32話 信じる相手
明日も投稿いたします!
出発したシナ達は、その後丸一日歩いて移動していた。
言葉の通り、深夜になっても寝ずに歩き続けていた訳だが……眠ってしまったトゥフーを抱えながら移動していた為、そのあたりは問題無かった。
途中途中で寄り道をしていたが、その大半はシナが見つけた新しい植物の為だった。残りは、トゥフーのお腹が鳴ったり、面白い形の植物を見つけたマナが『登ってみたいなの!』と言った事が理由だったが、その度に休憩をとる事にしていた。
精霊の子達は、これまで数度一緒に散歩したのが良かったのか、テラやマナが起きている時は近づいてくる事が無くなっていた。
庭園を出てからこれまで、かなりの距離を歩いて来た。
「……もう少しかしらね」
そう呟くと、切り株から切り株へとジャンプしているマナへと目を向けた。
「切り株に助けられたわね」
……森の中を続く切り株は、昨日見つけた村へと続いていた様で、切り株を辿ればどちらにせよ到着出来たらしかった。それにしても、途中で大きな切り株に関してはその脇に木の残骸が残っていなかった。
恐らく収納魔法で持ち帰りでもしたのだろうが、魔力に応じてその収納力が変わる事から考えて、それなりに多くの魔力を持った人間がいたに違いない。
そんな事を考えながら進んでいると、視界の端に微かに光が漏れ、これまでの景色とは様子が変わっている事に気が付いた。
「おかあさん、あれ!」
「シナ、あれ!」
マナとテラも気が付いたらしく、こちらにキラキラとした目を向けて来た。
「ええ、どうやらやっとみたいね」
そのまま歩いて行くと、次第にその出口とも入り口とも感じる場所――森の終わりが見えて来た。空を見上げると、相変わらず木々の間から漏れる光のみが薄っすらと視界を照らしてくれた。
一歩、また一歩と歩いて行くと、いよいよ森の終わりに辿り着いた。ここ数日はずっと森の中だったので、この景色が終わると思うと何となく寂しかった。
「さあ、これで森は終わりね!」
そう言うと、テラとマナも頷いた。
「やっとなの、お肉沢山食べるなの!」
「別に、森の中も嫌いじゃなかったけどね!」
其々感想を言っているのを面白そうに見ていたが、テラが小さく『……シナが楽しそうだったし、それだけで良かったわ』と呟いているのを聞いて思わず抱きしめたくなったが、トゥフーを抱えていたのでモフモフに顔を埋めて我慢した。
トゥフーからは、何処か甘い匂いがした。
甘い匂いとモフモフとした感触に夢中になっていたシナだったが、何となくジトっとした視線を感じて、取り敢えず堪能するのはまた今度にした。
「っふ~……それじゃあ行きましょうか」
「行くなの~!」
「仕方ないわね」
森を出たシナは、先ず最初に月を見て、その明るいのと変わらぬ様子に心が落ち着いていた。やはり、何だかんだと明るい所の方が落ち着くみたいだ。
「落ち着くわね~」
「そうなの~」
月を見てそう言ったシナだったが、テラは意見が違ったらしい。
「ねえ、シナあれ!」
何故か少し緊張した様子のテラを不思議に思いながら、テラのさすがに方を見た。
「……アレは、村かしら」
そこには、レンガ造りの家がちらほらと建っているのが見えた。不思議なのは、家とこの森の間には柵や掘りのようなものが無い事だった。
と言うのも、この森には魔獣や魔物の類が多く生息しているのだ。普通に考えたらそれら生物との間には何か侵入を防ぐものを築きたくなると思うが……
もしかしたら、この世界の人間は魔物など恐れるに足らない程、強い種族なのかも知れない。そんな事を考えながら、歩き出したシナだったが慌てたテラがそれを止めた。
「ちょ、ちょっと危ないわよ!」
……一応説明してはいたのだが、やはり人間に対しての嫌悪感や負の感情は抜け切らなかったらしい。まあ、急に忘れろと言うのも無理な話だろう。
「大丈夫、私は元人間だったのよ?」
「それでも、別の世界から来たんでしょ?」
「ええ。それでも、世界が変わってもそんなに変わるモノじゃないと思うのよ。そうね……もし何か問題があったり、危険な目に会いそうになったら私が責任をもって守るわ!」
不安そうなテラにそう言うと、『だから私を信じてちょうだい』と言って抱きしめた。最初力の入っていたテラだったが、次第に体から力が抜けて行くのを感じた。
その後、テラが『もう大丈夫』と言うまで抱きしめていた。トゥフーを挟んだままだった為、途中で居心地が悪そうにしていたが、テラが離れると再びすやすやと寝戻っていた。
「わかったわ、シナを信じるわよ」
そう言って、『仕方ないわね』とはにかんでいる様子を見て一先ず安心した。
「行くなの~!」
テラの様子にお構いなしだったマナは、一足先に進んでいたらしく、既に民家と覆われる場所に近づいているのが見えた。
「あ、ちょっと――」
「私が!」
声を上げたシナに、テラが『大丈夫』と言ってマナの近くまで駆けて行ってくれた。どうやらトゥフーを抱えたシナに配慮してくれたらしい。
……別に、トゥフーを抱えたままでも移動速度には問題無いと思ったのだが、折角の気持ちを無下にする理由も無かったので、テラに甘える事にした。
マナの隣まで行ったテラが何やら注意している様子を見て、何となく姉妹みたいだなと思った。いや、二人には性別が無いので、見方によっては可愛い兄弟にも見えなくは無いか。
そんな光景をのんびりと眺めていたシナだったが、不意にトゥフーも目が覚めたらしかった。もしかしたら、さっきテラと挟んだのが切っ掛けだったかも知れない。
『ふぅあぁ~……あるじぃ?』
「起きたわね、ほら村に付いたわよ」
トゥフーは不思議そうに村の方を見た後、聞いて来た。
『おいしいお肉?』
そう言ったトゥフーの口からは、涎が垂れ始めていた。




