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第2話 異世界召喚

「いてて……」


 俺、一殺羅は腰の痛みで目を覚ました。といっても別に腰痛とかいうものでは無いもっとやばいものだ。

 何かに強く打たれたかのようなかなり激しい痛み。所謂鈍痛を背に感じて俺は目を覚ましたのだ。正直いって最悪の目覚めといったところだろう。

 そして起き上がって服の中に手を入れて背中を確認してみると何やら布用なものが腹から背にかけてぐるっと一周巻かれているのに気がついた。


「これは――」


 そこで俺は思い出した。

 俺は確か銃で撃たれてしまって死んだはずだ。だが、何故か俺は意識を取り戻した。しかもこんなにも丁寧な治療をされて目覚めるなんてことがあるとは思わなかった。

 俺は事情が事情だけにあのまま放置されてもおかしくはなかったのだが、どうやら助けてくれた人がいるらしい。


 それにしてもここはどこだろうか。どこかの一室なんだろうが、この部屋の内装を見ても全く見覚えがなかった。

 というかこんな部屋はこの世に存在するのだろうか。全く使われた形跡はなく、真っ白で綺麗な壁紙、家具に関しても俺の寝ていたこのベッドオンリーだ。こんなに生活感のない部屋があるはずがない。


 だがとりあえずだ。この今の状況を知らないと思うように動くことも出来ない。


「この部屋から出てみるしかないか」


 部屋を最後に一瞥して、ズボンのポケットの中に手を突っ込んでみる。

 ――うん、ある。俺の相棒はちゃんとここにあった。

 そのポケットの中に入っていた相棒を握りしめて、反対側のポケットの中に入っていたもう一つのアイテムであるゴム手袋を手に装着してから部屋の隅にある扉のドアノブに手を触れる。

 どうやらなんの仕掛けもないただのドアノブのようだ。すこし電撃を警戒してゴム手袋を付けておいたものの、そんなものはなかったらしい。


 だが俺はまだ気を抜くことはしない。慎重にドアノブを回してドアをゆっくりと押し上げた。


『さぁ、勇者よ旅立ちの時間です』


 ドアノブを回すと俺の頭の中に何か声が響いてきたような気がした。

 その事に困惑しながらも明らかに異様な真っ黒な地面へと一歩踏み出した。その瞬間、視界全てがガラリと変化し、辺り一面真っ青で視界の先に白くてふわふわしてそうなものが見える場所に変化した。そして俺の体は自由落下を始める。

 肌身に感じる空気、そしてあの白い物体。この条件から考えてみて俺は恐らく


「あ、これ死んだわ」


 遥か上空に投げ出されてしまったことを瞬時に把握。このまま落ちたら俺は落下死してしまうだろう。

 一度は助けられたこの命だが、どうやら結局死んでしまうらしい。


 徐々に地上らしきものが見えてきた。これが俺の最後に見る景色ならばなかなか悪くない。

 俺の視界の先に写っているのは和な平原だ。この光景はとても綺麗なもので、俺は一瞬で魅了されていた。

 俺の元住んでいたところもそこそこ平原があったけどもこんなに綺麗な平原はなかった。


『これより完全防護を付与します』

「あ?」


 またこの声だ。どこから聞こえてきているのだうか。

 でももう死ぬのだ、それも関係ないだろう。

 もう地上も近い。これならば焼肉でも食っておくんだったな。最近はもやししか食っていなかったし、死ぬんだったらその前に美味い飯を食っておきたかったな。


 そして俺はそのまま地上に落下した。それと同時に周囲にはとんでもない地響きがなり、大地を揺らした。

 そんな中、俺は――


「腰があぁぁぁぁぁぁぁ」


 腰が痛いのを嘆いていた。落下のダメージはほぼゼロに近く、死ぬことは無かったのだ。ただし、落下の衝撃による肉体的ダメージこそなかったものの、その衝撃が腰の方に響き、腰にかなりのダメージを与えたのだ。

 だがそれよりもなんで俺は死ななかったのだろう。まぁ、大方さっきから聞こえてきている謎の声の影響によるものだと推測できる。確か絶対防御を付与するとか言っていたしな。


「……って、完全防護失敗してるじゃねぇか! 何が完全防護だ。ほとんどのダメージは無効化できているのかもしれないけども衝撃を殺しきれていないぞ。なんだその不良品はああああ!」


 俺は誰にということも無く、この今の怒りを露わにするかのように叫んだ。

 だがとりあえず今の自由落下のおかげでこの周辺のマップを頭に叩き込むことが出来た。


 俺の視力は2.0、更には記憶力がかなり高い。なので一度見ただけで上空から見たマップを全て頭の中に叩き込むことが出来たのだ。


 確か落ちてきた時の俺の頭の方向から左側に何やら街っぽいが見えた。その反対には森があったが、こんな訳分からない状況でそんな危険分子が眠っていそうな場所には近づかないようにしよう。

 とりあえず街に行くのが先決か。


「いてて」


 腰が痛いものの、治療が丁寧だったのか銃で撃たれたというのに走れそうなくらいの痛みではある。これは不幸中の幸いと言ったところだろう。

 俺は空を見る。と言っても太陽の位置を見たところで今は西も東も分からない状況だ。長時間太陽を見て邦楽を確かめる訳にも行くまい。

 ということでできるだけ早く街に着けるように俺は走り出した。その時だった。


 地面から何かが湧き出してきた。ジェル状のヌルヌルしていそうな物体だ。


「なんだこいつ」


 俺は警戒してその物体から距離を取る。

 ニュルニュルと湧き出してきたジェル状の物体は何かの形へと変化して既視感のあるものになった。

 というかぶっちゃけスライムだ。


「なんでスライム? 何故?」


 俺の常識で言わせてみればスライムなど存在しないはずだ。なのに俺の目の前にはスライムが出現した。

 それから少し観察しているとどんどんと他の場所からもスライムが湧き出してきた。

 十匹ほどいるだろうか。それにかなり遅いものの、徐々に俺の方に近寄ってきているような気がする。このまま惚けていたらまずいかもな。


「よし、逃げるか」


 俺はスライムを上手く回避し、逃走を図った。

 結果から言うとスライムからは上手く逃げ切ることが出来たものの、それによって俺の中にある疑問が膨れ上がるばかりだった。


「ちょっと待て、この状況はどこかで――」


 そして腕を見てみるといつの間にか腕時計の隣に何かが着けられていることに気がついた。

 ブレスレットのようななにかだが、全くなんなのかが分からない。本来ならば触らぬ神に祟りなしなのだろうが、俺の好奇心がそれに触れないという選択肢をかき消してしまった。


 それに触れた瞬間、俺の視界に何やらひょうのようなものが飛び出してきた。

 そこに書かれているのはスキルと称号、特典の三つだ。だが、これら全て空欄となっている。

 俺の考えが正しければこれは神に苦情を言いたいところなんだが、とりあえず認めたくはないがどうやら来てしまったらしい。


「異世界……か」


 何も説明なしで、持っているものと言ったら気を失う前に持っていたもののみ、だけど俺にとってはこれで十分だ。

 どうして俺は異世界に飛ばされてしまったのか。それは分からないけどもこの世界をまずは探索してみよう。話はそれからだ。


 ☆☆☆☆☆


 とある空間、一人の羽の生えた少女がとある部屋を訪れた。

 その部屋にいた少女にその少女は話しかける。


「ねぇルーシェ」

「なによハート」

「さっきのあの好青年らしい男の子、目覚めたらしいけど、ちゃんと他の人と同じように特典を与えたのかしら」

「……」


 ルーシェはハートの言葉に一瞬、ビクッと肩を震わせて動揺を見せる。

 特典というのはこの世界に来る時に神から与えられる特殊能力のようなものだ。だが、今回はルーシェが殺羅に特典を渡し忘れてしまったのだ。


「はぁ……あの子、すぐ死ぬわよ」


 そのハートの言葉を聞いたが、ルーシェは冷静にお茶を啜る。

 その様子をハートは訝しげな視線で見つめる。


「大丈夫よ。なにせ、あの子は世界最強の殺し屋なんだから」

「はぁ……」


 ハートはルーシェの意味不明な言葉に溜息をつきつつ、地上が映し出されているモニターを覗き込んだ。

 遂に殺羅も異世界に突入です。

 他に殺羅が気を失う前に聞こえていた声の主たちは先にやって来ています。

 相棒の事に触れるのは少しあとになります。

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