男、妄想す。
2005年、四ノ坪高校正面玄関前ー
俺は受験票を握っている自分の手を、そして、目の前の光景に興奮していた。
「マジで戻って来れたのか...!」
戻りたいと思っていた、やり直してみたいと夢想していた高校時代へと俺はタイムリープしていた。
2019年、夏
ドラマなんかの影響で「学の無い奴」がやっているイメージが強い現場作業員。
俺もそう思っていたし、実際そういう人間もいるが...
結局、俺も「学の無い奴」な訳で何度めかの転職で晴れて現場作業員となってしまっていた。
細々とした中小企業、受けれる仕事は何でも受け、人は少なく、労働基準法なんか守っていたら終わらない。
そんな中、生かさず殺さずの絶妙な給料で生活していると思う訳だ。
「学生の時に戻れたらいいのにな」って。
今年で29才、会社の同年代と話していると学生時代などの思い出話をする事が多くなった気がする。酒なんか飲んでるとなおさら、おじさんになったって事なんだろう。
〇〇才の時に初めて彼女ができた、〇〇才の時にバイクをいじってた、〇〇才の時に友達は親の金で一人暮らしを満喫していた...などなど。
皆の話を聞いていると思う訳だ、羨ましいと。
俺は言わいる陰キャラ側の人間だったのでそんな華々しい青春は送ってこなかった。単純に羨ましい、当時そんな生活だったらこんな気持ちにはならなかったのかな、と。
そんな日々の中、俺は変なメールを受信しているのに気付いた。
溜まりに溜まったスマホのメールボックスを確認しているときだった。
「スパムが多すぎてクーポンサイトの返信URLなんて砂漠の針に近いものがあるな」
独り言でニヤついていると気になるメールがあった。
タイトルが空白。スパムだらけなのでやけに目に付く。
受信日は3日前だ。
開いてみると、
「2005年3月17日への片道切符
あなたの意志があれば、あなたはその日に戻れる
しかし、二度と現在時間には戻れない」
ドキっとした。
過去回帰妄想してる時にこんなピンポイントなメールが来るんだ、心臓だって跳ねるさ。
「MtGみたいなテキストスタイルだな...」
サイト回遊してる際に引っかかったんだろうが、そんな未来系サイト覗いた覚えがないんだが。
本文にURLもなく、詳細もない。何がしたいのかわからんな。
そんな風に思って、特に気にも留めず、スパムごと全削除。
2日後、また件名が空白のメールが届いていた。
「2005年3月17日への片道切符
あと、25日」
何のカウントなんだ?切符って事は出発までの日数をカウントしてるのか?
手の込んだスパムだ。新手のフィッシングサイトかな。
この時まではそう思っていた。