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第13話 笑えない冗談

 俺は銃を背中へとしまうとナイフを構えてじっくりとグーヴェルを見据える。

 未だに笑っているグーヴェルに対し、おそらく俺の顔は焦っている事だろう。初めて依頼を達成出来ないかもしれないという焦燥感に襲われていた。

 俺の現在の残弾数はゼロ、俺の武器はナイフのみ。対して相手は何でもありの異世界の住人。かなり無理のある状況。

 だけど、そんなものは何度も経験してきた。というか、いつも攻撃できない状況で逃げ回っているじゃないか。

 それに比べて今は攻撃し放題。


「なんだ……それほど危機的状況でもないな」

「どうした? 来ないのか?」

「いや、ちょっと考え込んでいただけだ。すぐに終わらせてやるよ」

「私を人間ごときが倒す? 笑わせないでと言ったはずよ!」


 すると、グーヴェルは先に俺に攻撃を仕掛けてくる。どうやら煽りに弱い様だ。まぁ、煽ったつもりは無いんだけどな。

 グーヴェルは爪を鋭くのばし、引っ掻いて攻撃してこようとしている。

 その爪の先からは何やら紫色の液体が滴っていることから、あれに触れてしまったら一発アウトということは分かる。

 ただ、所詮は毒物だろ?


「えっ?」

「こうされるのは初めてだよな!」


 俺はグーヴェルの手首を掴むと、グッと引き寄せてまるで舞踏会のダンスを踊っているかのような体制になる。

 だが、俺とグーヴェルが踊っている場所は舞踏会の会場やパーティー会場などでは決してない。足元に死体が転がって、今にも俺たちを引きずり込もうという亡者が大量にうずめいている地上と地獄の狭間だ。

 果たして、この亡者に引きずり込まれるのはどっちかな。


「おらよっと」

「ぐうっ! だはぁっ!」


 俺はグーヴェルの腹にナイフを突き刺し、一気に引き抜くと蹴り飛ばした。

 グーヴェルは先程の勢いを失って紫の血を流しながら地面に転がっている。だが、その直後に俺は驚くべき光景を目にする。


「この程度の傷なら一秒で治る」

「なんだと」


 人間では不可能な超回復。それをやってのけた。

 一瞬にして腹にできた裂傷を塞いで傷を治して見せたのだ。これが恐らく人間とは違う種族の力というものなのだろう。

 これがあるということは一発でその意志を刈り取らなければ倒せないということだろう。全く、面倒くさい敵だ。


「魔族が、人間に負けるわけが無い!」

「そうかい」

「魔族の本気を見せてあげるよ」


 グーヴェルはそう言うと、何やら周囲に物凄い圧を解き放った。

 これはかなり精神に害があるな。俺は何も感じないものの、かなり離れた位置にいるハルロートと門番も辛そうにしている。


「へぇ……あんたは平気なんだ」

「まぁ、俺は元々、まともな精神状態じゃ居られないような生活を送っていたからな。この位はなんとも思わない。逆に緊張感が出た。感謝するぜグーヴェル」

「じゃあ、私に感謝して死になさい! そして光栄に思いなさい! 人間ごときが魔族の手で殺されることを!」

「なるほど、あんたらは普段、駒の魔物たちを使って人々を殺してきたのか」

「そう、本来私たちはこんな下等種族ごときに直接ては下さないのよ! それを私直々に殺すと言っているのだから感謝しなさい!」

「そうか」


 グーヴェルの言葉を聞いて俺は俯いてしまう。

 ただ、これは悔しいとか、相手に勝てないとかいう感情ではない。

 怒りだ。普段冷静沈着、どんな場面であったとしても心を取り乱さずに相手を見据えて戦っているこの俺が怒っている。

 まさかまさか、今になって人間の当然の感情が湧き出てくるとは思わなかった。


「とにかく死になさい!」

「おい」


 殴りかかってくるグーヴェル。この拳を軽々と手のひらで受け止めると握る力をどんどんと上げていく。


「あぁぁぁぁっ!」


 手の痛みで叫ぶグーヴェル。

 

「殺しを馬鹿にするな」

「く、こ、この……人間ごときがァァァっ!」


 グーヴェルは最後の抵抗とばかりに俺の肩に爪を突き刺してきた。

 痛い。久しぶりに受けたダメージだ。だが、これはわざと受けた。


「俺は幾度となく人を殺してきた。だが、俺はそれを誰かに任せたことなど一度たりともない。それはターゲットに失礼な行為だと思っているからだ。だが、お前はその失礼に当たる行為を行った。殺しは他人に任せるだと? お前は笑わせるなと言ったな? 俺は笑うのが好きだ。もう忘れたあの感覚、もう一度味わいたいとすら思って、笑える状況を夢見ている。お前のその冗談、笑えないぞ。面白くない、最低の発言だ」

「じ、冗談じゃあぁぁぁぁっ!」


 再度グーヴェルの拳を強く握る。それによって恐らく手の骨が折れたことだろう。だけど、こいつはすぐに治癒するだろうから問題ないな。


「もういっぺん言ってみろ。さぁ、さぁ、さぁさぁさぁ、さぁっ! 言ってみろ!」

「ひっ」


 魔族の癖に、俺を散々見下していたくせに、俺の目を見て怯えた表情を見せるグーヴェル。

 その様子が何だかおかしくなってくる。さっきまであれだけ俺たちを愚弄し、自分の圧勝を声高に宣言していたというのに、数分後にはこれだ。


「どうした? 何も言わないのか?」

「この、人間ごと――」

「ワンパターンなんだよクソが」


 その言葉を言いかけたその瞬間に俺はグーヴェルの首を掻っ切った。

 グーヴェルの首は中を舞い、その表情は恐怖で歪んでいる。

 そしてさすがに魔族といえども首を切られたら終わりのようでどんどんとグーヴェルの体は灰となって消えていく。

 その姿に全魔族の姿を重ねた。魔族がみんな彼女みたいな奴らなのだとしたら、俺は魔族が大嫌いだ。

 殺羅が余裕で魔族を倒していましたね。

 ただ、グーヴェルは魔族の中でも弱い方なので、これからもっと強い敵が出てきます。

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