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4話 ”さようなら”と”はじめまして”

 ……

 …………


 隣を見ると、公平が横になっている。


 相変わらず、口を開けて寝るのが癖の様だ。


「みんな、ありがとね……」


 一緒に話していた懐かしい面々は、皆眠り込んでいる。


 仕事終わりに駆けつけてくれた子もいたようで、流石に疲れていたのだろう。


 時間を確認する。


 午前3時。


 普段ならとっくに布団の中に居て、あと3時間もすれば起床する時間だ。


 昔話に熱が入ってしまったのと、子供達が独り立ちした後の話を聞いていたら、つい時間を忘れて話し込んでいた。さっきまでは、公平から二人の子供の話を散々聞かされていたのだが、当の本人はいつの間にやら眠ってしまっている。


「まだ眠れそうにないわね……」


 眠気が来ないので、取り敢えず散歩しようと思う。


「っとその前に」


 植物園の入り口にある段ボール箱から、掛布団を持ってくる。


 途中で、誰かが気を利かせて、持って来ていてくれたのだろう。


「初夏と言っても、朝は冷えるものね……」


 呟きながら、レジャーシートの上で横になっている、ひとり一人に掛けていく。


「ふぅ……さて、散歩に行こうかしら」


 植物園の中を、散歩する。


 植物園は、ソーラー電池式のミニ街灯が一定毎の距離に設置されている。その為、歩く分には困らないのだ。困らないどころか、ほんのりと光る街灯が、植物と道を照らしていて、幻想的にさえ見える。


 そうして歩きながら、道の途中途中で植物たちに声をかける。


「大きくなったわね」

「おや、もう少しで大人ね」

「もっと食べて成長しなさいね」


 そうして植物園の最奥、最近山で見つけた(出会った)子の前まで来る。


「あなたも、だいぶ元気になったわね」


 山で見つけた時は、しなしなとしていて、弱っていた。その為、根っこごと植物園(ウチ)に引っ越したのだ。


 見つけた時、しなしなとしていたとは思えないくらい、つやつやとしている。そんなつやつやの葉を、優しく撫でる。……本当に、不思議な植物()だなと思う。


 植物狂い、という異名が付くほどに、植物学会では有名であり、高名な私でさえ、100年生きて来て初めて会った植物()なのだ。


「間違いなく、新種だと思うけど……」


 葉を裏返す。


「……変わってるわねぇ」


 普通、植物の葉には裏と表があり、表がツルツルしていて、裏がザラザラしている。これは植物の性質上当然なのだが……この植物()は裏と表が両方ともツルツルしている。


「ふふっ、長生きはするものね。本当に、まだまだ知らない事は沢山あるわ」


 研究家としての血がうずき出しているのか、笑みが自然と広がる。


『あ、あの……その、あまりそこは触らないでほしひぃっ』


 ん?


 鈴の音の様な薄っすらと認識できるような声が聞こえた気がするが……


『っっつ……だからそこふぁ……っ』


 まただ、何だろう……もしかすると駐車場に止まっている車の中から、誰かの声が漏れているのかも知れない。……若い子たちもいたしね……後でそれとなく”音が漏れていたわよ”って教えてあげないと……ふふっ。


「それにしても、この子は幹も綺麗ねぇ」


 触っていた葉から、幹へと視線を移す。


「ツルツルしていて……大きくなったら、どうなるのかしら」


 植物の幹は、その葉と同じように()でツルツルしている。少し離れて見ると、全身(上から下まで)緑でツルツルしていることが、よく分かるだろう。


『もうっ! いくらおかあさんでも、それ以上はやりすぎよっ!』


「えっ?」


 少し遠く、意識すれば聞こえる程だった声が、急にはっきりと聞こえた。


『だからっ! おかあさんになら、触られても良いから、もう少しゆっくりっ……』


 目の前の植物()をじっと見つめる……


「え、あれ? あなた……?」


 さっきまで幹だった部分が、ヒト型の生き物のお腹になっている。


 ……ふにふに


『おかあさんんっ! ……そろそろっ! ……』


「え、ああ、ごめんなさいね」


 呆然として、指の感触を確かめるように撫でていたら怒られた。


『ふふっ、こうしてやっと話せました~』


 流石に、ふにふにしているのは不味いと思ったので、ヒト型の生き物……もとい、緑の子を見つめる。


「あなたは、植物……?」


 目の前にいるのは、緑のヒト型の生き物だ。しかし、さっきまで自分が触っていたのは植物であり、”植物”という結論とも、疑問とも取れない言葉が口を突いて出たのは、仕方なかっただろう。


『ん~****は、クイーンに生み出されし者で、お母さんの子?なのよ?』


 ……疑問形?


 それに、名前の部分が聞き取れなかった。


「ええっと、人ではないと思うけど……クイーンの子って?」


 アーモンド形の瞳に、整った顔立ち。確かに高貴な雰囲気があるが……


『そうなんだよ? ……うん、クイーンは全ての精霊の母であり、聖なる霊である唯一の聖霊なの。世界を司る存在の一柱なのよ?』


 男の子とも、女の子とも取れるようなしゃべり方だ。


「世界を司る? ……精霊の母? 唯一の聖なる霊?」


 何とも、ファンタジ―な話だ。


 しかし、目の前の存在が既にファンタジーであり、現実とは思えない。


『ええとねっ……うんとね、おかあさんは私を見つけた時におかあさんで、クイーンは私のクイーンなの』


 ……つまり、生みの母と育ての母の様なものだろうか。そう考えると、今まで育てて来た子達と同じだ。


「……ふふっ」


 現実とは思えないような事が起きているせいで、混乱していたが、何の事は無い。少し(・・)変わった娘?いや、息子?が出来たかと思えば良い。


『どうしたの~おかあさん?』


 トテトテと白い(・・)地面を歩いて来て、上目使いでのぞき込んでくる。


「いえね、良平に新しい弟が出来たよって言ったら喜ぶわねって。そういえば明菜も、妹が欲しいって言っていたわね」


 一気に弟も妹も出来た様な感じね。


 どちらか確認するのはお風呂の時かしら?……ふふっ楽しみね。


『りょーへー? あきなー?』


 こて?っと首を傾けていて、あざとい可愛さだ。


「そうよ、皆が起きて来たら朝の体操の時に紹介するわね……皆優しいから安心して良いわよ」


 驚きはするだろうが、”植物狂い”の母だから、と納得してくれるのでは無いだろうか。きっとそうに違いない。それに、こんなに可愛い妹?が出来たら可愛がってくれるだろう。


『おかあさん、あのね? ……あのね?もうおかあさんは……』


 新しく出来た娘の声が遠のいて行くのを感じながら、今日一日を思い出していた。


 今朝は、いつもと同じ始まりだったわね。昭介も良平も、真っすぐに育ってくれている。それに、なんだかんだ言っても、明菜はお姉ちゃんとしてしっかりしてくれてる。公平にも美穂にも久しぶりに会ったけど、元気そうでよかったわ。久しぶりに街まで公平に連れていって貰て……その後帰ってきたら子供達がみんな集まっていて、思わずウルっと来ちゃったわ……さっきまで皆と話してて、その後で散歩に出て、そこで聖霊の子供で精霊?な娘が出来て……今日は人生でも初めて経験する事が幾つかあった。


 つくづく、長生きはしてみるものだと思うわね……


 一日を振り返りながら、ゆっくりと穏やかな眠りにつくのであった。

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