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第14話 異世界の料理

「終わりました」


 背中にもう一度ナイフを仕舞いながらハルロートとハルフの元へと向かうと、二人とも俺の事を凝視していた。

 そして若干、俺に脅えている様子もあった。何を怯える場面があったと言うんだ。


「お疲れ、サツラさん」

「あぁ、しっかし、柄にも無く、怒りを露わにしてしまったな。反省しなくては……」

「君」

「ん?」

「一体何者なんだ」

「どういう意味ですか?」

「魔族は種族の中でも上位を争うほどの強さだ。それをあんな赤子の手をひねるように」


 なるほど、確かにグーヴェルもそのことをほのめかすようなことを言っていたな。人間ごときと言う言葉を使うということは、恐らく人間よりも強い種族なのだろうと思っていたけど、あいつはそんなに強い種族だったのか。弱かったけどな。

 むしろ、グーヴェルと戦った時よりも、魔物の集団と戦った時の方が頭を使っただろう。まぁ、強いと言うよりも面倒くさいだったな。あの量と一度に戦うのは今回限りにして欲しい。


「そんなことよりも」

「そんなこと!? 魔族を圧倒したことをそんなことで済ますのか!?」

「お仲間さんが到着したようだぞ」


 俺の言葉でようやく気がついたのか、ハルロートとハルフは振り返った。

 そこには先程、増援を呼びに行った門番と、大量の騎士、冒険者が走ってきている光景が広がっていた。

 かなりの数だ。魔物の大軍の数よりも少ないものの、流石にこの数は一気に相手したくないと思うほどの人数だ。


「呼んできたぞ! って、あれ? 魔物の集団は?」

「…………」


 門番の人がハルフに聞くと、目配せで俺に今回のことを話してもいいかとでも聞いてきた。

 正直、今回の事が明るみになったら面倒なことこの上ない。そのため、内密にして欲しいものである。

 その旨を同じく目配せで伝えると、ハルフは口を開いた。


「魔物たちはお前らの姿が見えた途端、逃げ帰っていったよ。やっぱり、魔物たちは冒険者が怖いのかね」


 ハルフがそう言うと、冒険者たちは一斉に笑い始めた。


「おいおい、飛んだ腰抜けモンスターだな!」

「まぁ、仕方ないよな! 俺たち強いし」

「Bランクともなると、魔物の中でも有名になるのか!」


 とても愉快な人たちのようだ。みんな、自分の力に自信を持っている。そんな彼らを見て少し、羨ましいと思ってしまった。

 俺は自分の力に自信が無い。

 元の世界で俺は最強の殺し屋とまで呼ばれるようになったが、それはただの他人からの評価に過ぎない。

 俺が俺自身を認めるにはやっぱり、あいつを殺さないとダメだ。


 そこで、皆が笑って気が逸れているうちにハルフが小声で話しかけてきた。


「ところで大丈夫か?」

「何がだ?」

「爪を肩に刺されていただろ」


 言われて思い出す。そういえば、グーヴェルから食らった唯一のダメージだったな。

 爪に毒が塗られており、恐らくその毒は普通の人間が体に取り込んでしまったら即死は免れないほどだろう。


「大丈夫だ。俺、普通じゃないから」

「どういう事だ?」

「俺は特殊な事情で、昔から良く毒物体制を付けるための訓練を受けてきたから、俺に毒物は効かない」

「そうかそうか……って、毒!?」

「あぁ、恐らく即死級の」

「そく……お前、本当に人間か?」

「俺の中の定義では人間だ」

「なんだよその言い方……普通に人間だって言えよ。なんだか、その言い方だと人間じゃないように聞こえるぞ」


 まぁ、俺の中でも危ういんだ。

 俺は色々と一般人とは違う。訓練を受けすぎて人間の枠組みから外れてしまったと言われてしまったら俺は否定をすることが出来ない。


「それよりも、戦いは終わったんだから早く中に入れてくれないか? 腹減ったし、色々とやりたいことがあるんだ」

「あ、あぁ、分かった。通っていいぞ。それと、もう少し話したいことがあるから、飯なら俺がお前らの分は奢るから一緒に行かないか?」

「? 飯を奢ってくれるなら文句はない」

「じゃあ決まりだな」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 そして俺たち三人は飯屋に行くことになった。

 飯屋に関してはハルフのオススメの一軒に入ることになった。

 だが、俺は忘れていた。その事に気がつくのは店員さんからメニュー表を受け取った時だった。

 メニュー表の文字が全く読めん。

 そう言えばここは異世界の食堂だ。当然メニュー表の文字も異世界の言語で書かれているに決まっている。そのことにどうしてすぐに気が付かなかった……。


 仕方が無いので、何故かナチュラルに隣に座ってきたハルロートに聞いてみることにした。


「ハルロート」

「なんですか?」

「これ、なんて読むんだ?」

「そういえば、異世界から来たとか言っていましたね。分かりました。これはオムライスです」

「オムライス!?」


 あまりの衝撃に俺は大声でオムライスと叫んでしまった。その俺の声に驚いたのか、店内の人々全員が一斉に俺の方へと振り返った。


「あ、すみません」

「何をそんなに驚いているんですか。ただのオムライスじゃないですか」

「そうだな」


 ここは異世界だと言うのに元の世界にあった料理もそのままあるものなのか?

 でも、このことを予想できる場面はいくらでもあった。例えばパーティーの場だ。あの場に並んでいたのは俺たちに馴染みのある料理ばかり。つまり、俺たちの元いた世界の料理も普通に存在しているということか。


「問題ない。続けてくれ」

「そうですか。じゃあ、これはカルボナーラですね」

「もやしってあるか?」

「もやしって……なんですか」

「なに!?」


 オムライスやカルボナーラがあるのに、俺の鉱物であるもやしがないだと!?

 そんなバカげたことが許されてもいいものなのか!?

 い、いや、諦めないぞ。こいつがただ単に知らないだけかもしれない。形や色を聞いたら思い出すかも。


「えっと、白くて細長い野菜だ。知らないか?」

「白くて細長い野菜……あ! モラの事ですか?」

「もら?」

「はい、モラは白くて細長い野菜です。シャキシャキとして美味しいですよ。それに、安いのであの街に行くまでによく食べていました。……お金がなかったので」


 どうやらこの世界に世知辛いことにもやし生活ならぬ、モラ生活なるものが存在するらしい。

 そしてそのモラは俺の言った物によく酷似しているようだ。つまり、彼女の言っているモラがもやしである可能性は高いと言えよう。

 ここは異世界だ。元の世界と名称が違っていても何ら不思議ではない。


「よし、じゃあモラが入っているメニューはないか?」

「それでしたら野菜炒めはどうですか?」

「野菜炒めか……王道だな。野菜料理と言ったらまず最初に浮かぶのは野菜炒めって言うことか。じゃあ、それにしよう」

「私は何にしようかな。三日ぶりの食事なので、今最高に幸せです」


 ハルロート悲しくなってくるから止めてくれ。

 それと、ハルフ。お前は何か勘違いをしている。俺がハルロートに飯を与えていなかったわけじゃないぞ。だから今すぐその軽蔑の眼差しを止めるんだ。


「ち、ちなみにハルロートは何が好きなんだ?」

「モラですね」

「へ、へぇ……どうして?」

「お金が無いときによく食べていて、コスパも最高で、その中で好きになってしまいました」


 うん、物も理由も残念ながら全て俺と同じだ。せめて理由までは同じでいて欲しくなかった。

 俺がお金が無いときによく食べていたって言うよりも、ハルロートがお金ない時に食べていたって言う方が悲惨な感じがする。


「私も野菜炒めにします。えへへ、サツラさんとおそろいです」


 何でそんな事で嬉しそうにするのかがさっぱりだが、ハルフも注文を決めたようで、店員を読んで注文をする。

 俺とハルロートは事前に話していたとおりに野菜炒めだ。ハルフはカルボナーラを注文していた。

 それにしても、そろそろ文字を覚えないとダメだな。毎回、こんな風にハルロートに聞いてばかりじゃダメだ。


 それから数分後、料理が届いた。

 料理は美味そうで、食欲をそそる。ハルロートなんかは腹が減りすぎておかしくなっているのか、料理を目の前にした瞬間、涎を垂れ流しにしていた。


「いただきます」


 一言呟いてから野菜炒めのモラをフォークで持ち上げた。

 その見た目はどこからどう見てももやしである。確かに、異世界のもやしと言えば誰もが納得する代物だ。というか、すり替えられても全く分からない見た目だ。

 今度は意を決してそれを口に放り込んで咀嚼する。

 そこで俺はこの世界に来て一番の衝撃が走った。


「もやしだ」


 味を確かめてみても紛うことなきもやしだった。

 美味い。

 昨日は飯を食う余裕なんて無かったから腹が減っていたのもあるだろうが、ものすごく美味く感じる。

 空腹は最高のスパイスなんて言う言葉を鼻で笑っていた以前の俺を殴り飛ばしたい。確かに空腹は最高のスパイスだった。


 そこでふと隣で同じ料理を食っている俺よりも長時間飯を食っていない少女へと目を向けると、幸せを満面の笑みで表現しながら食べていた。

 なんだか、ものすごく小動物みたいで可愛い。


 一口食べたところでハルフは口を開いた。


「さて、聞かせてもらおうか。サツラ・ニノマエ、あんたのことを。どうしてあんなに強いのか」

「えぇ、そんなことを聞かれたところでただ鍛えたとしか言いようがないんだけど」

「ただ鍛えた所であんなに強くなるわけがないだろう。あの動きは最早未来予知の域だ」


 未来予知ねぇ。そんな都合のいいものがあればいいんだけど、お生憎様、そんなものはないんだ。


「まぁ、一つ言えることは昔から俺は人よりも動体視力がよかったんだ。だから、それを鍛えて相手の初動からその後の動きを逆算して予測する事ができるようになったんだ。俺のは未来予知なんて大層なものじゃない。予測の域だ」

「予測って……予測で戦えたら苦労はしねぇよ」

「でも、これ以上聞かれても何も出ないぞ」

「そうか、分かった。お前の強さの謎は全く分からないけどな」


 本当にこれ以上詮索するのは辞めたようで、この後ハルフが俺に聞いてくることは無かった。

 その後は軽く雑談をしながら飯を食う。久しぶりに人と食べる飯はすごく美味かった。

 ハルロートの言葉に涙が出そうです。

 殺羅は動体視力と言っていますが、それだけじゃなく暗闇でも見えるなどの夜目を持っていることから全てを一纏めにすると目がいいんですね。

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