34話 種の特性
シナ達を中心にして、周囲約六、七メートルに渡って地面が抉れていた。
……深さは十メートル程だろう。
穴の淵に立つと、何となくつま先からふくらはぎを伝って、太ももの辺りまで寒気がして来る。薄暗いのも相まって、何とも言いようのない底知れなさを感じる。
「こんなに大きな穴が出来るなんて、一体どれだけ強い魔法なのかしら」
穴の底に目を向けながら『危険ね』と呟いたシナだったが、隣にいたテラは意見が違った。
「あのね、シナは知らないみたいだけど、この手の防衛結界は完全殲滅を目的にしてるのよ? そもそも、結界を無理やり壊した時点で自動追尾されてるから、こんな風に周りが抉れるなんてありえないの!」
「そうなの?」
テラの言葉をそれほど深く考えずに返事したシナだったが、テラはどうやらそれが不満だったらしい。如何にかして分からせようと、説明し始めた。
「あのね、殲滅反応――って言うのは、防御結界の中でも反撃する反応の事を言うんだけど、この時放たれるのは正確に対象を殲滅する魔法なの。だから、こんな風に広範囲に抉れてるって事は、向かって来た魔法が弾かれたか、脇に逸れたかしかありえないの!」
……テラが話している間に、マナがトゥフーを抱えると、抉れた穴を越えて行ってしまった。マナは、精霊としての特性――鳥が飛べるように、空を飛べるのだ。
確かに、シナも飛ぶこと自体は"霊体化"によって可能だ。
しかし、マナやテラの様に実体を持ったまま飛ぶ事は出来ない。
……正直羨ましい。
もし、実態を持ったまま空を飛ぶ事が出来れば、色々(高い場所にある植物を観察したり、ちょっと足場の悪い場所に生えた植物を観察する時)役に立つだろうに……。
テラの話は続いていたが、少し気になった事があった。
「――だから、シナの張った防御魔法はおかしいの!」
どうやら、いかにシナの使う魔法(精霊魔法)が異質なものか、理解させようとしているらしかったが、幾ら聞いてもどうにも実感が無かった。
適度に相槌を打ちながら『そうなのね、テラが色々知ってて助かるわ』と言うと、満面の笑みを浮かべたテラに続けて聞いてみた。
「教えて欲しいのだけど、精霊の特性の一つに"空を飛べる"ってあるじゃない?」
「あるの!」
「それで、他の種族――人、獣人、魔人(ドワーフ、エルフ……)にも其々特性があるじゃない?」
――これは、"女王の知識"にあった情報だ。
その情報によると……【人は、あらゆる方面に適性を持つが、特化しにくい特性がある。獣人は、身体能力に秀でているという特性を持ち、種族によって能力特化がある。魔人は、魔力の量が並外れて多い特性を持ち、其々の種族によって秀でている面が違う。魔人の一種であるエルフは、弓術に秀でた才能を持ち言を発するより先に弓を引く。】
――とあった。
問題なのは、其々の特性をどの様にして体得するのか、体得するまでも無く自然に身に付いているのか、それらの情報が無かった事だ。
「そうよ、種族ごとに特性があるのは決まってるの! 私達精霊含めて、魔獣や魔物にも特性はあるわね。中には、その種族じゃないと使えない魔法なんかもあるわね!」
胸を張って教えてくれる姿に和む。
和みながら、シナは自分の種族――人種の至る進化の先ではなく、新たな種族としての"仙人"について口にした。
「それで、私の種族"仙人"の特性は、霞を食べて生きられる事と、寿命が果てしなく長い事で、これ自体は何か練習する必要はないのよね」
これは、"女王の知識"にあった仙人に関する知識だ。
シナの言葉に『それが特性なの!』と答えるテラに、続けて聞く。
「それで、私の種族魔法――"仙法"は何処で習えば良いのかしら?」
そう、聞きたかったのは、仙人が使える"仙法"についてだ。
精霊魔法については、何度も使っている内にすっかり慣れた。しかし、恐らく魔法と並ぶ仙法に関しては、どうすれば使えるのかがさっぱり分からない。
遥かに長い年月を生きているテラだったら、もしかするとその方法を知っていると思ったのだが……顎に手を置いたテラは、少し考えてから言った。
「分からないわ」
申し訳なさそうにするテラに、『大丈夫よ』と言った。
「大丈夫、ただ"仙法"には空中を飛ぶような術があると思ったのよ。別に不便している訳じゃないし、このまま旅をしていたら本物の"仙人"に会えるかも知れないし、それを楽しみにするわ!」
それでも、テラは悔しそうだった。
「シナ、ごめんなさいない」
俯くテラに、『大丈夫って言ってるじゃない。それに、ほらマナとトゥフーも待っている事だし、今は美味しいものを食べに行きましょ!』と言って、抱え上げた。
側から見たら、子供が子供を抱えている図に見えていただろうが、シナ目線ではお姉さんと子供という脳内変換によって"補正"されていた。
テラとの話に集中していた為気が付かなかったが、どうやらマナとトゥフーのふたりは、一足先に村に向かったらしかった。
村の近くでこれだけの爆音と地面が抉れるような揺れを起こせば、てっきり村人が出て来ると思ったのだが……一向にこちらに村人が来る気配が無かった。
「さあ、ふたりに追い付かないといけないわね!」
そう言ったシナは、足に力を入れると力いっぱいに地面を蹴った。
穴の淵から淵は、大体七メートルはあったが何となく"跳べる"気がした。
跳躍したシナは、自身の認識が遅れるほど瞬時に"飛んで"いた。
悠々と十メートル以上を跳んだシナは、後ろを振り返ると言った。
「……オリンピック金メダル間違いなしね」
少し間が空きましたが、続きは必ず書きますよ٩(๑•̀ω•́๑)۶




