触れることは無いはずだ。


「重要な点はなんですか?」

「あぁ、これは点数制になっていてな、違反する度に一点引かれるんだよ。全部で十点。全て無くなったら、身分証明が無効となる。ただ、あまりにも酷いことをしていると、無効になるだけじゃなくて、指名手配、もしくは死刑なんてこともある。まぁ、死刑なんて言うのは今までで一度も出たことは無いらしいけどな。でも、この中で注意して欲しいものは、この『王族に危害を加えない』、『テロ行為をしない』、『人を殺さない』の三つだ。特に『王族に危害を加えない』と『テロ行為をしない』を破ると、一発死刑も有り得る重罪だ。『人を殺さない』は一発死刑にはならないものの、指名手配、殺しすぎたら死刑にもなり得るから気をつけろ。まぁ、お前さんの顔を見るにそんな犯罪を起こす度胸は無さそうだけどな。はっはっは」

「そうですね。ははは」


 こと細かく説明してくれた門番は笑いながら俺の事を犯罪を起こす度胸はなさそうだと言った。それに俺も愛想をするように笑ってみせる。

 昔から俺は顔が優しすぎて悪いことが出来なさそうだと言われた。だけども、俺は特級犯罪者だ。

 まぁ、そのおかげで怪しまれずに殺せたことが何度もあるから、この顔は別に嫌いじゃない。ヘタレそうだと思われたことがあるのは少々不本意だけど。


「分かりました」


 俺は親指に墨をつけて拇印を押す。

 それを見て門番はニカッと笑ってカードを取り出した。恐らくあれが身分証明書なのだろう。


「それではこちらに手を翳してください」

「はい」


 どうやらまだあるらしい。

 カードを机の上に置くと、その上にガラス板のようなものを置いた。ただ、その中が曇っているため、かなり怪しいが、言われた通りに手をかざしてみると、ガラス板が光始めた。


「な、なんですかこれは」

「あぁ、落ち着いて。今、カードに書き込まれていますから」


 言われて落ち着いて見てみると、見にくいものの、確かにカードに俺の情報が書き込まれて行っている。


「あれ? 珍しい名前ですね。ニノマエ・サツラ?」


 これはどう反応したらいいんだろうか。

 恐らく発音的に名前と苗字が逆なんだろうけども、これを指摘しても大丈夫なんだろうか。この世界に俺と同じ順番の姓名の人はいるんだろうか。


「あのー、例えばですけど」

「はい」

「ファーストネームとファミリーネームが逆の人っているんですかね」

「あぁ、居るよ。この街の近くにも確かそういう人たちが住んでいる集落があったはずだ」


 良かった。どうやら俺だけじゃないようだ。


「実は、俺も逆なんですよ。今まで俺と同じ人と会ったことがなかったので、心配だったんですよね」

「そうだったんですか。では、サツラ・ニノマエさんでよろしいですか?」

「はい、お願いします」


 そこでやっと門番は俺の身分証明書に印鑑を押し、これで手続きは全て完了。

 門番は俺にカードを渡してきて、ニカッと笑った。


「それでは、お気をつけて」

「ありがとうございました」


 俺は小屋から外に出る。そして腕を目一杯伸ばして体を伸ばした。

 久しぶりだ。追っ手の心配をしないで街に繰り出すのは。まぁ、今までも仮面をしていたので、バレる心配はないと考えていたけども、念には念を入れていた。

 だけど、この世界には俺の事を知っている人は誰もいない。つまり、自由だ。


 この世界でなら出来そうだな。親に言われた「善人になれ」という言葉を守ることが出来そうだな。

 殺羅は久しぶりに正しい身分証明書を作ったことになりますね。

 元の世界では殺し屋、一殺羅の名前が知れ渡っているので、本名の身分証明書を作るわけにはいかないんですよ。

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