8話 願いとギフト
この度、1月26日を持ってこちらの作品を大幅に改稿する事となりました。より楽しんで頂けるように精進しますので、よろしくお願いします。以前の内容に関しては、活動報告の方に掲載しております。
女王が微笑んでいる。
『私は、精霊の女王であり聖霊です。そんな私から加護を貰う人は珍しいですよ』
――と言う事は、他にも加護を貰っている人はいると云う事だ。もし、珍しい力だったりすれば、少し面倒だなと思っていたが、どうやら大丈夫そうだ。
『そうですね……世界で"私"から加護を受けている人間は居ませんね。基本的に我が子にのみ加護は授けられますので、私の場合は一部の精霊に加護として力を与えている程度でしょうか。他の神も加護を与えているので、人間の中でも子となる事を許された人は加護を持っていると思いますよ』
……え?
女王から加護を貰っているのは精霊だけ?
……でもまぁ、他にも加護を貰っている人が居るらしいし、例え聖霊女王から加護を受けていたとしても、大した問題じゃないだろう。
『あと、私の加護を持っていると、聖霊術が使えます。後は、初期能力値が高くて霊体になる事が出来るのも特徴でしょうか』
『あの、聖霊術って? あと、霊体って幽霊ってことですか?』
どんなモノなのか全く想像が付かない。
『聖霊術は、聖霊女王つまり、わたしの直接の眷属にのみ使える術です。一般的に聖霊術を人間が行使するには、私から強い加護を受けた精霊と契約を結んでいれば良い為、人間の中でも使える人は存在します――少なくとも居ました』
……どうやら、居ない訳では無いらしい。
『霊体に関しては、精霊が取る事の出来る一種の形態で、特殊な物を除いて、物質などを透過できます。シナさんの場合、精霊ではありませんが、聖霊から加護を直接受けているので、霊体になる事が可能です』
なるほど、霊体はそのまま幽霊の様なものらしい。
転生して幽霊になってしまうのか……
『昔は私も人間に加護を授けていましたが、余りにも欲に走る者が多かったので、人間に加護を与えるのは辞めていたんです』
なるほど、確かに霊体と言えば、透明人間のようなモノだろう。
欲に走ってしまう人間が多かったというのにも納得してしまう。
『あの、霊体に私がなれるのですか? ……人間なのに?』
マナが気まずそうにチラチラとこちらを見ている。
何か言いたい事でもあるのだろうか。
『それは……マナが説明をします、ね?』
女王に促されて、マナが話し始める。
『あの、マナがお母さんのお願いを叶えました……』
そう言えば、マナが叶えてくれた願い――ギフトって何だったっけ?
『えっと、マナから貰ったギフトって何だったっけ?』
女王が答える。
『私が確認したところ、シナさんに叶えられた願いは四つ。その内三つがギフトとして与えられていますね……説明しましょうか?』
四つ?聖霊女王から貰えるギフトが一つなのに対して、多い気がする。……いや、加護を含めると二つか。
それにしたって、多い。
『シナさん?私の加護とはそれほどに大きい力があるのです。それこそ、普通にギフトを与えられるよりも数十倍の価値があるのですよ? ……まあ良いですが』
考えている事が顔に出ていたらしい。それに、マナが誇らしそうにしていたのも関係しているかも知れない。何にしても、女王に機嫌を損ねられるのだけは避けなければいけない。
『あの、女王様には感謝しています……』
こういう時に言葉が出てこないのが私だ。
『ふふっ……良いんです。少し意地悪しました。説明しますね』
どうやら機嫌を直してくれたみたいで良かった。
いや、そもそも機嫌を悪くしてなどいなかったのかも知れないけど。
ともかく、ギフトの確認が先だ。
『一つ目のギフトは、前世の記憶の保持ですね』
なるほど、これはよく分かる。
今でもはっきりと、前世での人生が思い出せる。
『二つ目のギフトは、言語理解です』
そう言えば、マナの名前が分からなくて分かるようにして貰ったのだった。あれが言語理解のギフトだったのだろう。それにしても、名前だけ別の言語で言うのには何か意味があるのだろうか。
そう言えば、契約とか主人なんかに関して説明をして貰っていなかった。
『あの、契約と主人ってどういう意味何ですか?』
『そうね、説明していなかったわ。契約とは、主従の契約をする事で、精霊の場合真名を知り、その意味を知る事が契約になるわね。契約関係において、主人は従わせる存在の事ね』
……普通にマナから名前を教えてもらった気がする。それに、名前を知っていたら契約できるっていうのは危険では無いのだろうか。
『契約の際に真の名を知る必要があるって事は、名前さえ知っていれば契約できてしまうってことですか?』
『いえ、基本的に精霊が心を開いていないと契約はされないわ。それに、基本的に精霊は精霊語を使うから、話している言葉なんて聞いても理解できないわ……まあ、真名は精霊語以外で発音できないから、支配しようと思ったら精霊語が話せる必要が有るのだけれどね』
……?
『私が初めてマナと会った時、マナの言葉が分かりましたけど、それは?』
『それは、一部の高位精霊は人に理解できる言葉を話せるのと、マナがその一部の高位精霊だからね』
マナって高位精霊だったんだ……
『そうなの!マナは高位精霊なの!』
……やっぱりそんな感じがしない。
『お母さん~?』
まあ、可愛いから何でもいいと思う。
『えっと、マナは高位聖霊で人間の言葉が話せた。その時、マナが真名を教えてくれた。普通の人が分からない精霊語のはずが、言語理解のギフトの力で真名の意味も理解できて、契約してしまったと……?』
名前を聞くだけで契約してしまうとなると、勝手に子供を取られるみたいで、精霊の母たる女王的に不味いのではないだろうか。
『そうねぇ、契約出来てしまったと言う事になるわね。まぁ、基本的に精霊が心を開いていないと、契約は交わされないから問題ないわよ?』
『そうなの!マナは、お母さんと一緒に居たいの!』
私がマナに願った最後の願いでもある。
女王も頷いてから言う。
『マナが叶えた最後の願いね、……元々複数の精霊の集合だったのが、名づけによって一つの存在として統一。その後、シナさんの願いによって存在化しているわ。……それに、全ての力を使って叶えているせいで、魂で強く繋がっているわね。それこそ、死んでからも繋がっているくらいに』
どうやら、私の願いがマナの存在を変えてしまったらしい。
『存在化って何ですか?』
『そうねぇ、普通精霊は契約者や一部の能力者にのみ視えるの。それが、存在化をすると、誰にでもその存在が見えるようになるの。分かりやすく言うと、格が上がったって事ね』
『それって、高位精霊だったマナが更に格が上がったって事ですか?』
『そうなるわね、そしてシナさんはその主人って事ね』
それって普通なんだろうか。
まあ、前世でも普通とはかけ離れた生活を送っていた身だ。それでも、前世では幸せな人生を送れた。少しくらい変わった精霊と契約していても問題ないだろう。
『マナと一緒に居られるなら、良いです。それに、マナとは契約での主人と精霊の関係でなくて、もっと自然な関係が良いので……マナ?』
話していると、マナが飛びついて来た。
『……ふぇ~良かったです~』
『どうしたの?マナ?』
ピッタリとくっついて離れないマナを撫でていると、女王が口を開く。
『それはきっと、三つ目のギフトに関係していますね』
一つ目が、前世の記憶の保持
二つ目が、言語理解
そして、三つ目?
マナが一緒にいると云うのは、ギフトでは無く願いだったらしい。確かに、直接的に得た何かの力じゃないしそういう事なのだろう。
『三つ目のギフトは、存在の改変です。今シナさんが霊体として存在し、先ほど新しい世界を素体に入って活動して頂いた通り、既に厳密には人ではありません』
……?
『で、でも、霊体になれたのは、女王様の加護の力じゃあ……?』
『いえ、私が加護を与えたのはつい先ほどです。既に存在の改変がされていた為、霊体になれる状態でした』
女王から加護を貰ったのはついさっきの話で、異世界を歩き回っていたのは加護を貰う前の話だ。加護を貰う前から霊体になれたとは……どうやら、本当に人じゃない何かになってしまったらしい。
『人間じゃない……』
若干、人間ではなくなってしまったという事にショックを受けていたが、そんな心の動きを感じ取ったのか、マナが元気に言った。
『あのね、お母さん。マナはお母さんとずっと一緒なの!』
『そうね一緒よ。でも、転生するとなるとどうなるのかしら?』
主に、母親や父親などの事で疑問が出て来る。
私は外からの人間な訳で、言わば女王様の助っ人のような立場だ。そんな魂がその世界に転生するとなると、元々生まれる筈だった魂を押しのけて生を受ける事になるのでは無かろうか。
……他の魂を押しのけて転生するなど、本当の子供を押しのけたみたいで、生まれた後両親に顔を向けられない。
悩んでいると、女王が説明してくれた。
『シナさんなら、そう考えると思っていました』
……どうやら、クイーンは想定済みだったらしい。『大丈夫です』と言うと、新しく生を受ける事と、それがどのようにしてなされるのかを教えてくれた。
『この世界の生に手を加える事はありません。今回は、私が母として新たな素体――種族を生み出します。とは言っても、私の力によって世界樹と私の魔力、そして***によって生み出されるので、正確には私だけでなく私達が親となるんですがね』
新しい種族と言われてもピンと来ないが、何はともあれ、人様に迷惑を掛けないで済むらしい。少し心配だった事だが、心配が不要だったと知って安心した。
『それで、私とマナは女の子に生まれるの? それとも男の子?!』
興奮してマナと女王に尋ねると、それまでニコニコとしていたのが一気に気まずそうな、言いにくそうな表情を浮かべる。
分かった、私男の子に生まれるんだ。
それで、女王もマナも気まずそうにしているんだ。
一度男の子に生まれてみたいと思っていたから、問題ないのに。
『あのですね、シナさん……』
ふふっ女王様、そんな顔しなくていいのに。
『お母さんに性別は無いの!』
マナが言った言葉に、思わず固まる。
……全然問題なくなかった。
いや、問題ないと言えばない。
……私の夫は永遠に一人だけだし。
まあ、普通は前世の夫なんて気にしないだろうけど。
いや、記憶が無いだろうからそもそも気になるわけがないか……だとしても、私には前世の記憶があるし、教会で誓った誓いを破る気だってない。
『良いじゃない! ありがとうマナ。それに女王様も!』
大丈夫、心配ないわ!と笑顔で答える。
正直性別が無いと言われて、衝撃を受けたには受けた。
だって、体の作りとかその他色々気になるじゃない?
一度男の子になってみたかったのも事実だし。
でも、それらはほんの些細な事だ。
恐らく、性別が無いというのは、女王が"新たにつくり出した種族"と言うのも関係しているのだろう。何にしても、余計な心配が減ったと思えば幸運だとさえ思える。
そんな事を考えていると、女王がホッとした様子で言った。
『良かったわ~結構大変だったのよ~もし、これで嫌だ! ってなったら、きっと生み出した体だけが独り歩きして、何れは災厄を振り撒く存在になってたかも知れないのよ~』
そう言って、盛大に息を吐いている。息をする事は無い筈なのでパフォーマンスだとは思うが、心境を表しているのだろう。
『災厄ですか?』
『そうよ、だって魂がその世界固有で、しかも悪用し放題なのよ? 普通の精神では耐えられないし、欲が深いとそれだけ問題行動をする可能性が高いのよ』
……女王様が、『きっと、孤独で心が崩壊するか、欲のままに力を振るって、かえって世界が混乱するに違いないわ!』と言っている。
ともあれ、女王様は私の心が読める様だし、きっと生前私の事を観察して『コイツなら絶対こう判断する』と確信していたのだろう。その証拠に――
『……な、何の事かしら~私がそんな事する訳ないじゃない~』
予想通りだったらしい。
……まあ、このやり取りさえも予想通りなのかも知れないけど。
『……』
それは置いておく事にしましょう。
『それで、私はどんな種族になるんでしょうか。人にこだわる訳では無いですが……』
そう、問題なのは外見だ。もし人外魔獣の様な姿に転生した場合、転生先の人――特に植物に詳しい人との交流が難しくなってしまう。
そんな心配を見透かしてか、女王様は微笑んでから言った。
『いえ、広義では人です。ただ、その存在になるには、長い年月厳しい修行をして、その到達点に立ち限界を突破する必要があります。人の世界では仙人と言うのが一般的な呼ばれ方ですね』
そう言うと、一拍おいてから続けた。
『とは言っても、人から派生する到達点の"仙人"では無く、そもそも最初の種族としての"仙人"なので、存在が違うんですけどね』
生まれた瞬間から仙人とは……まあ、人に近い存在なら一応セーフなのかな?
仙人って言うと、長い髭や髪が白くて長いイメージがあるがどうなのだろうか。
『あの、仙人だと髪が白いとか髭が長いとかってありますか?』
不安そうにして聞くと、女王が微笑みながら言う。
『確かに髪は白いわね。でも、髭は伸ばさない限りは長くはならないわ』
『それを聞いて安心しました!』
良かった……髭が長いと言うのは何となく耐えられない。
『ふふっ、良かったわ。そろそろ時間ね、また何処かで会えると思うかけど、世界樹の事頼んだわね。あと、もし途中で世界樹に悪さをしようとする人間がいたら、国王につき出せば上手く処理してくれるはずよ~ふふっ、それじゃあ、可愛い我が子達に豊かな恵みがありますように』
マナがくっついたままだったが、聖霊女王の祝福の言葉と同時に、周囲がぼんやりと遠のいて行くのを感じ、そのまま深い眠りへと落ちて行った。
【シナの状態】
・転生者
・仙人(体の状態)
・精霊との契約者
・聖霊術師
・霊体(可能)
貰ったギフト一覧(願いも一部含みます)
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【前世の記憶】
前世の記憶。世界を渡っても消える事が無く、保つ事が出来る。
【言語理解】
全ての言語、意味言語や指示言語他、意味を持つ言葉の意味を理解し使いこなす力。
【存在の改変】
人から仙人へと改変された。
【合成】
何でも、合成する能力。
【聖霊女王の加護】
基本能力値が高く、聖霊の守りが常に安全を保つ。
加護を得た存在は自在に霊体になる事が出来る。