男、回帰す。
「あと、1日」
仕事から帰った俺は再度、来ていたメールを確認していた。
「いよいよ明日か」
過去に戻れるなんて信じ込んでるってわけでもないが、旅行に行く前日の様なワクワク感がある。
こんな気持ちになったのもどのくらいぶりだろうか。
それだけでもメールに乗っかって準備したかいがあるってもんだ。
今まで通り明日が巡っても、質の良い睡眠と食事が改善されただけだ。
記憶力強化もおまけ付き。
出費は痛かったがマイナスなことなんて、そのくらいだ。
このワクワク感を持って明日を迎えよう。
そんな気持ちになった俺は就寝の直前まで受験生よろしく記憶術に励んでいった。
翌日、いつもよりも早い時間に目が覚めた朝。
メール来てないかなとスマホを手に取り、アプリを立ち上げた。
新着メールがある。
スパムも数多くある中、もう見慣れたタイトル白紙のメールを開く。
「2005年3月17日への片道切符
あなたの意志があれば、あなたはその日に戻れる
しかし、二度と現在時間には戻れない
あなたにその意思はありますか
YES ・ NO」
いつものメール文と違う。
YES/NOの選択ができるみたいだ。文字のところにリンクがあるようだ。
是非もない。
俺はこの時の為に準備を進めてきたんだ。ワクワク感が更に高まっていく。
メール内容はそれだけだったので、俺は「YES」をタップした…
◇◇◇
目の前が真っ暗になったと思ったら、ジェットコースターの乗っている様な感覚が襲ってくる。
足が宙ぶらりんになるやつだ、これ。
続いて、シュークリームの気持ちを味わった。頭の中にクリームを入れられている様な感覚ってことね。
目まぐるしく(視界は真っ黒だが)変わっていく状況に吐き気を覚えるがその直後に地に足が着いている感覚があった。
人の声が聞こえる。
ていうかなんなんだこれ!?
スマホをタップした途端、体調不良で倒れたってことか?
なんて、瞬間的に思いながらつぶったままだった目を開けてみた。
ふらつく体に力を込めて立っている足が見えた。
ん?制服っぽいものをきているんだが…
ていうか、学ランなんだが。
スマホをタップした時は寝間着のジャージだった。間違いなく。三年は着てる勝利の女神の翼をモチーフにしてるメーカーのやつだった。
着替えた記憶もないし、手を見てみると現場で培われたゴツさが消えている。
これはあれか?メールはガチだったってことか!?
そんなことを考えながら手をよく見てみると何か握っていることに気付いた。
力を入れすぎたせいかクシャクシャになっている受験番号と書かれた一枚の紙だった。
それを確認した瞬間、跳ねたように頭を上げて周囲を確認した。
中学生か高校生か曖昧な年頃の男子、女子がたーくさん。
その子たちが食い入るように見ているのが合格発表のデカい掲示用紙だった。
泣きながら友達と抱き合っているこ子もいれば、暗い顔をして門の方に向かっている子もいる。
冷静に考えて。
これはあれだな、タイムリープしちゃってるっぽいな。