第21話 緊急依頼
「うーん……」
朝、日光が部屋の中へときつく差してきた頃に、ベッドの方から唸り声が聞こえてきた。
その声に反応してベッドを見てみると、一人の人影がベッドからゆっくり起き上がるのが見える。他の誰でもない、ハルロートだ。
まだ眠いのだろうか、眠気まなこを擦りながら周囲を見渡している。そこでようやく机で勉強をしている俺に気がついた様子だった。
「サツラさん、おはようございます」
「あぁ、おはよう」
「何をしているんですか?」
「この世界の文字が分からないと不便だからな。文字を勉強しているんだ」
「え! 文字が読めないなら私が変わりに読みますけど」
「助かっている。だけど、いつまで経っても世話になっている訳には行かないからな」
ふとハルロートの顔を見る。
すると、心做しか少ししょんぼりとしているような気がする。気のせいだろうか?
この一晩でかなり文字を覚えることが出来た。簡単な文章くらいならもうスラスラと読むことが出来る。言語習得は俺の得意分野だからな。言葉も違ったら少し大変だったが、文字だけだったらそんなに苦労することは無い。
「さて、今日は自由としよう。俺は図書館に行く。ハルロートも自由にしていいからな。これが小遣いだ」
「は、はい」
「それじゃあ、俺はもう行くから、外に出るなら施錠を頼む」
俺は部屋を出ようとする。すると、突然背後から服をつままれた感覚が走った。
驚いて背後を見ると、そこには不安そうな表情で俺の服を摘んでいるハルロートの姿があった。
「どうしたんだ?」
「……私もついて行く」
「ん? 自由にしていいんだぞ」
「……一人になるのは嫌」
「そうか」
ハルロートは俺と会うまではあの国で独り、日本での俺とは違って買い物もできない。何も出来ない状態で独りを過ごす。
その恐怖は俺では分からないだろう。明日も見えない状態は本当に彼女を恐怖のどん底に陥れたのだろう。
そんな彼女の心からの叫びを無視するほど、俺の心は荒んではいない。
俺はそっと優しくハルロートの手を両手で包んで告げた。
「それじゃあ、一緒に行くか」
「はい!」
俺の言葉が相当嬉しかったのか、輝く笑顔を見せるハルロート。
そんなに嬉しそうな表情をされると、少し調子が狂ってしまう。
俺が歩き始めるとハルロートも俺の後ろを嬉しそうに足取り軽く着いてきた。
こんなに嬉しそうにしているハルロートは初めて見るような気がする。何かいい事でもあったのだろうか。
図書館へ着くと、俺はお目当ての本を探し出す。
本には絵が書かれているので、文字が読めなくても何となく分かったから前回は複製の魔法を覚えることが出来た。
だが、使い方は分かったけど、詳しくはわからなかったので、それをもう一度読んでみたいというものがある。
だが、一番気になるものは他にある。
硬直魔法を解く方法だ。流石にあれを使われてしまったら厳しいからだ。
ただ、どの本にどの魔法があるかはパッと見で分からないので、手当たり次第に調べていくことにする。
その最中に分かったこともいくつかあった。中には俺が同じ魔法を使ってハルロートよりも疲れなかった理由に近いものを発見することができた。
それは適正属性だ。
適正属性の魔法ならば小火魔力を抑えることができるらしい。まぁ、その適正属性って言うのは分からないけど、だけどこれしか理由がないのだとしたら不自然なのだ。
クリエイトの魔導書を見てみたのだが、無属性で属性は関係ないらしい。
だとしたらどうして俺は消費魔力が少なかったんだろうか? まだ謎が残る。
そして遂に目的の魔法を見つけ出した。
ディスペルという相手の気持ち魔法を打ち消す魔法らしい。これを使えば硬直魔法を打ち消すことが出来る。これで心配事は無くなった。
それに面白いこともわかった。
どうやら発動する時は詠唱を口ずさむことによって無意識の間に魔力を操作しているようだ。
ならば、魔力を自分の力で使えるようになれば。
――緊急! 緊急! 街に魔物が迫ってきています。冒険者の皆様は至急、討伐を依頼します。
その時、突然アナウンスが街中に響き渡った。
内容的に緊急事態のようだ。街に魔物が迫ってきているとの事。
先日のもかなりの緊急事態だったと思うけど、今回のはかなりヤバそうだ。
昔から自分の身に危険が迫ると分かるのだが、今回のは特段やばい。鳥肌が立っている。
「お、おい、あれやべぇよ!」
「魔王軍の兵器と呼ばれた魔物だ!」
俺とハルロートは慌てて外に出てみる。
すると物凄い圧が襲いかかってくる。異様な気配に眉を歪めて門の外へと目を向ける。
そこには真っ黒なオーラを出している異様な人物が存在していた。
そういえば、さっきすれ違った人が魔王軍の兵器とか言っていたよな。
この平和を保つためには魔王をぶっ潰さなきゃいけないのか。……面倒だが、これも依頼だやるしかない。
隣を見てみる。そこには震えてしまっているハルロートが居た。
「怖いなら隠れてていいぞ」
「いえ、大丈夫です! やれます!」
やや無理をしている様子だが、ハルロートが行けると言うのなら大丈夫だろう。
ハルロートもこの数日で魔導書を読み漁っていた様子だった。いざとなれば魔法で護身くらいは出来るだろう。
「そうか、それじゃあ行くぞ」
魔王軍の兵器とはどのような敵なのでしょうか?